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第五十二話 Next Stage

「ねえ、父さん。何で人を殺すの?」

「…ジュダ、俺達は間引きをしなければならない。人は増えすぎ、均衡は崩れた。近いうちにこの世界は潰れる。でも、それは不運でもなんでもなく、人が自ら招いた結果にすぎないんだ」

「だから…殺すの?」

「そうだ。俺達は間引かなきゃならん。だが、俺一人じゃどうにも無理がある。ジュダ、お前も手伝ってくれるな?」

「………」

「…ありがとう、ありがとう」


「………」

「兄さん?」

 ふと思い出した昔の一片の記憶。だが、感傷に浸っている所に妹のシャルが話しかけてきた。

 我が妹にして、我が宝。シャルを護る事が、今の俺が生きていられる最大の理由だ。

「何だ?お前の無断外出ならもう許してるぞ」

「ううん、どうせ兄さんなら五分もあれば許してくれるって思ってたから」

「……」

 怒らない。俺は絶対に怒らない。たとえ妹に嘗められているとしても、決してこの程度では怒らない。

「シャル、取り敢えずオヤツ抜き」

「ごめんなさい。心の底からごめんなさい」

「うん、許す」

 取り敢えずの潜伏場所であるホテルで何をやってるか、という話ではあるがこのぐらいの心の余裕は必要だ。

 太陽が高々と昇り、車の喧騒が少しだけ聞こえる。今の俺が享受するには、あまりにも尊い平和。

「で?なんだ、シャル。飛行機の時間までまだあるはずだが?」

「違うの。バルギーからこれを預かったから」

 シャルを振り返る、するとシャルの掌には喘息患者に渡されるような吸引器が乗っていた。

「ああ、そういえばまだやってなかったな」

「忘れちゃダメな物でしょ?兄さん、ただでさえ酷いんだから」

「とは言っても、昔からだからな。多少は自制出来るさ」

「それで飛行機内で暴れられたら大変」

 それはそうだ。シャルから吸引器を貰い、天辺にあるボタンを押して煙を吸う。

 たったこれだけの事にシャルが固執するのは、実に簡単だ。コレが無ければ、俺もバルギーも三日と保たずに死ぬのだから。

「兄さん、もう忘れないでね。吸える時に吸っておかないと、私みたいになる」

「分かってるよ。お前も、その御守りを手放すんじゃないぞ」

 吸引器を投げ渡し、またバルコニーの向こうを眺める。俺達の命はある意味預けられた物だ。そう簡単に死ぬつもりはないが、時が来れば簡単に死ぬ。

 勿論、俺はシャルを死なせるつもりは毛頭無い。だが、万が一という事もある。それまではどうあっても死ねないのだ。

「さて…何をするかね?」

 飛行機までの時間はあまり無いが、まずはビールを一杯飲む事から始めようかね。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「なあ、博士」

「はいはい?なんでしょうか?」

「例えば、机の上にステーキがあるとする。だがお前の手札はナイフだけ。それも、触れただけで両断してしまうようなナイフだとする」

 彼はそう言って、一本のナイフを作り出す。蛇の鱗が柄に入った、彼らしいナイフ。

「お前が使えるのはこのナイフだけだ。さて、ステーキを食う時、お前ならどうする?」

「そのナイフであれば、何本でも使ってよろしいので?」

「そうだな…それでも構わないが、今回はコレ一本にしよう」

「そうですな〜。でしたら、一口サイズまで切って顔全体を使って食べますかな」

「ふふっ、なるほどな。お前らしい。だが、そんな事をしなくても食べられるだろう?」

 そう言って、彼はナイフを投げる。こんな物は必要無いと言うように、そのナイフを、天井に刺す。

「良いか?そんな風に食わなくとも……ただ手を使えば良いだけだ。ナイフはただ切るのみにして、口に運ぶのは手でする」

「それではルールに抵触するのでは?」

「お前はさっき言ったな。『顔全体を使って食べる』と。それと同じだ。お前の言う通り、確かに俺の出したルールに抵触するが、それはお前も同じという事だ」

「何を仰りたいので?」

「いやなに、ルールなんて所詮は誰かの主観に他ならないという事だ。ひょっとすると、この世界もそうなのかもしれないな」

 彼は天井を眺めて、ただ意味深な笑みを浮かべた。その肉体の持ち主は絶対にしないだろう、不吉な笑みを。

 ルールなんて主観に過ぎない。彼はそう言った。それは事実であり、事実ではない。

 現に彼は今もルールの外側に身を置き、そしてルールの内側に入る事を模索している。その道が荊であろうが針だろうが、おそらく構わずに突き進むのだろう。

 ルールを見下しつつ、そのルールに憧れる。そんな矛盾な気持ちを抱きながら。

 天井に刺さったナイフは鈍い光を放つ。その刀身を完全にめり込ませ、見えるのが柄だけであろうとも。その凶刃を確かに、彼は眺め続けた。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「女の子…ですか?」

