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注連縄と村

「ママあれ」


 移動に飽きて空を見ていた心愛が由香里の手をひっぱった。空って言っても、木が邪魔であんまり見えないのだが。

 白い紙が揺れている。


「注連縄?」 


 由香里の目線よりか少し上の高さにそれがあった。

 さらに上を見上げれば、木と木を長い注連縄でつないでいる。


「これは門ってことでいいのかな」


 簡素な鳥居に見えなくも無い。

 結界と呼ばれる物の境目。


 きゅいと何かが可愛らしく鳴く。そちらに目を向けてみると。


 一対の白磁のミニ狐の置物だ。 

 これ、絶対いじったら駄目なものだ。が、片方倒れている。


「なんだぁ」


 アレックスが不安定な木の根もとに置かれているもう片方の置物をつついた。


「倒しちゃだめだ!さわるな!」


 若様が慌てて忠告する。


「これでいいの?」


 心愛が倒れている白狐の置物を元の位置に戻した。


 途端、うっすらかかっていた霧が嘘のように晴れた。


 眼前に現れたのはたくさんのミニ祠とそれを守る白い狐の置物。百近くあるんじゃなかろうか。道を作るようにして両端に別れている。その道幅、馬車がやっと通れるほど。


「アレックス絶対、祠に馬車をぶつけないで、ゆっくり進むんだよ。若様はうっかり倒しちゃった物があったら治して」


「ああ」


 ルードの指示に短く答えた若様は、残り少ないドライフルーツを数個供えた。


「この木や石の箱と狐の置物がなんだって言うんだ?」

「土着の神の類いのようです。聖域のようですが、メーナ様は大丈夫ですか?」


 《あの縄を越えたときちょっとだけふらっときたけれど大丈夫》


 全員が、注連縄を潜り抜けた直後、お供えものをいたちっぽいものがすばやく持っていく。

 あのいたちが鳴いてくれなければ、草と木の影に隠れて気づかなかったかもしれない。


「この先にいるのは神様だったらいいけれど」


 万が一、魔王がいて、いきなりラストステージに放り込まれたらどうしたらいいんだろう。


 ■


 祠の道を抜けるとそこには、村があった。

 桃の花に、チューリップ、薔薇。プチひまわりに似た菊。桔梗のような紫の花。他にも色彩豊かな高山植物が生え、鮮やかな緑の蔦が砂色の壁を彩る。まるで桃源郷だ。


 村人たちは一瞬親しみをこめた顔を向けていたが、即座に険しい表情になる。


「いつもの……」

「違う……。まずくねえか」


 ばりばり警戒しているわけではないが、一人が駆け出して行った。自警団とかに連絡を入れに行くつもりなのだろうか?


 いたちがちょろっと由香里たちの足元をすり抜け、一人の少年の肩に乗る。


「やあ、僕は綱由。君たちは?いつもの隊商の人たちじゃないようだけれど?」


 その声と同時に人垣からもう一人、男が現れた。

 息を飲む。目を引く美形だ。


「あ。魔王」


 由香里は思わず、ぽつりと呟いてしまった。すぐ横の若様が肩を叩いて注意するが、他には誰にも聞かれていなかったようだ。なんというか、雰囲気が最近の少女小説に出てくる溺愛系魔王様みたいな濡れ羽色の長い髪と赤い目の青年だったから。別に耳がとがっていたりとか、角が生えているわけでは無い。


「遠いところから良くいらっしゃいました。お疲れでしょう。我が家は狭くてお招きできないが、あちらの明月楼で休むといい。あいにく宿の主が不在で、貂姫に手配を・・・」


 この村の村長にしてはいささか若いように見える。青年が指差した先には、この村で一番立派そうな建物だった。他の建物は木造の小屋がぽつぽつ並んでいるだけだ。

 彼が手を叩いて告げる。

 


