アーサーと精霊
「やっと着きましたね、師匠」
アーサーは隣にいたはずのシロが少し後ろの方でふらふらしているのを見つけた。アーサーはシロが来るのを待っていた。
「さぁ、行きましょう、師匠」
そう言って二人は洞窟に入って行ったが…
「アーサー、お腹すいたー」ふらふら
「さっきあんなに食べたのにもうお腹空いたんですか⁉︎」
シロは腹の中にブラックホールでも飼っているのか、と思うくらいよく食べる。
「そんなに食べたら太…グハッ」
アーサーは最後まで言う前にシロの魔法で洞窟の壁に吹っ飛ばされた。
「今度、私にそんなこと言ったらコ・ロ・ス」
ニコッ
ーーーり、理不尽だ…
有無を言わせぬシロの警告は手を出す前に行って欲しかった。
師匠曰く、洞窟の中は魔力を帯びているらしくその魔力が洞窟の壁に定着して薄っすらとした青い光を放っているそうだ。そのため、わざわざ松明を使わなくても済んだ。
「ところで師匠、さっきから何かおかしくないですか、この洞窟」
「何が〜」
無関心でいるのか心配になってシロを表情を見るがそれなりには警戒しているようだ。
「いや、何と言うか、いつまで経っても精霊がいるっていう湖に辿り着かないんですけど」
質問を続ける。
「まだ先にあるんじゃないの〜」
「でも、地図で見ると湖は洞窟に入ってすぐ近くにあったはずなんですけど、ってあれ?」
地図を見直していた間にいつの間にか隣にいたはずのシロがいなくなっていた。
「師匠ー、どこいったんですかー」
シロに呼びかけても返事はない。一旦、洞窟の入り口に戻ろうと思った時、後ろから明るい光が見えた。
「な、何だ⁉︎」
ーーーもしかしたら師匠が魔法で照らしているのかもしれない
そう思い、光に向かって駆け出した。光は近くに連れだんだん弱くなっていき、光が完全に消える頃には湖が目の前にあった。
視界が開け、目の前に広がっていたのは透明度の純度が高い湖だった。
ーーー綺麗だなぁ〜
そう思いながら眺めていると、洞窟全体から何かが聞こえてきた。
湖の真ん中あたりが沸騰しているかのようにボコボコと泡が立っている。
次の瞬間、太く、長い胴体を持った、まるで龍が出てきた。
「汝、何をしに我が湖までやってきたのだ?」
さっきの声の主はこの龍のようだ。
「あ、貴方はここの精霊ですか?」
「我の問いに答えよ!!」
「は、はい!
俺はここの精霊に、俺に合った武器が何なのか
を教えてもらおうと思って来ました!」
「なるほど、
では我も汝の問いに答えよう、我がここの精霊
であり、名はリューだ。
確かに我は各人間に合った武器の形を見極める事が出来る。」
「じゃ、じゃあ!」
「ただし、」
「?」
「汝は我に何を見せる」
「??」
リューが何を言っているのかよく分からなかった。
「汝が武器を欲するのであれば、汝は我にその心の強さを示さなくてはならない。」
「え、そうなんですか⁉︎
でも、どうしたら…」
こんな時に師匠がいてくれたらと悩んでいると、
「では、我の与える試練に答えてはみぬか?
もし合格できれば、汝の武器を見極める事が出来るだろう」
「ぜ、是非お願いします!」
「承諾した。では始めるぞ」
そう言ってリューはアーサーに向かって巨大な水の玉を口から発射した。
アーサーはなんとかギリギリ躱す事ができた。
「うわっ!
い、いきなり何するんですか⁉︎」
「汝は我の試練に臨んだ。ならば死力を尽くし我に一矢報いてみよ!」
「そ、そんな無茶なー!!」
アーサーは逃げる以外何もできなかった。
「逃げてばかりでは我に力を見せる事が出来ぬ
ぞ!」
「うおっ!
そ、そんな事言われてもー!
うわっ!
どうしたらいーんだー!」
リューは次々に水玉を発射した。
ーーーどうにかしてこの試練をクリアしなくちゃ、でもどうやって?
ーーー俺には何が出来る?
