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人間賛美と怨嗟

初ですよろしく

初編


西方大陸のガルヘント王国は五時間前、国内の有力貴族であるソーディス大公とウインド公爵の謀反により王とその四人の王妃達が住む居城リーシャのある首都アルカディアが占拠された。それの情報を逸早く北方の覇王ヴィルヘルムが治めるオメテオル共和帝国のヴィルヘルム直下のオメガ兵団の要員ザラシュストラは、得るや否や単独でガルヘント王、フィーティアを首都アルカディアから脱出させ共に逃亡していた。


 星々が瞬く夜の下、先の見えない闇の中を走る大人と少年。二人を包む闇は、微かな月光さえ通さない深遠の森である。

先頭を行く男、黒髪に右眼がブルーサファイアの如き青さに、左眼が髪と同じ黒眼の顔は何処か武人を思わせるような無骨さを持ち、その躯体も武人と言える程に肩が張り、黒い外套に覆われてもその強固さが滲み出ていた。

男の名はザラシュストラ。

そのザラシュストラに手を引かれて走る少年、ショートのブラウンヘアーに幼さが残る顔立ちは何処か中世的な雰囲気を纏わせる美形の少年。

少年の名はフィーティア・ラ・ガルヘント。僅か十六歳にして西方大陸で一番の大国の王になった少年王である。

ザラシュストラは、フィーティアの右手を左手に引いて走る。夜の闇より濃い深遠の森の中を明かり一つ持たず迷い無く、一息も乱さず風のように木々を駆け抜ける。一方、ザラシュストラに引っ張られるフィアの呼吸が乱れ、足が木の根に絡められ。

「あー」

 フィーティアが裏返った声を放った次にザラシュストラの右手から手がすり抜け、森の闇に転がる。

「フィア!」

 ザラシュストラはフィーティアを愛称で呼ぶ。

西方の大国ガルヘントの王を愛称で呼べるのザラシュストラしかいない。ザラシュストラは十四歳の頃から四年前の二十歳の時まで、フィーティアの許嫁であったヤマタイ国の姫、カグヤを曽祖父ツラシュストラ共に守護していた。カグヤは幼なながらにもフィーティアに好意を持っていた。守護のツラシュストラとザラシュストラはその気持ちを汲み、カグヤを度々ガルヘントのフィーティアの所に連れて行く内、自然にザラシュストラとフィーティアは兄弟のような関係となり、血は繋がらなくとも実の兄弟の絆は、フィーティアが王となった今でも変わらない。


 漆黒の木の根元からフィアは両手を大きく振い。

「ここだよザラ兄!」

 と自分の居場所を示すと、ザラシュストラは風のように静かに寄り。

「フィア、大丈夫か?」

 ザラシュストラは仰向けに倒れるフィアに右手を伸ばす。

「ありがとうザラ兄」

 と、フィアは右手を掴み起こして貰った。

「すまん。お前のペースを考えず早く走り過ぎた」

「そんなのいいよ。だってザラ兄は僕を助けてくれたんだら」

 ザラシュストラは顔を悲壮に曇らせ。

「すまん。もっと早く反乱が判ればこんな事には…」

「あやまらないでよザラ兄。ザラ兄が悪い訳じゃあないんだから。さあ、行こう」

 フィアは歩き出そうとしたが「う…」と、右足を押さえその場にしゃがむ。

「ちょっと見せろ」

 ザラシュストラはフィアの右足を丹念に調べると、どうやら捻って筋を痛めた症状である事が判り、これ以上は走らせるのはマズイと判断し。

「フィア、おぶされ」

「え…」

 背中を向けるザラシュストラに戸惑うフィア。

「どのみちその状態では歩けん。さあ、早く」

「で、でも、僕は重いよ」

「舐めるな、弟のお前を背負うなど造作もない」

 顔をムッと膨らませて苛立つフィアはワザとザラシュストラに背中に飛び乗り。

「ほら、重いでしょう!」

 子供扱いしたザラシュストラを困らせる事をしたが…。

「はあ、重い? 軽い軽い!」

 ザラシュストラは全く気にする事無く、寧ろ余裕の笑みをフィアに向けた。

 フィアはその態度に更に不機嫌となり、膨れた面で。

「もう、子供扱いはしないでよザラ兄。これでも僕は王様なんだよ」

「王様でも何でも関係ない。お前は俺の大事な弟だ」

 ザラシュストラは細く笑み一歩踏み出した瞬間、空気まで震わす地鳴りのような低重音が、体の内側にある肺まで揺らした。

 ザラシュストラの顔は一瞬で青ざめ、夜の空を見上げる。

 その青い右眼の双眸のオッドアイに低重音の正体を知らしめる。


夜の森の上空に、鋼色に輝く甲冑の躯体と四つ目が光る兜の頭部、背中には幾何学模様が刻まれたV字状の鉄板の翼からザラシュストラを青ざめる低重音と光を放つ人造巨人ダロスの軍勢が、ゆっくりと螺旋を描いて深遠の森の降り立つ。

