表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生神王の後日談  作者: ぺのじ(旧春瀬)
第4章 高校生神王の答え
28/30

高校生神王の告白

「頑張る?」


 恋子はわけがわからないとでもいうかのように、鸚鵡返しする。

 しかし、真希凪まきなの返答は、実に素っ気ない。


「ああ。……そういうわけだから、そういうことで」

「いやいやいや。待ちなさいよ、ひとの本心を聞くだけ聞いておいて、はいおしまいってことはないんじゃない?」

「……そうか?」

「そうよ。……だいたい、頑張る、頑張らないの話でもないでしょうが」

「たしかにそうですね」


 エミステラはニヤニヤと笑みを浮かべながら、さもおかしそうに――なにか、含みのある言い方で。


「真希凪様、ちょうどいい機会ですから、いってしまいましょう」

「エ、エミステラ、おまえな!?」

「え、なに、エミステラさん……まさか、真希凪、あんたっ!?」


 何事かを察したのか、瞬時に恋子は耳の先まで真っ赤になる。


「えーっ、なになに、真希凪、なにをいうつもり? わたし、全然わからないなー?」

「ユミル、おまえまでなにを……っ!?」

「真希凪様、わたくしたち、席をはずしましょうか?」

「そうだね、そうしようか、エミステラさん」


 いつのまにか仲良くなったふたりは、そそくさと林のなかに消えていく。イッカクとライオウが、真希凪にたいして牙を剥くイビツを引きずりながらあとを追う。微笑ましい光景であった――状況が、状況でなければ。

 ポツンと取り残された真希凪と恋子。そんなふたりを笑うかのように、林がさざめき、雲が流れていく。

 視界の右端にあった丸くなった猫のような雲が、視界の左端に消えていくほどの時間が経った。居心地の悪い、一方でこのままこの時間に浸っていたいと思えるような、ぬるま湯のような沈黙。

 やがて真希凪は静かに息を吐き、口を開く。


「そ……その、さ」

「う、うん」


 ふたりの視線は、まるで反発する磁石のようにかみあわない。


「……安心したんだよ、俺」

「え?」


 あんぐりと口を開ける恋子を制するように、真希凪はいう。


「いいたいことはあると思うけど、最後まできいてくれ」

「……うん」


 恋子は静かにうなずく。


「……俺、一〇〇日ゲーム中、ずっとおまえに迷惑をかけてきて。助けられてきた。で、そのきわめつけが、あの最終戦だ。俺、怖かったんだよ――本当は恋子が勝つはずなのに、俺が勝っちまったから」


 恋子が俺のことを、恨んでるんじゃないかって。真希凪はいう。


「だから俺、最初はやりたくなかったんだ。俺が神王の座にいること自体が、おかしいんだから。……でも恋子を見ていると、そんな気にしてないみたいだし、じゃあやってみるかって思ったけど……それはそれで、上手くいかなかった」


 そう口にする真希凪の表情は、どこか晴々としていた。


「だから、安心したんだ――恋子がわざと、負けたんだってわかって」

「……ごめんなさい」


 愁傷に謝罪の言葉を述べる恋子に、真希凪はかぶりを振る。


「べつに、俺を頼ったとかそうじゃないってことくらいわかってる。でも、安心したし……嬉しかったよ。ダメな未完成品だったけど、そんな俺でも、すこしは役に立ったんだって」

「あたし、そんなつもりじゃ――」

「わかってる。でも、いや、だからこそ、俺は神王の座を譲るわけにはいかない」

神王でなくなったら、もう恋子に頼られることは、ないだろうから。


 もちろん、恋子にそんな気持ちはないだろう。しかし自分は、気にしてしまうだろう。自分に神王の重責を肩代わりさせてしまった恋子が、一方的に気にしていたように。


「でも、それじゃあ、また真希凪は傷つくじゃない!」

「大丈夫さ」


 強い言葉だった。さきほどの恋子と同じく。


「たしかに俺は、穴がボコボコあいた未完成品だけど――エミステラがいる。ユミルがいる。ライオウがいる。……そしてなにより、おまえがいる」


 ニカッと笑い、真希凪はいう。


「掛け値なし、初代神王が認めた神王の器の持ち主だぜ? そんなおまえがいてくれれば、俺は実質、真の神王みたいなものさ」

「そんなこと」


 そこまでいって、恋子は口をつぐんだ。

 自分が神王になれば、もうだれも傷つかない。傷ついたとしても、それは自分であって、他人じゃない。真希凪ではない。けど、そうしたらもう、自分の隣りに真希凪はいないかもしれない。たとえ真希凪が傷ついても、真希凪が隣りにいて欲しいと思うのは、自分が真希凪の隣りにいたいと思うのは、わがままだろうか?


「……手伝って、くれるか?」


 わがままだ。わがままに決まっている。――けど。


「まったく」


 真希凪はそれでいいといってくれている。


「結局あんたは、あたしに頼るんじゃない」


 自分を頼りにしていると、いっている。


「……たしかにそうだな」


 けど、一方で。


「でも」


 自分を頼りにしてくれと、いっている。


「頼りにしてるわよ、神王様?」


 それで、じゅうぶんだ。

 ひとりで、傷つくより。ひとりが傷ついて、勝手にもうひとりが、傷つくより。

 ふと、笑みがこぼれる。草原に広がる、花のように。春のように――そして恋子は、勢いよく手を叩く。いつのまにか背後に近寄っていたエミステラたちに、声を張る。


「ほら! あんたたちも、いつまでそこに隠れているのよ! 帰るわよ!」

「げっ、エミステラ、おまえら、向こうに行ってたんじゃないのか!?」

「そんなわけないでしょう」


 悪びれる様子もなくエミステラはいう。


「そんなことより……つまらない男ですね、真希凪様は」

「ほんと。せっかくお膳立てしてあげたのに。ねえ、イッカク?」


 グル、とうなずくイッカク。一方でイビツは、どこか嬉しそうだった。


「……ほんと、あんたたち、仲良くなったわね」


 不満げなふたりと一頭、および満足げな一頭がぞろぞろと丘をのぼっていく様子を、恋子は複雑な面持ちで眺める。しかしその口元には、微笑が携えられていた。

 その微笑みは、不思議と真希凪を勇気づかせた。


「恋子」

「? なに?」

「……あの、さ」


 もしかしたらそれも、真の神王の力によるものだったのかもしれないが――それは、喉もとで引っ掛かっていた言葉を、ほんの少しだけ、引き出した。


「……俺が本当に神王にふさわしい男になるまで、待っててくれ」


 そのときの恋子の表情を、真希凪は一生忘れないだろう。

 水面に投じた石が生む波紋のように、陽だまりにおいた手に広がる暖かさのように、心に染み渡るひとの優しさのように、恋子の顔に、ゆっくりと、笑みが広がっていく。


「……ま、期待しないで待ってるわ」


 そう一言だけ残して、恋子は踵を返し、歩いて行く。

 手を掲げて、真希凪は強く握りしめる。


「……やってやるさ」


 決して届かない空に少しだけ、近づいたような気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