ーーーどうすれば…どうすればいいんだ…
アーサーはリューの攻撃を逃げながら観察していた。それでもまだ何も思い浮かばなかった。
ーーークソ…クソ…クソ!!こんなんじゃまた何も出来ずに終わってしまう…
ーーーこれじゃあ、誰も救えない…
ーーーこれじゃあ、シロとの約束も果たせない…
一体…どうしたら…
「!」ハッ
アーサーは気づいた。
アーサーの前にリューが魔法で作った土壁が発生した。
「これで逃げ道はもう無い、これで終わりだ!」
アーサーは決心した。そしてリューに向かって全力で走り出した。
「何⁉︎」
リューは驚いたがそれでも攻撃は止まらなかった。アーサーは最小限の動きでリューの水玉を避け真っ直ぐリューへ向かって行った。
リューは気づいていなかった。それはリュー自身がアーサーを狙うことに夢中になっていて前のめりになっていて、体が湖の岸際まで寄っていたことを。
それに気づいたアーサーはリューに攻撃しようと全力で走っていた。
「うおーーーー!!!当たれーーーー!!!」
パチンッ
「 っあーー!!」ドボーン
アーサーの拳は確かにリューに当たった。
しかし、アーサーは水飛沫を上げて湖の中に落ちてしまった。
リューは湖の中からアーサーをすくい上げ、岸まで運んで満足そうにこう言った。
「見事也。汝の心、見極めさせてもらった」
「えっ、や、やったー!」
なんとか試練を乗り越える事が出来たようだ。
「汝の心は鋭く、そして大胆であった。
褒美として教えよう、汝の武器、それは…」
「…」ゴクリ
「剣だ!」
「……な、なるほど…
あの、ところでどんな剣がいいのでしょうか」
「それは汝が決める事であり、そこまでは我にもわからぬ」
ーーーなんと無責任な…
アーサーはそう思った。
「そ、そうですか…
けど、ありがとうございました!」
「礼には及ばぬ。我も久しぶりに体を動かす事が
出来きた。礼を言おう。
我はまだ汝の名を聞いていなかったな、名は何と言う? 」
「俺はアーサー・ペンドラゴンって言います」
「ペンドラゴン?」
「は、はい」
「な、汝よ!
もしやあのペンドラゴンか⁉︎」
リューはペンドラゴンについて何か知っているようだった。
「?」
アーサーはペンドラゴンについて父さんからは何も教えて貰ってなかった。そのため、キョトンとしている。
「…そうか、汝はまだ知らぬのか、汝のことを…」
「??」
アーサーはリューが何を知っているのか聞こうと思ったが、先にリューが話し始めてしまった。
「汝よ、これはただの精霊の戯言だ。聞き流してくれても構わない、だがこれだけは言わせてくれ」
「ど、どうぞ」
「かつて水の都と呼ばれた街の聖なる湖には魔を滅す
る聖剣"カレトヴルッフ"が眠っている。
汝には剣の才能があるはずだ。そして、汝には聖剣
を手にするに十分な資格がある」
リューは確信を持ってアーサーにそう告げたが、アーサーはリューがこれほどまでに賞賛してくれるとは思っておらず、目を白黒させている。
「汝が剣をとるのには何か理由があるはずだ、
汝の願いが成就することを切に願ちておるぞ」
言うことを言い終えたリューはアーサーに願いを託したのだ。
「はい、頑張ります!」
アーサーはリューの言葉を聞いて血が熱くなったのを確かに感じた。
「では、さらばだ」
そう言ってリューは湖の中へ帰っていった。
「…………あー!ちょ、ちょっと、ペンドラゴンについて何か知って……行っちゃった…」
「 はぁ〜〜〜〜〜〜」ヘナヘナ
アーサーは緊張が解けたらしくその場にへたり込んでしまった。
「けど、これで師匠に報告でき…
あーーーー!師匠探さなくちゃ!!」
アーサーは来た道の方を探していると、何もないところから声がした。
「私はここにいるよ〜」パッ
師匠が目の前に現れた。
「し、師匠!いつからそこにいたんですか⁉︎」
「アーサーが精霊と戯れてる時からずっといたよ〜」ニコニコ
「戯れてません」キッパリ
「いるならいるって言って下さいよ!」
いつも寛大なアーサーもさすがに怒った。
「だって、私がいたら絶対に頼ると思ったから一
人で観てたんだよ〜
今回は一人で出来たね、偉い偉い」ナデナデ
それでもシロはアーサーをからかう。
「や、やめて下さいよ、師匠!」////
幼女に撫でられるなんてご褒美でしかないと思っていたが、されるとなかなか恥ずかしい。
「けど良かったじゃん。自分の武器が分かって、精霊から太鼓判まで押されたんだし〜」
「そ、それはそうですけど…」
「そんな事より、アーサー、待っててあげたんだからごはん作って〜」
師匠はなんて無慈悲なんだとアーサーは思った。
「疲れてる俺に追い打ちをかけるようなこと言わないで下さいよ〜
てか、偶には師匠が作って下さいよ〜」
アーサーの僅かな反抗だった。
それでもシロは容赦無かった。
「私が作れるわけ無いじゃん」キッパリ
・
・
・
リューは湖の底で呟いた。
ーーー……アーサー・ペンドラゴン…
勇者の再来か…
「今度こそ本当の平和が訪れることを願っておるぞ、アーサーよ 」
リューは嘗て自分の前に現れた勇者の事を思い出していた。
そう、あの伝説の勇者の名前が
"ユーサー・ペンドラゴン" だったのだ。
・
・
・
アーサーは疲れた体に鞭を打ち、渋々シロに料理を作った。
「お味はどうですか、師匠」
「まぁまぁね〜
ま、疲れてるからだろうから大目に見るけ
ど、次からはもっと美味しく作ってよね〜」
「はいはい、わかりましたよ」
「〜〜♪」
シロはなんだかんだいって嬉しそうだった。
そんなシロの姿を見てアーサーは微笑んでいた。
シロとアーサーの旅はまだまだ始まったばかりだった…
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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