「うん」

 いつもの僕らの作戦会議室である所の休憩所で、土花を交えて僕は昨日会った少女の事を話した。

 勿論、コンとコルもこの場にはいるが、昨日のうちに話してしまったので二人は実に退屈そうにソファの上で横になっている。

「そうですか…。そんなにも組織的になってるんですね。しかも、トップがあの妖怪ですか…」

 土花はあの妖怪ーー蛇神に対しては非戦論を唱える側の人間だ。その理由としては、もう関わりたくないという気持ちからくるそうだが、それ以上に復讐という面が強く出てしまうのを嫌がっているからだろう。

「雷咼さんは…どう思っていますか?『彼ら』について」

 土花が恐る恐るというように尋ねてくる。土花と違って未だに復讐を掲げている故、彼女も警戒してしまうのだろう。

「僕も自分から突っ込むつもりはないよ。でも、向こうが行動をするなら、僕は動かざるをえないとは思ってる」

 僕とて無闇やたらにつっかかるつもりは今は無い。以前とは違って、僕も大人になったのだ。コンとコルが華蓮だと分かった以上、優先度は多少下がっているのである。

 土花もその一言で少し安心したのか、無表情ながらも「そうですか」と言って話を打ち切った。

 この後、僕達はお土産を買う為の自由時間を与えられている。近くのバス停から各々自由に行動出来るのは素晴らしいと思う。大抵はそういう時も集団行動らしいから。

「土花はこの後友達と一緒に行動?」

「いえ…その…私の友達色々と積極的というか、皆学校生活を全力で謳歌しているというか…」

 少し顔を落としてぶつぶつと呟いて何やら言い訳をしている土花。無表情で言っている分、その姿は少しだけ不気味だ。

 僕が土花を学校で見る時、土花はいつも誰か女友達と一緒にいた。僕とは違って土花は器用だから、土花は学校生活もちゃんとしている。

 そんな土花のこんな姿が意外で、僕は思わず吹き出してしまった。

「…何ですか?」

「いや、ふふっ、ごめん。土花も愚痴なんて言うんだな〜と思って」

「別に良いんですけどね。…雷咼さんは、誰かと回るんですか?その…あの同じ学級委員の人とか」

「へっ?僕が誰かと回る?………ねえ土花、空気はいつでもこの場にあるけど、皆意識してると思う?」

「陸の孤島から空気への出世ですか…お疲れ様です」

 土花の言葉が僕の心を容赦なく抉る。自分から言った事とはいえ、自分の友達の少なさに切なさが湧いた。

「そうですか。では、私と一緒に回りませんか?客人も増えましたし、荷物が多くなりそうですから」

「ははっ、そうだね。…ほんと、いつの間にか増えていくよね」

 まだ一年も経っていないのに、僕の周りにはいつの間にか賑やかな人達が集まった。皆、普通の人とは一線を画しているけれど、良い人達ばっかりだ。

 土花に会ったのを皮切りに、何も気にする事無く話せる人達が集まった。それはおそらく、とても幸運な事なのだろう。

 勿論、それはコンとコルが僕のそばに居てくれた事も要因として大きくある。二人がいなければ、僕はとっくに潰れていただろうから。

「さあて、そう決まれば行きますか!ほら、コンとコルも準備して!」

「「ふぁ〜い」」

 非常に眠たげな声が返される。その声に僕も笑みで返し、土花と一緒に自分達の部屋に帰る。このお土産を買う時間が終われば、僕達は飛行機で帰る。気になる事はあるけれど、味わえる日常を噛みしめよう。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 所々倒壊した家屋、その下敷きになって人間と何か鋭利な物で刺され、斬り裂かれている遺体が散乱する場所。そこに立つ人間は俺たった一人。手に持っているのはなんて事はない、木の棒と小型ナイフが取り付けられた簡易的な槍、そしてもう片手には今刈り取ったばかりの人間の頭。

