小夜物語 small tales of long night 第14話 深い森には死臭が立ち込めている。The stench of death has veiled deep woods.
深い森は、、
そうさ
必ず、、死の臭いがたちこめているもんさなあ
だから
誰も怖がってうかつになんか
森へは入ろうとなんかしないものさ。
森には自然の魔とでもいうものが棲んでおってな。
それは自然霊とでもいうのか
太古からずっとそこを棲家としておるんじゃよ、。
わしかい?
わしはどこにでもいるような、ただの老人じゃよ。
でもむかーし
わしは子供のころ
ふかーい森のすぐ近くの山村に住んでおったのじゃった。
もちろん森はわしら子供たちにとっては格好の遊び場じゃった。
当時、、テレビがあるわけもなし
ネットゲームがあるはずもなし
子供の遊びといえば森で木の実を拾って食ったり
小川でウグイを釣って食べたり
そんな野外遊びだけじゃったのよ。
森へは、、でも、、本能的にわしらは恐怖心を察知して
せいぜい、とばっくち、までしか入らなかったけどね。
どこまでも続く暗鬱の原生林の奥深くまで入るなんて
狂気の沙汰、、怖くって子供にはできませんよ。
ところが、、、
ある日、わしはついついキノコ狩りに夢中になって
森の深いところまで足を踏み入れてしまったことがあった。
茸探しで、下ばかり見ていたのだが、気がついて前を見あげると木の枝に
若い女が首をつって死んでおったのじゃ。
風にぶらーり、ぶらーりその死骸は目を剥いて、揺れておった。
肝をつぶしたわしは一目散に脱兎のごとくその場から
逃げ出しておった。
あれは今思い出しても怖い体験じゃったよ、
ところで、
わしらもしばしば
大人たちから森にまつわる怖い話、、奇怪な話を聞いておったから
余計、森への怖さは身に沁みついておったのよ。
それにしても?
最近「山ガール」とか称して
安易に、、かるーい気持ちで深山幽谷へ、若い娘たちが
不用意に?お気楽?登山するのだそうだが、、
そんな、、ことって実はとてつもなく危険なことだって知らないのでしょうなあ。
山はそもそも、、霊の休まるところであり
霊の帰ってゆく場所。
そして山の霊は、悪霊と化して
おバカな?「山ガール」を死の淵へ引きずり込もうと待ち構えてるかもしれないのですよ。
昔、、、
マタギは、切火をきり、山の神に礼拝し、身を清めてからでなければ
決して山に入らなかったそうな。
誰も怖がって森へは行かない。
だって
森にはコワイ霊が棲んでいて
入山者を死の淵に引きずり込もうと待ち構えてるんだから、、、、。
さて
わしが当時大人たちから聞いたコワイ山のオハナシじゃよ。
「死人御殿」 Dead person palace
むかーし、
ある村に、きこりがおって、山へ木を切りに入ったそうな
もちろんお守りの山刀を腰に差し
森の入口の山霊様の祠に礼拝してなあ。
その日は、、、
しばらく行くと何やら深い霧が出てきて
いつもと違って、妙に変なのじゃよ、
すると急に霧が晴れて今まで見たこともない
岩の前に出たそうな。
その巖には、人ひとり通れるくらいの穴が開いていて
樵はその穴に入っていくと、むこうに出口があって、
やがてぽっかりと開けたススキが原に出たそうじゃ。
そんなススキが原いままで、見たこともなかったそうじゃ。
そしてススキが原は黄金色に風に揺れて
その先にそりゃあ大きな御殿があったそうじゃ。
門の扉を叩くとぎーっと開いて
中から若いお女中が出てきた。
「道に迷ってしもうて、、」
「そうですか。どうぞはいってお休みくださいまし」
きこりは大きな部屋にとおされたそうな。
しばらく待っておると、やがてお女中が
食事とお酒を運んでくる。
その酒の旨い事。
その食事の美味しい事、
したたか食って、、したたかよっぱらって眠り込んでしまったそうな。
ふと何かの気配できこりは目覚めた。
見るとキラキラ輝くお地蔵様が目の前にいらっしゃって
「お前なんでここへ来た」というではないか。
「いいえ、気がついたらきてたんです」
「いいか。ここは死人御殿というところじゃよ。
生きてる者の来るところじゃない。
わしはお前の家の前の石の地蔵じゃよ。
お前が毎日団子や飯を備えて拝んでくれるのでその
信仰に免じて助けてあげよう。
ところで、、さっきお前の喰ったものをもう一度よーく見てごらん」
きこりは振り返って膳を見ると
そこには人間の生首と、食い散らかされた胴体と
真っ赤な血の注がれた酒の猪口が見えたという。
ひえーときこりは声を上げた。
「シー、静かに」
地蔵様はそういうと
「そのお守りの山刀を抜いて振りかざし
「南無地蔵菩薩」と一心に唱えて
ただちにここから逃げ出しなさい。
もし逃げる途中その刀に何かが当たったらかまわん、
切り捨てるのじゃ良いか
ゆめゆめ疑うことなかれ」
ふっと、地蔵は掻き消えて、、きこりは正気に返った、
思わず身のそこまで冷たいものが流れ
きこりは山刀の鞘を払うと
一目散に逃げ出したそうな。
ススキが原を一目散に走る。
だがあの洞窟はどこにも見当たらなかった。
すると後からざわざわと何かが追ってくる、
振り返るとそれは骸骨やドクロの群れだったそうな。
きこりは山刀でそれを切祓い
力の限り走った。
気がつくとあたりは深い霧がもうもうと立ち込めて
どこをどう走ったのか、、
しばらくして、、、
漸く霧が晴れてきたのであたりをよーく見ると、
そこは「姫が淵」という滝つぼじゃったそううな。
見覚えのある場所じゃった。
むかーし落武者になった姫様が家来主従とこの山奥まで逃れてきて
ここまで追ってきた追手にここで切り殺されて
この滝つぼに姫様主従は落ちて死んだという。
その時、滝つぼは一面、、血で真っ赤に染まったそうじゃ。
そこは、、そういう、、
伝説の滝つぼじゃった。
きこりはやっと見覚えのあるところに来て
きりも晴れて
辺りを見てももうドクロも骸骨もおってこなかったので、
命からがら森を出て家に帰り着いたのじゃそうな。
家にはいるときこりはそのまま家人の前でばたりと倒れて
三日三晩こんこんと意識不明で寝込んだという。
やっと四日後に息を吹き返して
漸く、、一部始終を語ったというわけさ。
このようになあ。
森には不可解なことが山ほどもある。
ほかにだっていっぱいあるんじゃよ。
これはそのほんの一つのオハナシじゃよ。
何?
もっと他の話が聞きたい?
じゃがなあ、、。
もうわしも今日は話すのが疲れたよ。
又いつか
機会があればな
その時は、また話してあげるよ。
でも
今日は疲れたから、、、
これでおしまいじゃよ。
終り