おかえり
次の日、シロとアーサーは各々やるべき事をなすための準備をしていた。
シロが魔王であるとは言え、一日中太陽の光が射す砂漠で行動することは出来ないため、探索するのにそれなりの時間がかかるはずた。危険が未知数であるがシロの実力であれば問題ない。そう思うだろうが問題はそこではない。問題は、日中は炎天下、夜中は氷点下と気温変化が激しい砂漠の環境にある。そう考えると魔力を使い続けての探索は出来ないとシロは判断した。
以前のシロであればここまで考える事はなかっただろう。シロをここまで変えたのはアーサーの影響が大きいだろう。
それは昨日のアレだ。
ここまでシロが慎重になったのは、アーサーとの約束を守ろうと思っているからだ。
シロはようやく大切な者を見つけたのだ。
だが、シロはまだ大切にしたいという、その思いが何なのかに気づいていない。
一方で、アーサーは自分が為すべき事を見つけた。シロはアーサーのために行動してくれる。だからアーサーはシロの後方ではなく、シロが背後を預けさせてくれる存在になる為に歩き出そうとしていた。
二人は準備を終え、宿を出た。
「じゃあ、行ってくるね〜」
綺麗な銀髪をなびかせてアーサーに振り返る。
「あぁ」
アーサーはもっと言うつもりだったが言葉が出てこないようだった。
「素っ気ないな〜」
頰を膨らますシロはいつもより愛嬌があって可愛かった。
「いや、悪いな。いざってなると何て言っていいか分かんなくなっちまった」////
「ふふ、アーサーらしいね〜、色々考えすぎなところが、特にね〜」
ーーーそうだな
自分では気づかなかったがシロに言われて確かにと思った。
「もっと素直に言えないの〜」
「そうだな。シロ、いってらっしゃい!」
素直に、言いたいことをそのままシロに伝える。
「うん!いってきま〜す!」
シロは元気よくそう言って魔法を発動する。魔法でシロの体が浮き、上昇していく。そして西に向かって飛び立って行った。まるで流星のように美しく、あっという間に消えてしまった。
アーサーはシロが見えなくなっても暫くの間、その場に立って空を見上げていた。
・
数ヶ月の時が流れた…
シロがいない間、アーサーは剣術を学ぶべく北の街の剣道場に足を運んでいた。その剣道場は北の街でも有名なところらしく、大勢の人達で一杯だった。生活費など手持ちのお金を切り盛りしながら、そこでアーサーは剣術を学ぼうとした。
最初は師範の指導があったが、精霊の助言の通りアーサーには剣の才能がありみるみると成長していった。アーサーの豹変ぶりに驚き、アーサーの才能に気づいた師範は容赦無くアーサーをしごいた。それは師範だけでない。剣道場にいた全員がアーサーをしごいた。毎日キツイ鍛錬だった。
だがアーサーはボコボコにされながらも毎日が充実していて、何より嬉しかった。それはこんなにもアーサーの肩を持ってくれる人がいたことに。
アーサーはお金を稼ぐために店の手伝いとして重労働をしていた。なぜそこまでするのか。剣道場のみんなは不思議に思っていただろう。アーサーにはそこまでする必要(シロとの約束)があった。だから自分を追い込むことが出来たのだ。その頑張りに剣道場のみんなは舌を巻いた。応援もしてくれた。ごはんをご馳走してくれることもあった。野宿していたアーサーに寝床を提供してくれる人もいた。
そして今、アーサーは北の街の剣道場で若くして師範代となっていた。あまりの成長ぶりにみんなが驚いた。アーサーも驚いていた。まさか、ここまでアーサーには力があったとは、誰も予想出来なかっただろう。そんな事があっても、アーサーが師範代になる事にはみんなが納得していた。何故か。そうさせるだけの実力と人望を、アーサーはこの数ヶ月で手に入れたのだ。当然、師範代になってもアーサーは天狗になることなく鍛錬に励んだ。
ーーーもしかしたらシロを想う気持ちがあったからこそ、ここまで成長できたのかもしれない
シロと離れ、アーサーはそんな事を考えてしまうほどシロのことが恋しかった。
そんなある日、アーサーは何時ものように仕事を終えて剣道場に向かう途中、出逢ったのだ…
そう、悪魔に。
「!」
アーサーはすぐに持っていた木刀を構えた。幸い、悪魔はまだこちらに気づいていないようだ。アーサーは悪魔の様子を伺いながら、隙あらば攻撃を仕掛けるつもりだった。
「うおー!!」
悪魔が自分とは反対側を向いた瞬間、アーサーは飛び出した。持っていた木刀を握りしめ、憎き悪魔に打ち込んだ。
だが、その一撃は空を切った。
「なに⁉︎」
すぐに俺は悪魔を見つけるためあたりを見渡す。
「お前が俺を狙ってた事は最初っから分かってたよ」
声のした方は頭上だった。
「なん…だと」
ーーー全く気配を感じなかった。
アーサーは悪魔を睨みつける。
「さあ、どうする人間」
あたりは騒然としていた。
「そんなの決まってる。お前を、倒す!
