高校生神王の謁見
「……初代神王って、まだ生きてたんだな」
天界城の奥深くへと続く階段を下りながら、真希凪はだれともなしにつぶやいた。四方を壁に囲まれていながら、そのつぶやきが反響することはない。それくらい、地下はだだっ広く、そして空虚だった。
天界城の地下にこんな空間があることを、真希凪は知らなかった。まだまだ自分には知らないことがたくさんあるのだ。そしてまた、これから向かう先で、自分はまた知らないことを知るのだろう――そんな予感がした。
「念のため聞くけど、先代じゃなくて、初代……だよな?」
「初代神王様です。先代神王様は、その任期を全うされました」
「任期って」
「一〇〇年です」
「ひゃく……? 先代は、人間じゃないのか?」
「……そのあたりについては、初代神王様から直々に説明があるはずです」
そういって、エミステラはふたたび前を向いた。エミステラがこういったら、そうなのだろう。しかし、先代神王が一〇〇年の任期を全うし、またそのさらにまえの神王も同様に任期を全うしているのだとしたら、これから会う初代神王は、いったい何歳になるのだろう?
そういえば、と真希凪。
「エミステラは、二〇〇歳……なんだっけ? それって天界でいうと、どれくらいなんだ?」
「そうですね、人間界の基準で、成人して少し経ったくらいだと考えてもらって構いません」
「なるほど」
だいたい、一〇倍くらいということか。ならば天界での一〇〇年は、人間界での一〇年。たしかに任期としては長いが、天界の長い寿命を考えると、妥当なのかもしれない。
ただしそれは、神王が天界人であれば、の話だ。
当たり前だが、自分に一〇〇年の任期を全うすることはできない――たぶん。
ならば、一〇〇年の任期をまっとうした先代神王は、天界人なのだろうか?
そんなことはない。真希凪が神王となるきっかけとなった、一〇〇日ゲーム。これはなにも、真希凪の代からはじまったということはないだろう。エミステラの口振りでも、もっとまえからあったということだ。
真希凪と同じように、先代神王は人間界から選ばれたと考えるのが、順当だろう。
「けど、それだと辻褄があわないな」
初代神王は人間界から選ばれた。ならば当然、初代神王は人間だ。それなのに、一〇〇年という人間ではとうてい不可能な任期をまっとうしている。――そういう意味での、辻褄があわない、という発言だったのだが。
「……なにがでしょうか?」
「ん?」
「なんの辻褄があわないというのでしょうか?」
「え、エミステラ?」
「もしかしてその辻褄というのは、わたくしの容貌と、わたくしの年齢が釣り合わないという意味での、辻褄でしょうか?」
「ま、待て、だれもそんなこと――」
「つまり、真希凪様は、わたくしが、と、とと、年増だと――」
「落ち着け! だれもそんなこといってないだろ!? だいたいエミステラはべつに、と、年増なんかじゃないっつーの! 二〇〇歳には見えないって、本当!」
「それは、平均寿命が八〇歳の真希凪様たちからみれば、二〇〇歳には見えないのは当たり前だと思いますが……」
エミステラは唇を尖らせる。拗ねているのだろうか。拗ねる二〇〇歳……いや、二〇歳。しかし実際のところ、エミステラは(人間基準で)三〇とはいかないまでも、二五、六だと思っていたので、少なからず驚いていた、そんなときだった。
『ほう、エミステラ。どうやらこの男は、おまえのことを三十路間近だと思っていたようだぞ。アラサーというやつだ』
「なっ、そうなんですか、真希凪様!?」
「えっ? い、いや、三〇とまでは思ってない、ただ、二五、六くらいかな――、と。……って、あ」
失言だと気づいたときには、もう遅かった。エミステラは耳まで真っ赤に染め上げ、潤んだ瞳で真希凪を睨みつける。
「ひ、ひひひ、酷いです真希凪様! 口では都合の良いことをいいつつ、内心ではわたくしを貶め、乏しめ、しめしめとほくそ笑んでいたとは……っ!」
「微妙に韻を踏まなくていいから! っていうか、そうじゃなくて!」
「問答無用です!」
腰にさげていた鞘からサーベルを抜きだし、真希凪に襲いかかるエミステラ。一撃、二撃とかわすが、足場の悪い階段だ。そう長くはかわせないだろう。
「まて、こんな狭い階段で暴れたら――ライオウ!」
間一髪だった。
後方から雷光のように飛来したライオウの爪に捕まり、エミステラのサーベルの切っ先が真希凪のいたところを通過するよりまえに、真希凪は空中へ躍り出た。
「あ、コラッ! 真希凪様! 飛ぶのはズルいですよ!?」
「あっぶねー……。それになんだよ、ズルいって……。助かったぜ、ライオウ。どうせならこのまま、最深部まで飛んでくれるか? もう歩くの疲れちまった。……それに」
真希凪は真っ黒な虚空をキョロキョロと見渡す。
「なんだったんだ、さっきのは。空耳じゃないよな、エミステラも聞こえてたし……。それにあの声、まさか俺の考えを……?」
『その通りだ』
ふたたび、辺りに男の声が木霊した。それは足元から湧き上がるかのようでもあり、頭上から降り注ぐかのようでもある。四方八方から伝わって来るかのようであり、真希凪の頭のなかに直接届くかのようでもあった。
「……まさか」
『ふむ、未完成品にしては察しが早い』
やはり、声の主は自分の思考を読んでいる。
そんなことができるのは、ただひとり。
『そう――わたしが、初代神王だ』
エミステラの年齢、300から200に変更しました。深い意味はありません。たんにわかりやすいかな、というだけです。




