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第七話 自然の摂理(狩り編 第一部)

私は歩いた。

黒い服を靡かせながらゆっくりと、ゆっくりと歩む私の手には黒い刀が握られている。

私は歩いた。

何日も、何年も、何百年も、刀は私と共にあった。

刀と私は一心同体。なんとなく、直感でそれが分かった。

私は歩いた。

私の運命を狂わした、あの化け物を、私の手で殺す為に。

歩いて歩いてやがて、辿り着いた場所は、私立條崇寺高校と書かれた大きな大きな建築物の前だった。

「ここにもいない。」

月明かりに照らされた影が不自然に蠢く、まるで、私の気持ちを代弁するかの様に。

「さて、次は何処に行こうかな。」

小さな町でも、まだ調べていない所は沢山ある。

私は歩く。

あの日、村を焼いた刀を探す為に…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「黒部さん…。」

「何だ?」

「凄く眠いです…。」

「おいおい、まだ0時になってないぜ?」

午後十一時三十分、今僕と黒部さんは私立條崇寺高校の第一グラウンドにいる。

昨日、僕達の所に届いた手紙の指定場所。

僕は昼の時間帯にここに来ている分、複雑な気持ちになっていた。

「坊主、昼間見た時は何もなかったんだな?」

「ええ、今広がっている光景の様に地面しか有りませんでした。」

「そうか。ならそろそろ、憑依して他の参加者を待ちますかね。」

「もう憑依するんですか?」

「ああ。この仕事が終わった後に襲撃されたいなら話は別だが。」

なるほど、憑依する前の姿を見られない様にする為か。確かに、黒部さんみたいにすぐ襲ってくる奴がいないとは限らないからなあ。

「おい。今、なんかいらん事を考えなかったか?」

「考えてません。でも、黒部さんの憑依は翼だけですよね?それじゃあ意味無いんじゃないですか?」

「心配は要らねえよ。今回は烏天狗も気を利かせてくれるだろ。」

頭に?マークを浮かばせた僕を無視して黒部さんが憑依を始める。

鴉が背中へと入り翼が生える。ここまではいつも通りだ。

だが、ここからもう一つ変化が起こった。

翼が黒部さんの体全体を包むように隠していく。翼はすぐ開いたが、いつも黒部さんが着ていた黒を基調とした服は何処かに消え、代わりに山伏の服へと変わり、髪がオールバックの様になっていた。

