師匠
街に近づくにつれて破壊された建物が多くなっていく。俺は父さんを探した。目の前は炎の海。いたるところに屍が横たわっていた。何も出来ない自分に歯がゆさをアーサーは感じていた。
「父さーん!!どこだー!!」
必死になって探した。この事件を起こした犯人の事には目をくれず…
そして見つけた…父さんが街に行くのに使っていた荷台を…
「父さん!!」
そこに父さんはいなかった。 父さんは必ず生きているとそう思った。
だが、それはすぐに裏切られた。建物の瓦礫から声が聞こえたのだ…とても懐かしい、自分の大切な家族の声を…
「アー…サー…」
「父さん!」
アーサーは声のした方へ向かって走り出し、遂に父を見つけたが、
「早く逃げるんだ」
「そんなのダメだ!父さんも一緒じゃなきゃ!」
「父さんはもう助からない、」
よく見ると瓦礫で父さんの体は潰されており、血の海か広がっていた。
「そんな……」
目の前が真っ暗になった。何も考えらせずただその場に膝をついていた。
「アーサー、早く、逃げるんだ」
「嫌だ!!」
そう言いアーサーは瓦礫を退かし始めた。それを見た父は辛そうな顔をしながらアーサーを引き離すためにキツイ一言を言う。
「言うこと聞け!!」
アーサーは日頃から父の言う事には従っていた。しかし、どうしても父を助けたかったのだ。
「う…うう…」ポタポタ
自然と涙が流れていた。
「父さんはお前と暮らしていて楽しかったよ、ありがとう。
これからはおまえのやりたい事をすればいい」
「そんな!俺は今の仕事が…」
ーーー諦めるなよ…
声にならない思いが心の中で暴れ出すのを抑え込む。
「お前は自由だ、もっと広い世界を知るべきだ、お前はまだ若いのだから…」
そう言って父は気を失ってしまったようだ。
「父…さん」ポタポタ
ーーーそんな事、言うなよ…
「さあ、あいつが戻ってくる前に早くここから逃げるんだ!」
「……ごめんなさい、それでも俺は…」
そう言ってアーサーがまた瓦礫をどかそうとした時、後ろから犯人の声が聞こえたのだ
「あれー?まだ生きてる人間が二人、
まあ、一人は放っておいても死ぬけどねー」
人ではなかった。同じ人間の言葉を話しているはずなのにその容姿は化け物と言うしかないほど禍々しいかった。
ツノが生えていて、まるでお伽話に出てくる赤鬼だ。一つ違うとすれば黒い羽根を持つ点だけだ。
「お前が、やったのか!」
そう、目の前にいる化け物に言い放った。
「そうだよー、犯人は俺でーす」
人を馬鹿にするような軽口でアーサーの質問に答えた。
「お前は何者なんだ⁉︎」
「へー、俺を見ても分かんない人間がこの世にまだいるなんてねー、俺は悪魔だよ」
ーーーコイツが悪魔…
俺は初めて見たが恐怖は無かった。それよりも怒りの方が勝っていた。だが、俺は何もせずに悪魔を睨むことくらいしか出来なかった。
「じゃあ、死ね」
そう言って悪魔は手のひらから火の玉を出した。そしてそれを俺の方に投げた。
ーーー殺される
ーーー逃げれば致命傷は免れるかもしれない。だが、後ろには父さんがいる。父さんを置いていくなんて出来ない…
ーーーここまでか…
俺は目を瞑ってこの残酷な運命を受け入れるつもりだった…
突然、アーサーの前に立ちはだかった、一人の幼女がいた。
「何してんの?」
自分のすぐに目の前から声が聞こえた。
ーーーあれ、生きてる⁉︎
いつの間にか火の玉は掻き消されていた。そして目の前にはシロが立っていた。
「シロちゃんが助けてくれたのか?」
シロが何をしたのか分からなかったが助けてくれたようだ。
「……まーね」
無表情なままではあったが、ちゃんとこっちに振り返って答えてくれた。
「ありがとう、シロちゃん!」
「フン!」
シロは照れ臭そうにそっぽを向いた。
「あのさー、何この俺の邪魔してくれちゃってんの?このガキ!」
「あんた誰?」
ーーーちょ、ちょ、ちょっと!悪魔になんてこと言ってんのこの子⁉︎
アーサーは、まさかシロが悪魔に挑発するとは思ってなかった。
「ハッ、ガキに名乗る名前なんてないね!