深遠の木々は、ダロスの下半身を隠す程度、三十メータもあるその巨大過ぎる躯体を隠し切れない。

ダロス達は背中にあるV字状の羽を両手に取ると、それを斧の如く振り翳し足元の木々を薙ぎ払う。一太刀振るえば何十本という木々が根こそぎ地面から剥ぎ取られ、家が一軒出来る更地へ。それを五体もいるダロス達が行う様は、ここが森であった事など嘘になる勢いで木々が消失して行く。


その様子をザラシュストラは窪地に隠れて見詰める。

「ザラ兄」

と、ザラシュストラの下に隠れるフィアが不安な表情を浮べザラシュストラの黒い外套の裾を握る。

ダロス達が探しているモノ、それはフィアである。ガルヘント王フィーティア。

「行くぞフィア」

 ザラシュストラはフィアを背負い走り出す。

 人を背負うザラシュストラは一瞬で風になる。加速するザラシュストラ。疾風の如き速さと兆弾する弾丸のような動きで森に残像を残して翔ける。


人造巨人ダロス達が、夜の星々させ遮るほどの巨体に見合う巨斧を振り翳し、天地が一変する程の勢いで深緑を大地もろとも剥ぎ取る足元をザラシュストラは、フィアを背負い、風のように通り過ぎる。

ダロス達に見付からず上手く逃れたザラシュストラは…

一難さってまた一難か。しかし、なぜ、北方にしかない筈のダロスがここにあるんだ?

後方に見える人造巨人の姿を見詰めるも、背中におぶさるフィアのブラウンヘアーが視界に入り

いや、今はそんな事を考えている暇はない! フィアを一刻も早く安全な所まで運ばないと

ザラシュストラは、前方だけを凝視して更に加速をする。兆弾のような動きはやがて、木々の間を自由にすり抜ける鳥の動きへ変わる。

その速さ、動きは常人ではない。まるで木々が魔法に掛かったように、ザラシュストラを避けていると、いう錯覚さえ思える超人の動きだ。

やがて、ダロス達の全貌が一望出来る程に離れた小高い丘にザラシュストラは到着し。

「フィア、安心しろ。ダロス共は振り切った」

 ザラシュストラは、背中に背負うフィアに笑顔で振り向くも、そのフィアの表情は硬く焦りが見えた。

「どうした?」

 ザラシュストラが穏やかな口調で尋ねると、フィアは顔をザラシュストラの背中に伏せ。

「ねえ、どうしてこんな事になったんだろう…」

 フィアの呟くような言葉と共に、ザラシュストラは背中から伝わる涙の感触に。

「フィア。今は逸早くガルヘント大将軍の部隊と合流して、事態を早く解決しよう。なぜそうなったかは、その後でも幾らでも考えられる」

「…うん」

 フィアの頷く動きが背中越しに伝わったザラシュストラは、先を急ごうと動き出す。だが、背後から何かが迫る存在を察し、再度振り向いた。

 ザラシュストラの視界に縦の線が見えた。

「え?」と、ザラシュストラは不意な一言を落とした瞬間、ザラシュストラの右側にダロスの巨斧が地鳴りを響かせ斬り込む。

ゆっくりと確実にザラシュストラは視線を右に向ける。そこには、確かにダロス達が使っていた幾何学模様の刻まれた巨斧が、木々を紙切れのように切り裂きその存在を誇示していた。

ザラシュストラは静かに巨斧の来た方角を向くと、ダロス達の四つ目の視線が自分の瞳に飛び込む。ダロス達は、その四つ目を狩人の眼光の如く、確実にザラシュストラを視界に捉えている。

「ザラ兄…」

 背中に背負うフィアが肩の生地を強く握り締める。フィアもダロスと視線が合っていたのだ。

「急ぐぞ!」

 ザラシュストラは危機を直感し走り出すが、空から巨斧の壁が降下してその行く手を遮った。そして、ザラシュストラ達を囲むように空からダロス達が激震を伴って降下する。

 ダロス達の起こした地震により、ザラシュストラの体は軽く身丈三つ分も浮き上がるも、ザラシュストラは空中で体勢を操作して足から軟着陸する。

 ザラシュストラは、素早く立ち上がり頭上を見上げる。

 見上げたそこには、夜の星より巨大な光を放つダロスの不気味な四体分の四つ目の光がザラシュストラを見下げていた。

 ザラシュストラ達は、四方向をダロス達に塞がれ、袋のネズミである。

 不気味で巨大な威圧を誇るダロス達の視線に背中で負ぶさるフィアは、全身が恐怖に絡め取られ震え出す。常人なら誰でもフィアのようになるだろう。だが、ザラシュストラには恐怖が無く寧ろ悩み…。

なんて事だ。こうなるとは予想していなかった。どうする? レイコスを発動するか? だが、そんな事をすればフィアに…。

 ザラシュストラは背負うフィアの顔を覗く。ザラシュストラはフィアに自分のもう一つの正体を知ってほしくはない。故に悩む。このまま、あの力を発動すればダロスなど、糸も簡単に屠れる。だが、その代償にフィアにアレが判ってしまう。だが、今使わなければフィアを護れない。

 ザラシュストラが苦悶しているのを他所に四方を囲むダロス達が、その巨大な手をザラシュストラ達に伸ばす。

 ザラシュストラはダロスの巨手を睨み

(今、俺はフィアを護る為に、全力を尽くす!)

