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第三章 神に頼らなければならない人達 初篇

第三章 初篇です

初篇


 オメテオル共和帝国、空中戦艦専用のタワー式停泊港、全長八千メータのバベルタワー中層階の修理ポートにグルファクシが収容されていた。

 キリアスの事件から二週間後の現在、グルファクシはザラシュストラを救出する為にジョウドがキリアスに提供したグラディウス艦隊が、極秘裏に停泊していた地下巨大停泊港への無茶な突入による船体損傷の修繕を行っていた。

 巨大な歯車を唸らすロボットアームとクレーンにより船体の修繕が行われる様子を見詰めるザラシュストラは、眼鏡とフリースにGパンと普段着の様相である。

 グルファクシを見詰めるザラシュストラの脳裏にはキリアスで起こった出来事が過ぎる。

 ジョウドは、トオベイの本名と過去の経歴を知っていた。オメガのメンバーの経歴は厳重に管理していた筈が、ジョウドには筒抜けだった。唯でさえジョウドに関する情報が自分と同じ存在である程度しかない。

 更にザラシュストラから千年前の祖先に当たるエ・フォネスト・ドッラークレス・レイコスだった者が残したミズアベハ(神の祭壇)をジョウドは回収した。

何をする心算なのだろうか?

 ミズアベハ(神の祭壇)は、この次元と遥か高位の超次元と結ぶ扉か、橋のような装置である。まさか、自分達と同じ存在を生み出す為? だが、そんなに簡単に生み出せるのか?

 ザラシュストラは、後手過ぎる自分達の状況に焦燥と思案の繰り返しに陥っている傍でアナウンスが流れる。

「ザラシュストラ様。ザラシュストラ様。至急、低層階第三情報討議室にお越しください」


 バベルタワー低層階の討議室にザラシュストラは到着する。全体の明かりが落とされ、中央に情報を映し出す巨大スフィア(立体映像球)の周りには、私服のオメガ兵団のメンバー全員。

巨大スフィアの操作盤にミラト、サラサ。その左にロードギアス、ニクス、ゼロス、トオベイ。

右にサツキ、イツキの後ろに、九人目のオメガ兵団のメンバー、アムリタ(神的治癒)の力を持つ契約の能力者の女性エイオスは、普段着の淡い青色のワンピースに淡いクリーム色の金髪におっとりとしたサラサと同じ目尻が下がった小顔の女性である。

「遅かったわね」

と、オメガメンバーの向かい側に白を基調とした簡素なドレスに身を包むアルテナと、その右にミラトと同じショートの赤毛にレディース・スーツをキッチリと着こなす四十代の女性が立っている。彼女はオメテオル共和帝国の全軍を統括し国内の治安を一手に引き受けるリリア大統制長官である。

「なんでアルテナが? それにリリア大統制長官まで?」

 と驚きを露にするザラシュストラにミラトが。

「早く中に入って。直ぐに会議を始めるから」

 と焦りを露にする口調で告げた。

「ああ…」とザラシュストラは入り、背後の自動ドアが閉まる。

 ザラシュストラはアルテナの左に来ると、アルテナに顔を寄せ。

「何でここにいるの?」

 と小声でザラシュストラは尋ねる。

 ザラシュストラが疑問に思う理由は、オメテオル共和帝国の政治システムによる為である。オメテオル共和帝国は(立法、治安、防衛)の三つが独立した独特の政治システムから成り立っている。

立法は、国内の各地区から国民から選ばれた評議委員によって立法が行われ、評議会全体をまとめる最高地位が政統制長官である。現在の政統制長官はアルテナ・ルシエドである

治安は、立法と同じく国民から選ばれた一人の人物にオメテオル軍の最高司令官として地位を与え治安を任せる。その最高司令官地位が大統制長官である。その現大統制長官が四十代の女性であるリリア・ギルガメッシュだ。

 防衛は、外国の侵略からオメテオル共和帝国を守る為にオメテオル軍とは独立した覇王ヴィルヘルム直轄の部隊、オメガ兵団に守護される。つまり、ザラシュストラ達の事である。

