TRPG風小説 ダイス振って冒険者作るぞオラァ!
ふと気が付くと、白い空間に居た。
上下左右、どこに視線をやってもひたすらに白い。
そして目の前には白い服と白い髭の老人の姿。
……あっ(察し)
目の前に立つ老人は神を名乗り、俺にこう言った。
「チミ、死んだから異世界で転生ね(意訳)」
「おk、把握(意訳)」
そこらへんの会話はもはやテンプレなのでばっさりと省略する。
「ところで、転生するにあたって特典のような物は貰えるのでせうか」
俺の質問に対して、自称神はこうおっしゃった。
「チートはやらん。その代わりにダイスを振ろう」
……パードゥン?
神様(仮)が言う事を要約すると、こうだ。
俺が転生するにあたって、生い立ちや能力などは全てダイスを振って決定するとの事。
ダイスの目次第で、あらゆる点においてパーフェクトな天才にもなるし、何の取り柄も無いカスにもなり得るという人生を賭けた運試しをするとの事。
なんという無茶苦茶な話であろうか。
「だが、それがいい」
しかし俺、その提案を二つ返事で快諾。
良いじゃないか運ゲー。
「ちなみにダイスの目は、実際に作者が執筆しながらダイスアプリを使ってダイスを振るぞい。その出た目が小説に反映される」
「ちょっと待て、あんなここぞという場面で狙ったようにファンブルを出す奴にダイスを振らせるな!大惨事が起きるぞ!」
おお、メタいメタい。
さておき、転生先の能力や環境などを、俺はダイスの目に委ねる事となった。
「では……まずは性別じゃな」
「ち ょ っ と 待 て」
「何じゃ」
性別?いま性別といったかこの自称神。
「俺、男なんだけど。そのまま男じゃダメなん?女になるとかマジ勘弁なんですけど」
「こやつめ、ハハハ。それじゃつまらんじゃろう。なーに安心せい。二分の一の確率で男に生まれるわい」
「……やっぱ中止で」
「却下じゃ。つべこべ言わずにダイスを振れい。1D6(6面ダイスを1個振るの意)で、奇数なら男、偶数なら女じゃ」
「ええい、南無三!」
俺は六面ダイスを手に取ると、祈るように転がした。
結果……2(偶数)。
「おめでとう。おぬしの性別は女に決まった」
「チクショオオオオオオオオ!」
さらばマイサン、ハローおっぱい。
うなだれる俺に、神様はめっちゃ良い笑顔で別のダイスを手渡した。
「次におぬしの出自・境遇を決めるとしようか。1D100で、数字が大きいほど恵まれている環境じゃ」
「……それ、ファンブったらどうなるんですかね?」
「……奴隷スタートではないかな。逆に非常に高ければ王侯貴族とかになるかのう」
これも重大だ。
俺は祈りを込めてダイスを振った。
結果……17。
「……ッセーフ!いや微妙か!?」
「チッ、どうやら最悪は回避したようじゃな」
「何舌打ちしてんだテメエ。どっちにしろクッソ低いじゃないですかー!やだー!」
どうやら俺の人生は前途多難なようだ。
「では次は……外見から決めるとしようか。これも1D100で、数字が大きいほど美しい見た目になるぞ」
逆に低い場合は……お察し下さいという訳か。
俺はダイスを振った。
結果……85。
「おお!どうやら相当な美少女になるようじゃな!」
「何でこんな時だけ高い目出るんだよクソダイスェ……」
「惜しいのう。100付近ならばそれこそ傾国の美女と呼ばれるレベルじゃったろうに」
「いや別にそういうのいいから」
何が悲しくて男にモテなきゃならんのですか。
これで性別が男だったなら……と思わずにはいられない。
「ではもう一度、1D100じゃ。数字が高いほどムチムチでボインな感じに、数字が低いほどロリロリな感じになるぞい」
「どっちも嫌じゃあああああああ!」
「ちなみに儂はロリが好みじゃ!」
「おまわりさんこの神です」
サムズアップする自称神。誰も貴様の好みなんぞ聞いとらんわ。
俺はうんざりしながらダイスを振った。
結果……79。
「うむ、おめでとう。なかなかのナイスバディに成長するようじゃな!儂の好みではないが!」
「全然嬉しくねえが、あんたの好みと違う点だけは良かったと思うよ」
なぜこんな時に限ってダイスが荒ぶるのか。