覚悟の決ったザラシュストラは、自らの内にある例の力を発動する。それに呼応するかのようにオッドアイの青い右眼が輝き、力が発動する寸前。

“馬鹿者が! 先走りおって”

ザラシュストラの脳裏に低い男性の声が響く。


四体のダロスの足元を二つの黒い風が疾走し、ザラシュストラの足元に留まる。二つの黒い風は、漆黒の外套を纏った二名である。

二名は立ち上がると、二名の正面に青い水晶が空間から具現化する。二名はそれぞれの正面にある青水晶を右手に握り締めた瞬間、空間から自身の身丈と同じ大きさの漆黒の鉄板が具現化、鉄板が握り締めた青水晶を核として金属プレスの如く絡み、一人は巨大な砲身を、もう一人は筒状が幾つも重なったガトリング砲身を構築された。

二名はその砲身をダロスに向ける。

巨大な砲身から天を穿つ程に巨大な光柱と鼓膜を突き破るような轟音が発し、ダロスの巨大な上半身を消失。

ガトリングの砲身から豪雨の如き光弾と比例して何百もの連続爆音と共に放射され、ダロスの躯体を粉砕。

ザラシュストラ達の四方を包囲していた四体のダロス達は、巨大な砲身とガトリングの掃射により完全消滅され、無様に焦げた巨大な肉体の一部を周囲にばら撒き、その様を遠方より視認していた五体のダロス達は、後退を始める。無人兵器の人造巨人ダロスは動く、思考回路には戦術的なプログラムが施されている故に、そのプログラムにない突発的な事態に後退という行動を起す。

人造巨人ダロスの後退を確認した二名は。

「この馬鹿が! 作戦を考えずにオメテオルから飛び出しおって」

 巨大な砲身の人物が外套のフードを外しながら、ザラシュストラに詰める。その声はザラシュストラの脳裏に響いた声である。

黒髪で獅子のようなカットに顔立ちは、鋭い眼光に年齢を重ねた五十代の紳士の貫禄を放ち、外套の下には、礼服に近い落ち着いたスーツにあめ色の簡素な胸部の鎧を装着した紳士と騎士が合わさった男性。

 ザラシュストラは、オッドアイの双眸を開く程に驚きながら。

「ロードギアス…」

 と紳士と騎士の雰囲気を持つ男性の名前を告げた。

 ガトリングの砲身を持つ男性も傍に来ると、外套のフードを外し

「全く君は、人を使うという事を知らないね…」

 と、黒髪のショートに穏やかで目尻が下がった人当たりの良さそうな顔をした青年の顔がある。年はザラシュストラと同じ二十代、外套の下にはロードギアスと同じ礼服に近いスーツに銀色の色違いの簡素な鎧を装着する男性。

 ザラシュストラは、同年輩の青年に微笑む顔を向け

「ゼロス」

 と青年の名前を告げた。

 ロードギアスは呆れた表情で。

「お前のその何も考えんバカな思考回路にはついて行けん。もう少し、国益を考えて行動しろ!」

 と、棘のある物言いでザラシュストラに放つ。

 ザラシュストラは「フン」と鼻で一笑し。

「悪いな、俺にそんな概念なんてない。弟のフィアと妹のカグヤが危機だったのに、国益なんて邪推な思考は、ビタ一文も過ぎらなかった」

 ロードギアスも「フ…」と鼻で嘲笑し。

「では、その考えなしの行動でフィーティア王一人しか救出できず。フィーティア王の四人の王妃達…白鳳王妃カグヤ、武王妃ルフィリア、華方王妃レイラン、聖君王妃レミセルアは占拠された首都アルカディアに残したという訳か。全く、フィーティア王を脅すには十分過ぎる人質ではないかね?」

 ロードギアスの抑揚を抑えて告げられた指摘に。

「なんだと…」

 とザラシュストラはロードギアスと睨み合う。

 険悪な空気の中へ。

「二人とも」

 ゼロスが入り、夜の空を指差す。

 睨みあうザラシュストラ、ロードギアスは同時にその方角を向くと、その空には二人の見覚えがある存在が飛行していた。

 全長千メータ、巨大な大剣の形をしているが故にグラディウスと呼称された空中戦艦、人造巨人ダロスを百体も収載する巨大無人空中戦艦がその切っ先をこちらに向けて人造巨人ダロス共を地上に投下して行く。

 ザラシュストラはその情景を睨みながら脳裏へ呼びかける。

ミラト、見えているか?