 この独特な三つに分かれた事で、互いが行き過ぎないように監視、抑制が程よく働いて超大国であるオメテオル共和帝国を支えている。

 そして、防衛であるオメガ兵団は、どうしても立法であるアルテナの外交政策と密接に関係しているので、治安であるリリア大統制長官は、その外交政策により治安の悪化が起こる懸念がある為に抑制を掛ける事が多々ある。つまり、折り合いが悪いのだ。

 折り合いが悪い者同士が同じ場所にいる事など先ず無い。

 それ故にザラシュストラは、リリア大統制長官がオメガ兵団の真っ只中にいる事が不思議なのだ。


「それはね」

 とアルテナがザラシュストラに耳打ちする傍でリリア大統制長官が鋭く告げた。

「なぜ、私がここにいるかと言う理由か? お前が追っているジョウドという男の所為だ。でなければお前達と顔を合わせる事などしない」

「う…」とザラシュストラは言葉を詰まらせてしまう。

ザラシュストラにとってリリア大統制長官は、何処となく怖気づいてしまう存在なのだ。その地位も関係しているが、何より自分に対する風当たりが強く感じる為、ザラシュストラはリリア大統制長官の前では体を縮め黙ってしまう。

怯えるザラシュストラを他所にリリア大統制長官は、右手を上げると中央の巨大スフィアに情報が立体映像の情報達が提示される。

 その情報達の内容は、全てあのキリアスのグラディウス艦隊の極秘裏保持に関する事件のデータである。地下施設の規模、関わった人物のリスト、その取調べに関する調書等。

 リリア大統制長官は猛禽類のような鋭い視線で、ザラシュストラを睨み。

「現在、このキリアスの事件に関わった者達の取調べの最中だが、北方の極秘技術の兵器である人造巨人ダロスとグラディウス艦を提供したジョウドに関する情報が全く得られていない。事件の中心人物でジョウドと最も接触が多かった元キリアス高官の男は一切、ジョウドがどのような人物であるかを喋らない。まあ、そこにいるザラシュストラと同じ存在なら精神に手を加えて喋らせないようにする等、簡単であろうな」

 リリア大統制長官はザラシュストラの正面に来ると威圧を込めた視線でザラシュストラを見詰め

「それとも、同族を守る為にお前が隠蔽工作でもしたか?」

 と、ハッキリ言い放った。

 室内にいる全員に緊張が走る。

 ザラシュストラの右にいるアルテナが険しい表情を浮かべ

「リリア大統制長官」

 と一歩前に出るがザラシュストラが右腕で止めると、リリア大統制長官の鋭い刃のような視線と自分のオッドアイの視線を交差させ

「…確かに、そう思われても仕方ありません。ですが…。自分は隠し立て等、行っておりません。それでもお疑いでしたら、グルファクシのメインAI(中央電脳)をお調べください」

「ザラシュストラ!」

 とアルテナは声を張り上げた。

「良いんだ」

 ザラシュストラは頷いた。

 グルファクシのメインAI(中央電脳)にはオメガ兵団の創設からの現在までの全ての活動が記録されている。メインAIを調べるという事は、今までのオメガ兵団が行ってきた活動の全てを暴露するという事だ。

 重苦しく窒息しそうな緊張が支配する室内で、その発端であるリリア大統制長官の睨みをザラシュストラはオッドアイの瞳で受け止める。

 リリア大統制長官は「フン」と鼻で笑い

「なるほど、お前を信じてみる事にする」

 その言葉で室内の緊張が解かれた。

 その後、会議はジョウドに関する情報の共有と対策を焦点に討議され、このジョウドいう案件に対しては互いの情報交換を蜜にさせるという事で合意し終了した。


 会議が終わり、ザラシュストラは部屋から出ようとした時。

「ザラシュストラ…」

 とトオベイが呼び止めた。

 トオベイは唯でさえ恐持てな顔を更に強め、まるで苦悶する鬼ような表情を露に

「実は…」

「トオベイ」

 とロードギアスがトオベイの左肩に右手を置いた。

 トオベイは体を大きく竦ませる。

 何時もの研ぎ澄まされた刀のような雰囲気のトオベイがまるで苦悩する罪人のような姿にザラシュストラは驚き

「どうしたんだ?」と自然と尋ねた。

 だが、代わりに答えたのはロードギアスである。

「すまん。少し体調を崩しているのだ」

「大丈夫か? エイオスに診てもらうか?」

「何、それ程でもない。行こうかトオベイ」

 とロードギアスはトオベイを引き連れてリリア大統制長官の下へ行き、ロードギアスとトオベイ、リリア大統制長官の三人は何かを話している様子にザラシュストラは、なんだろうと頭を傾げつつその場から離れた。


