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お姫様と巫女と馬

「同行の仲間はしばらく考えさせてください」


 いや、玉座の後ろのカーテンの際でこちらの方をちらちら伺っている女の子二人が見えるんだけれど。


「いえ、わたくしが同行いたしますわ」


 その二人とは違うちょっときつめの顔立ちの美女が胸を張って堂々と登場する。 

 宝石をふんだんに使った鎧を着ていて、ピンクがかった金髪縦ロールです。


「金髪ではなくて、ストロベリーブロンドよ!」


 心が読まれているようだ。 ついでに『すとろべりーぶろんど』とやらにこだわりがあるようだ。


「リルシェ・アミール公爵令嬢」

 

 あの赤い薔薇の紋章は薔薇騎士団の紋章だ。 勲章がじゃらじゃら付いているところを見ると、それなりの地位に見える。 


「クリスィナお姉さま、立派に勇者を魔王もろとも打ち滅ぼしましょう」 


 静謐とした黎明を思わせるラベンダー色の髪の王女「クリスティナ」様。

 第一王位継承者に魔王討伐のお鉢が回ってくるとは思えないが…… 


「俺は悪魔か」  


 まあ、流れ的にはあれだね。

 下手に武功を挙げたら、褒美に姫との婚約とかありそうだ。

 私が、姫と仲が良かったり慕っていたら、魔王倒した後、油断している勇者を暗殺するな。

 例えば、寝ているところを狙って。


 背中を押された女の子が、たたらを踏んで、転がり出てきた。 


 その女の子は、図書館で出会った少女だった。


 涙目、震えた声で、


「よ……よろし……」


 気を失いました。

 

