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謁見テイク2

 昼は、都会の食事を楽しむ。といっても野菜のスープにパンの端切れが付いているだけという、日本の飽食に慣れている私にしたら、かなりしょぼいが。

 なんで王都のものはなんでもかんでも高いんだろう。


 使い魔の白いカラス『ユキ』は私の肩に留まり、スープにくちばしを突っ込もうとする。

「味濃いからスープはダメ」


予定では、アレックスが18の春に天啓が下るはずだ。でも、今はまだ、17の夏。

 勇者の出現が早いのも気になるし、聖女が十歳前後というのも気になる。


「天啓が下る前に、私を巻き込むか、巻き込まないか決めて貰おうと思って」


「はあ? 勇者は既に現れたんだろう? お前の予言ハズレまくりじゃないか」


 確かに私の知っているゲームの世界と少々筋書きが違う。

 このまま、”お約束”を回避できるかもしれない。


「託宣だか、天啓だかが下るはずなんだけど」

「田舎出身の俺が、勇者や国の騎士を押しのけて?」

「騎士団への推薦がもらえたんなら、それだけの実力があるってことだから」


 そんなことはどうでも良いんだけれど……


「推薦もぎ取らせたのお前だろ?」


 騎士団への入団試験に行かせたのは、今の幼馴染の実力を知りたかったからである。

 この世界には、分かりやすいステータス表示なんてものはないのだから。


「問題は、僕が君の魔王退治の旅に付いて行くかどうか」


 そもそもの前提さえなければ、私は死なないのだ。

 ゲームならいくら死んでも構わないが、本物の命をかけるのは真っ平ごめんだ。


 この魔王退治が、手段はどうあれ無事に終わったら(無視、逃亡含む)、魔法店でバイトしながら、小銭を稼いで、いつか自分の店を持って、一人寂しい老後に備えるんだ。


 ……すごく後ろ向きな夢なのは仕方が無い。


 が、私をここに生まれ変わらせた神は、私を運命から逃してくれなかったようだ。


 パンを行儀悪くかじっていた後ろに赤い騎士服を着た男が立っていた。

 赤獅子騎士団だ。


「アレックス・エルコレ、王城からだ。すぐ王城に出向くように」


「へっ。良く知っているな」


 立ち上がった彼は不敵な笑みを浮かべていた。


「ルードリッド・ハーデン。お前もだ」


「なんで、僕の名を? 宮廷魔術師の試験なんて受けてないんだけれど」


ちょっと固めのパンを野菜スープにつけて、かじりながら問うと、怖いおにーさんは私の腕を掴み、無理やり立ち上がらせた。

  そもそも募集していなかったのじゃないか。


「王命だ」


「仕方ない。でももったいないからご飯は最後まで食べさせてね」


「いや、王をお待たせするな」


 せめて、パンだけは……。

 引きずられながらも、ユキに命じて持ってこさせる。


 ちっ。高いスープを最後まで飲めなかったじゃないか。



 ゲームは、安全マージンを取るのが、普通だ。 

 ロープレなんか初期に薬草を一度買ったきりで、ほぼ最後までその薬草は残っているなんてことは珍しくなかった。


 『小遣いためろ! 目標○○○○万』『欲しがりません魔王に勝つまでは』と自分に言い聞かせて、ゼリー採りや魔法書の筆写のバイトでお金をケチケチ貯めていた。


 おかげで、ゲーム開始時は、ぺらぺらの服からのスタートであるが、勇者は17歳までの時点で、一通りの装備を揃えていた。


 赤絨毯が敷かれたその上にアレックスは片膝を付く。

 私は、一応スパッツのようなものを着ているが、やっぱりローブの中が見えるのが嫌なので、正座。

 副王は数段高い位置の玉座に座っている。


 まばらな……やる気の無い拍手がぱらぱらと聞こえる。


 それは、まあいい。先ほどから従者らしき人が持っている高価そうな寄木細工の箱の中身がちらちらみえているのだが……


「国は、いや世界は! 魔王の脅威に晒されている」


 いつ攻撃してくるか分からない魔王にお金をかけられない。

 わかる。それは分かるがーー


「討ち果たしてみせよ!」 


 高級そうな紫のビロードが敷かれた箱に木の棒が二本。

 国王も、世界の危機を救う勇者に木の棒を渡すなんて……ちっとは税金使え。


「 「討ち果たせるかー!」」


 私とアレックスがほぼ同時に突っ込みに、謁見の間はしーんと静まり返る。

 王様は力強く命じたその姿で固まる。


 ゲームの仕様なら、”そんなもん”と納得できようが……

 自前の装備のほうがずっとマシだ。


 アレックスにちらりと視線を走らすと、彼は『お前からどうぞ』という風に頷いた。


「で、なんで()なんですか?」


 投獄されても、よっぽどのことがない限り逃げ出せる自信はある。

 じゃあ、せめて理由を。