取り敢えず、死ね!!」
そう言って悪魔はさっきとは比べ物にならない程の大きさの火の玉を作り出した。そしてそれはシロを含む俺たちに向けられた。
ーーーもうダメだ…
諦めかけた時、シロはボヤいた。
「……雑魚過ぎ」ボソッ
「えっ?」
俺はシロちゃんが言った事をハッキリとは聞き取れなかったが、シロちゃんの顔には余裕があった。そう、シロちゃんは面倒臭さそうな顔をしていた。
「さっきの魔法はこうやったんだよ」
そう言うとシロはあの悪魔に手のひらを向け空を握った。驚くことに火の玉と悪魔がいた空間をそのまま圧縮したかの様に悪魔が火の玉に呑まれ、悲鳴をあげる前に死んでしまった様だ。
そしてパッと手を開いた。そこにはさっきまで街に猛威を振るっていた悪魔の屍が転がった。それは焼け焦げ、見るも無残な姿だった。
「シロちゃん…君は一体何者なんだ…」
「私はただの魔法使いだよ」
そうシロは言った。たが、アーサーは何か納得できなかった。
あの事件の後、俺は父さんのために墓を作っていた。勿論、シロも手伝ってくれた。
あの事件で多くの死傷者が出た。何の罪のない人を殺した悪魔が許せなかった。
だから俺は…
「ねえ、」
そう考えている時にシロが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「あの時、貴方は私に何を言いかけたの?」
「え…あーあれか、」
その時、アーサーはハッと思った。シロと一緒に悪魔を退治していく事を。だが、俺の様な弱い人間がシロの様な強者と一緒にいても足手まといではないだろうかと。
「ねえってば!」
シロは少し怒っていた。
「ごめんごめん」
「で、何て言いかけたの?」
「シロちゃん、俺と友達にならないかい?」
「……うん」
シロは嬉しかった。初めて友達ができたのだから。自然に笑顔になっていた。それを見たアーサーは目を背けた。シロにはアーサーが何故目を逸らしたのかは分からなかった。
「あ、あのさ、シロちゃん!頼みごとがあるんだけど…」
思い切って言ってみた。
「もし良かったら、俺の悪魔退治を手伝ってくれないか⁉︎」
シロは驚いていた。無理もない、あの時何も出来なかった俺が悪魔退治なんて馬鹿げていると自分でも思った。けど、それでも悪魔の行為が許せなかった。また、俺の様な思いをもう、誰かに感じて欲しくなかった。
「アッハハハハハハハハハハ!!」
シロは腹を抱えて笑っていた。
「俺が何もできないって事は分かってる。けど、けど…もう誰にも悲しんで欲しくないんだ!」
「…そう」
シロはただそれだけ言った。
「どうか俺に悪魔を倒す術を教えてくれ!シロちゃん!いや、シロ(師匠)!!」
「いいよ、教えてあげる。ただし、これからは貴方は私の弟子!私の言う事は絶対守ること!」
「はい!師匠!」
こうして俺の勇者としての物語が始まったのだ。
「あ、あのさ、貴方、名前は?」
「あ、忘れてた、
名乗り忘れてたけど俺はアーサー、アーサーペンドラゴン」
「じゃあアーサー、至急ごはんを持ってきなさい」
「へ?」
そう、これから俺と師匠の旅が始まるのだった…
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