 ザラシュストラは通路を歩きながらトオベイの様子が気になっていた。

まるで何かに怯えた様子はただ事ではない。トオベイは戦士として超一級の人物であり、まだ北方がオメテオル共和帝国ではなく十二の皇国に分かれていた北方十二皇国の一つレムリア皇国のレムリア王親衛隊隊長であり、剣の腕前も北方屈指であり今も衰える処か、契約の力により更に増している。

そして、トオベイとロードギアス、リリアは旧友でもある。

ロードギアス、本名オディウス・ラ・ハウゼント。元十二皇国ギルガメッシュ皇国、ギルガメッシュ王の側近で大公の地位だった。

リリア・ギルガメッシュ、その名かが示す通りギルガメッシュ王の血を引く末娘である。

他にもオメガメンバーは元十二皇国繋がり。

ミラト、本名ミラトラル・ルーセア・ミリア。北方のダロスとグラディウス製造を一手に引き受けているミリア財団理事長の娘。

サラサ、本名サーラディア・ナデア。元十二皇国ナデア皇国の姫。

サツキはサーリキ・ムーデア・ヴィーラス。イツキはイリーナ・ムーデア・ヴィーラス。二人は元十二皇国ヴィーラス皇国の姫達。

エイオスもエンテンシア・リリアス・カイルス。元十二皇国カイルス皇国の姫であった。

ザラシュストラは立ち止まり自分の両手を見詰める。

彼女達が祖国を失った理由は、エ・フォネスト・ドッラークレス・レイコスの力で北方の十二皇国を奪い取った自分の所為なのだ。奪い取ってしまった者達に対する償いと言えば格好が良いが、罰なのだ。一生背負い続ける十字架。永遠に贖罪出来ない罪。いや、贖罪の仕方ならあるがその方法が見付からない。

不意にジョウドの姿が過ぎ

ジョウドなら…知っているかな?

ザラシュストラはゆっくりと自分の両手を握り締めるそこへ

「おい、何、考え込んでいるんだ?」

 とニクスが訝しい顔に腕組みをして立っていた。

「お前、また考え事をしていたろう」

 ニクスがザラシュストラの正面に来て、ザラシュストラの眼鏡を摘んで外し

「生真面目すぎる性格のお前が、悩んだ所でお悩みのループに突入するだけなんだから考えるな!」

 ニクスはザラシュストラをからかうが、ザラシュストラは口を細め噴出し

「アハハハ。そう言うニクスはもうチョッと考えて考えて行動したら? 前に二股掛けた女達に追われて殺されそうになった筈だろう」

「そ、それは…」

 ニクスは右ホホを引き攣らせるも

「と、とにかく、お前は考え過ぎだ。だから、女とそう、サツキちゃんとデートに行け!」

「はあ?」

「男が人生で一番悩む事は女の事で十分だ。それ以外はクズだぜ」

「はあ…」

「そういう事だ」

 とニクスは胸を張る。

 ザラシュストラは何が何だか理解出来ず呆然と呆れが混じった表情を浮べた。

その視線に晒されるニクスは「あ、そうだ」と何かを思い出し

「姉貴がお前に用事があるって伝言が来たぜ」

「え? ティエリア姉さんが、なんだろう…」

「まあ、今はグルファクシの修理でオメガの活動も休みだし、丁度良いんじゃない」

「判った。明日にでも直ぐに行くよ」


 翌日、ザラシュストラは高速飛行船に運ばれ西方の大陸北東付近にあるルカ国へ到着していた。

 私服に眼鏡のザラシュストラは空港から出ると数人のタキシードを纏った男性達が取り囲む。

その一人がザラシュストラにお辞儀をして

「ようこそお越し下さいました。こちらへ」と一台の重厚な高級車へ誘った。


ルカ国、北方のオメテオルの隣国にて、西方と南方の大陸に多くの信者を持つシューティア教が、千年前に聖地であるこの場所を守護する目的として設立された組織が発祥の国家であり、現在は国家と袂を分かち、守護教会という独立した教会系列の組織が聖地の守護を行っている。

