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高校生神王の後日談  作者: ぺのじ(旧春瀬)
第2章 高校生神王の器
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高校生神王の決意(2)

 再三にわたり振り返るユミルにかわらず笑顔で応え、見送ると、真希凪まきなはすぐに真剣な表情を取り戻した。踵を返し、風に波打つ夜の草原へと、足を踏み出す。


「……よし」


 不審者を警戒する、天界獣たち。

 彼らの警戒心をなだめてくれたユミルはいない。せめて、自分の顔を覚えていて欲しいものだが、どうだろうか。


「用があるのは、一頭だけだ」


 声の震えを誤魔化すように大声で、真希凪はいう。伝わったかはわからない。しかし、すぐに襲ってくる様子もない。真希凪は大きく息を吸うと、毅然とした面持ちで天界獣たちの群れのなかへと進んでいく。

 鼻が利くのだろうか。それとも、夜目が利くのだろうか。真希凪は数十の視線を感じながら、なおも注意深く周囲を改めながら、歩みを進める。


「……見つけたぜ」


 そいつは、天界獣の群れのなかでも少し離れたところにいた。

 巨大な天界獣の集団のなかでもかわらず目を引く、その巨躯。大きな屋根を思わせる翼には、厳重に包帯が巻かれている。そしてなにより凄みを放つ、鬼のような隻眼。

 そう、真希凪の目のまえにいるのは、先日人間界で真希凪を襲った、一頭の天界獣だ。


「よう、久しぶりだな。隻眼の」


 怪訝な視線に、真希凪はせせら笑いで応える。


「おいおい、まさか忘れちまったか? 俺だよ、俺――おまえを痛い目に合わせたやつだよ」


 言葉がわかるのだろうか、真希凪のことに気づいたらしい。


「怪我してるみたいだからどうかと思ったけど、元気そうでなによりだ。ま、その怪我をさせた張本人は、俺らなわけだけど……って、危ねえ!」


 反射的に沈めた頭のすぐうえを、天界獣の強靭な尻尾が通過した。直撃していたら、骨折ですらすまなかったかもしれない。腹のしたに冷やりとしたものを覚える。


「挨拶がわりか? まったく、遠慮がないな。……俺は神王だぞ?」


 恐怖を誤魔化すために真希凪が叩いた軽口に、天界獣はふと動きをとめる。

 そして。


「あっ、このやろう……っ!」


 喉の奥をグッグとならし――そう、笑いはじめたのだ。


「……はは」


 それに対し真希凪は、怒るわけでもなく、ただ、笑った。


「……そうだよな。笑っちゃうよな。俺が神王だなんて、本当に笑えるよな。これが冗談だったら、どんなに良かったことだか。俺にもわかってるんだ、俺に神王とやらの器なんてないってことが。――でも」


 真希凪は手にした棒切れを、構える。

 そういえば、一〇〇日ゲームの最中も、もっとしっかりと自主練をしておけばよかったと後悔したことを思い出す。しかし結局、思ったきりでなにもやってないのだから、つくづく進歩がない。こんなずぼらな人間に、やはり神王なんて似合わない。


「でも、今度からは――いや、明日からはこれを教訓に、自主練でもするかな。……五体満足だったら、だけど」


 神王としてでなく、天界を守るためでもなく、身近なだれかを守れるように。

 真希凪の雰囲気がかわったのを察知したのだろう。天界獣は喉の奥で地響きのような唸り声を鳴らすと、威嚇するかのように翼をばさりと広げた。

 周囲の天界獣がなにやら慌てた様子で離れていく。どうやらこの天界獣は、仲間内でも一目置かれているようだ。もしかしたらたんに乱暴者の、嫌われ者かもしれないが。


「へえ、やる気はじゅうぶん、ってか」


 天に向かって咆哮する天界獣。夜の静かな大気がピリピリと震える。風がざわめき、雲が揺らいだ。遠くの山々は我関せずというかのよう動じず、しかし身を寄せ合う。月が一際強く輝くと、天界獣の真白な体毛は白銀に煌めいた。一本一本が、呼吸するかのように、意思を持つかのように、震え、揺らぎ、たゆたう。

 その光景に、真希凪は思わず息を呑む。

 燐光をまとう天界獣は、幻想的で、神格的な荘厳さすら放っていた。

 地上に舞い降りた月の使者とも思えるその姿はまさに、神王の従者に相応しい――真希凪は、そう思った。

 自分ごときが立ち向かうことはできない。

 自分ごときが太刀打ちできる相手ではない。

 しかし、真希凪は退かない。

 退くわけにはいかない。

 ここで退いたら、自分は、自分よりも小さな羨望のまなざしすら、失うことになる。


「……それは、ダメだ」


 神王でありたいとは思わない。

 神王を見る視線なんて、窮屈でしかない。

 しかし。


「俺を見てくれる想いを……裏切るなんて、ダメだ」


 だから自分は、神王になろう。

 たとえ自分に、神王としての器がなくても。


「だから」


 せめて自分は、神王になろう。

 たとえ自分が、真の神王になれないのだとしても。


「おまえの背中、どうしても乗らせてもらうぞおおおおおおおおっ!」


 月だけが、ひとりと一頭の戦いを、見下ろしていた。


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