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勇者と魔王と私

作者: 渡瀬 由

 一度は書いてみたかった作品です。

 よく、ノリで書けたなぁ、と思います。



 それでは、どうぞお楽しみください。

 世界が滅びる、なんて言ったら驚く人はどのくらいいるだろう。少なくともここにいる連中は間違いなくそれが解っている。

 どっかの魔神が召喚されて世界を一瞬で焼き尽くすような魔法を発動しようと画策。まぁ、そんな世界なのでもちろん『勇者』っていう存在もいるんだけど……。


「ちょ、ちょっと!! そんなこと私は聞いてなかったわよっ!」


 暗い闇の底に広がる神殿。そこに響き渡る若い女性の怒号。

 ここは例の魔神がいた場所。魔神を素早く倒してハッピーエンドのはずが、最後の悪あがきにあって魔法は発動され……それをさっさと止めなきゃいけないって時にまったく。


「ちゃんと言ったって! 俺が魔王だってさ」


「ま、魔王だって知ってたら、あの夜の事はなかったわよ! バカ! だって子供が出来ちゃったのよ。どうするのよ」


「どうするって…最初に誘ったのはお前じゃないか!」


「そ、それはそうかもしれないけど……で、でも、責任はちゃんと取ってもらうから!」


 なに、やってるんだろ。あの二人。この忙しい時に。


 赤毛でショート(身長)の、怒涛の如くまくし立てている女性が『勇者』

 そして何となく冴えないけどまぁ、ルックスはいいし、実はマメなところがいい感じの『魔王』


 実際、魔法使いである私も彼が魔王だってわかったのは先週だし。実は魔神は異世界からの侵略者でこの世界に元からいたのがそこにいる魔王。それで勇者に味方して魔神を倒した後に自分が……と思っていたらしいけど、当てが外れたってことね。それに勇者が産婦人科から出てくるところを目撃したから、何かあるかと思ったら……これはへヴィだねぇ。いやいや、そんなこと考えてる場合じゃない。


「こ、こら! そこ!! 痴話ゲンカなんかしてないでさっさと魔法を止めに行くわよ!!」



『痴話ゲンカじゃない!!』



 ……声を揃えて言うなよ。このバカップル。

 とはいえ、何とかしないと本当にヤバい。もう時間がないし。でも、闘技場でも次元の違う二人を相手に誰が止めるって。そうだ!

 後ろに控えている、大剣を持った男に話しかける。マッチョな体つきじゃないけど、攻撃力は勇者に匹敵する。彼なら。


「戦士! アンタまだ力残ってるでしょ? 何とか二人を引き離して!」


「…悪い。さっきの戦いで………そ、そう! に、肉離れで動けないんだよ! ははははッ!」


 ははははッ! じゃないって! なんだよその微妙な間は!


「それなら、マッチョ! 行きなさいよッ!」


「俺はマッチョじゃない、僧侶だッ!」


「僧侶でもマッチョでもいいから何とかしなさいよ。殴るわよ!」


「身体はマッチョだが…心はガラス細工で…その…」


「あんだとぉ! 役立たずッ!」


 よくこんなパーティーで生き残れたよ。ホントに。

 さて、もう魔法の発動まで30分切ったし、ここは実力行使しかないか。


「いい加減に、痴話…じゃなかった、ケンカをやめろぉぉぉ!!」


 両手に収束させた光が大きくなりレーザービームのように二人に向かって飛んでいく。それを二人はいとも簡単に回避して、さらに向かってくる光弾を息のあった連携で撃ち落としていく。

 さすが勇者と魔王だ。いや、感心してる場合じゃないって!


