魔法使い
魔法使いの一人称。
13話目にして魔法使いやっと出てきた。
とても残念なお知らせです。生まれ変わってしまいました。男に。
生前にプレイしたゲームのキャラクターになってしまいました。
十八年前にプレイしたゲームです。
主人公(勇者)は、幼馴染の魔法使いと王女、聖女と共に冒険の旅に出るRPG。
私の役どころは勇者の幼馴染で、勇者が取りこぼしたヒロインと恋人同士になるが、責任取ることなく死亡。エンディングには赤ちゃんを抱いて強く生きるハズレヒロインの姿が。
物語的にはきれいにまとまっているかもしれんけど、現実的にはだめじゃん。
というか、なぜゲームの世界に生まれ変わった?
0と1の世界じゃん? ポリゴンの世界じゃん?
◇
そんなわけで、世界の不条理を噛み締めながら私は準備を進めていた。
たった18の身空で自分の死の準備を黙々としなければならないというのは、切ないものである。
前世なんか、さらに短かったけれど。
展開はかなり大雑把にしか覚えていない。
「母子家庭に関する生活支援策……ないよなぁ」
ここ数年、師匠から王都に本を卸しに行くのを任されていて、魔法書を卸しに来たついでに、図書館に立ち寄った。
そりゃ、お姫様のほうが余ったら、生活に困らないだろうが、聖女さんが余った場合、子持ちが巫女を続けていくわけにはいかない。
巫女を辞めると多少の年金は入るそうだが、子供一人育てていくのに十分な額ではない。
巫女は神の祝福を分け与える存在。退職したら、お金持ちとの縁談が用意されているのが基本だ。
聖女さんもルードリット(私)と正式に結婚してたなら、遺族年金や見舞金の類たぐいも出るだろうが、旅の途中で結婚式の描写など無かったように思う。
(ほんと、無責任な……)
「……あの、お身内にご不幸があったのですか?」
そう声をかけてきたのは、白熊の赤ちゃんのような白い髪にルビーみたいに赤い瞳の少女だった。
ふわっふわ。撫でてみたい。わしゃわしゃしたい。
じゃなくって! いきなり割り込んできて、何を聞いてるんだ? この娘こは。
雨にぬれたら透けるの確定な巫女服を着ているところを見ると巫女のようだ。
お祈りとか、相談に乗ってくれたりするつもりなのかな。
でも、言葉の前に『お』とか『ご』をつけたからって、無礼なものは無礼だ。
ここは「宗教は間に合ってます」と前世の断り文句を言うべきだろうか?
「図書館は静かに」と刷り込まれている私には話しかけてくるだけで、十分鬱陶しい。
素直に「うるさい」とは言えずに、私は声を詰まらせてしまったが、ついでだから神殿に貰われていった幼馴染の少女のことを尋ねてみる。
「いや、両親ともぴんぴんしてるけれど。ああ、丁度良かった。シアって女の子知っている? 栗色の髪と緑の目の娘こで、君くらいの年していると思うんだけれど」
私の両親も物語終了後には、どうなっているか分からないが、今の所元気なのは間違いない。
「わ、私は……知りません。俗名ではありませんか?」
「あ、そうだね」
びくつきながら答える白髪の巫女さんの緊張を少しでも解きほぐそうと私は笑顔を返した。
巫女になったら、神より新しい名を賜り、俗世の名を捨てるらしい。幼馴染の巫女としての名を私は知らない。『シア』って名前も、この国ではありふれた名前だ。
「ちょっと要領悪い子だから、地方の神殿に飛ばされているかもしれないし」
巫女さんはしょぼんと肩を落とした。
(へ? なんか余計なこと言った? ていうか、余計なこと言ったのはそっちでしょ。なんであんたが落ち込んでるの!?)
「もしかしたら、すっごく出世しているかも……、ほ、ほら、商家さんのお嫁さんになったり、ね!」
慌てて付け加えたが、思ったよりも声が出てしまったらしく、カウンターの司書さんのお顔がこちらを向く。
巫女の仕事を終えた者はよほどの失態がなければ良い縁談が用意される。年金が無くとも商家や貴族様のお嫁さんになって、なに不自由のない生活が約束される。
女の子は「……お嫁さん」と呟いて、さらに落ち込んでしまった。
憂鬱になるような縁談でも舞い込んできているのだろうか?
失礼ながら、目の前のかわいい娘が業突く張りのウシガエルのような商人の嫁さんになる姿を想像してしまった。
ウシガエルでも、一緒に暮らせば良いところ見つかるかもしれないし、正直、神殿が結婚相手を選んでくれるのは楽だとも思う。が、残りの人生、許容できない人間を見て過ごすのはイヤだろう。
そう思って、なるべく柔らかな声で語りかける。
「もし、意に沿わない縁談に悩んでいるのでしたら、巫女は神子、神の子なのですから、一番偉いって顔して、断ればいいと思いますよ」
たしか、建前上は神の子である巫女のほうに決定権があるはずだ。
……実際の所はどうか分からないが。
「すみません。すぐに心が乱れてしまって……ありがとうございます」
巫女さんは、へこんだ状態のままふらふらっとした足取りで出て行って……あ、こけた。
カウンターのお姉さんが気づいて駆け寄った。それに気づいた人たちの視線が一斉に出入り口のほうに向く。
カウンターのお姉さんに手を貸してもらって立ち上がった巫女さんは「大丈夫すみません」と小さな声で謝って、図書館を出て行った。
「なんだったんだ?」
注目していた視線がひとつ、また一つ本に戻り、図書館に静寂が戻った。
ルードリッド・ハーデン……前世の名は小牧久美(小牧長久手の戦いより)。
基本一人称は「僕」だが、心の声・焦ったときなどは「私」