 だっておかしいもん。師匠の用事と農作物売り以外で王都に来たことないんだから。


「託宣じゃ」


 王の側近くに控えている文官が重々しく告げる。


「託宣が下ったのは、勇者ですよね」


「大魔道士リリアナ様の推薦だ」


 要らん推薦してくれるな。

 師匠に悪態をついていると箱を目の前に持ってきた従者が、箱に挟まれている紙切れを指差した。


『前金はありがたく月謝の返済に充てさせてもろた。けぇーけっけっ。 永遠の魔法()少女 リリアナ・ガーラ』


「けぇーけっけっ、ってわざわざ文字にする必要があるの? つうか、どこが魔法少女だよ」


 ちなみに、師匠はどう好意的に解釈をしても『おばあさん』より若くならない。

 いや、物語後半なぜか若返って再登場するけれど。……死んだ私の穴を埋める形で。


 私はがっくり肩を落とした。


 今なら師匠を撲殺しても、神様は許してくれるはず。


「木の棒と少量の金で、命賭けて来いというのはあんまりじゃないですか?」


 ゲーム時は、どんなしょぼい装備でも、疑問に思わなかったが、普通に考えておかしいだろう。

 遺族年金どころか危険手当もないのか!


「こ……これは、国民の血税で賄ったもので……。万年杉の枝で……ババアと召喚勇者が金とカウリーを根こそぎ強奪」


 後半が若干ぼそぼそ声を抑えているがおもいっきり聞こえているよ?


 ついでに言うと、ババアって師匠のことですよね?

 後で師匠にチクりますから、覚悟しておいてください。


「万年だろうと千年だろうと杉は杉でしょ?

 大体、勇者にはそれはそれは立派な『勇者の剣』とやらが渡されるのではないのですか?」


「そ……それは、召喚された勇者たちに与えた」


「では、私たちは用無しと言うことでよろしいでしょうか?

 うちの師匠が陛下がたから巻き上げたお金はお返ししますので。いくらですか?」


 ゼリー初めモンスターを倒して、稼いだ旅費が結構ある。

 金で命が買えるなら安いものだ。

 借金返済は後回しにして、お金を貯めていたのは、大したことも教えていないのに、師匠が年々月謝を釣り上げているせいだ。

 ここで一発借金完済してしまえば、わざわざ灼熱の砂漠と極寒の山脈を越えて、命を危険にさらしに行く必要は無くなる。


「いや、それは……神と悪魔リリアナの言葉だ!」


 悪魔って、そう呼ばれていたのは知っていたけれど。


 でも、それは答えじゃない。もう一度問う。


「いくらですか?」


「こ……国家予算だ!」


「国家予算って」


 副王様、すっごい汗かいていますけれど。

 それが本当なら、宝物庫はさぞかしすっきりしたことだろう。


「国家予算ってそんな曖昧な。実際の額を正確に」


「国家予算に相当する国宝をお渡ししました。値をつけられません」


 言いよどんでいる副王の代わりに控えている文官らしき男が補足する。が、私の怒りは納まらない。


「そもそも、魔王を四人ぽっきりで倒そうというのは、どういうつもりですか? 

 召喚された勇者とやらは? モンスター退治はそもそも軍の仕事ではないですか?」


 そうだ。


「魔の森深く、大人数で攻め入るのは難しかろう」


 かなり思い切った方法を取るのなら、森の木を伐採していけば、もっと言えば森を焼き払えばいいと思うのだが。その場合、隣接する村の生活に影響を及ぼしかねない。


 このまま言葉を重ねても、のらりくらりとかわされる。

 アレックスなら、会話にちょっとした爆弾を投げてくれるかもしれない。


 私が彼に視線を投げかけると、彼は待ってましたとばかりに頷いて……


「俺は、俺以外の男が一人でも混ざっている旅なんぞする気は無いぞ。

 噂の姫騎士一人に、巫女一人、超かわいい魔女っこを所望する! 

 あと、十代後半から三十前までの女はいくらでも追加してくれて構わない」


 こいつにしゃべらせたら、こうなるってなぜ分からなかった。数秒前の私。


 文官のこめかみがぴくぴく動いている。

 ああ、きっと私のこめかみにも青すじが立っているだろう。


「で、できる限り……き、ぼうは、検討、」


 文官さんの声が怒りで震えているよ。


というか「わが国の大事な姫騎士ををこんな危険生物に預ける気か?」と副王様他、すがるようなもしくは軽蔑するような目で訴えかけないで。


 師匠が、私を推薦した理由が分かった。

 勇者のストッパー役ってことですね。


「……はあ。馬車つけてください。馬車。防水性のしっかりした幌馬車で、馬は足が太くて戦闘になっても逃げない軍馬をセットで。あと騾馬とらくだも」 


 長い道のりを歩きで向かうなど、考えるだけで憂鬱だ。


ていくつーも完全アウトですね。

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