 切り口からは絶える事なく血が流れ、路面にその血を吸わせている。

 俺の顔、そして槍には赤黒い血痕が張り付き、俺の目には何も映らない。その姿は、まさしく幽鬼だ。

 自分がやった事も、自分が何人殺したのかも、自分がどんな姿なのかも。今の俺の目には映らない。

「齢十かそこらの餓鬼にしては、その腕は異常だな」

 気がついたら、奴はそこにいた。最初から見ていたように話すアイツの側には、見るからに怪しい白衣の爺さん。まあ、俺の目には人間というよりも、獲物としか映っていなかったが。

「アンタら、誰?」

「おいおい、そういう事は敵意と殺意を向けて聞く事じゃねえだろ?」

「俺、忙しいんだ。すぐに行かなきゃいけない所があるから…」

「妹の所か?」

 反射的だった。

 つい反射的に、俺は持っていた頭を投げ捨ててアイツに槍を突き込んでいた。後悔も罪悪感も感じていなかったが、それでもまた人を殺した事に嫌悪感を抱く。…はずだった。

「ふむ、速いな。ただの人間が出せる速さじゃあない。そう思わないか?博士」

「ひひっ!まあ調べた所、ただの人間ではありませんからね。この世でも珍しい、半悪魔の餓鬼ですから」

 槍を突き込まれているにも関わらず、聞いた事の無い言語でやり取りをするコイツらの方にその時は嫌悪感を抱いた。

 槍は確かにソイツの身体に刺さっている。血も出ている。なのに、コイツは怯むどころか、槍が見えていないかのように会話をしている。

 槍を抜こうと腕に力を入れる。だが、槍はまるで溶接されてしまったように、ソイツの身体から抜ける気配を見せない。

「お前ら、人間じゃないのか?」

「化け物に会ったのは初めてか?それとも、殺せない化け物を見るのが初めてか?」

「……」

「そう睨むな。お前の妹の救出を手伝ってやろうというのに、それでは興が削がれる」

「手助けなんか要らない。俺は槍さえあれば問題無い」

「こんな簡素な槍一本か?」

 ソイツはようやく、自分に刺さっている槍に関心を向ける。だが、流れる血に関しては依然として興味を示さない。まるで、血など不要とでも言うように。

 ソイツが槍に触れ、掴む。すると、俺の槍が掴まれた部分から腐食していくのを見て、俺は咄嗟に自分から槍を手放した。

「お前の槍ではあそこは落とせない。向こうもお前が来るのは分かっているからな。その為に色々と小細工を弄していたよ」

 勝手な話だ。

 俺から妹を奪っておいて、取り返してもらおうとすれば自分達は悪くないと言う。結局、人間とはそういう生き物なのだ。

 だから、俺は父さんを殺した。街の人を殺した。俺達兄妹は絶対に引き裂かれてなるものかと、そう思っていた矢先に、実の父親からシャルを売ったと知らされた。

 嘘だと思いたかったし、殺す直前まで嘘だと思っていた。でも、最期まで父さんは嘘とは言わなかった。

「たとえ落とせなくても、シャルだけは取り返す。俺が死んでも、あいつが生きていればそれで構わない」

「若いこった。…まあ、その考えは嫌いじゃない」

 腐食しきってボロボロと崩れていく槍。残った矛先である小型ナイフも錆びついてしまっている。アレではもう使い物にならない。

「アンタら何者だ?手伝いに来たとか言って人の槍を腐らせやがって。やっぱりあの富豪の家の人間か?」

「おいおい、人間なんかと一緒にするな。この槍だってお前が先に仕掛けなければこうはならなかっただろ?…まあ、先に茶々入れたのはコッチだが」

 錆びついてしまった小型ナイフを手で遊び、かと思ったら掌で挟み込む。錆びついていてもナイフはナイフだ。刃を触れば手は切れる。

 流れた血が地面へと落ち、溜まった血だまりの中にナイフを落とす。するとナイフを中心に血が集まり、呑み込むようにして一つの形を造り出す。

 血はナイフに絡みつき、血は肉を得たように揺蕩う。

「お前さんの槍、代わりにコイツを使いな。きっと、お前さんの為になるはずだ」

 変化が終わったナイフの姿は…異様としか言いようがなかった。

 元のナイフの原型などありはせず、持ち手も刃もまるで肉が変質したような禍々しい色をしている。

 大きさも元の大きさである一メートル前後から軽く二メートルを越す程になっている。

