俺の机って、たった一日でヘリで運び出すほど臭いんですか!?
変わったチート能力で、女の子を助けまくり、惚れられまくりな小説書きたくなりました。
主人公の能力は、かなりのチートです!
今後、驚くようなことができるようになります。
俺――橘純一には友達が少ない。
いないわけじゃない。少ないんだ。
いやもっと正確に表現するなら、少なくなっていったかな。
べつに、コミュニケーション能力が欠如してるなんてことはない。
むしろ、フレンドリーなタイプだと自負している。
でも三人の幼馴染以外、俺に近づこうとする人はいない。
小学校中学年の頃、幼馴染以外から遊びに誘われることが減った。
避けられていることを顕著に認識したのは、高学年に入ってから。
隣の席の女の子が、机を少し離すのだ。
困惑した顔で、「ごめんね」と言いながら。
給食の時間も変わった。
それまでは隣の人と、前もしくは後ろの二人で机を向かい合わせて食べていた。
でも俺のいるクラスだけ、授業を受けている時のままだった。
そしていつの間にか、窓際の一番後ろが俺の指定席になった。
中学に入ると、幼馴染の三人と絶対に同じクラスになった。
俺が窓際の一番後ろで、三人がその周りを固める。
おかげで給食の時間は、四人で机を合わせて食べられるようになった。
でもほかのクラスメイトは、できうる限り廊下側に机を寄せて食べていた。
そう。
俺の体から放たれる匂いは、とてつもなく臭かったのだ。
体臭がきつすぎる人間ということだ。
自分では、まったくわからないんだけどな。
かといって、俺は不潔なわけではない。
毎日ちゃんと風呂に入っているし、二日連続で同じパンツを履くようなこともない。
もともと綺麗好きだったし、周りの自分の体臭に対する反応を認識してからは、さらに清潔を心掛けるようになった。
でも、なにをしても抜本的な解決にはならなかった。
俺の家族、それと幼稚園に入る前から一緒にいて、俺の体臭への耐性を身に着けた幼馴染。
現在この人たち以外で、俺にわざわざ近づく人はほぼいない。
むしろ、ほとんどの場合逃げられる。
残念だけど、その事実がすべてを物語っていた。
進路選択の時期。
高校側が提示した俺の入学を認めるための条件は、幼馴染三人も一緒にとのことだった。
一人かなり優秀なやつがいたので、たぶん進学校に行くんだろうなと予想し、俺は就職の道を考えた。
でも、そいつはこう言ってくれたのだ。
「勉強なんてどこでもできるよ。それよりも、高校も純一君と……みんなと一緒にいたい」
こうして俺は、無事徒歩圏内の高校に入学できたのだ。
「今日の一時間目、席替えだよなー。まあ俺らには、あんま関係ないけど。せめて、斜め前に可愛い女の子が来ますように!」
俺の横を歩きながら、中島俊介が夢見る少女のように空に願う。
俊介は、俺が男で初めて仲良くなった親友。
今、男友達で残っているのはこいつだけだ。
かなりいいやつで、顔も結構かっこいい。でも彼女ができない。
オタクの部分はあるけど、それが大きな原因とは思えない。
原因は俺じゃないかと、ひそかに胸を痛めている。
今日は入学式の翌日。
一時間目に席替えをして、クラス委員長やどの委員会に入るかなどを決める。
でも俺たち四人は、窓際後方で固定だ。
席替えで俊介に残された楽しみといえば、前にどんな男子が来るのかと、斜め前の女子くらいだった。
「隣にこんな美少女がいるんだから、それで満足でしょ?」
向日葵のような笑顔を振りまく、進藤美鈴。
自分で言うだけあって、かなり可愛い女の子だ。
やや茶色がかったセミロングに、目鼻立ちがしっかりとした小顔。
スポーツ万能。
元気で明るく、誰とでもすぐ仲良くなってしまう。
小中と学年でトップクラスの可愛さだったが、やはり彼氏がいない。
これも、俺のせいではないだろうか……。
「――っかあ。自分で言うかね、それ? それに俺のタイプは、もっとこう色っぽいセクシーな女性なわけよ。美鈴みたいな、抱きしめても平面しか感じなさそうなのは――って、いっでえええええええ!?」
「いい度胸ね。おまえの体に大好きな凹凸ができるまで、ずっと殴ってあげる」
「美鈴。ちょっと落ち着いて」
怒りに狂う美鈴を懸命に止めようとしている、朝霧沙雪。
艶のある美しい黒髪をなびかせ、立ち振る舞いは大和撫子。