“ええ…エティア(全能視覚)で捉えているわ”

ザラシュストラの脳裏に響く女性の甲高い声。


オメテオル共和帝国のオメガ兵団の要員達は、ゾリュー(精神共鳴)と呼ばれるテレパシーのような力で互いに通信が出来る。


どの位でグルファクシは到着する?

 とザラシュストラはゾリューに応えたミラトと呼ぶ女性に尋ね。

“まだ、一時間は掛かるわ。先発で行かせた火力重視のロードギアスとゼロスでなんとか持ち堪えて”

 ザラシュストラは、ロードギアスの力であるブリューナク(破光砲台)と、ゼロスのエウリュトス(無限掃射)による応戦を計算した結果、十数分という時間しか持たない最悪な結果をはじき出し、眉間にシワを寄せ。

無理そうだ。グラディウスをドッラークレス(超龍)で破壊する

“…判った。ねえ、ザラシュストラ。チャンとフィーティア陛下には後でフォローをして置くから”

 ミラトの悲哀が篭った声に。

「ありがとう…」

 と呟きザラシュストラは腰を落として、フィアを背中から降ろした。

「え、どうしたのザラ兄?」

 突然に降ろされたフィアは戸惑うと、ザラシュストラがフィアの金髪を優しくなでて微笑し。

「フィア。ごめんな、今まで隠し事をしていたんだ。でも…」

「はあ?」と、フィアは全く理解できず首を傾げた。

 ザラシュストラは反転し、着実な足取りでグラディウスに向う。そして、ゆっくりと息を吸い軽く吐いて全身の力を抜くと、オッドアイの双眸が青き光を放つと同時に全身の末端から夜より深い漆黒の闇が広がり、全身を覆い尽した。

 ザラシュストラの全身は黒い人型に変わり、その全身から突起物のような棘が歪に生えながら巨大化を始め、やがて、それは全身を漆黒の鱗に覆い、肉食獣の獰猛な牙を持つ顎に般若のような兜の頭部と、両手両足に鋭い鍵爪を持った巨大な十メータの漆黒獣人、レイコス(真正の証明)へ変貌した。

 レイコス(真正の証明)化したザラシュストラが、足元にいるフィアにその青い炎の様に瞬く眼光を向けると、フィアは恐怖で体を萎縮させた。

 レイコスのザラシュストラは視線を外し…

クソ、やはり永遠に秘密で有りたかったと、悲しみが全身を埋め尽くす。

「ロードギアス、ゼロス。フィアを頼む」

 レイコスからザラシュストラの声が発した次に、その漆黒の巨獣人は地上を震わせ降下したダロスの軍勢に向い爆走する。


 グラディウスから降り立った人造巨人ダロス達は、向かって来るレイコスへ一斉に背中に背負う巨斧を構えた。

 爆走するレイコスは、獲物を狩る野獣が牙を研ぐように両手の鋭い鉤爪の指先達をすり合わせる。

 ダロスの軍勢と、三十メータもあるダロスの身丈の三分の一程度の漆黒の巨獣人レイコスが交戦状態に突入。

ダロスの軍勢が一斉に振り下ろす巨斧の雨の下にレイコスが入ってしまうが、レイコスの漆黒の鱗に衝突した瞬間、金属の砕けるイミリ音が発しダロスの巨斧が破断した。

武器を失い次の行動へと動きが鈍るダロス達、その隙をレイコスは逃さない。

レイコスは、剣のように鋭く釣り針のように曲がった鉤爪の指先にて、嵐の如くダロス達の胴体を五等分に切断した。

怒涛にダロス五体を切断したレイコスに、他のダロス達は距離を置こうと後退を始める。だが、レイコスはその距離を許さない。

素早く間を縮め、鉤爪の指先でダロス達を紙切れのように切り裂く。

百体という数で圧倒的に有利だったダロス達が、一方的過ぎるレイコスの攻めに飲み込まれ烏合の衆と成り果てる。

レイコスは優位にダロス達を倒しながら、ダロス達の空中母艦グラディウスの真下に到着し、その肉食獣の顎の口から世界を圧殺するかのような衝撃波と重音の咆哮が轟いた。

ゴオオオオ!