 あまりの異様さに少しだけ怖気付く俺を見て、アイツらは悪戯が成功したような嫌な笑みを浮かべている。

「どうした?妹を助けるんだろ?」

「分かっている…」

 まだ少年である所の俺には、この槍は大き過ぎる。だが、それでも持てる気がした。持って操って、使いこなせる気がした。

 確証の無い勘だけが手を伸ばさせ、俺は禍々しい槍を握る。

 確かな槍の硬さと重さ、しかしそれを超える力の充足感が俺の中に流れ込む。

「がっ!はっ⁉︎」

 気が付いたら、俺は汗だくで地面に膝をついていた。

 頭の中を駆け巡る情報、情報、情報の数々。

 槍のタグは魔槍。その本質は『侵食』。並びに、『牙突』

「……はあ、はあ、ったく、何なんだよこの槍は!」

 戦い方、振るい方、殺し方…俺の知らない全ての情報が俺を上書く。

「受け入れろ。そうすれば、お前はお前達を脅かす全てを喰い尽くす事が出来る」

 頭を押さえてうずくまる俺にそう言い残し、アイツらは姿を消した。

 その後からの記憶は、今までの比じゃない程の嫌悪感と罪悪感に満ちている。

 俺は妹を奪還しに富豪の家を強襲した。そこにいる人間全てを殺した。仕掛けられた罠も、俺を殺す為に雇われた傭兵なんかも全てを殺して、俺は妹を奪還してアイツらの仲間になった。

 仲間になった理由は簡単に言うなら、自分の命を守る為だ。アイツから貰った槍は、他者だけでなく俺でさえも喰い尽くす。それを防げるのは、この槍の作製者たるアイツだけだった。

 それからはずっとアイツの下で俺は人間の間引きを続けてきた。

 村を一つ、街を一つ、家を一つ、城を一つ、確実に仕事をこなした。

 いつしか、俺の中で罪悪感と嫌悪感は消えていた。それが成長なのか、はたまた退化なのかは俺には分からない。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はい!青田です…あっ、土花お姉ちゃん?飛行機にはもう乗るの?うん、久城なら今は出かけてるよ〜。……うん、分かった。夕方には帰れるのね。はいはい〜」

 少し古い型の電話がチンと音を鳴らして通話の終了を告げる。

 軋む廊下を進み、自分の部屋へと進む。襖を開けると、そこでは朱雀さんが厳しい面持ちで自分の手を見ていた。

「どうしたんですか?そんなに厳しい顔して、皺が増えますよ?」

「あんた、私に喧嘩売るつもり?」

「いえ、久城が朱雀さんが厳しい顔してたら言っとけって」

「分かったわ。あいつが帰ってきたら焼き猫にしてやるわ」

 朱雀さんの頭の天輪がクルクルと少し騒がしく廻る。そして、先ほどまで眺めていた手に掌サイズの火球を生み出す。

 その炎はとても綺麗で、見る者を魅了する。

「いずれ貴女の物になる炎よ。この炎の輝きが最低ライン、憶えておきなさい」

 太陽のように輝くその炎を再び私が見るのは、もう少しだけ後の話。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「土花〜、皆どんなお土産が良いかな?」

「一番無難なのは食べ物ですけど…。月緋ちゃんには星の砂なんてどうですか?」

 沖縄・国際通りにある一軒のお土産屋さん。そこかしこに沖縄名物とか、沖縄限定とかの張り紙が出されている。

 こういう事は男は頼りないものなのです。

 修学旅行前に黒部さんから聞いた話では、こういう観光地でお土産を買う際は有名所で買うのではなく、少し離れた地元民だけがしっているお店に行くのが良いらしい。有名所は旅行者を目的とした完全なる営利があるから、との事だ。

 だがまあ、今回はそんな事は抜きにしてここでお土産を買うのには一つ理由がある。

「これ、少し値段が高過ぎますね。恐らくですが、これは頼めば何かサービスしてくれます」

「へ〜、土花っていつもそういう風に買い物してるの?」

「地元では出来ませんね。基本的に一期一会の場所でしかこういう事は出来ませんよ。…まあ、それにもテクニックは必要ですけどね」

 土花の鋭い洞察力により、オマケが発生しそうな商品を片っ端から当たっていく。現にこのお店に来る前から、土花は何回もオマケを獲得している。…お店の人の目から流れる涙は心苦しいのでこの際目を逸らさせてもらうが。

