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高校生神王の後日談  作者: ぺのじ(旧春瀬)
第3章 高校生神王の真実
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高校生神王の真実

「勝ち抜くはずじゃなかったって……どういうことだよ」


 天界城の最深部――なのだろうか、ここは。

 少なくとも先ほどまでは、階段をくだり、地下に潜っていたはずだ。しかしいまや、おりてきたはずの階段はない。四方を壁に囲まれた、謁見の間。扉はない。

 真希凪まきなは奇妙な圧迫感を覚えつつも、初代神王から視線を逸らそうとはしなかった。


「言葉通りの意味だ。おまえは一〇〇日ゲームの勝者になるはずではなかった」


 一〇〇日ゲームの勝者になるはずではなかった。

 それはつまり、神王になるはずではなかった、ということ。

 それならば、真希凪に神王の器がなかったこともうなずける。

 うなずけるが。


「……なんで」


 納得は、できなかった。


「なんで、そう言いきれるんだよ!」

「……やれやれ」


 初代神王の左目――もちろんいまは空白だが――に、妖光が灯った。


「おまえはもうわかっているだろう、知っているだろう。わたしの神意を」


 紫色の焔が、真希凪の姿をとらえる。

 初代神王は、真希凪の思考を読んだのだ――ならば、答えはひとつしかない。


「……全知」


 真希凪の思考も、一〇〇日ゲームの未来も。

 初代神王は、その空っぽの空洞に浮かぶ炎で、すべてを見通し――知っている。


「その通り」


 初代神王は鷹揚にうなずく。


「わたしの神意は――『神のみぞ知る』」


 だとすれば、導かれる結論も、またひとつ。


「つまりおまえは……一〇〇日ゲームの勝者を、知っていた?」

「そういうことだ」


 真希凪は問う。全知でない自分がすべてを知るには、それしかできないから。


「……だれなんだ、勝つはずだった一〇〇日ゲームの勝者は」


 しかし初代神王は、ゆっくりとかぶりを振る。


「それは全知ではない、むしろ無知ともいえるおまえでも知っていることだ」

「……まさか」


 真希凪はつぶやく。最終決戦で戦った、あの男。あいつが、まさか。

 しかし、初代神王はなにもいわない。ただゆっくりと、諭すかのように、いう。


「……思い出せ、一〇〇日ゲームの最終決戦で、なにが起こったかを」


 ――紫炎が激しく明滅した。


 ◇ ◆ ◇


「……いよいよね」


 真希凪のとなりで、恋子がつぶやいた。いつになく真剣なまなざしだった。いや、もしかしたらこれが、恋子の本当の顔なのかもしれない。


「ああ」


 真希凪もうなずく。


千世丸八千代ちよまるやちよ――あいつが、この先にいる」


 場所は、北海道。

 緑と、かすかな白のまだら模様が、眼前に広がっていた。三月の終わりとはいえいまだ肌寒い風が、ふたりの頬を撫でた。それはまるで、八千代が離れたところからふたりを誘っているかのようだ。


「長かったゲームも、ついに終わるのね」

「ああ、終わるさ。たとえそれが、どんな結末であれ」

「勝てるかしら? あたしたち」

「さあな。それはまさに、神のみぞ知る、ってところだ」


 その答えを皮切りに、恋子が《神の見えざる手》を発動する。真希凪の体が包まれる。これで八千代は、恋子の姿しかとらえることができなくなった。もちろん、恋子の能力は知っているから、真希凪が隠れている可能性もあるとわかっているだろう。しかし、重要なことは八千代がそれを判断することはできないということだ。

 真希凪の体がふわりと浮いた。恋子が跳んだのだ。


「ねえ、真希凪。この一〇〇日ゲームに勝ったら、本当に神王になれるのかしら?」


 リズムよく体が上下する感覚を楽しんでいる真希凪に、恋子の声が届く。


「なんだよ、恋子。おまえ、神王になりたいのか?」

「そういうわけじゃなくて。……ただ、気になったから」

「うーん、これでなれなかったら、むしろ面白いけどな」

「面白いって、あんた」


 呆れた声を出す恋子。


「面白いは冗談だけど、正直なところ、神王なんて嘘でしたー、のほうが俺はいいけどな」

「なんでよ」

「だってそうじゃないか? 俺たちはいまから千代丸を倒さないといけないけど、倒したら倒したで俺たちのどっちかが神王になるってことじゃねーか。少なくとも俺には、荷が重いよ」

