僕だけが君を見ていたい
端っこに蹲っているのは僕。それに気が付かないで、ずっとそこにいるのは君。
「ねえ、僕は君が好き」
僕に背を向けて、そんな所で。ねえ、何をしているの?
こうして君を待っている僕には全く見向きもしないで。この声だって聞こえてない。はあ。妬けちゃうな。
「陽菜」
「どうしたの? ……あらあら」
何も言わずに抱きしめたら、君はどんな反応をするかな? 嫌がるかな。喜ぶかな。戸惑うのかな。
君の反応が楽しみで待ち遠しくて。
「湊くんは寂しがり屋さんだなぁ」
ああ、なんだ。どれも違った。僕が抱きしめたら君は、幸せになるんだね。
「ごめんね。あと少ししたらいっぱいお話できるから」
手に持つスマートフォンに映し出された文字の羅列。ねえ、誰と喋ってるの? さっきは僕に抱きしめられて幸せそうにしていた癖に。結局そっちのが好きなの?
僕はその人に劣るのかな、なんて。
「それ、嫌」
放って置かないで、お願いって目で訴えてみると、君は困った様に眉尻を下げた。
「お母さんにまで妬かないで」
くすくす笑う陽菜にむっとして、徐々に熱を持って赤くなっていく顔もそのままに軽く彼女を叩いた。
「ばーか」
君の事が大好きなんだから仕方ないじゃん。いつも画面越しの相手にかかりきりな陽菜が悪いんだ。ここに僕がいるんだからこっち見てよね。僕は君しか見てないのに。それに、相手がお母さんだなんて知らなかったし。
言葉には出さなくても心の中でたくさん言い訳をして。
「むくれないでよ。ほら、遊ぼう?」
優しいから、彼女はスマートフォンの電源を切って僕を見る。
「僕もケータイいっぱいしてやる」
対抗心剥き出しでそう言えばまた笑われた。僕は真剣に言ってるっていうのに。
まぁいいや。今から陽菜の時間は僕だけのものだからね。
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