再開
シロの瞬間移動で洞窟の前にやって来た二人は今後のことについて話し合う。まず二人は洞窟の入り口の隅の岩壁に背を預け、その場に座った。そしてシロは話し始めた。
「ここ数か月の出来事を大まかに話して行くね」
俺はそれに頷いてシロの言うことに真剣に耳を傾ける。
「まず砂漠に着いた私が目にしたのは砂漠にのみ生息するだろう中型と大型の生物を見つけた。ここでは中型をミドル、大型をラージと呼称するね。ただしミドルとラージは魔物ではないよ、あとそいつらは基本、危害を加えなければ襲って来ないから大丈夫。問題だったのは小型の生物。ここではリトルって言うけど、そいつらはかなりたタチが悪かったよ、特に人の食料目当てに集団行動してくるところがね。まぁ、みんな返り討ちにしてやったけどね〜。」
「それならリトルだけを警戒しながら行けば問題ないな」
アーサーは砂漠の危険性に敏感になっていたがシロの話を聞く限りではこれといって問題はなさそうだった。
「まぁ、それだけなら、私もここまで時間はかからなかっただろうけどね…」
ーーーえ、他に何かあんのかよ…
シロの話には続きがあったらしく、最初に比べて安心して聞いていたアーサーだったが、シロの顔がさっきと違い深刻な顔付きになっていた。
ーーーまさか悪魔か何かが…
覚悟していたが、シロの口から発せられたのは人間にとって誰もが知っている存在だった。
「数週間、砂漠を探索していたら黒い服装の女の神に会ったよ」
「はい?…神様??」
アーサーはシロの発言に危険性を全く感じなかった。そらは神様なんて悪魔とは正反対の存在、つまり善の存在であると知っていたからだ。
「そうそう、みんな知ってる神様のことだよ」
「それの何が問題なんですか」
アーサーの考えていた理想の神様はこの時を待って崩れ去った。
「問題大アリだよ。あいつ、私を殺そうとしたからね」
ーーーシロは冗談でも言ってるのか…神様が襲ってくるだって?
未だに信じ難かった。神様が人に被害を加えるなんてことが…
「でも、殺そうとして来たって事はまさか…」
「うん、返り討ちにしてやったよ〜」
ーーーマジかよ…
神様にさえ勝ってしまうシロの実力を思い知ったアーサーは今後、シロを怒らせないように気をつけようと心に誓った。
ーーーシロを怒らせたら命がいくつあっても足りないよ。
「まあ、流石の私も苦戦したけどね。その後も何とか目的の湖を探したんだけど、あまりにも砂漠は広くてかなり時間がかかっちゃったよ。けど安心して、ちゃんと湖は見つけたから」
俺はホッと胸を撫で下ろした。
ーーーこれで湖に行くだけだ。
そう思っていた…
「けどね、その湖に辿り着く前にまた神に会ったんだよ」
「さっきシロが倒したって言ってた神様がまた来たのか?」
シロは首を横に振った
「違う神だよ、砂漠には複数の神が存在している。少なくとも四体以上はね」
「それ、どう言う事だよ!」
「落ち着いて、順に説明していくから。まず、湖に辿り着く前に会った神は狼の顔をしてた。そいつは最初に会った神なんかとは比べものにならないほど強かったよ。何か戦い慣れてた感じがしたね。多分、戦にまつわる神かなんかなんだろうね」
アーサーを無視してシロは自分の見解を述べていく。
「取り敢えず、私もそいつを倒す事は出来ないと思ったから急いで湖に向かって行ったけど、そこでまた違う神に遭遇したんだよ。青い髪の女の神だった。多分、あいつが湖を守護してるんだろうね。流石に神を二人も相手にする事は出来ないから全力で瞬間移動して難を逃れたよ〜」
やれやれといった風に腰に手を当ててため息をつくシロはアーサーの顔色が悪いのに気づいた。
ーーーあらら、これはビビってるな
それは的中していた。アーサーはシロの話に全くついて行けず、既に自分の手には負えないと判断していた。
「アーサー、別に貴方に、神を相手に真っ向勝負をしろなんて言わないよ。精々足止めしておいてって感じだから」
全くもってフォローになっていない。むしろさらにアーサーを追い詰めていることにシロは気づかなかった。それほどまでにアーサーはビビっていた。
「神様相手にどうしろって言うんだよ!」
ついシロの無茶な要求に苛立ちを感じたのか、声を荒げてしまったアーサーは言った後になって後悔した。
「そんなに深刻にならなくても大丈夫だよ。神って言ったって私よりは格下だから大丈夫だよ〜」
「それ、全然説得になってませんよ…」
ーーーグダグダ言っても仕方ないか
そう思い始めたアーサーはシロと一緒に笑い始めた。
「こんな感じで私の話はお終い。とりあえずは湖の場所も把握してるから問題ないよ〜」
「そうだね。シロにここまでお膳立てしてもらったんだ。ここで俺が挫けてたら元も子もないからな」
ーーーようやく腹を決めたようだね、アーサー
心配したが、やっぱりアーサーはこれくらいなら挫けないとシロは確信していた。これもシロの思惑通りだった。
「そうだよ、アーサーはいつでも前向きでなくちゃね〜」
シロはアーサーに微笑みかけるが、シロはまだアーサーに話していないことがもう一つあった。
それはシロと同等、もしくはそれ以上の魔力を持つ存在が湖の向こうにいるのを感じ取ったという事だ。
いつまでも隠し通せるような事ではないが、それを伝えてしまえば、モチベーションを持ち直した今のアーサーの心をへし折ることは簡単だろう…
こうしてまた二人の旅は始まる…
・
「今度はアーサーの番だよ〜。私のいなかった間、何してたのかな〜」
シロは嬉しそうしながら話を変える事で、隠し事をアーサーに気づかれないようにした。