ザラシュストラはその守護教会の騎士長でありニクスの姉でもあるティエリア・ラードルという女性に呼ばれた。


ザラシュストラは移動する車内から見える湖を見詰める。レイコス湖と呼ばれるこの湖の畔の周囲を埋める針葉樹の中から飛び抜けた剣状の建物が姿を現す。守護教会が見えてきた。ザラシュストラを乗せた高級車は守護教会中に入り停車する。


ザラシュストラは車両から降りると、守護教会の中から騎士服を纏った女性が表れ「ようこそ、お越し下さいましたザラシュストラ様。こちらです」とザラシュストラを誘導して騎士長室の扉の前に来た。

ザラシュストラを案内した騎士服の女性が扉をノックし。

「ザラシュストラ様がご到着いたしました」

「どうぞ」

 と扉の奥から女性の声が響いた。

「失礼します」

 騎士服の女性が扉を開くと、その正面には黒を基調とした礼服に近いドレスを纏い、清流のような金髪を伸ばす慈愛が溢れる笑顔の女性ティエリアが立っていた。

 ザラシュストラはお辞儀をして

「こんにちは、ティエリア姉さん」

「ようこそ、ザラ」

 とティエリアはザラシュストラの手を取り室内へ招いた。

 騎士長室の部屋全体に明かりが入るように設置された窓の向こうにはレイコス湖が一望出来る。更に、幾つもの古い書類や資料が並ぶ本棚と騎士長専用の年代を経た黒光りする巨大机等、歴史の深さ醸し出していた。

 ティエリアはザラシュストラを隣の客間のテーブルに通してイスに座らせ。

「お紅茶とお菓子をお願い」

 とザラシュストラを案内した騎士服の女性に伝えてティエリアはザラシュストラの右側の席に着いた頃、騎士服の女性が紅茶とお菓子のセットを載せた台車を押して現れ、ティーセットをテーブルに広げる。

 ティエリアはティーカップに両手を置き。

「少し痩せた? あまり無理はダメよ」

 と、子を心配する母親のような口調で喋り始める。

 ザラシュストラは微笑みながら

「うん…まあ、大丈夫。無理はしていないから」

「嘘、ザラが(無理をしていない)っていう時は相当無理をしているから」

 ティエリアの慈愛に満ちた表情が悲しみに一変する。

 ザラという愛称で呼ぶティエリアにザラシュストラは頭を掻きながら…

 やれやれ、やっぱりティエリア姉さんには嘘が通じないな…

 ティエリアはザラシュストラの母方の親戚に当たる。

ザラシュストラは幼い頃に両親を無くし、そんなザラシュストラをティエリアは弟のニクスと共に面倒を見たのである。その為なのか、ニクスと共にザラシュストラはティエリアに頭が上がらない。

「ごめん。その通り。チョッとある案件で煮詰まっていて、少し無理をしている」

「もしかして、ジョウドって人の事?」

 ティエリアの言葉にザラシュストラは、ビクッと体を萎縮させ驚きの表情でティエリアを見詰め

「そうか…ティエリア姉さんの守護教会まで知られているんだ」

 ティエリアは悲しげな表情を露にしてザラシュストラの右手を両手で握り締め

「絶対に無理はダメ。もし、大変な事になったら私の所に逃げて来なさい。本来ならザラは、四年前に亡くなったツラお爺様の遺言で、この守護教会に来る筈だったのに、北方覇王戦争みたいな事になったから…。だから、死ぬ程辛かったらここに逃げて来なさい」

「大丈夫だよ。そんな事にはならないから」

 ザラシュストラはティエリアに微笑む。

「そう…」

 とティエリアは何処か寂しそうな表情を浮べた。

「それを言う為にニクスへ伝言を頼んだの?」

「ごめんなさい。忘れてた。ザラに頼みたい事があるの。実は最近になって判った事なんだけど、アンブロシア国のウルダンデ大聖堂の地下倉庫にツラお爺様の遺品が仕舞われているらしく、それを取りに行って欲しいの」

