第五十一話 場所変われば無情
カ 「…年末ね」
セ 「…年末じゃの」
カ 「結局、この日になるまで最新話が完成しなかったわね。まあ、なんとなく予想はしてたけどいくらなんでも遅すぎるわ」
セ 「まあ責めるでない。作者も色々あるのじゃろうて。友人は正月をまともに過ごせるのに、作者は正月も塾で缶詰めじゃぞ?不憫過ぎて涙が出るじゃろ?」
カ 「作者がバカなのが悪いんじゃないの?」
セ 「お主、今回は冷たいのう。さては寒さの所為で不機嫌じゃな?」
カ 「バカ言わないで頂戴。寒さ程度で私の機嫌が変わるとでも?」
セ 「(手に持つカイロを握りしめて言われてものう)」
カ 「今、何か思った?」
セ 「さて、そろそろ本編へレッツゴー、じゃ!」
「…またか」
ラグの奔る身体は限界が近い。おそらく、今度もまたあと数時間でこの肉体は塵となる。
「おい博士。アイツらはいつになったら完遂するんだ?」
「例の時限爆弾の事ですかな?それなら、つい先ほどバルギーさんから設置完了の報せが入りましたし……遅くとも三日後には炸裂しましょう。ひひっ」
沖縄にいる部下の顔を一人一人思い浮かべる。
一人は二刀流の大剣使い、バルギー・クラウス。奴は俺を心酔する根っからの側近だ。奴だけは俺を裏切らない。だから、五人いる幹部の中で『観察者』という役割に就けた。
五人いる幹部は全員西洋からダンタリオンが連れてきた理由ありの連中だ。
バルギーはその中でも長時間の苦痛を味わって俺の元に来ている。
「だがまあ、俺が興味あるのはアイツではないんだが…」
幹部の中で言うならアイツ…確かバルギーと同じ場所から来たんだったかな?
「ジュダさんでしたっけ?あなた様のお気に入りは」
「ああ、そうだな。確かにそんな名前だった」
ダンタリオンも同じ事を考えているらしい。
ジュダ・ストラドスーーあの槍使いは…
「生粋の悪魔だ」
俺と博士、二人で静かに笑う。笑えば身体の崩壊は早まるが、今はそんな事はどうでもいい。
この計画にアイツは不可欠の存在だ。アイツとその妹の活躍しだいで、俺の計画は十五年変わる。
「三日後が楽しみだ」
「そうですね、ひひっ!」
目の前に四つ用意された空のケース。このケースが埋まる時、俺は本当の笑いを取り戻す。
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「三日、いやもう二日か…何かあるのか?」
青い空、白い雲、そして透き通るほどに綺麗な水を讃えた海。沖縄の代名詞とも呼べる光景を視界に収めながら、一人木陰で物思いに耽るのは僕ーー赤原 雷咼。
今日は志望者限定の海水浴となる日なのだが、どうにも純粋に楽しめないような気がして僕はこうしてクラスから離れている。
「やっぱり、コンとコルは連れてくるべきだったかな?」
もしもの事があったらカバーし辛いという理由でホテルに置いてきたのだが、ここまで退屈では後悔の一つもしたくなる。
「暇そうだね〜。彼女の所にでも行ってきたら?向こうにいたよ?」
「流石に友達と一緒にいる所を邪魔出来ないよ」
「あっ、一度は見に行ったんだね」
いや、別に寂しかったわけではありませんよ?むしろ、何でも土花に頼ってしまう自分が情けなくなったくらいで……
「梶原さんは海で泳がないの?せっかくの新しい水着なのに」
「えっ!何で知ってるの⁉︎」
「少しばかり眼が良いんだ」
生地のくたびれ感、そして微妙な色の違いから予測したのだが…どうやら正解のようだ。
梶原さんの水着は何というか、普通のビキニだ。白を基調としており、水色の水玉がワンポイントになっている。いや、決して似合わないわけではないけれど、女子の水着はどうにも……直視し辛いのだ。
「赤原君、もしかして緊張してる?」
「えっ!い、いや、そんな水着一つで緊張なんて!」
「してるんだ ♪」
「…はい」
まあ、それが原因で土花にも話しかけられなかったというのもあった。
すいませんね、チキンで。