みんな、ここは俺に任せて避難を!」
アーサーの一声をきっかけに街の人たちはその場から離れていった。当然、それは街に人たちがアーサーを信頼していたからだ。
「そうか、まぁ精々俺を楽しませてくれよ、人間」
そう言いながら悪魔は地に足をついた。
「うおー!!」
アーサーは悪魔に向かって走り出した。
アーサーは幾度となく悪魔に斬りかかる。だが、所詮木刀だ。あたったとしても大したダメージを与えられない。確かにアーサーは強い。強くなった。けれどもまだ硬く、大きな壁が人間と悪魔の間には存在した。
「もうおしまいか、人間。準備運動程度にしかならなかったぞ。まあ、人間にしては良くやったと褒めてやろう」
悪魔にはまだまだ余裕のあるのに対しアーサーは少し息が上がっていた。
ーーークソ…
アーサーの攻撃は所詮、足止めがいいところだ。
「悔しそうだな、だが安心しろ。俺を楽しませた褒美として楽に殺してやる」
「くっ…」
悪魔が勢いよく此方に向かってきた。
ここまでか。そう思った時だった。白銀の流星がアーサーと悪魔の間に落ちた。その衝撃で悪魔は一旦距離を取った。
「なんだ?」
突然の出来事に悪魔は驚いていた。
すると聞き慣れた懐かしい声が聞こえた。
「私の大切な人に何してくれてるの?」
久しぶりに聞いたシロの声はアーサーに安心感をもたらした。
「シロ!」
嬉しさがこみ上げる。少し汚れた白いワンピース姿にいつも通り綺麗な銀髪をなびかせてアーサーの前に立っていた。初めて悪魔に襲われたあの時のように颯爽とシロは現れた。
「ただいま、アーサー」
シロとアーサーが見つめ合う。その時、魔法が後ろから二人を襲う。魔法に気づいたアーサーがシロを抱えて回避した。
シロはアーサーから離れ、悪魔に向かって怒りを露わにした。
「私とアーサーの感動の再会を邪魔するとはいい度胸ね」
銀の髪が逆立つ。シロはかなりご立腹の様子だ。
「ならば二人とも、あの世でもう一度再会させてやる!」
再び悪魔は魔法を放つ。それにシロも魔法を放ち、打ち消した。
「ほう、魔法を使えるとは。これなら楽しめそうだ」
悪魔はシロ達の事を見下していた。が…
「やってみれば〜、楽しめるほどに余裕があるならね」ニヤッ
シロも負けじと言い返すと、同時にシロは目にも留まらぬ速さで魔法をくり出すが、避けられてしまった。
「⁉︎」
悪魔にダメージは与えられなかったが、かなりの驚きを与えた。
「チッ、あと少しだったのに」
シロは一撃で仕留められなかった事に悪態を吐く。
「き、貴様!その魔法、どこで知った!何故ら貴様のようなガキがそれを使えるのだ!!」
悪魔にはシロの魔法がどんなものなのか知っている口ぶりだった。
「さぁ?何でかな〜、私に勝てたら教えてあげてもいいよ〜」ニヤニヤ
シロは悪魔に挑発する。いつもの事ではあるが。
「貴様、悪魔軍特殊部隊隊長であるこの俺、ベルフェゴールを馬鹿にするか!」
今回の悪魔はそれなりに力のある悪魔のようだ。アーサーは以前、シロに教わった知識を思い出した。