大きい瞳に長くきれいなまつ毛。
鼻もしゅっとしており、プリンとしたくちびるも色っぽい。
胸は人並みで、それよりもモデルのような高身長に人の目は釘付けになる。
美鈴と並んで小中でトップクラス……というか、俺的には贔屓目なしで一番美しいと思っていた。
そんな彼女でさえも彼氏がいない。
…………もう、疑いの余地もない気がする。
元気な美少女タイプの美鈴に対し、沙雪は清楚な美人タイプ。
学業も優秀で、昨日の入学式では新入生代表挨拶も務めた。
そう。進学校よりも、俺たちとの高校生活を選んでくれたのは沙雪だった。
俺の隣に住んでいる、自慢の幼馴染だ。
「……沙雪。あんたもしかして、今日はこの馬鹿をかばうつもり?」
「さっすが女神様! 俺のことを、塗り壁から守護してね?」
「こ、こいつ!」
「なんでわたしが、俊介君なんかをかばわないといけないの? わたしが心配なのは、美鈴の手だよ。……はい、これ。お父さんからもらった、護身用の棒。ワンタッチで出てくるから。これ使って?」
沙雪がスクールバッグから取り出したのは、長さ20センチくらいの黒くて太い棒。
それをいじると一瞬で銀色の棒が黒い部分から飛び出し、たちまち最初の三倍くらいの長さになる。
それを冷淡な微笑みで、美鈴に渡す。
「ちょ、ちょ、ちょい待てって。それ使われたら、本当に死んじゃう!」
「俊介君。わたし、いつも言ってるよね? 女の子の体を小馬鹿にするのは、よくないよって」
「は、は、は、はい。そうでございますです」
沙雪は凍えるような軽蔑のまなざしを、俊介にこれでもかと突き刺す。
普段の彼女は温和で優しい性格だが、怒るとマジで怖い。
俺たち四人の中で、圧倒的に群を抜いて恐ろしい。
大人しい人ほどキレると怖いって話は本当なんだと、彼女の近くにいるとわかる。
「じゃあ、ちゃんと謝ってよ」
「は、はいぃ!! ごめんなさい!!」
「わたしに謝ってどうするの? 美鈴にでしょ!?」
「ご、ごめんなさい!! 美鈴様、俺を守護してくれえ!!」
おまえは、どっちに守護してほしいんだよ。
てか、本気でビビるくらいなら、いい加減学習しろよ。
美鈴の胸を馬鹿にしたら、100%沙雪様がご降臨するんだからよ。
それともおまえは、ドMなの?
呆れをため息に乗せて、俺は三人の間に入る。
「まあまあ。入学二日目から友達が障害沙汰で停学とか、俺はいやだからやめてくれ。俊介も土下座してるし、許してやってよ。な、美鈴?」
「……まあ、純がそういうなら。今回は許してあげる」
「美鈴様ぁあ」
「鼻水つくから、近づくな!!」
この三人が、俺の大事な幼馴染。
もしも三人がいなければ、俺は自暴自棄になって全然違う人生を送ってたかもしれない。
本当に、感謝してもしきれなかった。
そんな幼馴染たちといつもの馬鹿話をしていたら、もう俺たちの高校――県立海浜高校に到着する。
自宅から徒歩十五分くらいなので、本当あっという間だ。
ちなみに俺たちの登校時間は、かなり早い。
ほかの生徒にできるだけ迷惑かけないように、人の少ない時間を狙っている。
ほんらいは俺一人でいいんだけど、俊介たちも付き合ってくれていた。
「……なんだろ、この音?」
「どうかしたの? 純一君」
「いや、なんか校庭のほうから……」
正門を抜けて生徒用玄関を目指す。
その時左側――校庭方面から、なにやら『パラパラ』という音が聞こえたのだ。
朝の静かな時間帯を考えると、騒音に近いかもしれない。
俺が沙雪に伝えていると、俊介が加わる。
「これって、ヘリの音じゃね――って、ほら!!」
彼が指さした先には、上昇途中といった感じの白いヘリが飛んでいる。
かなり近い、というか低空飛行。
「言われてみれば、たしかにヘリの音だな。俊介、やっぱり耳いいな」
「まあねー。音の聞きわけなら、任せて頂戴!」
「俊、それくらいしか取柄ないもんね」
「なにおぅ」
「まあまあ。にしても、なんでこんなところにヘリが。あれ、間違いなく校庭から飛び立ったよな」
「ねえ純一君。あのヘリ、なにか運んでるよ?」
「あれは……机だな」
ヘリが吊るして運んでいる物体。
それは教室によくあるタイプの机と椅子のセットだった。
つまり朝っぱらから、机を運ぶためにヘリを飛ばした人がいる。
あの机に、どんな緊急要素があるんだろうか?