「それじゃあ、買ってきます」

「了解。じゃあ僕は外で待ってるよ。少し人に酔ったみたいだ」

 たくさんの人に囲まれた緊張だろうか、少し気分が悪くなった僕は精算を土花に任せて外に出る。

 少し湿っぽい熱気が都市とは違う空気である事を自覚させる。沖縄は夏でなくとも多少暑い。昨日聞いた話では、沖縄と東京では夏の過ごしやすさも違うらしい。

 東京の暑さは寒暖差が激し過ぎる。人間はあまりにも大きな変化に対応しきるのに難儀するのだ。

 対して、沖縄はあまり寒暖差がない。そして何より、都心ではあまり見られない自然の風が、何よりも過ごしやすい環境を作るのだそうだ。

 深く深呼吸して気分を落ち着かせる。爽やかな風が僕の気分を楽にしてくれた。

「なんというか、どこまで行っても変わらないなあ」

 今でも小型のバッグにはコンとコルが化けたストラップが付いている。それが今は当たり前で、妖怪というものに対して耐性が出来た。

 鳥が飛ぶのと同じように、妖怪も日常的にいるという意識が生まれた。

「お待たせしました」

 そうこうしている内に、店から大きな袋を二つ持った土花が出てきた。…また、搾り取ったらしい。店の奥では店主が燃え尽きた顔をして座っている。

「お、お疲れ様。袋持つよ」

「ありがとうございます。…次は、あそこに行きましょう」

 そう言って、土花は袋を僕に渡した途端に次の目的地を決めて突っ走ってしまう。彼女も沖縄という違う環境が心躍らせるのだろう。

「赤原さん、こっちです。こっちです」

「はいはい、今行くよ!」

 猫みたいに手招きする土花の元へ、僕も駆け足で応える。

 こんなに日常らしい日常は本当に久しぶりだ。こんな日々を僕はずっと守っていきたいと、そう思った。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 高々と鳴り響く靴の音がする。

 それだけではなく、ナイフとフォークが擦れる音と……何かが蠢く生々しい音。

「おいおいジュダ、お前の妹さんはやたら凄いペットを飼ってるんだな」

「新しく造ったらしい。まあ、役に立つなら別に良いさ」

 回転式の机に座っているのは三人と一匹。一人は大剣使いのバルギー、そして槍使いのジュダにその妹シャル。シャルの傍らには狼のような体躯をした一つ目のつぎはぎの妖怪。蠢くような音の発生源だ。

 円卓には中華料理が並んでおり、この三人以外に客はいない。店員も奥に引っ込んでいるようで、室内は完全に三人の舞台だ。

「しかし、よくその犬っころが店に入れたな。…脅しでもしたのか?」

「シャルがそんな事をするわけがないだろ。…俺が脅したんだ」

 やれやれといった様子で顎に手を添えるジュダ。そしてそれを聞いて苦笑を漏らすバルギー。

 シャルはそんな二人を眺めながら片方の手は箸で口に料理を運び、もう一方の手では自作という犬型妖怪の頭を撫でる。

「…ねえ、それよりも本当に明日やるの?」

「なんだ?怖じ気付いたか?」

「シャルが嫌なら一足先に帰っていればいい。最悪俺とバルギーだけでも出来るさ」

 兄の気遣いは嬉しい。が、シャルは当然知っている。明日引き起こされるソレは設置箇所に一つずつ行き、かつある程度の制限時間が設けられている。

 一つ一つに距離がある為、シャルも協力しなければ周りきれはしないだろう。

「ううん、私も協力する」

「そうか」

 私の返事に兄も笑顔で応える。

 私にはまだ良心というものは残っているつもりだ。それは、兄にも。

「ごめんなさい。いただきます」

 私は思わず目の前にあったエビチリに謝罪と感謝の言葉を投げかけていた。



やっと投稿出来た〜〜!

お待たせしました。受験も終わってゲームとバイトに勤しんでいる片府です!

本当は二月中に投稿したかったんですけどね。残念ながら遅れに遅れてこんなに遅くなってしまいました。待ってくださった読者様、お待たせいたしました。

今回は作者の独り言風でお送りしておりますが、次回からはまたキャラクターコメンタリー風を予定しております。

次回もなるべく早く出せるように頑張らせていただきます。

短い挨拶ではありますが、今宵はこれにて締めとさせていただきます。これからも、『狐の事情の裏事情』をよろしくお願いいたします!

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