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特訓①

「得意なものはなんですか?」


「得意? 無いけれど」


 料理はレシピどおりに作ってもイマイチだし、掃除機重たいし、物干し竿も重たいし、毎日家事をこなすだけで精一杯。


「得意な武器は何ですか?」

「えーっ……ブキって武器?」


若様とリズが頷く。


「刃物は包丁とハサミくらいしか持ったこと無いけれど」


彫刻刀、カッターでも手を切りかけたことがあるし、使い慣れた包丁でも何回絆創膏を貼ったことがある。


「スポーツは?」


「……バトミントン?」


いや、高校時代唯一3を取れた体育の授業ってだけで、得意でもなんでもないのだが。


「ぷっ」

「ば……と?」


「異国の地のスポーツだよ」


「さすがに、ゼリー相手に死なれても困る。鍛えるぞ」


ゼリーって食べ物のゼリーだろうか。


「鍛えるって」


「とりあえず準備運動。それから、走りこみ……の前に軽く歩くことから始めようか」


由香里の絶望的な顔で察したらしい若様はぐっとハードルを下げてくれた。


「ねー私は?」


ここあが手を揚げる。


「君もママと歩けるようだったら、一緒に歩こうか。飽きたら言ってくれ」

「はーい」


「喉が渇いたらこまめに飲んで」


 由香里と心愛にそれぞれ水筒を渡される。


(今日も暑いもんね。風吹いたら、ちょっとだけ涼しいけれど、たまに砂利が混じるし)


 街の中はそれなりに豊かで青々とした緑も多いが、周りは低木や草が細々と生えた『ほぼ砂漠』。


 早速、日本で最も有名な準備体操を始める。


「ママ、順番違うよ。腕はピンと伸ばして、足もぴったり、ピシってかんじ」


「はいはい」


 くくくっと押さえた笑いが、若様から漏れる。リズのほうは冷ややかにこちらを見つめている。


「まあ、あれだ。演習場をぐるぐる回るのもおもしろくない。適当に庭園を見て回ってくれ」


 演習場自体はテニスコート一つ分くらい広さだが殺風景だ。


「若様は?」

「悪い。準備があるから」


「私が引率では不満ですか?」


 引率って、立ち入り禁止の所とかはさっぱりわからないから案内役は必要だけれど、自分まで子供扱いなのは納得いかない。


   

 ◇


「ふーふー。ちょっと休憩」


 由香里は東屋を目ざとく見つけ、腰を下ろした。


「こちらを飲んでください」


 リズに水筒を渡された。

 目が『ちょっとしか歩いていないのに、情けない』と言っている。


(仕方ないでしょ。詰め所に戻る時、ちょっと走ったんだから)


 つい、調子に乗ってのんびり値引き交渉やっていた自分が悪いのだが。


「いや、自分の貰ったんだけれど」


 一口飲むと酸味と甘みが広がるのだが、飲んだ時の感覚がとろりとしている。


「昨日飲んだスポーツドリンクと違うのね」


「ヨーグルトです。本来は塩味なのですが、これは砂糖を入れています」


 ウォーキング後に牛乳を飲むと筋肉がつくとかいうあれか。

 そして常備しているのか、飲むヨーグルト。


「おいしい!」 


 娘が喜んで飲む。


「魔法で冷やしてありますから」


「本当、あんだけ歩いて、良く化粧崩れないわね」


 リズは汗の一つもかいていない。


「別に走っているわけではありませんので。次、市場行った時にでも買いますか?」


「いや、余り化粧好きじゃないし、使い慣れない化粧品使うとすぐお肌荒れるから」


「お肌硬そうなわりに、やわいのですね」


「あははは、お肌ぱさぱさでごめんねぇ~。 私もマシュマロ肌に戻りたいわよ」


 化粧崩れを気にするくらいなら最初から化粧をしなければいい。 


でも、断った一番の理由は別にある。 化粧品は時代・地域によってあまり身体に良くない物を使っている場合がある。 例えば昔の白粉(おしろい)とか。


(でも、日焼け止めは欲しいよね。私は今更どうでも良いけれど、子供が日焼けになるのはちょっと)


 まだ、体力が回復していない。というか、もう少しぼーっとしていたい。もう少し話を引き伸ばそう。


 庭園を眺める。昨日訪れた時も綺麗だと思ったが、じっくり眺める時間も心の余裕も無かった。


「フィン庭園みたいね」

「フィン庭園? 」


「砂漠の中にある庭園ね。確か観光客に解放されていたはず。実際に見たことは無いけれど」


 由香里も詳しいことは覚えていないが、噴水と色とりどりの花が咲き誇る美しい庭園と記憶している。 ここも薔薇が多い。


「一応前庭(まえにわ)は一般公開されています」


 知っている。 昨日も今日も商魂たくましい人は城前でザルに入れた薔薇の花びらやら、薔薇の絵のラベルが張ってある瓶を売っていた。


「もうちょっと涼しければ、ここでお弁当食べるのもいいかもね。

 それにしても、もう少し東屋増やせばいいのに」


「あまりに遮蔽物が多いと、防犯上よろしくないのでは?」

「そ、そうよね」


 確かに、この庭は、整えられているが、高い木はポイントポイントにちょっと置かれているだけで、すごく見通しがいい。


 が、話が続かない。 リズの由香里に対する悪感情は一日、二日では改善されそうにない。

 娘がちらっとこちらを見てから、リズに話しかける。

 

「リズちゃんは食べ物何が好き?」

「ヨーグルトですね」

「私もヨーグルト好き。フルーツ入ったの」


 さすがに子供のにこにこ笑顔での質問は邪険にするわけにもいかず、リズは普通に答える。

 母を助けつつ、さりげなく自分の好みを伝えるよくできたいい子だ。


「若様は? 若様は何が好きなの?」

「ナンのトマトチーズ焼き、シチュー、ピラフ、魚、ラグマン……なんでも食べますよ。昔は、苦手なものが多かったですが」


「いっちばん好きなのは?」

「一番……肉団子やハンバーグですかね」


 娘がリズを質問攻めにしている間に、足をぽんぽんとマッサージして、しばらくしてから再びウォーキングに戻った。


チート? 言語つけただけ。これから某少年漫画の日々が始まるけれど、かなりはしょります。

だって、主婦なんだもん。(スポコンになる予定もありません)

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