「え! ひいおじいちゃんの遺品が? アンブロシアってあのウルダンテ(聖水の泉)と呼ばれる湖の真ん中に浮かぶ風光明媚な観光スポットの、あの大聖堂に?」

「ええ…そうなの」

 とティエリアは眉を顰めながら

「それが、実は…三ヶ月前にウルダンデ大聖堂が教会から独立するなんて言い出してね。教会トップの法王庁と対立している状態なの」

「はぁ? 身内同士で喧嘩」

「お恥ずかしい。でも、そのお陰でツラお爺様の遺品がある事も判ったけど…。私はその対立する教会関係者だから門前払いになってしまうの。だから、ザラに行って欲しい」

「確かに俺は、遺品の持ち主の直系だからね。それに教会の信者でもないし、判ったよ」

「ありがとうザラ」

「でも、今、教会と対立しているウルダンデ大聖堂って入れるの?」

「大丈夫、普段のように一般の観光客には開放しているから」

「よし、じゃあ直ぐ行って取ってくるよ」

「お願いね」



 翌日の早朝、ザラシュストラは私服に眼鏡のラフな身でアンブロシア国に向う高速飛行船に乗っていた。

 客席の窓から目的地である聖水の泉と呼ばれる湖が見え、その中央に槍のように突き出たウルダンデ大聖堂が見えた。ウルダンデ湖は、山間部の大地に突如として現れる円形の湖、教会の伝承では神が奇跡の御技を振って生まれた湖という謂れがある。

「ひいおじいちゃんの遺品か…」

 とザラシュストラはウルダンデ湖を見下ろした。


 朝日が昇り始めた頃、目的地近郊の空港に着いたザラシュストラは素早く、ウルダンデ湖に向うバス・ターミナルを見つけると、朝早くにも関わらず、そこには長蛇の列と人だかりが出来ていた。

 大凡、ウルダンデ大聖堂に観光に来た者達の多さにザラシュストラは

 教会と対立しているなんて嘘のようだな…と感じながら、その人だかりに加わる。


 ザラシュストラは、満員でパンパンのバスに一時間弱揺られ、ウルダンデ湖に到着するとバスに乗った全員がここで下り、ウルダンデ湖に浮かぶ大聖堂に繋がるレンガの橋を渡って行く。

 全員、同じ場所の観光なの?

 とザラシュストラは驚き半分呆れ半分の心境の横には、何十台のバスが停車し、そのバスから降りた人々は、一目散にウルダンデ大聖堂へ向った。

 大聖堂に向うレンガの橋はその大量の人々により軍隊行進へ様変わりしている様子にザラシュストラは「帰ろうかな…」と感じつつも、目的の遺品を取りに行く為に、我慢してその行列に加わると、その中には車椅子に乗っている病人のような人々がチラホラと垣間見えた。

観光地なのだから、珍しくもないか…とザラシュストラは考えつつ、行列にモミクチャにされながらやっとの思いで大聖堂に到着するも、内部は外の状態と同じく人でごった返していた。

 そんなにここは有名なのか?とザラシュストラはたじろぐ。

 とにかく、ザラシュストラは目的である曽祖父の遺品を回収するべく、湖畔に浮かぶ居城のような大聖堂に入り、ティエリアの言っていたノルンという人物を探す。ティエリアの話では、その人物が遺品について知らせた手紙をティエリアに送ったらしく、その人物と連絡がついているので、会えば保管してある倉庫に連れて行って貰えるらしい。

ザラシュストラは、適当に入口の庭園を手入れしている関係者であろう老人に声を掛ける。

「あの…すいません」

「んん?」

 と老人は手を休めてザラシュストラの方を向き

「なんじゃ?」

「ノルンという方を探しているのですが…。何処にいるのか教えて貰えませんか?」

 老人は瞳を大きく広げザラシュストラを数秒凝視した後に口を細め

「なるほど、守護教会も面白い事をしてくれる。ワシがそのノルンじゃ」

「はあ?」

 とザラシュストラは首を傾げた。

「若いの、エ・フォネスト・ドッラークレス・レイコスじゃろう」

 老人の言葉にザラシュストラの顔色は一気に青ざめ

「どうして、それを…」

 ザラシュストラの口調は自然と鋭くなり、自分のもう一つの正体を知っている老人に警戒を露にする。

「ハハハ…そう、気取るな。何となくだが、判るのさ。その独特の雰囲気がな」

 と、老人は庭園の手入れをする道具を置き「こっちじゃ」と歩き出した。

中編に続きます

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