「……あんたって本当にバカね。もし勝者が神王にならないっていうのなら、千代丸が勝っても神王にならないんだから、べつにいいじゃない」

「……たしかに!」

「……はあ。どちらにせよ、あんたが神王になっちゃ困るわね」


 恋子の困り口調に、真希凪は笑みがこぼれる。


「はは、そうだな。もし千代丸に勝ったら、恋子が神王だな」

「それであんたはあたしの奴隷ね」

「おまえ、そんなこといってもし逆の立場になったとき、ほえ面かくなよ?」

「ふん、そのときは、精々噛みついてやるわ……よっ!」


 そして、恋子の強烈なひとっ跳び。

 一瞬、体が重力の鎖から解き放たれるのを感じるも、またすぐに真希凪たちの脚をとらえ、からみつき、引きずりおろす。

 そのさきには、八千代がいる。


「……作戦は?」


 髪を逆立てながら、風に顔をしかめながら、恋子は尋ねる。


「いつも通りだ。おまえが俺を隠して、俺が神意を当てる。それで終わりだ」

「あいかわらず、すさまじい神意ね」

「見えざる手がないと使い物にならない神意さ」


 視界が目まぐるしい速度で、うしろへと流れていく。


「そういう意味では、俺はおまえと組めてよかったよ」

「そういう意味では、ね。……本当に、あんたは」


 恋子は悲しいような、諦めたかのような、しかしどこかおかしげに笑い、


「――っ!」


 ドン! という音をあたりに響かせ、着地する。

土煙が立ち込めるが、長居はしない。強い風に運ばれ、霧散していく。

そして、そこには――八千代がいた。

 男にしては長めの髪。左目は隠れ、クリクリとした右目だけがのぞいている。身長は小学生といっても差支えないほど。そして事実、八千代は中学生――中学一年生だ。

 口元に、年齢にふさわしくない、邪悪な笑みを携え、八千代はいう。


「やあやあ、おふたりさん。最終決戦まえ、最後の会話は終わったかな?」


 騙されてはいけない。いまの八千代に、自分まきなの姿は捉えられていないのだ。


「さて、どうかしら? 実はもう、あんたのうしろにあたしの手が忍び寄っているかもしれないけど?」

「それはないね」


 八千代は一蹴する。


「少なくとも、水星の手の一本は浅葱を守るために使われてるよ。そうでないと、浅葱はこの地に来ていないということになる――事実、あいつは戦力不足だけど」

「…………」

「でもそうだな、浅葱がこの場にきていないというのなら、話が早い。水星、これは僕からの提案なんだけど――僕と組まないか?」

「お断りよ」


 恋子は即答する。


「なんで」

「なんでも」

「……聡明なきみらしくもないね。もう少し考えたらどうだい」


 つまらなそうに、八千代はいう。そういった反応のひとつひとつは、まだ幼い中学一年生、そのものだった。

 そんな八千代を、ゆっくりと、諭すかのように、


「よく考えてのことよ。……だいたいあんたこそ、本当によく考えたの? あんたは本当に、この戦いに勝てば、神王とやらになれると思ってるの?」

「思ってるさ。……いや、そんな言い方は適切じゃないな、なれると思ってるんじゃない、なれるんだ」

「へえ、自信満々ね。……根拠は?」

「――水星はリンゴを知っているかい?」

「は?」


 唐突過ぎる問い掛けに、思わず恋子は面を食らう。だが八千代は、そんな恋子の反応を楽しむかのように、気軽な様子で、続ける。


「リンゴだよ、リンゴ。たぶんだけど、知っているよね。ならばきみはどうやってリンゴを、リンゴと認識している? 赤いところか? 丸いところか? ……断言はできないはずだ。しかし、知っている。それと似たようなものだ」


 つまり、と、八千代は一拍置いて。


「抽象的に、理解しているんだよ、僕は。――いや、正確にいえば、僕たちは、だ。……そうだろう? 水星」

「……普段からなにをいっているかよくわからないやつだったけど、あんた、それ以上にわけわかんなくなってるわよ」


 八千代は肩をすくめる。


「まあいいさ。……それで? 仲間になるって話は?」

「却下」

「まったく、強情だねえ。でもその情も、わからなくもない。だって、この一〇〇日間を、きみは浅葱を過ごしてきたんだからね。義理か人情かはわからないけど、そういうものもあってもいいはずだ」

「あら。さすが、神王になるやつは寛容で、寛大だわ」

「だから……実力行使でいくよ――《だるまさんがころんだ》」



 ――勝った。

 真希凪は確信した。

 千代丸の注意は完全に自分へと向いている。

 千代丸の攻撃も、また自分へと向いている。

 だから、千代丸は気づいていない。

 だから、千代丸は知らない。

 いま千代丸に、恋子の《神の見えざる手》が伸びていることを。

 ゆえに、勝った。

 恋子は勝つ。

 恋子が勝てばそれは、自分も勝つということだ――もっとも、いま現在の状況として、自分は千代丸の攻撃を受け、負けることにはなるが。


「それでも……勝ちは勝ちだ――って」


 突然の、浮遊感。

 真希凪は一瞬、なにが起こったか理解できなくなる。天国はこんなところなのだとすら、思ったほどだ。

 しかしそこは、天国ではない。

 ただ高く、ひたすらに高く、真希凪は宙に放られただけだ――恋子の見えざる手によって。

 恋子の、本来ならば千代丸にトドメをさしているべき、見えざる手によって。


「なん……でだ」


 呻き声がもれる。

 そしてその呻き声は、すぐに呻きにかわる。


「恋……子っ!」


 恋子は、真希凪の眼前で、眼下で、ふわりと笑った。

 鬼気迫る表情の千代丸の《だるまさんがころんだ》を、一身に受けつつ。

 恋子の体が光った。金色のシャボン玉に包まれ、空へと吸い込まれていく――恋子は、負けたのだ。自分をかばって。かばう必要なんて、なかったのに。


「!」


 千代丸が天をにらむ。真希凪をにらむ。手をかざす。神意が光る。


「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 真希凪が地に叫ぶ。千代丸に叫ぶ。指を突きだす。神意が光る。


「――神意!」


 光と光が交錯する。

 光は闇を呼び、闇はさらに光を求める。

 すべての光が拡散し、すべてが光に収斂した――その後。


 真希凪は、一〇〇日ゲームに勝利した。


 ◇ ◆ ◇


「まさか」


 それは、何度目の「まさか」だっただろう。


「そうだ」


 それは、何度目の肯定だっただろう。

 だが、それももう、終わりだ。

 なぜなら――すべての謎が、解けたのだから。


「一〇〇日ゲームの真の勝者は――」


 真希凪は息を飲む。

 エミステラの頬を汗が伝う。

 初代神王が告げる。


「水星恋子」


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