「ねえ、純。そろそろ行こ? なんか、あんまり首突っ込まないほうがいい気がする」
「そうだな。俺も見なかったことにしたい」
袖を引っ張った美鈴に顔を向け、意見に同意。
ヘリの詮索をやめ、玄関に歩を進める。
「そういえば、さっきの俊介の話だけどさ」
「なんの話よ?」
「おまえが、可愛い子斜め前に来ないかなって願ってた話」
「ああ、あれね」
下駄箱で靴を脱ぎ、上履きに履き替える。
すのこを渡って廊下へ。一年の教室は一階だ。
ちなみに、俺たちのクラスは7組。廊下の一番奥だ。
6組との間には、一つ空き教室が挟まれたいた。
きっと卒業するまで7組だと思われる。
「あの願い、ほぼ間違いなく叶うだろ。うちのクラスの女子、みんな可愛いじゃん」
「ああ、たしかに可愛い子ばっかりだよなー。俺のタイプは少ないけど」
「俊、さいってー! あんたのタイプなんて、高一じゃ滅多にいないっての」
「でも言われてみれば、異常なほど集まった感じはあるわ。まだほかのクラス見てないから、断言はできないけどなー。もしかしたら奇跡的に、今年はレベル高い子が集結した可能性もあるし」
「たぶんだけどさあ、それ俺のせいだと思うんだよね」
「純一君のせい?」
「純、どういうこと?」
「俺と一緒のクラスになってしまった男子のうっぷんを、少しでも晴らすためじゃないかなあと」
「それは純の思い込みでしょ。だってそしたら、女子はどうなるの?」
「男子もイケメンパラダイスだったじゃん。なあ、俊介」
「イケメン死すべし! 俺が目立たなくなるだろうが」
「そ、そうなんだ。あたし、クラスの男子に興味ないから全然見てなかった」
「わたしも……」
クラスの男子は、君らのことめっちゃ見まくってたけどな。
ガン見。凝視。なんでもござれ。
君らの口からその話聞いたら、きっと泣き崩れてしまうぞ。
「おはようございまー……す?」
「――ひゃっ!?」
教室の後ろ側の扉を開けながら、誰もいないだろうけど一応の挨拶をしたところ――
「……おはよう。えっと、貫地谷さんだよね?」
「あ、えと、お、おはようございます! 橘様」
いた。一人だけ。
昨日、新入生代表挨拶をした超絶美人な沙雪よりも、おそらく一番話題になった人物。
貫地谷櫻子。
大型リムジンで学校前に乗り付け、数十人の黒服を引き連れて登校。
入学式でもズラッと並んでいたので、祝いの式典らしくない物々しい雰囲気になっていた。
美しい腰まで伸びた金髪に、ハーフ独特の整った顔立ち。
身長も沙雪くらい高く、俊介が好きそうなナイスバディ。
でもそんな体なのに、エロさを感じさせない上品な振る舞い。
まさに、お嬢様といった女の子だった。
俺に続き、幼馴染三人も挨拶。
貫地谷さんは、全員に丁寧に返していった。
「えっと、早いんだね。俺たち一番だと思ってたから、驚いた」
「は、はい! あの、朝一で机と椅子を堪能しようと……」
「えっ?」
「い、いえ。なんでもございません。お気になさらず」
「そういやさー、今日、黒服の人はどこにいんの?」
「中島様。昨日の警護はお父様、お母様だけでなく、お爺様、お婆様までお見えになっていたからです。今日からは私一人ですので、御付きが二人控えているだけです」
「へー。御付きが控えるとか、なんかかっけーじゃん。それで、どこにいるの?」
「今は気配を完全に遮断していますので、私でも認知できません」
「すっげー。気配消すとか、ドラマみてえ!」
「かっけーとかすっげーとか。俊。あんた本当に子供だね」
「でも俊介君の気持ちも、ちょっとだけわかる気がする」
「じゃ、じゃあ、貫地谷さん。これから一年、よろしくね」
「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いいたします」
いつまでも終わりそうにないので、俊介の腕を掴んで強制終了。
定位置の窓際まで一直線。