青森ではコンとコルの水着を見ても何も思わなかったのだが…成長していないからかな?その分、セレは綺麗という言葉がピッタリ当てはまる。そういう邪な思考は思いつきもしなかったものだ。
「まあ、少しすれば慣れると思うからさ」
「なんか、その言い方は悔しい…かな」
「ん?」
梶原さんの言った言葉が気になって首を向ける。早くも慣れてきたらしく、もう彼女の水着姿を見ても特に緊張はしない。
梶原さんに言葉の真意を聞こうと思ったが、既に彼女は海に入って他の女子達と戯れていた。
「…何だったんだろ?」
女子の心は複雑怪奇。それはコンとコルを見ているからよく知っているけど…慣れない。
「はあ、暇だな〜」
沖縄の空は晴れ晴れするほどに青いのに、やる事が無いとは情けない。一応、学校側が海岸を独占するようにはなっているが、それでも一般客の姿はちらほらと見える。たとえ季節外れでも、泳ぎたがる酔狂はいるようだ。
サーフボードを持って友人達と話しているサーファー。貝殻拾いをする家族。そして……ゴスロリ服を着た外国人の美少女の姿。
「海岸に…ゴスロリ?」
異様なその姿を、気に留める者はいない。今もその少女の横を通っていったサーファーは至って普通に少女を避けた。
ゴスロリがダメだと言うつもりは無い。が、場違いな格好というのは、人間的に反感を持たれる。その反応は様々だが、海岸にゴスロリ服の外国人がいれば注視する人間が一人はいるはずだ。だが、今少女を見ているのは僕だけだ。文字通り、誰も彼女の存在に注意を向けていない。
何だか気味が悪い。
気味が悪い、のに目を離せない。海岸とはミスマッチのその姿から目を離すのを本能が拒む。それほどまでに妖しかった。
「 ? 」
「あっ…」
そうしてずっと見ていたからか、向こうもこちらの視線に気付いて小首を傾げる。そこまでされてようやく、僕の目は少女から逸らす事が出来た。
意識して少女とは反対の方へと視線を投げる。そうでもしなければまた目がいってしまいそうだったから。
「あの…、すいません」
「ええっと…、はい」
だというのに、まさか向こうから来るとは思わなかった。わざわざ回り込んで視界にまで入ってくるとは……
「あの、ここってどこですか?」
流暢な日本語。そして金髪の外国人。つい昨日、土花と出会ったあの男の人を思い出す。が、コンとコルがいない僕はごく自然に、彼女の話し相手になる選択を取った。
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「何⁉︎」
「いや、だからお前の妹なら居なかったよ。どうやら、俺達が仕事してる内に遊びに行ったらしい」
「何を落ち着いてる!急いで探しに行くぞ!俺は南側、お前は北側だ!」
「おい、ジュダ!まさかとは思うが、この島を俺達二人で廻る気かよ?」
「当たり前だ!今日はまだ悪魔を使ってないんだ。侵食は進んでないだろ?」
「ああ…」
「おい、何で顔を逸らした?まさかとは思うが、仕事中に一悶着あった…なんて事はないだろ?」
「笑顔で近付いてくんじゃねえよ。…まあ、その代わりに良い情報があるぞ。聞くか?」
「今は結構!それよりもシャルを探さないと」
「過保護過ぎると思うがね?」
「何かあってからでは遅い!」
「やれやれ…」
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「へえ、シャルさんはお兄さんと一緒に来たんですか〜」
「うん、過保護だから少し困るけど…概ね良い兄」
ニコニコと笑って兄の事を語る少女の名前はシャル・ストラドス。ここまでの会話は今の所順調だ。彼女も特に好戦的というわけでもなく、ここに来たのも偶然らしい。
「兄様は過保護だから…一人で外に出させてくれないの」
「じゃあ、もしかしてここには黙って来ちゃったの?」
「うん」
砂に何かを英語を書きながら愚痴のような事を呟くシャルさん。
歳は土花と同じくらいだろうか?背は土花の方が少し高いが、雰囲気が何というか大人びていて正確な年齢が推測出来ない。これが外国人の魅力というやつかな?
