二人の約束
召喚勇者グループとルードたちが合流して半月が経った。
馬車の上には卵抱えた鳥がいるということで行程はゆっくりなものだ。急いだところでこの森は簡単には抜け出せそうにない。
合流した当初、危惧された食料については、一応問題は解決した。この森に詳しい火の鳥が嫁に餌をせっせと運ぶついでに、大きな獲物の一部をルードたちに分けてくれる。 木の実・果物の場所まで案内してくれる。人間が食べられる 下手に乱暴な運転をすると頭をつつかれるが。
「この子人里まで案内してくれたらいいんですけれどね。もうそろそろなんとかしないと雪山遭難しちゃいます」
ルシラがため息をもらす。今日の気温は一段と寒い。もう10月の終わりだ。
「この霧の先に村があるはずなんだけれど」
ルードがユキとの感覚共有で手に入れた情報なのだが。
「霧の先ったって、入ったらぐるぐる回らされて、また同じところに戻ってくるだけだろう。何回霧のなかに突っ込んでったと思っているんだ」
《やっぱり鳥しか友達いないのよ》
むかっ。
そんな中、由香里は書き物に集中していた。
「何を書いているんですか?」
ルードは覗きこんで後悔した。
『状況確認。他の住民はどうなったか。 死亡→会社・役所・健保 手続き確認 葬式。 生きてたら→手術。入院。生命保険。健保に相談。入院中の手当て等。マンションへの連絡。火災保険忘れず。学校和馬のお父さんお母さん、実家。銀行。通帳。判子。』
健保というのは健康保険のことのようだ。
鬼気迫る顔でノートに書き込んでいた由香里さんがはっと顔をあげて、弱々しく微笑んだ。
「帰ったらやらないといけないこといっぱいあるから、ちょっと整理しているだけよ」
そして、ルードは険しい顔で由香里を・・・由香里の手帳を見つめている男に気づいてしまった。
◇
「なん……助けられない」
誰かのかすれた声でルードは目を覚ました。ああ、クラウスだ。
ふっかふっかのクッションのある馬車は女子供に譲っている。
さすがに全員が寝転がるスペースはない。それに絶対アレックスをに近づけるわけにはいかない。自然、馬車の前で見張ることになる。
アレックスのせいで女性陣の手洗いまで見張りにいかなければならないのはまことに申し訳ない。
あのノートをつらそうに見ている彼を思い出す。あの手帳が読めたのなら、もしかして彼も・・・転生者なのだろうか。
「好きなんですか?」
「まさか。年も十も離れている。それに彼女には夫がいた」
誰とも言っていないのに。今日の今日まで、てっきり若様はリズとお付き合いしているものとばかり思っていたのに。
まあ、子供がいるんだから、旦那もいてもおかしくない。彼女から断片的に聞いた話でははぐれてしまったようだが。
『夫がいた・・』?
遠く絶望が聞こえる気がする。なぜ、断定できる?なぜ・・・。まさかと彼の顔を見て・・・また後悔した。
「ごめんなさい」
「この世の終わりみたいな顔をしないでくれるか」
この世の終わりみたいな顔をしているのは若様だ。
「言うつもりは・・・」
「言ったところで・・・この姿で、あの世界に、俺の居場所はない。だからこの事は」
「言うつもりはありません」
村への道を発見したのは翌日だった。




