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出会い②メイン


「もう、一回確認するけれど、アレが勇者なの?」


ルードがこくりと頷くと、由香里は天を仰いだ。


「無いわー、マジないわー」


「まあ。馬車があるのは魅力的だな」


「いや、でも女なら牛だろうが襲いかかる犯罪者と一緒に旅するのはさすがに嫌よ」


「それなら大丈夫です。馬車の中に強力な護衛がいるので」


交渉役のルードがあわてて、補足説明を入れた。


「森を抜けられるかも怪しいのに子供を連れてひたすら徒歩でさ迷うのは勘弁ですね」

「子供の前に私のほうが潰れるだろうけれど」


 リズと由香里は、ちらりと馬車に目を向けた。


「いい馬車持っていますね」

「か弱い私らには、歩かせるとは……。あの王さんひどい!

自腹切って馬車を利用したり、ひたすら歩いたり、おかげで足まめだらけよ」


由香里たちは護衛の費用と相殺したとはいえ、らくだ馬車に乗る分や子供同行で日程が遅れる分の損害補填をし(ここらへんは仲良くても商人、シビアだった)、砂に埋もれたり、切り立った細い崖などの足場の悪いところは問答無用で歩かされた。らくだ馬車と言ってもリアカーのような簡単な荷台だったが。


「まあ、あちらの勇者一行の方が強そうなのですから、お金かけるならあちらでしょ。

 クラウス様を実家に頭下げれば、馬車ぐらい手に入れられたかもしれませんが」

「ちょっと乗り心地確認させてもらっていい?」


「どうぞ」


 由香里たちが馬車の中を見聞すると、ふかふかのクッションの中で妙齢の女性(メーナ王女)が手を振っていた。


「ああ、どうも」

「ずいぶん華奢な女性ですね。このかたが護衛ですか。本当にあの勇者(獣)を倒せるんですか?」

《わたくしはメーナ。彼を...に誘うなんて簡単。耳元で囁くだけ。よろしくね》


 その女性の声は狭い車内によく響いた。一ヶ所だけ聞き取りづらかったが。


「まだちょっと考え中ですが...乗り心地はどうですか?」


《かた落ちとはいえ、王室御用達の馬車です。それに最上級の毛布にクッションも完備されています。》


 二つ目の勇者パーティ。これがオンラインゲームなら、他のパーティに遭遇は有りうるだろうが、彼らと旅して大丈夫だろうか。


「ちょっと話し合わせてもらえないか?」


「ええ、どうぞどうぞ」


赤毛勇者グループとは少し距離を取って、できる限りこそこそ話し合う。


「彼らは魔王討伐に向かうつもりなのよね?ついでに要注意人物が混じってるし。それにただの追い剥ぎの可能性も...」


由香里たちの目的はセリカに行くことであって、ルードのいうところの魔王討伐の『的』要員になるつもりはない。


「ですが、彼らの馬車にあったのは高級クッションでした。私が収集した勇者一行の情報(なまえ)とも一致します」


「勇者の名なんていくらでも語れるでしょう」


由香里としてはあんなのを勇者と認めたくない。が、馬車は王宮前でチラッとみた金ぴか馬車とよく似ている。


「名が広まる前に追い出されたそうですから、一般には魔法使いの名までは広まっていないはずです。それに、やはり子供連れで慣れない森を行くのは危険です。羅針盤もこの通りです」


リズの持つ羅針盤はさっきまで問題なく使えていたのにぐるぐる回っていた。


「えーと、磁場が狂っているとか」


「盗られるようなもんと言ったら、食料と女性、カ...宝飾品の類いだがどうみても、あっちの馬車の方が豪華だ。もし、彼らと共に行くなら、次の村なり町なりにたどり着いたところでさっさと別れてしまえばいい。リズ、二人を守れる自信はあるか?」


「旅に絶対などありませんが、ご命令とあらば女性の敵は全力で撲滅させていただきます」


「そうか。ここは公平に多数決で。彼らに同行するか?」


 リズは明確には守るとは言わなかったが、娘の方は間違いなく守ってくれるだろう。貞操の危機と馬車での安全快適な旅を天秤にかけて、『同行』に手を挙げた。


「お友だちたくさんのほうがいいよ」


娘も賛成に手をあげる。キャラバンのおじさんがたに可愛がってもらった心愛は、隊商と別れて寂しがっていた。

賛成3(女):反対1(男)で同行を決定した。


■◇


「その、(森を出る)目的は同じようですし、乗せていただくことはできませんか?」

「女子供に手を出さないならな」


クラウスが警戒を解かずにルードを睨み付ける。


「それはもちろん全力でお守りします」


 五歳児が興味深そうにカラスを見る。


「ばっちぃからカラス触っちゃダメよ」


 わりとひどい。


「よろしくね」


にっこり微笑む少女の髪にユキの照準は合っていた。ルードがヤバイとおもった瞬間。


「うっぇええーん!」


ユキは少女の髪を突っつきだした。


「こら、ユキ!」


ユキは彼女にくっついている虫を食べようとしていたのだ。動かないのでちょっと変わった髪飾りだと思っていたのだが、その髪飾りは飛んだ。ユキはそれを見事、空中キャッチ。くちばしに挟んだ。


「ヒスイたべられちゃったああ」


「こらユキ、さっさと吐き出しなさい。その子の大事なペットなんだから!」


渋々といった感じでくちばしを開けた。


「ほら、ヒスイどこも食べられていないわよ」


「ここあちゃんごめんね。ユキ二度とこの娘のペット食べたらダメだから!」


「うっあああんん」


「いい感じにアイスクリームができたぞ。とりあえずこれ食べて機嫌直せ」

「ひっくっ。若様のお膝がいい」


「いいぞ」

「ご迷惑でしょ?ママのお膝にしましょうね?」


「ママよりパパのほうがいいもん!」

「何いってるの」


由香里は娘が、クラウスのズボンにしがみつく姿を見て...

うっかり厳しく言ってしまったようだ。顔に苛立ちが出ていたのかもしれない。


「ココアちゃんが泣き止むならちょっとだけパパの代わりするよ」


クラウスはそういうと少女を膝の上にのせ、アイスクリームの最初の一匙をすくって食べさせた。


「これでゆっくり野宿も出来る。助かる」


「紹介が遅れて申し訳ありません。私はルシラ。巫女です。お願い致します」


黙って成り行きを見ていた巫女ルシラが自己紹介を済ませる。


冷たく甘いアイスは、心愛の機嫌を直した。由香里の苛立ちも、心愛の涙も引っ込めてくれる。それは押し込めただけで消えたわけではないけれど。


「ちっこい嬢ちゃん連れて...本当に嬢ちゃんも魔王退治に行くのか?」


勇者アレックスが心愛に声をかけた。一応、娘にはギラギラした目を向けていないようなので一安心できた。


「わたし? オーロラをなおしに来たの。」



《わたくしに一口くらいお供えしてくれてもいいんじゃない?》


馬車の中にいる女性は日光に弱いのだろうか。とりあえず挨拶がてら、若様、由香里、心愛、リズで馬車の中の女性にアイスを持っていく。


《改めまして、わたくしはメーナよ》


「ママそれ...」


「心愛、人様を指差しちゃダメでしょう。由香里です。よろしくお願い...」


娘をたしなめながら、メーナの手を握ろうとして、スカッとすり抜けてしまった。


《私はメーナ。幽霊王女のメーナよ。安心して。彼が夜にこの馬車に侵入して来たら死の言葉でイチコロだから》


「ふぎゃあああ!?」

 


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