心の距離
アーサーとシロは洞窟から出てくると、精霊が教えてくれた聖剣"カレトヴルッフ"を求めて、かつて水の都と呼ばれていた所へ向かうべく西に進路をとろうと、北の街へ戻る途中…
「師匠、かつて水の都って言われてた場所って今はどんな所なのか知ってます?」
「確か本には、かつてその都は水が豊富で水産業が盛んだったらしいけど、地殻変動なんかの影響で水不足になって今では砂漠化が進んでるって書いてあったけど、実際に行ったことないからよくは知らないよ〜」
シロは知っていることをアーサーに話した。その話を聞いたアーサーが何故か深刻な表情をしている。
「……砂漠?……もしかしてそれって、悪魔さえ避けて通るって噂のゴミ砂漠じゃないですか?」
「ゴミ砂漠?」
シロが知らないのは当然だ。その名は人間たちが別称としてつけた名だったからだ。
「師匠、ゴミ砂漠のこと知らないんですか⁉︎
ゴミ砂漠へ行って帰ってきた者はいないって話
は有名ですよ」
アーサーも自分の知っていることをシロに話し、二人は今夜、今後の旅について一旦じっくりと考える事に決め、いつもより早めに街で宿をとった。
「どうしよ〜」
ベットに座わって話し出したのシロだった。
「悪魔も避けるほど危険な場所か〜、あまり信じられないけど、私も行ったことがないから何ともいえないし…」
シロは色々考えていたがいい案が浮かばない。久しぶりの難問に苦しんでいるシロはベットの上で体を左右に揺らしている。
「ん〜」
アーサーもシロと同じベットに座り、苦しみの中でもがいている様子。
「……よし、一旦整理しよう」
シロはこれでは拉致があかないと思い、考える事を止め、アーサーと向き合い、
「まず目的は聖剣を手に入れる事。次に優先する事は安全に帰ってくる事。ただし、敵が未知数だから危険のレベルも分からない。そして最後に一番重要なのが時間だね」
アーサーの身の安全を考えて最短時間で行って帰ってこなければ、危険に遭遇する可能性は時間が増える毎に比例していく。
魔王であるシロならばそこまで心配することは無いだろうが、人間であるアーサーなら話は別だ。
「師匠、すみません。俺が弱いばっかりに…」
アーサーは自分の無力さを実感したのか、アーサーは顔を曇らせる。
「本当だよ、アーサー早く強くなってよね〜」
シロは容赦ない。
「……」
アーサー何も言い返せない。悔しくて涙が出そうだった。
「「…………」」
暫くの間、沈黙が続いた。重い空気がさらに重くなり、混沌の中に押し込まれるかのような圧迫感が二人を襲う。
このままではいけないと思ってはいるが、二人とも何も言い出せないままただ時間だけが過ぎていく。
「……………仕方ない、私が先に偵察に行ってゴミ砂漠の状況を確かめてくる」
「……そ、そんな!」
ーーー結局、またシロ頼みだ。
シロばかりに危険な仕事を任せてしまっている自分が許せなかったアーサーは何より、シロを危険な目に遭わせたくない気持ちが強かった。自分では何も出来ないくせに…
「他にいい案があるなら聞くけど」
シロは自分の決めた事に口出しするなとでも言いたそうな視線を向けてきた。
「……お願い…します」
アーサーは俯いたままで反論出来なかった。
「アーサー、貴方は貴方にしか出来ない事を精一杯やればいいんだよ、今はそれだけでいいんだよ」
シロはそう言うがアーサーは違った。
「でも、俺!師匠に頼ってばっかりで…」
「確かにアーサーは私に頼ってばかりいる」
シロは確信をついてきた。それに対してアーサーまたダンマリだ。
「…」
「けど、それって悪い事なの?頼って何が悪いの?」
シロはアーサーに問いかける、自分の考えを。
「でも、それじゃあ…」
ーーーここで認めてはいけない
そう思ったアーサーは閉じていた口を動かしはじめた。
「私はアーサーに頼られてるって感じるだけで元気が出るし、とっても嬉しいよ」
ーーーシロは優しい。だから、それに甘えてはいけない
アーサーは自分に言い聞かせた。
「師匠………けど…」
言いたい事が纏まらない。
「アーサー、今はまだ出来なくても、いつか私に貴方を頼らせて」
シロの言葉はアーサーの心に染み渡る。じんわりと、そしてもう何も考えられなかった…
「……」
「だから、今はまだ、私に貴方を守らせさせて」
その言葉にアーサーの心が溶かされていく。それとともに目から涙が溢れてきた。シロは下を俯いているアーサーの頭を小さな体で優しく抱擁し、サラサラとした金色の髪をそっと撫でた。
「お、俺…シロばっかりに頼ってばっかりで…何にも…出来なくて…」ポタポタ
アーサーの心の叫びが嗚咽とともに吐き出されていく。
「そんな事ないよ、私はごはんを作る事に関してはアーサーに頼ってる、お互い様だよ。
今まで辛い思いをさせちゃったね、ゴメンね」
シロの優しさに身を委ね、アーサーは子供のように泣きじゃくった。
「でも…俺、シロの事が…心配で……
………俺は…シロを危険な目に…遭わせたくないよ…」ポタポタ
心の奥にしまい込んでいた思いを打ち解けた。
それを聞いてシロは嬉しそうに笑っている。
しばらくしてアーサーも落ち着きを取り戻し、シロはアーサーに告げた。
「心配しないで、私は必ず貴方の元に帰ってくる。約束するよ」
「あぁ、必ず、必ず無事に帰って来いよ、シロ」
アーサーは素直にシロに言える事ができた。
何故かシロがニヤニヤしている。アーサーは馬鹿にされてるのかと思ったが、それは違った。
「いつの間にかシロに戻ってる〜」ニヤニヤ
そう、アーサーは元に戻っていたのだ。
「やっぱり師匠の方が良かったか?」
アーサーはシロが嫌なことは基本しない。そのため念のため聞いてみた。
「ううん、シロでいいよ。
やっとシロって呼んでくれたね。私はアーサーにシロって呼んでもらうと…嬉しいな」////
シロの顔が少し赤い。シロの白い肌が赤く紅潮する姿は珍しかった。
「そ、そうか」////
なんだか照れくさかった。
「「………」」////
照れくさいのはお互い様。
お互いに何も言わなかった。だが、さっきまでの重苦しい沈黙ではなく、フワフワとしていて居心地が良かった。
「あ、明日も早いしそろそろ寝るか」
「そ、そうだね〜」
二人はそれぞれのベットに戻り、横になる。
「おやすみ、シロ」
「おやすみ、アーサー」
予想以上に時間が過ぎている。
だが、二人ともそんな事に気づかないほど疲れたのか、ベットに入ってすぐに眠りに落ちた。
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