「はは!どうした坊主。鳩が豆鉄砲を食らった顔してるぜ。」

「本当に黒部さんですか?」

「おう。だが坊主、黒部さんってのはここではいけねえな。せめて鴉とかって呼んでくれ。名前も充分プライバシーだからな。」

「わ、わかりました。」

そう答えた僕もコンとコルに憑依してもらう為二人に向き合う。

「それじゃあ、よろしく頼むよ。」

「わかりました。」

「ご主人様の仰せのままに。」

いつにもまして真剣な二人を見て安心感を得る。

コンとコルは光の玉となって僕の中へと入り、俺への憑依を完了させた。

「んで、鴉。他の参加者ってのは時間にルーズな奴しかいないのか?」

話している内に時間は十一時五十分になっている。

三十分前位が普通だと言うのに、これではほとんどの人間が遅刻ではないか。

「ルーズって言うより、俺達が早過ぎたんだよ。本来なら俺だって一時間は遅れて行くぐらいだからな。」

「じゃあなんで今回は遅刻しなかったんだ?」

「狐が眠そうにしてたんでな。早めに行った方が参加者も一から見れるし、良い事尽くしだろ?」

その狐ってのは俺か?それともコンとコルか?と聞きたくなるがここは我慢する。

眠かったのは事実だしな。

「見な。初の他参加者だぜ。」

鴉が指差す方を見てみると、確かに人がいる。

140あるかないかギリギリの身長、無表情でも10人中9人がかわいいと言うだろう顔、髪は肩の辺りでバッサリと切られており…

「て言うか土花じゃねえか‼」

「あっ、本当だ。」

本当だ、じゃねえ。何で気づかねえんだよ。仮にも屋敷に住まわせてくれた恩人なのに。

「あっ、赤原さん。奇遇ですね。」

「奇遇で済むかよ。何でいるんだ?」

「何故って。私にも手紙が来ていたんですよ。それ以外に理由がありますか?」

いや、ないだろうな。だが、まだ理解出来ない事がある。

「お前、憑依出来るのか?お前が憑依した所見た事無いんだが。」

俺の質問に土花は少しがっかりした様な顔で答えてくる。

「出来るわけないじゃないですか。私は刀とまともにコミュニケーションをとれていないんですよ?どうやって憑依させるんです?」

「そんな堂々と答える事か⁉」

何で来たんだこの中学生…

「嬢ちゃん、憑依出来ないんならここに来るべきじゃねえよ。死ぬだけに終わるぜ?」

「そんな事は分かっています。でも、もし二人でも勝てない相手が今回の依頼だったらどうするんですか?」

俺達に勝てない様な相手なら土花でも勝てないと思うけど…

「私一人なら確かに無理です。でも三人ならいけるんじゃないですか?」

俺の顔を見ながら話す土花の言葉は何故か力強さを感じさせられた。

「赤原さん、私言いましたよね。もう自分の命を軽んじないと。この行動は命を軽んじてではないと言う事を理解して下さい。」

ここまで言われてはもう俺に出せる手札は、無かった…。

土花や鴉(土花の呼び方も変えようと言ったのだが、別に良いと一蹴されてしまった。)と話している内に時計は午前一時を指し、それまでに来た他参加者は僅か12人だった。

「12…今回は少ないな。」

「そうなのか?鴉。」

「ああ。俺達を入れても15人。これは元々招待状自体が少なかったか、あるいはビビって逃げたか、最悪依頼を受ける前に殺られたかのどれかだな。」

最後のはお前がやっていた手法だがな。と突っ込みたいが、これも我慢する。

突っ込みを喉元で抑え込んでいると、学校の外に設置してあるスピーカーから壮年と思われる男の声が聞こえてきた。

『招待に応じし狩人達よ。今宵はよくぞ参上した。今宵の期間は三日間、それまでに一匹の妖怪を処理して貰いたい。連絡は以上、三日後を楽しみにしている。』

それ以降スピーカーが音を発する事は無く、他の参加者達は各々好きな方へと俺達を無視して散って行ってしまった。

「さて、坊主達はどうする?」

「どうするとはどう言う事ですか?」

「そのままの意味だ。期間は三日間、いますぐ動く必要は無い。明日の夜から動くのもありだぜ?」

「何だよ鴉。珍しく俺達に気を遣いやがって。心配するな。土花が来たお陰で眠気は綺麗さっぱり消えた。」

「つまり?」

「さあ、愉しい妖怪狩りの始まりだ!」

俺達三人は学校を出て、取り敢えず町の中心を目指して歩き出した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

歩き疲れた。

私はベンチの上で一休み。

いくら何百年も歩いたからってたった10歳の体で疲れない訳が無い。

常に最高の体調を維持しなければあの化け物には勝てないだろう。

「おい。」

何だろう?私に話しかけるだなんて普通の人間ではない。第一、小さな町ではこんな時間まで出歩く人間すら珍しいだろう。

私はベンチに座りながら話しかけてきた人間に視線を向ける。

そこには何やら白い翼を生やした白い髪の青年が立っていた。

「あら、あなた人間ではないのですか?」

翼の生えた生身の人間なんているはずがない。となると、私と同じなのかしら?

「お前が、依頼のあった妖怪だな。」

青年は一歩、私に近付いて来る。

その手に白い刀を握りながら。

「おやおや、物騒な物をお持ちですね?あなたは私と同じなのですか?」

「同じ?ふざけるな!俺が妖怪な訳ないだろう!お前達なんかと一緒にするな!」

いきなり叫び出した青年を無視して再び休憩へと入る私。

私と同じではなかった。つまり同志ではなかった。その事実だけでもう興味が失せたのだ。

青年はそれを見て、より怒りを募らせた様だ。

「とにかく、お前を殺せばこの依頼も終わる。俺が一人で終わらせてやるぜ!」

「一歩。」

「は?」

「あなたが一歩私に近付いたら、あなたは死にます。それでも良いならどうぞ近付いて下さいな。」

私の忠告に青年は戸惑いを浮かべながら辺りに罠がないかを確認する。

罠らしい物が無いのを確認した青年は騙されたと思ったのか顔を真っ赤にして私に斬りかかってきた。

そして…鮮血が、舞った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

小さな町だがやはり中心に行くには時間が掛かる。その為、町の中心に行くのは明日にして今日は行ける所までと言う事になった。

「なあ鴉。」

「なんだ?」

「この依頼。相手の情報が一切無いんだが、これは依頼人自体が伏せた事なのか?それとも、ただ忘れただけか?」

「おそらく、前者だな。でも、安心して良いと思うぜ。こう言う情報が無い場合、大抵は依頼人が自分で雇った奴にこの町の妖怪を粗方始末してるだろうから。もし、妖怪に遭ったらそいつが本命の可能性が高い。」

妖怪を始末。

今俺は鴉のその言葉に不快感を得た。

今まで自分がやって来た事と何ら変わらないのに、何故だ?