「なんだっていいからさ〜、早くかかってきなよ〜。楽に殺してあ〜げ〜る〜」クスクス
アーサーはシロが挑発するたびに何故か安心感を感じた。
「き、貴様ー!!」
悪魔は怒りで顔が真っ赤だ。
シロはアーサーの持つ木刀に触れ、魔法をかけた。
「アーサー、その木刀ならあの悪魔にも通用するはずだよ」
何故シロが木刀に魔法をかけたのか。そんな事、アーサーにはすぐ分かった。そう、アーサーはようやくシロの隣に立つことができるのだ。
「シロ、援護する!」
自信を持ってシロに言う。
「うん!」
それに嬉しそうにシロが返事を返す。
「くそっ、人間ごときが!」
アーサーは悪魔に打ち込む度に、最初の時とは違う手応えを感じていた。確実に悪魔にダメージを与えている手応えだ。シロはアーサーの木刀に強化の魔法をかけたのだ。
「凄い…アーサーが悪魔とほぼ互角に渡り合ってる……」
シロはアーサーの豹変ぶりに驚いていた。
「ここまでよく頑張ったね、アーサー」ボソッ
そしてシロはアーサーに聞こえない小さい声で呟いた。
「私もアーサーにカッコいいとこ見せなきゃね!」
そう言ってシロは空間に魔法陣を描いていく。
「特別に見せてあげる、地獄の手向けに受け取れ」
そう悪魔に言い放ち、それに反応したアーサーは悪魔と距離を取った。悪魔はシロの描いた魔法陣を見て驚愕し、恐怖しているようだった。
「悪魔の中で朽ち果てよ……
ミラージュ・オブ・ナイトメア(悪魔の蜃気楼)!」
シロは魔法名を言い放つ。その瞬間、悪魔の周りが光り出す。
「ま、まさか!貴様がま……」
悪魔の体は一瞬で消えてしまった。
悪魔は消える前に何か言おうとしていたが聞き取ることは出来なかった。
「シロ、今の魔法は?」
今まで見たこともない魔法だった。アーサーはシロにどんな魔法なのか聞いてみた。
「簡単に説明すると、あの悪魔の周りに閉鎖空間を作り出して、粒子分解しただけ〜」
「閉鎖空間?粒子分解?」
知らない単語が出てきて頭を抱えているアーサーにシロはさらに分かりやすく回答した。
「つまり、魔法で作った檻に閉じ込めて、認識できないほど粉々にしたってこと〜」
「す、凄いな、その魔法」
改めて魔法の凄さを感じた瞬間だった。
「まぁその分、魔力消費量は多いけどね〜」
やはりとアーサーは思った。
「大丈夫なのか?」
アーサーはシロが心配だった。
「平気平気〜」バタン
シロはその場に倒れこんでしまった。あまりもに急な出来事にアーサーはアタフタした。
「全然大丈夫じゃないだろ!」
とシロに言うが、シロからの返事はいつも通りだった。
「…おなか空いた〜。アーサー、ごはん作って〜」
懐かしい。心配なんて、その一言で消えてしまった。いつも通り、おなかが空いていただけなのだから。
「ふふ、おかえり、シロ」
そう言ってアーサーはシロを抱え、何の料理を作ろうか考えながら下宿先へ歩き出した。
その後、アーサーの数日分の食料が消えた…
最後まで読んでいただきありがとうございます。
もし良かったらポイント評価お願いします。m(_ _)m