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高校生神王の後日談  作者: ぺのじ(旧春瀬)
第4章 高校生神王の答え
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高校生神王の問答(2)

「……そんなこと、できるわけないじゃない」


 もう一度、恋子はそう口にした。

 そう――そしてそれが、ライオウが動かなかった理由。

 いうまでもなく、恋子れんことライオウの心は通っている。イッカクよりも、イビツよりも、だれよりも。それこそ、真希凪まきなの立ち入る隙がないほどに。

 そしてそのつながりは、恋子からライオウへの一方的なものではなく、ライオウもまた恋子の心情を理解することができる、双方向的なものであり。

 だからこそ、ライオウは真希凪を迎えに来た。

 だからこそ、ライオウは真希凪を逃がさなかった。

 だからこそ、ライオウは恋子をもまた、逃がさなかった。

 それらはすべて、恋子が深層心理で、願ったことだから。


 真希凪と話したいと――恋子が願ったから。


 そしておそらく、ライオウが真希凪に従ったことも、また、同じ理由なのであって。


「すっかり騙されたぜ――ライオウは最初から、おまえの命令を実行していたんだ」


《選定の儀》において、恋子は望んだのだ。

 真希凪に、天界獣が従いますように、と。

 だから、ライオウがそれを実行した。それだけのことだったのだ。


「恋子、おまえ……知ってたんだろ、自分に、器があるって」


 いつのまにか、エミステラが、ユミルが、イッカクが、イビツが、周りに集まっていた。頭上に広がる空は、いったいどこまで続いているのだろう。


「知っていた……ううん、最初は、予感にすぎなかったわ。バラバラのパズルのピースを見て、完成図を予想するように」


 でも、と恋子は目を伏せる。


「それが、どんどん――ピースを組み立てていくにつれ、確信にかわっていったの。一〇〇日ゲームを勝ち抜くなかで、そして、千代丸との決戦のなかで」


 語尾がかすかに震えていた。


「だからこそあたしは――……」


 真希凪は言葉を継ぐ。


「最後、俺を助けたんだな――そうしなければ、自分が神王になってしまうから」


 コクリと、恋子はうなずく。

 だから最終決戦において、恋子は真希凪を救ったのだ。自分を犠牲にして。

 そうしなければ、真希凪が負け、八千代が負け、恋子が勝つからだ。

 勝ってしまい、神王になってしまうからだ。

 自分が神王になるのではないかという予感があったが――いや、あったからこそ、恋子はそれを断ち切ったのだ。

 それはつまり、恋子は神王になりたくなかったということにほかならず。


「でも、そのせいで……真希凪が、かわりに傷ついちゃった」

「……おまえのせいじゃねーよ」

「ううん、あたしのせい」


 恋子は首を振る。


「天界獣に襲われて傷ついて、天界獣を従えられなくて傷ついて。……そして、自分に神王の器がないことを知って、傷ついた。それは他の誰でもない……まぎれもなく、あたしがつけた傷なの。逃げたあたしのかわりに、真希凪が負った傷なの」


 恋子は笑う。雲のように頼りなく、空のように空虚だった。


「ごめんね、真希凪……あたしが、逃げたから。あたしが、弱かったから」


 恋子の瞳に涙が浮かぶ。それは、あの夜と同じ涙だ。

 だが、すぐに表情を引き締めて、恋子は告げる。


「でも――あたしはもう、逃げない」


 強い目だった。


「それが、あたしが神王になる理由」

「……恋子さん」

「迷惑かけちゃってごめんなさい、エミステラさん、ユミル。けど、もう、大丈夫」


 フン、とライオウが不満げに鼻を鳴らす。恋子はあわてて、


「ごめんごめん、ライオウ、あなたにもお礼をいわないとね。……ありがとう、ライオウ。あなたがいなければ……はは、どうなっていたか、想像もできないわ」


 冷え固まっていた空気が、融解していく。

 みなの顔に笑みが浮かび、頬がほころんでいく。あいだにあったわだかまりは陽だまりのなかで消え失せ、かわりに、新たな新芽が顔をのぞかせる。

 新しい旅立ちがはじまる――というシーンのなかで、真希凪は。


「……おい、ちょっと待て」

「? どうしたのですか、真希凪様」

「お腹でも痛いの? 真希凪」


 エミステラとユミルが交互にいう。


「んなわけあるかあああああああああああああああああああ!」


 真希凪は絶叫が、空に響いた。


「なに、漏らしちゃったの? 真希凪」

「仕方ないですね、真希凪様。早くお尻を出してください――って、だれがベビーシッターもお手の物の年増秘書ですか!」

「だれもそんなこといってねえだろうが!」

「……あんたのほうがうっさいわよ、真希凪」


 恋子が呆れた様子でいう。


「で、なによ」

「なによじゃねーよ。なにおまえ、自分が神王になるつもりでいるんだ?」

「……は?」


 サンタはこの世にいないといわれた子供のように、恋子は目をみはる。


「だれが神王をかわるっていったよ」

「あの……真希凪様?」


 エミステラは眉をひそめる。


「かわらねーぞ、俺は」

「ま、真希凪……? やっぱりお腹が……それとも頭が? たしかに、天界獣と殴りあうだなんて、いまさらだけど、おかしいし……はわわ」


 ユミルはユミルで失礼なことを口にしている。

 しかし、真希凪の答えは、かわらなくて。


「か・わ・ら・ね・え」

「なんでよ!」


 間髪を挟まず、恋子は吠える。


「いまの流れ、完璧にあたしに譲る流れだったでしょう!?」

「流れに流されているようじゃ、いい神王にはなれないぞ、恋子」

「ちょ、ちょっと待って。……どうして? どうして、神王の座を譲らないっていうの?」

「はは、これまでとは立場が逆だな」

「茶化さないで、教えて」

「どーしよっかなー?」

「……ライオウ」


 ズシリと、ライオウがにじり寄る。


「おい、それはズルくないか!?」

「べつに、あたしはなにもしてないけど?」


 恋子を援護するかのように、エミステラとユミルも言葉を添える。


「どのみち、理由をはぐらかすなんてことは許されませんからね?」

「そうだよ、このままだと真希凪、ただのバカってことになっちゃうよ」

「おまえらな……」


 ため息をひとつついて、真希凪はいう。頭を掻きながら、どこか少し、気恥ずかしそうに。


「べつに、なんてことはねえよ……ただちょっと、頑張ってみようと思っただけだ」


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