レイコスの全身が光に変貌し、夜の深緑を真昼の世界に変えた次に、光の化身と化したレイコスを中心として漆黒の円環が構築された次に、漆黒の円環から漆黒の歪な結晶が噴出し閃光のレイコスを飲み込みながら、巨大な存在が創造する。


天を飲み込むのではないかと、思われる程に巨大な龍の頭、山脈のように巨大で地平線全ての大地を剥ぎ取る事が出来る鋭い爪の龍腕、大地を喰らい尽くしてしまうような巨脚の両端には、青い炎の光沢を持つ鋭い刃のような翼を伸ばした絶大な漆黒の龍、ドッラークレス(超龍)である。

我、在りとそれは告げている。

我、ここに世界より異端せしと誇示している。

まさにそれは生命と定義するには難解である。


千メータもある筈のグラディウスが雲を突き抜けた三千メータのドッラークレス(超龍)の前では、その龍腕と同じサイズに変貌する。

ドッラークレス(超龍)は、ゆっくりと優雅にその山脈のような右の龍腕を振り上げ、グラディウスに振り下ろす。巨大過ぎる龍腕に周辺のありとあらゆる大気が圧倒過ぎる暴力に屈指、龍腕に巻き付く暴風となった。

そして、ドッラークレスの圧倒過ぎる鉄拳に、木の棒が折れるようにグラディウスを粉砕し、その破片は龍腕に纏わり付く暴風により煙の如く砕け散った。


ドッラークレス(超龍)の圧勝に終わった戦場に夜の闇が白み、朝日が照らす深緑の林野に、青く染まり始める空を全て飲み込む巨大な漆黒のドッラークレス(超龍)は、静かにその有り余る存在感を誇示する。

やがて、ドッラークレス(超龍)の超巨躯が末端から細かな破片と化して、天を覆う漆黒の雲海に変わり、天蓋の雲海からフィアのいる場所に一筋の螺旋雲が降り立ち、フィアの正面で雲海の全てが集約され人型に凝縮し、ザラシュストラへ縮小した。

「フィア…」

とザラシュストラが呼び掛けるとフィアは肩を大きく震わし。

「ダークネス・ドラグラー(魔龍帝)…覇王ヴィルヘルム…」

フィアは怯えながらその名を口ずさむ。

ザラシュストラは苦悶の表情を露にするも。

「大丈夫かフィア…」と右手を伸ばすが、フィアはその手に怯える子供のように体を丸め拒否した。

ザラシュストラは伸ばした右手を握り締め。

「ごめんなフィア。俺、お前を、その…怖がらせるつもりはなかったんだ…」

と目に涙が浮かび、今にも泣き出しそうになりながらもフィアに語り掛けた。

クソ…と、ザラシュストラは歯軋りをする上空に、細身のレイピアのように鋭い切っ先を備えた二百メータ前後の空中戦艦が表れた。

空中戦艦の名はグルファクシ、オメガ兵団の移動要塞戦艦である。


グルファクシ艦内の中央、司令室である空間の巨大なドーム状の壁は、朝日が照らす外の情景を全面の壁に映し、噴水とクリスタルの円柱が等間隔に並ぶ、庭園のような造りにここが空中戦艦の艦内である事を忘れさせるには十分である。

その一角、床の金属と同じ質感の流線型の長椅子、水晶ベンチにザラシュストラは一人、手を組み座り俯いていた。魂が抜けたように静かで無機質に佇むザラシュストラの左側にある噴水の傍でフィアがとある女性から説明を受けていた。


フィアに説明をする女性はミラトである。小麦色の肌に赤味が掛かったショートの髪と流れるような柳眉の眉を持つスッキリとした美人の小顔、黒を基調したビジネスウーマンのスーツに身を包む様は、やり手の女性経営者の様相である。

ザラシュストラは、横目でフィアとミラトのやり取りを見詰める。その内容は、フィアが今、現段階でどのような状態にあるか、という説明である。勿論、その説明のザラシュストラが参加すべきであるが…その説明の一切をミラトに任せた。その理由が…。フィアと視線が交差すると、フィアの表情が強張り、ザラシュストラから目を背ける行動はザラシュストラに対する恐怖である。

「ザラ兄」と慕っていたフィアの変貌。

ザラシュストラは立ち上がり、静かに背を向けて歩き出すと、正面に白黒の縞模様の金属翼を背負う少女が降り立った。

少女の足が床に付くと、縞模様の金属翼が砕け、空間に溶けてしまい、背後から手乗り程の青い水晶が現れ、少女の右手に触れると、水晶を核として少女の右手に漆黒の金属帯が巻き付き、水晶の装飾が施された手甲に変化した。

降り立つ少女の服は青色を基調とした制服、金髪の三つ編み結びの長髪と太陽のような快活で清らかな微笑を輝かす光明の美少女は

「どうかしたんですか?」

 と、ザラシュストラの腕へ猫がじゃれるように躊躇無く抱き付く。


少女の名はサツキ。サツキと双子の妹であるイツキの二人は、オメガ兵団の同士が交信で使うゾリュー(精神共鳴)という能力の大本である。オメガ兵団の全員はサツキとイツキの精神接続と中継によりゾリューを使える。つまりこの双子が、ゾリューその物であり、この能力は電波傍受やそれ以外の機器の通信にも優れているので双子はオメガ兵団の通信士である。

