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高校生神王の後日談  作者: ぺのじ(旧春瀬)
第2章 高校生神王の器
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高校生神王の人望

恋子れんこさん」


 大神高校の制服ではない、白いワンピースに身を包んだ恋子がそこにいた。迷いなく伸びる手足と黒いストレートヘアーは、まさに清楚なお嬢様という出で立ちだったが、その顔に浮かべた不機嫌な表情が、すべてを台無しにしていた。


「遅いわよ、真希凪まきな。どれだけあたしを待たせたら気が済むの?」

「おまえが自分で先に行ったんだろ、しかもひとりだけ楽しやがって」


 そう、天界城に転送されたのは真希凪だけではなかった。

 恋子が天界を見てみたいと駄々をこねたため、真希凪は彼女を連れてきたのだが、結果的にそれは、恋子の機嫌を損ねることになったようだ。

 足場が決していいとはいえない山道を歩きはじめて一〇分。

 恋子は早くも全身で「わたしはいまとても不機嫌です」と周囲に訴えかけ、真希凪が無視していると、ついには「足がむくむのよ! バカ真希凪!」などと声を荒げはじめ、ついには《神の見えざる手》を巨大な足のように用いてズンズンと先に行ってしまったのだ。あいかわらず便利な神意だった。


「楽したかどうかじゃなくて、遅いっていってるの。日に焼けちゃうじゃない、ただでさえここ、日差しが強いんだし」


 日差しよりも鬱陶しい恋子の愚痴に、真希凪はうんざりする。


「だいたい、あんたもおかしいと思いなさいよ」

「なにがだよ。鉄道とか自動車がないってことか? それくらいとっくに気づいてるさ、エミステラいわく、そういうものはないらしい」

「とっくに? ……そうですね、たしかつい一〇分前くらいですか」

「……無粋な突っ込みはやめてくれ、エミステラ」


 それみたこと、と、恋子は鼻を鳴らし、


「それもそうだけど、そうじゃなくて。あんた、神王なのよ? それなのに、付き人――っていったら失礼かもしれないけど――がエミステラさんだけって、おかしいと思わない?」

「たしかにおかしいな」


 真希凪はうなずく。


「でしょう」

「付き人はひとりなら、おまえはいったいなんなんだ?」

「だから、そういうことじゃなくて!」


 恋子は叫ぶ。《神の見えざる手》で楽をして登った分、体力が余っているのだろうか。一方で真希凪の脚はすでに限界を迎えていた。柔らかそうな緑のカーペットに横になりたいと、真希凪は切に願う。


「大名といったらなによ?」

「大名といったら? ……戦国時代」

「ちがーう! 大名といったら大名行列でしょうが!」

「なんだよそれ……」


 力なく漏らした真希凪の言葉に、恋子はなぜか絶句した様子を見せる。


「なんだよ」

「ま、まさか真希凪、あんた、大名行列、知らないの……?」

「天界史よりも先に日本史を学ぶべきのようですね」

「そういうことじゃねえ! なんで大名行列が出てくるかってことだよ!」

「軽い冗談じゃない、なによ、そんなに必死になっちゃって。本当にバカなのかと思われちゃうわよ。ねえ? エミステラさん」

「たしかに、もう少し余裕は欲しいですね」


 エミステラは同調する。顔は無表情のままであるため冗談かどうかの判断は難しく、また、エミステラの性格からこれが冗談なのかを判断することも難しかった。


「なに仲良くなってるんだよ」

「敵の敵は味方、という言葉はご存知?」

「おまえら、俺の敵だったの!?」


 と、律儀に突っ込む真希凪であったが、いよいよ疲れてきた。話をうながすべく、


「それで、大名行列がどうした?」


 しかしやはり、恋子は体力が有り余っているようで。


「まだわからないの? あんたって慎重派のくせにバカよね。……いや、バカというより察しが悪いというか、頭の回転が遅いというか。だからエミステラさんに『神王の自覚が足りないので死んでください』とかいわれるのよ」

「いわれたことねーよ!」

「いまのところは、ですが」

「え、エミステラさん……?」

「さあ、恋子さん。続きをどうぞ」

「冗談です、とかないの!?」


 やはりそれは、冗談か判断がつかないのだった。


「うるさいわよ、真希凪。とにかく、あたしがいいたいのは、あんたは神王なのに、大名行列――までとはいわないけど、それくらいの送迎がいてもいいんじゃないかっていうこと。日本でも聞いたことないわよ、首相がお付きもなしでひとり山を登るだなんて」


 たしかにそうかもしれない。それでいて、明確な理由も思いつかない。


「それについては、わたくしから説明させてください」


 そんな真希凪に助け舟を出したのは、エミステラだった。


「簡単にいえば、真希凪様がひとりである理由は――真希凪様の人望不足です」


 どちらかといえばそれは助け舟というより、沈没船だったようだ。


「…………」


 時間が止まる。真希凪は辛うじて乾いた笑いを浮かべながら、


「はは。エミステラ、おまえの冗談は冗談になってないんだよ」

「ええ、冗談でなく、真実ですから」

「……マジ?」

「マジです」

「えっと、俺は、人望がないから、ひとりなのか?」

「はい、真希凪様は、人望がないから、ひとりなのです」


 ゆっくりと、小さい子供に言い聞かせるようにエミステラはいう。


「まさか、このまえの即位式が原因か?」

「たしかに、即位式は原因のひとつではあります。しかし大きな原因は、貴方様が人間界から選ばれた神王だからです」

「……でもそれって、みんながそうなんじゃないのか?」

「そうです。ですから神王様は基本的に、好感度0からのスタートだと思ってください。それがみな、普通なのです。しかし真希凪様の場合、好感度マイナス一〇〇くらいからのスタートだ、というだけです」

「即位式のダメージでかすぎるだろ!」


 しかし、すでにやってしまったことを嘆いても仕方がない。


「……という冗談はさておいて」

「おい」

「わたくしたち三人しかいないのは、目的地にいる生き物たちが、ひとを嫌い――までとはいいませんが、好きでないからです。……あちらをご覧ください、真希凪様」


 エミステラの指さすほうに目をやれば、そこには白い雲のような集まりがあった。白くて丸い、しかし大きな塊が、集まって地表に雲を形成しているようだった。


「げっ、あれって――」


 恋子もその雲の正体に気がついたようだ。


「エミステラ、俺が乗るやつって……ひょっとして」


 そこには、以前に真希凪を襲った、天界獣が群れをなしていた。


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