「……な、なんだこれ」
「純一の机だけ、光り輝いてんなー」
そこにあった俺の机は、昨日座った何年もの使用感丸出しなものでなかった。
完全無欠のド新品。
朝の陽光に照らされて、超絶に光り輝いている。
「な、なんで純のだけ……」
「てか、俺の机いつ入れ替わったのよ」
「……純一君。さっきのヘリ」
「「「――あっ!」」」
沙雪に言われて、三人とも思い出す。
さっきのヘリが運んでいた、一脚の机の姿を。
「……このことは、あまり深く考えないようにしよう」
「そ、そうだな」
俺の提案に、三人も頷く。
そしてそれぞれの席に着席した。
俺の前が俊介。隣が沙雪。斜め前が美鈴だ。
俺はスクールバッグを窓側の床に置くと、背負ってたリュックを机の上に置く。
俺は常に、このリュックを背負っている。
中には制汗スプレー、布用消臭スプレー、部屋用消臭スプレー、置き型芳香剤、替えのワイシャツや肌着なんかがたっぷりと入っている。
さっそく置き型芳香剤を取り出して、机の上に置く。
制汗スプレーを一気に一本使って、布用、部屋用の消臭スプレーもたっぷりとまく。
「ほっんと、いつもながらすごい光景だなー」
「俊介たちには、ほんと申し訳ない」
「純一君は謝らなくていいよ。ただ、優しいだけだもん」
「あたしたちは、純の匂い全然気にならないからね。むしろ、この消臭スプレーの時間のほうが、むせるくらい」
「美鈴たちの、さらに向こうの人の被害を少しでも軽減するためだからね」
そう言って、一番廊下側の席に座る貫地谷さんを見やる。
机を運んでいた、朝のヘリコプター。
新品に変わっていた、俺の机。
状況からして、貫地谷さんが机を入れ替えるために飛ばしたと考えるのが妥当だろう。
ほかにこんなことに金使える人、思い当らないからだ。
そして、お金かけてまでそんなことをする理由は一つ。
たった一日でも、俺の匂いの染み込んだ机に我慢ならなくなったんだろう。
一番離れた列の人でさえ、無駄な手間と時間をかけさせてしまう俺の体臭。
もっと、もっと気をつけなければ。
幼馴染たちと談笑してると、だんだんと教室がにぎやかになってくる。
俺の席に近い人たちは、鼻栓をしている人も多い。
可愛い女子にまでそんなものをさせてしまい、本当にごめんなさい!
つつがなくホームルームは終了。
一時間目が始まると、直前の休憩時間よりも騒がしくなる。
クラスメイトたちの熱気が、むんむんと伝わってくる。
とくに俺の近くの席の人は、必死さを感じてしまう。(悲しいけど)
「はい、静かに! じゃあこれから、橘たち四人を除く全員でこれを引いて、番号に従って机を移動させるように。どうしても、前が見えないなどの要望は、移動が終わってから――」
「そんなの、ずるいです!!」
うちの女担任が黒板に簡易な席の絵を描いて、番号をふる。
上部を丸くくりぬいた底深な空箱を持って説明をしているさなか、それは起こった。
金髪の美少女――貫地谷さんが机を叩きながら立ち上がったのだ。
全員の視線が、彼女に注がれる。
「……ずるいとは、どういう意味だ?」
女担任は、ちょっと不機嫌そうに尋ねる。
この人美人だけど、絶対怖い人だ。
「そ、その。ずるいというか、不公平というか。……そう! こんなの差別です! 橘様たちだけ、固定だなんて!」
「これは差別ではない。区別だ。橘も了承したから、この学校に通えている」
「そんなの、納得できません! 私だって……私だって」
「私だって、なんだ?」
貫地谷さんは胸に手を置いて深呼吸。
ギュッと両手を強く握って、大きく口を開く。
「わ、私も、橘様のお隣を希望いたします!!」
彼女の叫びに、教室がどよめきに包まれる。
こうして俺の周辺の席を美少女が争う、ドタバタな毎日の火ぶたが切られたのだ。
読んでいただきまして、ありがとうございます!
次回も読んでいただけたら嬉しいです
これからも、よろしくお願いいたします!