 さすがに頭を打ち付けたら危ないと思ったようで、私が反応するよりも早く、アレックスが駆け寄って抱き抱えた。

 こういう時の反応速度は私には真似できない。


 そして、ふわふわ女の子はすぐに目を開けて、


「いやっぁあ! 神様お願いします。め……目の前の悪霊を炎の穴に返し……善良な心を……」


 悲鳴の直後、震えた声で、必死に『悪霊退散』的な言葉をぶつぶつ呟いていた。


 さすがのアレックスもあっけに取られてしまっている。

 格好良く女の子を救ったはずなのに、悪霊扱いだ。


 炎の穴というのは、砂漠の果てにあるとされる穴だ。

 噂では、精霊はそこから地上に湧き出しているらしい。


 地下の石油とか天然ガスのような物に引火した何かだと思うんだけれど、実際に見ていないので詳しくは分からない。


 ごほんと咳払いした。


「勇者たちよ。世界は君達の手にかかっている」


 私たちが咳をした人物である陛下に注目すると、陛下はそう宣言してその場を無理やり締めてしまった。



「助け舟出してやったのに、なんでここにいるんだよ」

「ぜんぜん助け舟になってないから! というか留め刺したよ!」


 友人の物言いに温厚な私もさすがに怒りが込み上げてきた。

 おかげで、ずるずるとアレックスについていく流れになったのだ。


 ちらりと背後の姫騎士と聖女を振り返る。


 今日図書館で会ったばかりのふわふわの女の子を放置して去るのは私には絶対無理。

 これが、アレックスの毒牙にかかるのは私の良心がえぐられる。

 案内係に連れられて、厩舎にたどり着く。


「えー、こちらがお譲りする軍馬です」


「えー、道産子?」


 紹介された軍馬は白くて結構ぷちサイズでした。

 確かに足はしっかり太いけれど、のんびり草を食んでいる姿はとても軍馬には見えなかった。


「ドサン・・・なんですか?」


「名前はドサンで良いわね」


 姫騎士様は早速、名前をつける。


「馬の種類だね。 僕は馬のことは詳しくないし、生息域がぜんぜん違う所だから、きっと違う種だよ。

 名前付けちゃったら売るとき別れづらくなるよ」


「売るつもりですの?」

「でも、やっぱり名前をつけたいです」


 王様から下賜された馬という理由以外に、普通の馬より小さめのその姿に愛着を持ったのだろうか。


「まあ、たぶん結構いい馬のようだから、ぎりぎりまで売らないつもりだけれど。

 じゃあ……ぷち子でいいと思う」


 普通の馬よりかちょっと小さめだから。


「プチコ? オアシスがいいと」

「えーっと、ティシュトリア?」


 『オアシス』は姫騎士様が、『ティシュ』何とかは巫女様が提案する。

 宗教用語か良く分からないが……


「ティッシュ? 舌を噛みそうだから却下かな」


「クリスティナちゃん!」


「「「却下!」」」


 アレックスの言葉に私と女の子二人が即答する。もう、息ぴったりに。

 馬に自国の王女様のお名前を付けるのは、ちょっと。

 大体、下心のような何かを感じるし。


 馬丁が他の”馬”たちも紹介する。


「この子ラバじゃないの?」


 姫騎士は眉を顰めた。まあ、ラバは安いから、お姫様の乗るイメージじゃないよな。


「さすがに全部、馬で揃えるのは難しいです。一応、後続のラバとラクダに荷物を持たせるとして」


 良いラバやラクダの見分け方など知らないけれど、最低限血を見て逃げない個体を選ぶ必要がある。すぐ暴れる馬もダメだ。

 私は、ナイフを取り出し、自分の指先を切る。


「な、何を?」


「ん? 使えそうなのを選抜しているんだよ」


 顔を背けず平気そうにしている数頭を選ぶ。  


 馬やラクダよりも女の子二人が真っ青で、今にも逃げ出しそうなのが気になるんだけれど。

 その横で馬は草をむしゃむしゃ食べている。 さすが軍馬。


 巫女様が私に近づいてきた。

 やっぱり女の子の手だ。柔らかくてすべすべだ。

 私も前世(むかし)はこんなすべすべの手だったのに、特別大事にはしていなかった。


 失って気づく大事さよ。

 

 ほんの少し、指先が光る。光に包まれたところはほんのり温かい。


「本当に『手当て』だけです。ちゃんと消毒してください」


「ありがとう」


 私が言うと、「いえ」とちょっと照れたように返され、こちらも自然に顔がゆるむ。


「まあ、馬はこの子でいいとして、馬車をどうするか」


出来れば、森の中や山まで連れて行きたいけれど、どうかなぁ?


 たしか、どっかの山を馬で山越えした人や象で行軍した人とか聞いたことあるから、案外山の中でも大丈夫なのかもしれない。


「ここら辺では雨の心配ないけれど、森や山は雨が降るかもしれない。

 屋根は取り外し可能で場所とらないように。

 もしくは馬車に入りきらなかった荷物を屋根に上げられるフックか台を取り付けてスペースの有効活用かな」


 頭を整理するため、手持ちの手帳に馬車に取り付けたい機能をつらつらと書き込む。

 アレックスがメモ帳を覗きこむ。


「日差しがきついのは嫌だが、屋根を取り付けると上空のモンスター(てき)に気づきにくくなるしな」


「確かに箱馬車だと上空の視界がさえぎられるし、通気性悪そう。

 一応、『ユキ』を飛ばす予定だけれど。 やっぱり『スダレ』でいいかな」


 スダレと言っても、ナツメヤシの枯れ葉を紐で繋いだ簡素なものだ。

 ナツメヤシはどこでも生えているから、材料も手に入りやすい。


「クッションとカーテンは最高級品を。馬具はすべて金で揃えなさい」


「クッションとカーテンは最高級……って」


 何も考えずに『カーテン最高級』とメモしたところで、手を止める。 金って。重い上に、砂賊の餌にしかならない。

 さっさとカーテンの文字を二重線を引いて消した。


「御者台の隅にでも金輪をつけてくれないかな。鉢を差し込めるような。 水は地面に流れて汚さないし、僕は余り馬車とか詳しくないから、無理ならアレックスに了解を得て」


 せいぜいラバにひかせる荷車しか使ったことがない。

 世話は、村で一件しかない宿が一括して行っている。


 メモを馬丁に渡す。


「アミール様のご要望は必ず」


 メモを受け取った馬丁は、姫騎士に向き直り敬礼した。


「私の要望を優先的に聞いてくれると嬉しいな。

 えー、アレックスは王都に残って、どんな馬車があるか見てくれる?

 ついでにちゃんと”お別れ”を済ませといて」


 アレックスの肩に手を置き、きっちり言い聞かせておく。


「痛いんだが?」

「痛くしているんだけれど?」

 

 握りつぶす勢いで、彼の肩に手を置いたまま、私は姫騎士と巫女様に顔を向けた。


「一回村に帰ってからの話になるから三日ほど待ってくれる?」


 トマトの売上やら、魔法書の代金やらを村に届けないといけない。

 なにより、師匠に問いたださないと腹の虫は納まらない。


「逃げるわけじゃないわよね?」


 姫騎士の言葉に私はため息を吐いた。


 本日中に帰りたかったのだが、もう日が沈みかけている。

 道が有って無い砂漠を夜に移動するなんて迷子になる。


「僕らは借り物の騾馬(ラバ)車で王都まで来ているの。早く帰らないと追加料金と他の村人にも迷惑がかかってしまうから。

 それより、君達のほうこそ逃げたほうが良くない?」


 隣のアレックスの方に視線を投げる。

 この二人ほか、姫騎士と巫女が全員断ってくれたら、王達も勇者を選定し直すだろう。


「俺はコブラか何かか?」


「もっと邪悪なものですわ」


同意。


アルプスの山を象で越えた人……カルタゴのハンニバル将軍。40頭ほどいたうちの3頭しか目的地までたどり着けなかったそうです。


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