ジェリーとの戦闘『魔法使い』
「よーし、逃げないでいてくれたな」
二頭立ての馬車は戦闘が終わるまでその場を動かずにちゃんと待ってくれていた。
〈カラスが住んでいる馬車ってどうなのよ。私の馬車に糞でも落とされたら〉
「しつけはしているよ。その子、僕の友達だから勝手にいじめないでね」
幽霊に追い回されたらかわいそうだ。
〈カラスがトモダチなんて、人間のトモダチいなかったのかしらね〉
「こいつ昔から、トモダチいないんですよ」
アレックスもまあ、予想通りの言葉が返って来た。
カラスは、視覚共有すれば、犬猫と違ってカラーで情報送ってくれるし、人間に見えないもの……幽霊とかも見れるんだけど。
強い霊なら魔術を使える者や神官なら薄らぼんやりと見えるらしいが、雑魚霊はさすがに見えない。
いたずらだろうがなんだろうが、取り憑かれれば、知らぬ間に気力・体力を削られかねない。
わりとはっきり見えていたゲーム時代が懐かしい。
少し余裕のある馬車があって本当によかった。
この世界の道具袋は、魔法の結集で、重量を半分減らして、体積も半分に減らしてくれる。サンタクロースの袋みたいに担いで戦闘するわけにはいかないので、薬草や武器の代えなど必要なぶんだけ道具袋に詰めて、戦利品のほとんどは幌馬車に詰め込む。勇者戦士系の人に運んでもらうにしても、邪魔である。
「馬車ひとつで、王族のわがままにしたがって命を張ってあげるんだから、カラスの一羽や二羽」
かすり傷が出来たので、塗り薬を取り出す。
「ちょっと、それを使うのは・・・自分で魔法をかけます」
「知らなきゃ使っていたでしょう」
「まあ」
◇
姫と巫女様がキャーキャーと甲高い悲鳴を上げる。
いや、モンスターよりもあんたらから受ける被害のほうがでかいから。
スライムが女ど……女性陣の悲鳴に怯えて逃げ腰だ。
そして、残念なことにスライム……じゃなかったゼリーはぐっちゃりと潰れて動かなくなった。
さらに甲高い悲鳴が上がる。
どうやら姫様と巫女様はぐにょぐにょ系には弱かったようだ。
この世界は倒したからって、きれいに掻き消えてくれない。ばっちり死体が残るし、ゲームのようにお金がわいて出てくるわけでもない。しっかり手袋を回収用の手袋に代えて、このスライムの遺骸を袋に詰め込む。毒のあるタイプはざっと見た限り混ざっていないから、全部一緒に詰め込んでいく。
「あー、しばらくゼリー食べる気にならないわ」
「それ、どうするのですの?」
姫と巫女様は抱き合ったまま、涙目でたずねる。
「売る」
「そ……そんなの誰が買うんですの!?」
「道具屋に行けば買い取ってくれる。加工されて、接着剤や塗り薬になる」
「塗り……」
私はさらに追い討ちをかける。
「保湿美容液になったり、甘みのあるおいしいお菓子になるんだっけ」
お姫様と聖女様にも心当たりがあったようで、顔をいっそうゆがめた。
この世界、原材料表示とか無いからな~。
〈形状が似ているだけで、別の……ものよ。別の物〉
お姫様はぶつぶつと呟く。
「それよりも、戦闘中悲鳴上げるだけ? 二人とも手が止まってましたよ。お姫様も生前は薔薇騎士団とやらに所属していたんでしょ?」
これじゃ、きゃんきゃん吠えるだけの子犬と大差ない。
「だって、……」
〈ねえ〉
ぽそぽそと言い訳する二人。
「スライムも倒したことがないぃ? ウサギもどきは?」
私はスライムは大丈夫だったが、ウサギのようなもふもふ系を攻撃するのがイヤだった。
〈ずっと騎士団の象徴で……実戦は……〉
「その、殺生は……。経験を積めば、倒せるようになります」
まあ、顔を青ざめさせて震える手でモーニングスターを握り締めてる聖女さんは仕方がないとしても、モンスター退治に一度も同行したことがないとは、何のための薔薇騎士団長なのか? お飾りアイドルか?