オメガ兵団は、ロードギアス、ゼロス、ミラト、サツキ、イツキの五人の他に四人おり、総員九名で構成され、その九名は、エ・フォネスト・ドッラークレス・レイコス(是の異端する超龍の真正の証明)の力を継承したザラシュストラと契約をしている為その力が流れ込み超人的な能力を有している。ロードギアスのブリューナク(破光砲台)、ゼロスのエウリュトス(無限掃射)、ミラトのエティア(全能視覚)、サツキとイツキのゾリュー(精神共鳴)等は全てエ・フォネスト・ドッラークレス・レイコスの契約による力の賜物である。


 ザラシュストラは、右手で頭を掻きながら。

「いや、その…部屋に行って休もうかなって」

「ウソ、ですよね」

 右腕に抱き付くサツキの口調に哀愁が混じる。

しまった! サツキだけは俺に密着するとゾリュー(精神共鳴)の力が増幅されて、俺の思考を読んでしまうとザラシュストラは、ハッとしてサツキの顔を覗く…。

「辛いですよね…。自分の大切な人に知られたくない部分を知られるのは…」

 とサツキは気遣うように優しく語り掛ける。

 フィアに北方を支配する覇王ヴィルヘルムである事実を知られてしまった事に心が凍て付く程の凍風に晒され、悲哀に暮れているザラシュストラの状態をサツキは察して、労わる言葉を掛けるも、それが逆効果となり、知られた事実を再来させ、更にザラシュストラの奥底へ悲しみの暴雪が吹き荒れる。

「ご、ごめんなさい!」

 とサツキは、素早くザラシュストラの右腕から離れる。ザラシュストラの心の悲しみという雪原が自分の所為で大きくなった事にサツキは離れ。

「ああ…。本当にごめんなさい。私、決してザラシュストラを悲しくさせる積りなんて無くて、その…ごめんなさい」

 快活だったサツキの笑顔が一変して曇り、目には涙が悲しみの雨に変わる寸前に、ザラシュストラは、今にも落ちそうなサツキの涙を右手で優しく拭い頭を左腕で抱き締め。

「サツキは悪くない。俺の事を気遣ってくれたんだ。だから、泣かないでくれ。サツキまで泣かれると俺、どうしようもなくなる」

 サツキは顔を上げ、「はい…」と、自分の頭二つ高いザラシュストラの顔に笑顔を見せてくれた。

 その明るく太陽のように快活なサツキの笑顔にザラシュストラの悲しみの霜が穏やかに溶かされ心が温かくなった。


「そんな!」

 フィアの悲痛な叫びが庭園型司令室に響く。

 ザラシュストラは後ろを振り向くと、フィアとミラトの正面に大型の空中立体画面が浮かぶ。

その画面にちぢれた黒い長髪に口ひげを生やし、鋭い鷲のような眼光に、黒いスーツと同じ色の外套を羽織る三十代の男性が映っていた。

 ザラシュストラは映る男性に「トオベイ」とその人物の名前を告げた。

「どうした」

 ザラシュストラは、フィアとミラトの傍に来る。

 オメガ兵団の一人であるトオベイは、眉間にシワを寄せた顔で。

「ザラシュストラ、マズイ事になった。ガルヘント各地の貴族達の一部に反乱へ同調する者が現れ、各地で散発的に戦闘が起こっている」

「な、なんだって!」

ザラシュストラは声を張り上げる。

「最悪ね。各地で叛乱は起こる。私のエティアの視る力を妨害され首都のアルカディアの様子は視認できない。ホンと最悪…」

 と、ミラトは皮肉な表情をザラシュストラに向ける。

 ザラシュストラはミラトの(私のエティアの視る力を妨害され首都のアルカディアの様子は視認できない)という発言に驚愕する傍で。

「ミラト…」と頭上から女性が降臨する。

女性は腰まで伸びた清流のように清らかな黒髪に、目尻が下がった穏やかな瞳と白磁器のような肌の麗人は、深めの青を基調とした制服に身を包んでいた。

麗人の名はサラサ、オメガ兵団の一人である。ミラトの頭上には、頭部と同じ大きさの青い水晶の周りにアンテナのように広がる黒い鉄の翼を展開した。アルマデルの力を最大に発揮した形態で現れる。

 サラサが床に足を付けると、アルマデルの黒い鉄の翼が末端から砕け、空間に溶けて消えると青い水晶は上下から金糸に変わり、サラサの体に溶けてしまった。

サラサは、胸に掛かっている清流の黒髪を右手で後ろに流し。

「ダメ、ミラトと同じ。アルマデル(神格聴力)を最大にしても首都のアルカディアから声が全く聞こえないわ」

 ミラトは「そう…」と、やっぱりね…と納得した顔をザラシュストラに向ける。

 ザラシュストラは、絶句する。自分がオメガ兵団を結成して二年しか経っていないが、オメガ兵団の能力を阻害する存在に出会ってはいない。まさに未知の敵である。

 ザラシュストラは右手をアゴに置き…。

どう対処する? 敵はミラトとサラサの能力を妨害しているという事は…こちらの能力を大方把握している可能性がある。どうする?