「ちょっと! 世界が無くなったら話の決着が付けられなくなるのよ! それに勇者、アンタは子どもがお腹にいるんだから程ほどにしておきなさい! それと魔王! 父親になるんだから少しはこの世界のことを憂いたらどうなのよ。戦いたきゃ後で闘技場でやりなさい!!」


 はぁ、はぁ。何か、言いたいこと言っちゃった気がするけど。後で怖い気がする……。


「そ、そうね。とにかく後で闘技場へ行きましょう! 産後に」


「いいだろう。俺に勝てるとでも思っているのかい? たっぷり泣かせてやるからな」


「なっ、下品なヤツ」


 すぅ、と私の横に影が伸びる。そこから老人の姿をした魔物が姿を現した。

 な、なに、コイツ…すごい魔力。もしかして魔神の残党!? 不意を突かれた!


「我が主がご迷惑をおかけします。魔法使い様」


「…ああ、あなた、魔王の側近ね。初めて出てきたからビックリしたわ。お互い苦労するわね」


「まったくですな。さぁ、魔王様! お急ぎください。魔法陣発動まであと20分です。私もこんなところで巻き添え食って死ぬのはごめんですから」


「…なんか、さらっとヒドイこと言われたような気がするんだが」


「気のせいです。とにかくお急ぎください!」


 『勇者』と『魔王』は勢いよく、魔法陣を破壊するために魔法を制御している場所まで駆けていく。それから少し遅れて、肉離れの戦士と心がガラス細工のマッチョが追いかけていく。さっきまでのヘタレっぷりは微塵にも感じさせないフットワークだ。


「はぁ。私…この戦いが終わったら隠居しようかな…あと婚活」


 溜息と一緒に吐き出された力ない一言の後、世界の崩壊は勇者パーティー(魔王含む)によって食い止められ、再び平和が訪れた。



*************************************************************



 世界に平和が訪れてから、20年の歳月が流れ―――



 とある、小さな村。ここに住み着いた一組の夫婦。

 今、世界を揺るがすほどの夫婦ゲンカが起きようとしていた。きっかけは『私の(俺の)プリン食っただろ!!』


「……この二人って何年たっても凝りないんだな。ホントに」


 久しぶりに勇者パーティー(魔王含む)で同窓会やろうと来た私の前で堂々とケンカを始めるとはね。でも、今日はこんな時のために手は打ってあるのよ。まぁ、本当は反則だと思うけどね。


「エリス、お願いするわ……私じゃ止められないし」


「…はい」


 勇者は必殺の一撃を放つための構え――対する魔王はこのあたりを吹っ飛ばす威力を持つ魔法が発動一歩手前。そんな状況をよそに、エリスと呼ばれた少女の瞳が、僅かに光を帯びる。


 ――瞬間


 向かい合っていた最強の二人は構えを解いて、飛び退く。


「あ、え、エリスじゃない。帰ってきてたのね」


「お、おう! 随分と早かったじゃないか。ははははッ」


 そうなのだ。あの魔神を倒したときに勇者が身ごもっていた子供。それがエリス。しかも勇者の力と魔王の力を持って生まれた。ある意味で本当に最強な存在。


「母様、その技は家を真っ二つにするのでやめてください。それと父様。前回、その魔法で村全体の修繕費を誰が出したと思っているんですか」


「ちょっと熱くなりすぎちゃったかなぁ、なんて。ね、ねぇ?」


「そ、そうだな。みんなが集まるんでついテンションが上がっちゃって」


「それならいいです。次は…気を付けてくださいね?」


 ニッコリと、無垢な笑顔のエリス。

 この笑顔にやられた無数の男たちが彼女をモノにしようとしたけど……噂では誰も帰ってこなかったとか。ああ、怖いわ。


「何か、言いました?」


「い、いや何でもないわよ。それより準備を始めましょう!」


 そんな訳で、しばらくこの世界の平和は続いていきます。


 いかがでしたでしょうか?


 やっぱり、娘は最強です。

 本当は、どっしりとしたシリアスな作品を書くはずがまさかこんなことになろうとは思いもしませんでした。

 

 どこかで「ふふふ」と感じてもらえたのなら作者冥利に尽きます。

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[一言] 読ませていただきました! エリスさん最強ですねw
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