「狐さん、鴉さん。」

「何だ?嬢ちゃん。」

「ここからそう遠くない所で誰かが倒れています。しかも、血だらけで。」

「何?」

「土花。案内出来るか?」

「こっちです。」

土花が先頭を走り、俺と鴉がそれを追う。

そう言えば、土花の能力は俺も完全把握していないんだっけ。

「土花、お前の能力って何なんだ?」

「私の能力は副産物の探査能力と本体は妖怪土蜘蛛の創造能力です。」

「土蜘蛛?あの関西圏で猛威を奮った大妖怪の事か?嬢ちゃん。」

鴉が本気で驚いた顔をする。

そんなに凄い妖怪なのか。

「ええ、と言っても中々に制御の難しい妖怪で、上手くコミュニケーションも取れていないのが現状ですが。」

「ま、そりゃそうだろうな。」

「どう言う事だ?鴉。」

「土蜘蛛ってのは何でも数多の人間の悪霊が集まって出来ているらしい。土蜘蛛を制御するって事はその中の悪霊全員を制御するって事と同義なんだ。」

悪霊全員の制御。

言葉で聞くのと実際にやるのとでは天と地程の差があるだろう事は容易に想像する事が出来た。

「何度かやってみたんですが、どの時も体を乗っ取られかけました。」

あ、危ないにも程がある…

「今は何とか力の一部を貸してくれていますが、憑依なんてしよう物ならあっという間に乗っ取られるでしょう。」

土花はそれっきり黙ってしまった。

今彼女が何を考えているか、それは俺には分からない。やろうと思えばコンとコルの読心術を使えるが、それをやるのは憚られた。

「狐さん、鴉さん。あそこです。」

土花が急に立ち止まり、一つのベンチを指差している。

土花が指差すベンチの少し前に人が倒れていた。

否、倒れていたではない。

そこで、人が死んでいた。

元は白い翼や白い髪だったのだろう。その白い翼や髪は男の頭から噴出する血で染まっていた。

彼は頭を撃ち抜かれたかの様に死んでいたのだ。

彼がうつ伏せで倒れていたのは、こちらとしては幸いだったと思った。

「坊主、これが狩りだ。言っておくが、こんなのまだ序の口だぞ。これからもっと人が死ぬ。さっき見た他参加者は勿論、俺達もそうなるかもしれないと言う事を胸に刻め。」

鴉の言葉が酷く重苦しく感じる。

覚悟していなかった訳ではない。

むしろ、今まで以上に心は決まっていたと思う。だが、この現状は俺に現実を嫌と言う程叩きつけて来る。

『死』

単純な自然の摂理を今になってようやく俺は…完全に理解した。

華蓮の時は死体を見なかった。

死体が無ければ死を実感しないとは、我ながら情けない。

そしてこうも思った。

ああ、俺は今まで何をしたのだろう。

何をしてしまったんだろう…と。

命有る物、命無き者。

等しく奪う事は許されない。

気付くのが遅すぎた。

コンとコルは最初から教えてくれていたと言うのに…な。

「赤原さん?」

「土花、敵が何処にいるか分かるか?」

「どうしたんですか?そんなに恐い顔して、ショックが大きいのは分かりますがここは落ち着いて行動しないと。」

「良いから!さっさと教えろ!」

俺の怒気に驚いたのか、土花は少し飛び上がりながら首を横へと振る。

「そうか。…なら良い。」

「坊主、少し落ち着け。そんなんじゃまともな判断が出せねえぞ。」

「鴉。ここから俺は別行動だ。あとは二人で頑張ってくれ。」

「何言ってんだお前。おい、何処に行く!」

鴉の話を最後まで聞かずにその場から飛ぶ様に去る俺。

遅すぎるならそれで良い。

俺が悪なのは間違いようのない事実なのだから。

ならば吹っ切れ。

吹っ切ればまた探せる。

華蓮を殺した犯人を、あの笑顔を奪った奴をこの手で殺せるのならば、悪魔にも頼ると誓ったではないか。

必ず、必ず、必ず。

「見つけ出す‼」

その言葉を聞いている者は、誰もいなかった。

どうも〜。

昨日熱を出してうなされていた片府です。

今回、副題に第一部と銘打ってお送りしております。狩り編。

一応全部で三部構成を考えておりますが急遽増やしたりする事があるやもしれません。

いや、無い様にしたいとは思うんですが、別に私プロではないですし、大した文才が有るわけでもないですし。もしかしたらなんて事も御座います訳で…はい。

なんて事より、遂にユニークが100を突破した事を皆さんにご報告したいと思います。

実は少し前辺りで100を越えていたんですがなかなか報告する機会に恵まれませんで。

100いくの遅くね?なんて思った方もいらっしゃるでしょうが、まあそこは目を瞑って欲しい所ではありますね…。

とにかく、これからも狐の事情の裏事情は頑張っていきますのでどうぞ宜しくお願いします。

お友達等に勧めて頂ける作品を目指してファイトー。

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