邂逅
青髪の男、ルードリッド・ハーデンはすっきりした髪を鏡でチェックしている。
仕上げに店主が淡いピンクのリボンを青の髪に結わえる。
「これでどうだい?」
合わせ鏡で後ろ髪もチェックする。 肩口に切りそろえ、後ろ髪の一房だけを残してもらういつものスタイルに戻った。
長かった。かつら屋のおじさんに頼まれて髪を伸ばして半年。髪を洗うのも梳くのも面倒で。
魔術に使う場合があるから、長いほうがいいのだが、さすがにあれだけ伸ばすと重かった。
「うん。完べき。ありがとう」
「ああ、それとこれ駄賃だ」
「うわぁ、結構あるね」
かつら屋は、美しくて珍しい髪を買い取ってくれる。
いつも、本当に子供の駄賃程度なのだが、今回は半月分の食費くらいはある(農家基準)。
毎日の生活のなかで、抜け落ちた髪もついでに渡す。
抜け落ちた自分の髪を売るなんて前世では考えられなかったが、先生への月謝を払わなければならないわ、ちょっと旱魃ぎみで畑が元気ないわ、ついでに将来の貯蓄もしておきたいわ、と考えたら細かいことを気にしていられない。
「次は、どれくらい伸ばせばいい?」
「特に注文は入っていないから、いつでもいいよ」
「わかった。じゃあ、またね」
すっきりした気分で散髪屋兼かつら屋を出ると、空を飛んでいた使い魔が肩に降り立った。
翼がはためき、視界がさえぎられたとき、人とすれ違った。
すれ違った女性に違和感を覚える。
少し歩いてから、どうしてか引っかかって振り返る。
頭にかぶっているスカーフで分かりにくくあるが、黒い髪の女性と栗色の髪の女性、そして黒髪の女の子が、店の前に立ち、
散髪屋の店主に厳しい顔で何事か言われて、黒髪の女性は顔を伏せる。
栗毛の女性は店主と黒髪の女性のやり取りを冷めた表情で見つめ、十にも満たない女の子は不安そうに母親らしき黒髪の女性を見上げる。
店主が店の中に入ると黒髪の女性は、顔を覆った。
隣の女性は黒髪を励ましているようにも見えるし、叱責しているようにも見える。
と、随分距離はあったはずなのに栗毛の女性がこちらを見た、ような気がした。
なるべく、さりげなく視線をそらす。 使い魔は、首をかしげながら、店の方を見ている。
使い魔との視覚共有すると、度のきつい眼鏡をかけたときの船酔いにも似た不快感が襲った。
栗毛の女性はすぐに視線を黒髪の女性に戻し、黒髪の女性とともに店を離れた。
おぼつかない足取りの黒髪の女性を支えながら。
視覚共有を解き、店に戻って確かめる。
「どうしたんだ? やっぱり気に喰わなかったか?」
店内に人がいないこともあって、店主がすぐ気づいて、入り口に来てくれた。
「さっきの女の人達……」
「ああ、旦那を探しているらしくてな。二日に一度はここに行方を聞きに来ている」
「……ご主人を」
「ほら、そこに張ってあるだろう」
それだけ言うと店主はすぐに、店の中に戻った。
店の壁に貼られた人相描きには黒髪の成人男性が描かれている。 その下には、カザル語で男の特徴、報酬、連絡先の地図、そしてメッセージが書かれていた。
「これ、日本語?」
「パパ、大すき」と拙い文字で書かれている部分を撫でる。
この世界に生まれ変わってから、ほとんど使うことのなくなった故郷の言葉。
懐かしく、苦しい。
彼女たちと話してみたい。
彼女たちが立ち去った方向に目を向けるが、人ごみにまぎれてしまったのか、すでに彼女達の姿は見つけられなかった。
「ユキ」
使い魔の『ユキ』にお願いするが、いつもは名を呼んだだけで、大抵のことを理解してくれるのに、今日は気が向かないのか、本能的畏怖のせいか、肩から飛び立つ気配はない。
少しだけでも話ができれば、とも思ったが、彼は彼で人と待ち合わせの予定がある。
彼女達を探すことを諦めて、彼は友人との待ち合わせの場所に向かった。




