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高校生神王の後日談  作者: ぺのじ(旧春瀬)
第4章 高校生神王の答え
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高校生神王の神意(2)

 叫ぶと同時に、真希凪まきなの右手の人差し指に、光が小さく弾けた。そのあとに現れたのは、弱々しく、儚げですらある、ロウソクのような光だ。

 しかし、まぎれもない、真希凪の神意である。


「ちいっ!」


《神様のいうとおり》――それは、相手に命令を与え実行させる、絶対的な力。

 もちろん、強力であるぶん、制限もある。相手が実行可能である命令内容であることや、命令内容を口にするあいだ、その指が、相手に触れていなければならないということなどだ。

 しかし、いまならば。

 トン、とイッカクの額に指をあて、真希凪は叫ぶ。


「『眠れ』!」


 刹那、目を覆わんばかりの光が瞬いた。――次の瞬間、崩れ落ちる、イッカクの巨躯。

 イビツは、いま、イッカクになにがおこったかを理解することができたのだろうか。咆哮をあげて翼を広げるも、ユミルの笛の音により脚に力ははいっていない。畳みかけるかのように、笛の音が響き渡る。


「もう一頭も!」

「させない!」


 瞬間、真希凪は横っ面を張られ、吹き飛ぶ。

 なにが起こった? 衝撃を感じる直前、恋子の声が響いた。ならばこれは、恋子がしたもの――《神の見えざる手》だと、脳が警告の声を上げる。


「真希凪!」


 ユミルの注意が逸れる。

 そして恋子は、その隙を逃さない。凛とした声で、命令をくだす。


「イビツ!」


 突然、雷で打たれたかのように、いきりたつイビツ。猪突猛進の勢いで、真希凪に襲いかかる。大地を揺らし、湧きあがってくるその足音に、身がすくむ。


「だから、ダメだって、イビツ!」


 すぐに、ユミルが笛に口を当て、奏でる。

 先ほどの小春日和のような調べとはまたちがう、深遠な森の奥にひっそりと鎮座する、銀色の湖のように静かな曲調だった。その神秘さに、その静謐さに、思わず背筋を伸ばし、息を飲んでしまうかのような、そんな旋律。

 しかし。


「なんで!?」


 ユミルは驚愕をあらわにする。

 イビツはとまらなかった。足音でかき消されてしまっているのかと思ったが、そうではない。恋子の口が斜めになっている――まちがいない、《神の見えざる手》で、イビツの耳を塞いでいるのだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


 イビツが頭を振るう。

 ただでさえねじくれたイビツの角が、さらにねじ曲がり、真希凪に向かって、放射状に拡散していく。呪われた茨のように刺々しく、地獄の津波のようにまがまがしい。

 逃げられない。


「なら!」


 光を宿した人差し指をかざし、タイミングをあわせる。


「《曲がれ》!」


 ふたたび、閃光がほとばしる。

 次の瞬間、真希凪に向かって真っすぐに伸びてきた角は一様に右下へと逸れ、かわりに、地面を抉った。観衆たちのあいだから、短い叫びがあがった。


「へえ」


 恋子は目をみはる。


「スピードはすさまじいけどな。でも、これくらいのことができないと、とてもじゃないけど《一〇〇日ゲーム》は勝ち抜けなかったぜ?」


 イビツは焦った様子で、頭を揺らす。しかし、丘の大地に深く、複雑に刺さった角は、そう簡単に抜けないにちがいない。

 恋子も同じことを考えたのだろう。


「イッカク! いつまで寝ているの!」


 恋子が一喝すると、イッカクは弾かれたように跳ね起きた。

 真希凪は舌を打つ。短時間のあいだに、同一の対象を相手とした場合、《神様のいうとおり》は一回しか使えない。「眠れ」では、ふじゅうぶんだったかもしれない。

 ユミルの笛も、意味をなさないだろう。目には見えないがイッカクの耳には、すでに恋子の《見えざる手》が伸び、覆っているだろうからだ。

 イビツよりも一回りは体の大きいイッカクが、迫る。その様子はまるで、重戦車のよう。風を切り、土を巻きあげ、歯のあいだから唸り声が漏れ出していた。

 両手をぶつあわせると、甲高くも鈍い、金属音が鳴り響いた。腕の先の体毛が、硬質化しているのだろう、火花のきらめきが残滓した。

 そこに舞い踊りあらわれる、ひとつの影。


「させません!」


 キィンと、鋭い音が鳴り響いた。

 のけぞるイッカクの体を追うように、銀の閃きが走る。けたたましい金属音と火花を散らして、エミステラの細身剣がイッカクに炸裂した。流れるような一連の攻撃の美しさに、真希凪は目を奪われる。


「大丈夫ですか、真希凪様」

「……ありがとう、助かった」

「礼には及びません。ベテランの技をなめないでください――って、だれが年増ですか!」

「だれもいってねえよそんなこと!」


 ずいぶんと悪質な言いがかりだった。


「お説教はあとでです!」


 エミステラはふたたび細身剣を構え、いう。


「だから――」

「ですので、ここはわたくしに任せ、恋子さんのところへ!」

「――っ! ……任せた!」


 イッカクと激しい打ち合いを繰り返すエミステラを尻目に、真希凪は丘を駆けあがる。

 視界が開けた。一面に広がる青空は澄みきっていて、地上のいざこざなど気にも留めないかのように、白い雲が流れていた。

 真希凪はほんの一瞬、目を、心を奪われる。


「……なかなかやるじゃない」


 真希凪はハッと顔をおろすと、口を斜めにした恋子がいた。


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