一瞬、引き返そうかと本気で悩んだが、もうすぐでオアシス(セーブポイント)があるはずだ。そこで、クエを消化する。
「分かった。あんたらしばらく後方で。私の側から離れないで。何もしないでも経験値は入るはずだから。」
「経験値?」
「えーと、戦闘を眺めているだけでも、戦いの心構え」
◇
小カザルのオアシスでは、農業が盛んで、ナツメヤシとぶどう、スイカなどの果物が育てられている。
それを狙ってモンスターが出てくるわけで。
〈私たちにあのぬるぬるを倒せと?〉
「まあ、聖女さんはわざわざ積極的に怪我したら、回復してくれるだけでいいから。解毒の魔法は使えるよね?」
「あの、ええ、何とか。三回に一回失敗しますが・・・」
おう、浄化魔法を使えると聞いていたから、当然使えるものと思っていたが、
「え? 全体回復魔法は全然ダメ?エリートじゃなかったの?」
ルシアは恥ずかしそうにこくりと頷く。新田ではすっごく片寄った教育を受けていたようだ。
「うーん。今後、戦闘には慣れてもらわないと」
アレックスが渋い顔をする。
そりゃ戦闘中悲鳴上げられてもね。
「第一段階。僕らが、今から百匹潰すから、ちゃんと見ていて」
「じゃあ、俺は巫女様のガード役に回ったほうがいいな」
戦闘を眺めているだけでも、ゲームと同じなら経験値が手に入るはずである。
「後方っつっても気を抜かないで! いきなり後ろから襲ってくる場合もあるから」
農場を走り回る大砂ネズミ(デザートラット)と、ゼリーを退治するのが今回の依頼だ。
植物がこんもり植わっているせいで案外見通しが悪い。大砂ネズミは猫よりか少し大きいサイズがあるが、すばしっこくて、噛まれると『遅効毒(感染)』がやっかいだ。数日でパーティーに蔓延してしまう。
このゲーム、『挟み撃ち』があったはずだ。戦力外でも十分監視役は勤められるはず。
もちろん他にも手は打つ。
「ユキ、お願い。メーナ姫はラットを一匹づつ確実に倒していって。なるべくラットには噛まれないように。噛まれた場合は即、解毒呪文を唱えて」
真っ白なカラスはばさばさと羽ばたくと私たちの周りを旋回し始めた。
カラスって人間の何倍も視力がいいのだ。
〈なに、あの魔法使い。感じ悪い〉
ぼそりと姫様が呟く。
「死ん……瀕死になったら、神殿まで戻らなきゃならないでしょ。ここは隊商宿だからいいものの、砂漠の真ん中で負傷者を出したら大変なことになる」
姫様の悪口を聞いてしまい、ゼリーをけしかけようかと一瞬本気で思ったが、幽霊には効果がない上、打ち漏らした魔物が巫女様にルシラが本当にレベル1だった場合、ゼリーやラットに瞬殺される可能性がある。
ステータスなんて分かりやすいものはない。が、あのゲームと同じ仕様なら、巫女さんは、私たちの戦闘を見ているだけで、経験値が入ってくるはずだ。幽霊に経験値が入るのかは知らないが。
ゲームなら、レベルアップの効果音が鳴ってくれるが、それもない。
「しばらくは鞭のほうが安全そうだ」
武器を剣から、鞭に切り替える、雷呪文で、ゼリーを一薙ぎ。ゼリー相手に魔法を使うなんてもったいないが、デザートゼリーは砂の色に擬態する。
「お嬢さんも、重い剣を持つより、こっちの方が楽だろ」
アレックスも剣から、一振りで大多数を倒せる鞭に装備を変えた。
魔法剣で横なぎにすることも出来るが、周りは森だ。延焼が怖い。
アレックスと厄介なラットを中心に潰して行った。
◇
戦闘が終わった。
「ラットは燃やすから」
「回収しないんですか?」
「今回はゼリーの回収もやめとこう。前の戦いで稼いだものが十分ある。
ラットとの戦闘に使った武器と服は煮沸消毒。一応毒消し草はのんどいて。ラットがばらまく病は本当に危ないから」
この世界には病原菌という概念がない。ペストにまで解毒魔法が効くかどうかは定かではない。
「たまに村が半壊する流行り病が広がるだろ。巫女ごと。原因はこれだと思う」
「ラットなんですか?」
〈これが、原因って本当?〉
王女が眉を寄せる。
砂嵐と共に砂漠の民を悩ませてきた病が、どこにでもいるラットが原因と言っても、根絶やしは無理だ。
それに、私の半端な知識では、解決は思い浮かばない。せいぜい触らない、売らないと言ったところだ。
水魔法で出した水を火魔法で沸騰させて、武器を包み、宿に帰ってから、速攻それぞれの服を消毒した。
その日の夜はモンスター退治をしたお礼にもらったスイカを皆で食べた。メーナ王女へのお供えも忘れない。
「でとりあえず、敵の数の少ないときは、打ちもらしはターンの最後に私が片付けるって方向でいい?」
「たーん?家に帰るんですか?」
「それぞれの行動の最後に薙ぎ払う。強い敵が出たときは積極的に集中攻撃するけれど」
勇者は頷く。幼馴染で、14になった頃から近所のスライムを倒していたのだから、ランクcくらいまでの敵は二人で瞬殺できる。チートと言う無かれ、ちゃんとバイトした結果だ。
「で、強くなった?」
私がポツリと尋ねる。50匹の敵をオーバーキルした頃には、女性たちの悲鳴は収まっていたから、ちょっとは戦闘に慣れたのだろうか?
〈えーっと、なんとなく?〉
「とりあえず、ゼリーを見ても悲鳴上げなくなりました」
そんなこんなで、予定よりずいぶんのんびりした旅程になった。
参考...オオスナネズミ




