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高校生神王の後日談  作者: ぺのじ(旧春瀬)
第4章 高校生神王の答え
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高校生神王の傷心(2)

「いや、そうはいっておりません。もちろん可能性のひとつとしてはあるでしょうが、全知――すなわち《神のみぞ知る》は、初代神王様の神意であり、恋子さんの神意ではないですから」

「じゃあ、なんで恋子れんこは、そんなことを……」

「わかりません」


 エミステラは告げる。


「しかし、わからないからこそ、知りたいとは思いませんか?」


 真希凪まきなの頬がピクリと反応する。しかし、その答えは、かわらなかった。


「……《披露の儀》には行かねえ。だって、あいつのほうが神王として適切だってことは、エミステラにもわかってるだろう?」

「一〇〇歩譲って、そうだとしましょう。……ですが、だからといって、恋子さんの本当の気持ちを知らなくていいことには、繋がらないのではないのですか?」

「…………」


 たしかにそうだ。

 初代神王の言葉を借りるのならば、恋子こそが「完成品」だ。そして真希凪は、「未完成品」。そこに疑いはない。

 しかしなぜ、完成品がしかるべき場所におさまらず、未完成品がとってかわるようなことが、起こってしまったのだろうか?


「行きましょう、真希凪様。いまからでも、間に合います」

「……嘘つけ。《披露の儀》は、一〇時からだっていってたろ」


 部屋の壁に掛けられた時計は、九時五〇分を示していた。


「いまから天界に転送して、さらに《披露の儀》の場に移動するだけでも、一〇分は掛かる。……第一、披露するライオウ――天界獣だって、いないじゃねーか」

「それは、わかっています」


 エミステラは凛とした声を響かせ、いう。


「わたくしが間に合うといっているのは、恋子さんの本音を知ることです」

「――っ」

「真希凪様」


 エミステラの目に、言葉に、力が入る。気圧される。そしていよいよ、こらえきれなくなった想いが、堰をきったようにあふれでる。


「……だから、さっきからいってるだろ! あいつの――恋子の本音は、もうわかっているって! おまえもわかってるだろ!?」


 しかし、エミステラは、ひたすらに、冷静で。


「……本当にそう思っているのですか?」

「……どういうことだよ」

「真希凪様もわかっているはずでしょう――本当に恋子さんがクーデターを企てているのなら、あの夜、真希凪様の目のまえに現れる必要はなかったということに」

「それは」


 それは、真希凪も気になっていたことだ。

 気になってはいたものの、目を逸らしていたことだ。

 エミステラのいうとおりだ。本当ならば、《披露の儀》に突然、現れてみせればいいのだ。天界獣を二頭、引き連れて。さらにその場で真希凪からライオウを奪えば、いうことはないはず。民衆たちはみな、恋子が真の神王だと納得するだろう。

 だが、恋子は、そのまえに、真希凪のまえに姿を現した。


「……おおかた、俺の心を折ろうと思ったんだろう。事実、バッキバキだ」

「それは、なんのためにだと、お考えで?」


 真希凪は言いよどむ。思いつかなかったからではない。


「たしかに、真希凪様の心は粉砕され、強風で吹き飛ばされ、もはや見る影もありません。しかし、それは《披露の儀》でも同じこと――いえ、むしろ、さらに大ダメージでしょう。《披露の儀》で同じことをしたほうが、民衆は納得するでしょうに」


 エミステラは続ける。真希凪がすでに考えたことを。


「そういう意味では、恋子さんは、真希凪様がどうせダメージを負うのなら、それを必要最低限に済ませた、というふうに考えることはできないでしょうか?」

「……それをいうなら、あいつが俺にとってかわらなければよかっただろう」

「ですがあのときすでに、真希凪様は知っていましたよね――恋子さんこそが、真の神王となるべき方だと。そして、恋子さんにかわってもらうつもりだと、口にしていたではありませんか」

「……それは」


 真希凪は言葉につまる。非の打ちようのないどころか、それはすでに、真希凪自身も、考え、悩んでいたことだからだ。

 恋子はどうして、あの夜、自分のまえに姿を現したのか。


「……あいつにも、それくらいの情はあったってことだろう」

「しかし、恋子さんはまるで、非情に、無情に、同情の余地もないかのように、振る舞った」


 そうだ。あのときの恋子は、冷血で、冷徹で、怜悧だった。


「……おかしいとは思いませんか? 恋子さんが神王になったところで、問題はないはずです。おふたりは、あの一〇〇日ゲームをともに勝ち抜いた、仲間なのでしょう?」

「……仲間」

「話せばわかるはずのことです。たしかに、残念なことではあると思います。しかし、だからといって、それくらいのことで、おふたりの関係は途切れてしまうものではないはずです!」


 必死の叫びだった。それは、真希凪の心の琴線に触れ、かすかに震わせた。


「……つまり、エミステラ。おまえがいいたいことは」


 恋子は、話さない――もしくは話せない、理由があった?


「はい、おそらく」


 と、エミステラは首肯する。


「…………」


 どれくらいの時間が経っただろう。

 おそらく、そう長い時間ではないはずだ。沈黙が部屋を満たし、そして、また部屋の隙間から、ゆっくりと抜けていき、抜けきるまでの、そんな時間。

 ふと、真希凪はつぶやいた。


「エミステラ」

「はい」

「……俺を殴れ」

「……はい」


 次の瞬間、真希凪の頬にエミステラの渾身の鉄拳が叩き込まれる。

 静寂に満ちていた部屋が一転、騒々しい音が響く。壁に打たれた腰をさすりつつ、真希凪は立ちあがる。口を斜めにして、いう。


「……遠慮がねえな」

「これでもしたつもりですが」


 エミステラはニコリともせずにいう。どうやら、本気で怒っていたようだ。


「悪い、エミステラ――前言撤回だ」

「真希凪様」

「俺、逃げてたよ。知ることから、逃げてた。初代神王から結果だけを知らされて、知るっていうことを避けていたんだ」


 そして、真希凪はいう。


「《披露の儀》に行くぞ。俺はまだ、知らなければならないことが、あるみたいだ」


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