「では、いよいよ能力の判定に移るぞい。
まずは、そうじゃな……おぬしが肉弾戦と魔法のどちらに向いているか判定を行なうとしよう。1D100で、数字が低いほど物理に、数字が高いほど魔法に向いているとする。
25以下ならば武器技能に上方修正がかかり、反面魔法技能に下方修正がかかる。76以上の場合はその逆じゃな」
適性も運次第か。俺はダイスを振った。
結果……48。
「まさかのド真ん中付近」
「万能タイプじゃな。戦闘と魔法、どちらもこなす事ができるじゃろう。だがその反面、どちらに対しても特化した者ほどの才能は発揮できないため、器用貧乏にならないように注意が必要じゃな」
「成る程……気を付けよう」
「次は、武器スキルの才能を判定しようか。
剣、槍、斧、鈍器、格闘、弓の六つの武器に対する適性を1D100で判定する。勿論、数字が大きいほどその武器に対して向いている事になるぞ」
俺は100面ダイスを六回振った。
結果……剣:45
槍:98
斧:29
鈍器:29
格闘:63
弓:97
「キタアアアアアアアアアアアア!」
「何と!槍と弓については天賦の才を持っているようじゃな。剣や格闘もそれなりに使えるが、これほどの才能があるならば、素直にこの二つを伸ばすといいじゃろう」
ここに来て運が上を向いてきたようだ。
助言通り、転生したら素直に槍と弓の修行をする事に決めた。
「次は魔法じゃ!攻撃、回復、支援、妨害の四つに対して、それぞれ1D100じゃ!」
「OK」
俺は100面ダイスを四回振った。
結果……攻撃系:2
回復系:96
支援系:79
妨害系:30
「攻撃魔法に対しては全く才能が無いようじゃな。しかし回復魔法については天賦の才を持っており、支援魔法もかなり伸びしろがありそうじゃ。妨害系は今一つだが、最低限の適性はあるようじゃな」
「攻撃魔法が使えないのは残念だけど、全体的に見れば良さげな感じだな」
僧侶系っぽい感じになった。
「次は初期ステータス値を決定するぞい。ステータス値は筋力、耐久、敏捷、器用、知力、魔力、魅力、幸運の八つじゃ。
それぞれ8~10くらいが水準であると思ってくれていい。おぬしは万能型じゃから、全て3D6で数値を算出する。また、3つのダイス全てが同じ目だった場合は更に1D6を振り足す。これを違う目が出るまで行なうぞ。ただし1のゾロ目だけはファンブル扱いとして、そのステータスは1になる」
成る程、つまり6を延々と出し続ければ人間の限界を超えた数値にもなり得るのか。
俺は順番にダイスを振り、ステータス値を決定していった。
筋力……2,2,2
「おっと、いきなりゾロ目か」
「2なのは残念だけど、1ゾロでファンブルに比べれば御の字だな」
俺は追加のダイスを振った。
結果……2。
同じ目が出た為、更に+1D6……5。
筋力……2,2,2,2,5=13
耐久……2,6,4=12
敏捷……5,4,5=14
器用……5,3,2=10
知力……2,2,4=8
魔力……6,5,3=14
魅力……2,6,6=14
幸運……2,2,1=5
「ふむふむ……突出した物はないが、全体的にバランス良く高いのう。知力はやや控え目だが低いという程でもないしのう」
「そのかわりに幸運がほぼ死んでるんですがそれは」
「仕様じゃ。頑張れ」
よりによって幸運がファンブルを除けばほぼ最低値というあたり、新たな人生では色々と苦労しそうで今から胃が痛い。
「これで判定は全て終了じゃ。今からお主のキャラクターシー……ステータスを表示するから、しばし待っとくれ」
「じじい今キャラシって言いかけやがったな!?薄々わかってたがやっぱりTRPGのキャラクター作成のノリでやってやがったな貴様!?」
「ふぉっふぉっふぉっ」
俺の詰問に応える事なく、じじいが何やら呪文を唱えると、空中にゲームのシステムウィンドウのような物が現れた。
そこには文字や数字が書かれており、どうやら先程までダイスを振って判定した結果がこれに書かれているようだ。
――――――――――――――――――――――――――――――
名前:???