「あなたはここの人?」
「あっ、いや僕は関東の方からです。三泊四日で明日には帰ります」
「そう。なら、良かった」
沖縄はこの時期になっても少しムッとする暑さを残している。しかし、そんな状況でも少女は汗もかかずにただ海を眺めていた。…正確には、さらにその先にある別の場所を眺めているように。
「ねえ、あなたは何かを決められる事を、どう思う?」
「決められる…事?」
「決められた事、誰かの意図されて行動する事を…どう思うの?」
視線は動かない。ずっと、青く光る海の先を眺め続けている彼女の問いは、僕というよりももっと別の人間に向けられたような気がした。でも、今ここにいるのは僕だけだ。
「そうですね…僕は嫌ですね。誰かに決められた事よりも、それに甘んじなければならない自分が。」
だから、僕は自分の中の半分を否定する。
燃える家の残像を思い起こす。復讐という目的は未だに僕の心に残っている。それが、向こうにとって予測済みの『決められた事』だというのに。
だが、反対にそれが僕の生きる指標ともなる。
たとえ分かりきった事だとしても、それが自分の決めた事だから。もう、誰も喪わない為に、誰の時間も止めない為に。
少女は僕の返答はどうでも良かったのか何も言わずに立ち上がる。砂の付いた服を叩き、そのまま僕の前を通って何処かへと向かっていこうとする。その後ろ姿を、僕は止めない。
どうやら、もうお喋りはお終いみたいだ。
「あなたと話せて良かった。あの人があなたを気にする理由が少しだけ、分かった気がした。…でも、あの人には勝てない。ましてや…私の兄さんにも勝てない」
「 ⁉︎ 」
一冊の本。彼女の手にしていた本の中から、一瞬で数多の妖怪が出てきて彼女の身体を包み消えた。昨日土花が戦った男とは違う、無理矢理に消えたような方法だ。
これで二人。そしておそらくはまだ知らない奴が僕の目的地の途中にいる。
果てが見えないゴールに辿り着く為に。止まった時間をまた動かす為に。
「望む所だ」
きつくきつく拳を握る。爪が表皮を破り、血を滲ませる。痛みがあり、血が流れる。それが僕の命の灯。
全てを倒しきる事を誓おう。
たとえ身体を引きずりながらでも、身体が動く内は絶対に止まらない。
全てを救い取る事を誓おう。
今流れるこの血を一滴残らず流し切ろうとも、復讐の悪鬼が邪魔をしようとも。
この場で戦闘が起きなかった。それは、向こうも今日は戦う気が無かったという事であり、そして同時に最大の挑発であるという事。
今日のコレは宣戦布告だ。
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「ねえ、良いの?」
「何が?」
俺はパイプ椅子に座り、彼女は林檎の皮を剥きながらベッドに身体を預けている。歳は俺と三つしか違わない。にも関わらず、いつしか俺の方が『世界の見方』のようなものを持ってしまった。しかし、彼女は変わらない。
いつだって妥協せず、自分の言いたい事は誰だろうと構わず言う。昔自分で言っていたように、彼女はあれ以降妥協する事を止め、良い教師になった。俺には成れなかったあの場所で今でも。
ただ、彼女の身体はそんな彼女の生き方についてこれなかった。否、邪魔をした。
「別に大丈夫だよ。いつもみたいに検診して終わりだからさ。お見舞いなんて…そんな毎日来なくても良いのに」
「そういうわけにはいかねえだろ?お前の病気の進行を止められるのは、コイツだけなんだから」
彼女ーー渡瀬 瑠奈の枕元には黒い大きな烏がいる。コイツだけが、瑠奈を助けてやれる現状最高の選択だ。
「でも、病院に烏なんていたら大騒ぎになっちゃうし」
「その点は心配するな。…どうせ、誰にも見えてないんだから」
ピクリとも動かない烏天狗の頭をつついてみるが、やはり動かない。相当集中しているみたいだな。
瑠奈の心臓には爆弾がある。
俺達が初めて会ったのは俺が大学時代の時。そして再会したのがその三年後、まさにこの病院であった。
その時の再会を瑠奈に一度聞いてみた事があるが曰くーー
「まさか全身包帯で現れるとは思わなかったよ〜。単身で火災現場にでも突っ込んだのかな〜と思った」
まあ、全身包帯だったのは事実なので何も言えないが、その理由は火災現場に突っ込んだわけではなく、俺の人生の一つの節目である『憑依』との出会いを果たした結果であった。
まあ、それはまたいつか語るとして、俺がそんな状態で病院に入院した時、隣のベッドで寝ていたのが瑠奈であった。
