初代神王の全知
「……ふっ」
まるで平面のように広がる暗闇のなかで、ひとつ、紫炎が灯った。
ロウソクの明かりにも見えるようなそれは、ロウソクではない。目だ。
燭台のうえで灯っているようにも見えるそれは、燭台ではない。顔だ。
髑髏のようにも見えるそれは、髑髏であって、髑髏でない。初代神王の、顔だ。
「やはり、こうなったか」
声は、闇から生じていた。闇が震えているのだ。
《神のみぞ知る》――すなわち、全知。それが、初代神王の神意。
そう、すべては知っていたこと。わかっていたこと。
恋子が眷属になり、エミステラが教育係となり、ライオウが選定され――真希凪が神王となることは。
すべては、そのためだったのだ。
ライオウを天界から放ち、ふたりを襲わせたことも。
あの夜、真実を真希凪に伝えたことも。
すべては、真希凪を神王の座に据えるため。
すべてが、思い通りに進んだ。
当たり前だ、すべてを知っているのだから。
それが、全知ということなのだから。
しかし。
「あの未完成品が一〇〇日ゲームを勝ち抜くこと――それだけは、わからなかった」
たしかに、自分の神意は、恋子が勝ち抜くことを知っていた。
だが、そうはならなかった。
「……くく」
音もなく、闇が揺れた。笑っているのだ。闇が。初代神王が。
「完成品に完成品は超えられない。だとすれば完成品を超えることができるのは、未完成かもしれんな。……見せてもらうぞ、まだ見ぬ貴様の可能性を。これから、たっぷりとな」
唐突に、明かりが消えた。
しかし動じることもなく、冷ややかな闇はふたたび、平静を取り戻す。
そうあるのが普通だと、知っているかのように。