クラス:初心者
性別:女
【能力値】
筋力13 耐久12 敏捷14 器用10
知力8 魔力14 魅力14 幸運5
【武器技能】
剣4/45 槍9/98 斧2/29 鈍器2/29 格闘6/63 弓9/97
【魔法技能】
攻撃0/2 回復9/96 支援7/79 妨害3/30
【その他】
外見:85&79(絶世の美少女)
境遇:17(ほぼ最下層)
――――――――――――――――――――――――――――――
「これがお主のステータスじゃな」
「技能に二つ数字があるけど、これは?右の数字はさっきダイスで出した目みたいだけど」
「うむ、それは左が現在値、右が限界値じゃ。さきほどダイスで判定した数値が限界値となり、その十分の一(端数切捨て)が初期値になっておる。
言うまでもなく限界値が高いほど、より強くなれる可能性がある。また現在値と限界値の差が大きいほど成長が早いぞ」
ちなみに、じじいによると
1~15:初心者
16~30:中級者
31~45:上級者
46~60:その道を極めた達人
61~80:一握りの天才のみが辿り着ける境地
81~100:人間の限界(バランス型はどう頑張ってもここが限界)
101~125:神とか魔王とかがここらへん(特化型以上で到達可能)
126~150:ガチチート。バランスブレイカー(超特化型のみ到達可能)
指標としてはこんなところらしい。
ちなみに俺がバランス型を引いた適性検査の結果だが、数字が25以下または76以上で特化型になり、得意な分野の技能に+25、苦手分野に-25の補正がかかる。
10以下または91以上だと超特化型になり、得意分野+50・苦手分野-50の補正がかかるそうだ。
よって理論上の最大値は超特化型+ダイスで100を出した場合の150になる。
「このクラスってのは、職業みたいな物か?」
「特定の組み合わせの技能を伸ばす事で付与される、称号のような物じゃな。最初は何の能力も無い初心者じゃが、新たなクラスに就く事で能力値に補正がかかる等のメリットがあるぞ」
「成る程」
「他に聞きたい事はあるかのう?」
「……いや、もう十分だ」
性別が女である事と幸運が完全に死んでいる事を除けば特に不満は無い。
「うむ……。では、長くなったが手続きはこれで終了じゃ。お主の新たな人生に、幸多からん事を願っておるよ」
「ああ、ありがとう」
俺は最後に、神様に向かって精一杯の笑顔を向けてサムズアップする。
それを見て神様も、同じように俺に向かって親指を立ててみせた。
「ま、おぬし幸運死んどる上にそこ以外は優秀じゃから、きっと色んなトラブルに巻き込まれ続ける人生になると思うがの。せいぜい頑張って、わしを楽しませるのじゃぞ。わしはいつでもお主を見守っておるからのう」
「ファッキューゴッド」
俺達はイイ笑顔のまま、同時に親指を下に向けた。
プロローグのみ一人称。
ダイスを振って判定をしながら小説を買くという無茶な試みは果たして成功するのかという実験を開始する。