「みな、客人だ。」


 彼の一言で場の空気はほどけた。


 水と果汁を手渡され、一気に飲み干す。おいっしー。

 森の中を当てどなくさ迷った日々は精神的にきつかった。

 もしかしたら一生森から出られないのではという焦燥が積もっていたのだ。

 『人』にジュースを振る舞われたこと、それだけで安堵が押し寄せる。


 楽器や歌がそこかしこから聞こえ、人が踊り出す。歓迎の舞ってことのようだ。


「宗教上ダメな食べ物や苦手な食べ物はありますか」


 綱由と名乗った少年が訪ねる。


「犬猫、虫はダメです」

「あとコウモリと鼠も」

「ピータンはちょっと」


 ここで「なんでもいいです」なんてふわふわな答え方をしてはいけない。

 きっちり断っていないと、たまに完全にアウトなものが出て来ることになる。隊商宿でフィーリングでメニューを選んで、失敗したことは何度かある。

 蛙とトカゲは諦めたが...


 広場の阿屋に案内され、机に香ばしい香りを放つ料理が次々並べられる。

 手早く手を合わせ、由香里は娘と一緒に肉にかぶりつく。


「肉にはそちらのたれをつけてみてもおいしいですよ」


「ん??」

「えっ!? 味噌?」


 小鉢に添えられているのは味噌だった。

 野菜たっぷりトマトうどんが運ばれてくる。これはこれで美味しいし、羊肉料理にも慣れたが、味噌を使った他の料理も食べてみたい。

 こちらの世界の麺は『ラグマン』と呼ばれているがラーメンというよりもうどんに近い。


「あとでこれ、ちょっと分けていただけますか?」

「ええ。いくらでも」


 綱由がにこにこ応じてくれる。


「このピリ辛具合。豚汁にして食べたい!けれど。宿の厨房は借りても?」


 村では鶏が放し飼いにされているので卵はあるはずだ。馬車には魚粉と魚醤もある。川を越えてから夜はすこし冷えるようになった。ちょうど良いかもしない。


「もちろんお好きに使ってください。足りない食材がありましたら、僕か母の貂姫にお申し付けください。その代わり珍しい異国のお話と品をお願いします」


 珍しい話は日本の話をすればなんとかなるかもしれない。が、品物となると、何が珍しいのかいまいちわからない。後で他のメンバーに尋ねてみよう・・・。


「おねえさん、今晩一緒にちょっと家にお邪魔してもイイか?」


 アレックスが酒を継いでくれた女性をさっそく口説いている。


「おほほほ。夫も息子もおりましてよ」

「母さん!」


 はあ。


「ママこの蒸しパンおいしいよー」

「ご飯が先でしょ。あとお野菜も食べなさい」


 小籠包サイズの肉まんにはピラフが詰まっている。野菜スープに入れて汁を含ませるとおいしい。 

 元の世界ではよくラーメン屋でピリ辛餃子をラーメンに浸して食べていたな。

 うっかり家族三人ラーメン屋に行ったときのことを思い出してしまった。


 若様と目が合った。

 久々のまともな食事なのに、彼の手は止まってる。


「若様、肉まんつけるとおいしいですよ。揚げ餃子もおいしいわよ」


 一息つく間も無く、好奇心旺盛な子供たちが囲んでくる。


「ねえ。おじさんたちどこから来たの?ルーリーより遠いところ?」

「なんか珍しい話聞かせて?」

「何?この髪についているの?」


 内、悪ガキ一人が、うちの娘の髪飾りをひっぱった。


「ひゅっ」

「こら、女の子の髪引っ張っちゃダメでしょ?」


 と、由香里が注意すると同時に綱由が悪ガキに拳骨を落とした。

「すみません。弟が無礼を働いて・・・」

「いえいえ」


 綱由が膝をついて、心愛の頭を撫でる。


「良い品だったから、つい興味を引かれてしまったんでしょう。お嬢ちゃん、ごめんね。お名前聞かせてもらっていい?」

「ここあ」

「可愛らしい名だね」


 村人が、由香里たちを手厚くもてなしている中、黒髪、赤目の村長(仮)はいつの間にか人混みの中に消え、いたちも姿を消してしまった。そのことを気に留める者はいなかった。


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