 悩むザラシュストラの左に新たな立体画面が現れた。

 画面には、艶やかなピンクパール色の流れる髪に黄金比を体現したかのような麗人相と、白を基調とした花のように広がる豪華なドレスが、その下にある豊かな胸部とメリハリのハッキリしクビレと臀部を隠しきれず、艶やかで扇動的であるにも関らずまるで女神のような神聖な雰囲気を醸し出す女性が映る。

 女神のような女性の名はアルテナ・ルシエド。オメテオル共和帝国行政機関、評議会のトップである政統制長官である。

「ご機嫌よ。フィーティア陛下。半年前の結婚式以来ですね」

 とアルテナは脳に響くような美声を放つ。

「ザラシュストラ…」

 とアルテナの呼びかけに、ザラシュストラは視線を合わせ。

「アルテナ…。諸外国の状況は?」

「あまり、良くないわ。特に、南方大陸のメリアス衆合国が独断で事態の収束に乗り出そうと準備を整えている。こういう行動を起こす時はもっと私や仲間の皆に相談して」

「小言は後でタップリ聞く。で、支援は? グラディウス艦隊やオメテオル軍が動くのか?」

「…評議会が承認すれば、グラディウス艦隊及びオメテオル軍がガルヘント王政府に向けて援軍を送れるわ。でもリリア大統制長官や評議会の一部は、今回のガルヘント叛乱は(フィアの王座即位が正しくない)とする国内の浄化作用であると判断している」

 ザラシュストラは顔を苛立ちに顰め。

「ああ? まだ、フィアの兄達が互いに謀殺し合った事に疑惑があるのか」


 フィアの上には三人の王位候補であった兄達がいた。フィアはその一番下であるという事と母が市井の出だった為に王位継承戦争とは無関係だったが、兄達三人の側近達が、互いに暗殺を企て殺し合ってしまったので、無関係だったフィアが一気に王位候補となり、前王はその事実の心労により亡くなり、フィアが十六という若さでガルヘント王になったのだ。


 ミラトは鋭い懐疑的な視線で右手を上げ

「ザラシュストラ、どんなに事実を公開しても、人はそれを疑う。今だに、全ては現王フィーティア陛下が前王や兄達を暗殺したと思っている人は多いのよ」

 ドンと、ザラシュストラは左にあるクリスタルの柱を左手で殴り

「ふざけるな! フィアが王になり尽力して、険悪だったガルヘント軍と教会の関係を改善させ。国政だって国民の立場に立った政策をやっているんだぞ」

 ミラトは呆れるように肩を竦め

「ええ、ガルヘント大将軍の娘である武王妃ルフィリア、ガルヘント教会の大司祭の娘である聖君王妃レミセルアを妻に迎えているのだから当然よ」

「ミラト…」

 ザラシュストラは怒りに満ちた視線をミラトに向ける。

 ミラトは涼しい顔をして

「ザラシュストラ。確かにフィーティア陛下は王としての能力は高い。でも、それでも、国は上手く動かない。それを今回の貴方ように(助けたい)だけで動いても事態を余計に混乱する。そして、私達が、北方のオメテオル共和帝国が力を貸せば内政干渉として、国内外からフィアに非難が集中する。そうよねアルテナ」

 アルテナは頷き

「ええ…ミラトの言う通りよ」

「じゃあ、このまま黙殺しろってか!」

 ザラシュストラは語尾を荒げる。

「ザラシュストラ…」とアルテナが静かであるが威圧が篭り

「アナタは、覇王ヴィルヘルム、北方の超国家オメテオル共和帝国の支配者であり守りの要よ…。自分の立場を忘れないで、アナタ行動一つ一つがオメテオルの明日を決めるの」

 ザラシュストラは顔を怒りで歪め

「国、国ってふざけるな! 誰かを助けたい気持ちは間違いか?」

「もう、良いよザラ兄」

 唐突にフィアが静かに口を開いた。

「僕に王様なんて初めから無理だったんだ。だから、僕をアルカディアの傍で降ろして、 投降するよ。そうすれば、事態が直ぐに収まるから」

「フィーティア陛下…自らの死により事態を収束させるのですか?」

 ミラトの鋭い言葉にフィアは痛ましい微笑みをして

「別に僕が死んでも代わりの王様は直ぐに即位します。それに、こうすればカグヤ、ルフィリア、レミセルア、レイランの人質としての価値が無くなり、直ぐに解放されます。彼女達四人さえ無事になるなら僕の命なんて安いモノです」

 フィアの言葉に、まるで深海の底にいるような重圧な雰囲気が全体を包み込んだ。

 重い沈黙が続く中で、ザラシュストラは青い右眼と黒い左眼の眼光を光らせ。

「フィア…」

 とザラシュストラは、フィアの左肩に右手を置きゆっくりと左側にいる自分の方に顔を向かせる。

「歯を食い縛れ!」

 とザラシュストラは左の鉄拳をフィアの頬にブチ込む。

「がああああ!」

 フィアは軽く一メータも吹き飛ばされた。

「ふざけるな!」

ザラシュストラの罵声を荒げ、倒れたフィアの正面に仁王立ちし。

「お前、本気でそんな事を言っているのか? そうなら俺は絶対に許さん!」

 フィアは殴られた左頬を摩り。

「で、でもこれしか」

「バカか!」とザラシュストラは遮り

「自分が殺されれば全て済むだと、俺やカグヤの気持ちはどうする? お前はそれでもいいかもしれないが、俺やカグヤに深く一生治らない傷をつけるんだぞ。俺は弟のお前を助ける事が出来なかったとずっと死ぬまでな! カグヤは悲しみの余りお前の後を絶対に追って死ぬぞ! フィア、立て!」

 ザラシュストラは、右手でフィアの襟を掴み片手で持ち上げ立たせると。

「足掻いてみろよ。苦しいかもしれない。でも、お前は一人じゃない! お前の後ろには俺やカグヤに、お前を大切に思う人がいるだろう?」

 ザラシュストラは左手を握り上げ親指を自分の方に向け。

「国家とか覇王ヴィルヘルムなんて俺には関係ない! 俺は俺個人でお前を助ける。大船に乗った気でいろ! なせ、俺は世界を震撼させたあのダークネス・ドラグラー(魔龍帝)だからな!」

「ザラ兄…」

 フィアの瞳から大粒の涙が零れ出し

「うん、判った。頼むよザラ兄」

「あああ! 任せろ」

 ザラシュストラは微笑みながら大きく頷いた後、後ろにいるミラト達の方を向き。

「という事だ。本国の協力は、いらん。俺の力があれば十分だ」

「はあ…」

 ミラトは眉間を押さえ。

「なんでこれ程バカなんだろう? ホンと疲れる…」

 と呆れるミラトの傍にアルテナの立体映像が位置し。

「やっぱり、こうなったわね」

 と微笑むアルテナの様子に、ミラトが呆れた顔を向け。

「アルテナ、こうなる事を判っていたのね」

「ええ…。年端も行かない頃からの付き合いだもの。まあ、事態が終わった後のガルヘントの復興支援に関する準備だけは手配して置くわ。じゃあ…」

 アルテナの立体画面が消える。

 ミラトが、意気揚々とするザラシュストラとフィアに近づき。

「で、ザラシュストラ、どうするの? グラディウス艦隊やオメテオル軍が派遣できない。国内の叛乱を押さえるにはガルヘントの自国の軍で対処するしかないわよ」

 フィアはき然とした態度で。

「大将軍の所へ。軍で、まず各地に起こった叛乱を抑えます。僕が生きていれば彼女達も無事な筈です。まずは国内の混乱を抑える事を優先します」

 トオベイの立体画面がフィアの正面に位置し。

「なら、俺も叛乱の制圧に参加しよう。その旨の連絡を宜しく頼む」

 ミラトは如何わしい視線をトオベイに向け。

「へえ…サービスが良いのねトオベイ。それとも戦士の血が騒ぐのかしら?」

 トオベイは皮肉な笑み浮かべ。

「俺の契約は『ザラシュストラの剣である事』だ。ザラシュストラがガルヘント王に助力をするなら、剣である俺はそれに従う。それ以上以下に意味等は一切無い」

 とトオベイが告げた後に立体画像は消えた。

「ハアアア」とミラトが深い溜め息を吐いた。

「ミラト、無理に協力する必要は無いぞ」

 ザラシュストラは淡々と告げる。

「私の契約は『ザラシュストラに人々が見ている存在を見せる事』よ。拒否なんて出来る訳無いでしょう…。サラサ」

 とミラトはサラサに呼びかけると、サラサは頷き。

「私も付き合うわ。私の契約は『ザラシュストラに人々が聞いている存在を聞かせる事』

だからね」

 サラサは優しく微笑んだ。

 サラサの頭上へ先程あったアルマデルの最大展開が現れ、身は浮かび上がった。

 呆れたように肩を竦めたミラトの胸部の正面に、頭と同じサイズの青い水晶が現れ、ミラトはその水晶を両手で挟み抱えると、ミラトの両肩の側面に白黒縞模様の金属の翼が展開し、ミラトの身がサラサと同じように浮かび上がった。

 ミラトとサラサがドーム状の中空に静止すると、庭園のような艦内は、一瞬で立体画面に大量の情報が表示され飛び交う忙しない場景となった。

 ザラシュストラは中空にいるミラトとサラサへ。

「すまない。ありがとう」

 感謝の言葉を送ると、ミラトが横目で凝視して。

「次は、もっと考えて行動してよね」

 ミラトの苦言に、ザラシュストラは苦笑した。


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