烏天狗と出会った事を真っ先に瑠奈に話したのは、今でも間違っているとは思わない。でも、時々思うのだ。あの時、もしも俺の話を信じてくれなかったら、一体どうなっていたのかと。
「はい、林檎剥けたよ」
「あんがとさん」
まったく、病人に林檎の皮剥きをやらせるとは何事か、なんて一昔前の人間なら言いそうだが、如何せんコイツは人が止めたところでそれを止める奴ではなくなっている。あの時、俺が苗草という男の呪縛を破った時から。
瑠奈の心臓は再会した時に聞いた限りでは、残り一年という短い時間しか活動出来ない状態だったらしい。本人はそんな残酷な事を知っていてもあっけからんとしていたが、やはり辛いものがあったはずだ。
治す術は見つかっていない病。それを、瑠奈は目を背ける事なく真っ直ぐと見据えていた。命が残り短いなら、出来る限り最大限生きようと。
「烏の奴、いくらなんでも遅すぎないか?」
「そう?まだ始まって五分も経ってないわよ。暫く会わない間にせっかちになったわね?」
「そんな事は…無いと思うが」
いや、どうだろう。坊主共と会ってからというもの、やたら生き急いでる感はあったからな。もしかしたら、それに感化されたのかもしれん。
そんな事を考えていた俺を見て、瑠奈はクスクスと小さく笑う。この笑顔も少しだけ変わったと思う。昔は、裂けそうな程に無理をして笑っていたからな。
「どうした?」
「ふふっ、なんか前会った時よりもしっかりとしたな〜、と思って。今はどこで寝泊まりしてるの?」
「ん?ああ、今はな、面白い奴らが集まった所に住まわせてもらってる。二刀流の坊主ややたら家事が上手い中学生の嬢ちゃんや、妖怪で言うなら狐や人魚や影女とかな」
「へえ〜、人魚なんているのね?私も会ってみたいわ。狐さんとかも耳とか生えているの?少し触ってみたいわ」
こうして笑っていられるのは、ひとえにそこで動かないでいる烏天狗のおかげだ。
現代医学では治せないものはつまる所、解明されていない事実だ。ならば、解明出来る者ならば治せる。そして、暴論ではあるが、彼ら妖怪もまた解明出来ない者だ。その難解さは、不治の病の比ではない。
そして、彼らには生命が有り、生命が無い。だが、人間の生命の光を強くする事に特化した奴もいる。
『主人よ、終わったぞ』
大きな烏から無音の声が聞こえる。一応、コイツの声は俺と瑠奈の頭に直接響いてくる為周りに聞かれる心配は無い。が、病院というのは霊感が強い人間なんかもいる、そういう人間には聞かれるかもしれないな。
まあ、そうしない為に烏天狗には診察と視界を阻害する結界と防音結界という多重の任務を課したがな!
「ん?ああ、そうか。どうだった?」
『ふむ…、悪くはなっていないが、如何せん肉体が主人と違って純粋な人間だからな。今回倒れたのはその負荷がいっぺんに来たのだろう。だが、安心しろ。おそらく二日も寝れば全快だ。俺の力は消えていない』
「いつもごめんね?私の所為で、せっかくの琇君の烏さんなのに」
「なあに、俺には無用の長物だ。それより、その琇君は止めろ。そんなキャラじゃないだろ?」
「じゃあ、ア・ナ・タ♡?」
「よし分かった、烏ちょっと退け。ちとコイツの頭を矯正してやる」
「病人!私一応病人だよ⁉︎」
「知ったことか!人に教える立場としての自覚を植え付けてやる!」
「いや〜、仲睦まじい所悪いんですけどね〜。ちょっとだけ話を聞いてもらって良いかな?」
「………」
「………誰?」
「担当医ですよ。ご主人」
でっぷりとした良い腹を持った医者がいつの間にかそこにはいた。やたら人が良さそうな顔をしているが…コイツ内科医じゃないのか?
いや、そんな事よりもだ。まさか、いやまさかとは思うんだが、今の痴態を全て見られていたのか?今は話なんかよりも、そっちの方が先決だ!
「あの…いつからそこに?」
「そうですね〜。渡瀬さんがあなたを『ア・ナ・タ(ハート)』と呼んだ所でしょうか」
律儀にハートまで口で言ってくれた小太り医者。だがしかし、あえて言おう。俺は瑠奈と婚姻関係を結んだ覚えは無いと!
「いや、あの先生?俺達はですね…」
「あら〜先生ったら、今頃結婚のお祝いですか?遅すぎますよ〜」
「ちょっと黙っててくれるか…?瑠奈」
割と本気で頭が痛くなってきた。俺も入院する必要があるかね?勿論、コイツとはまったく別の個室を要求する。
「さて、渡瀬さんが運び込まれるのはこれで八度目ですが…どこも悪くないのに倒れるとは不思議なものですね?精密検査をしても原因が分からないとはまた奇妙ですな。まあ、前の一件がありますから、何が起こっても不思議ではないんですがね」
「いつもすいません。瑠奈の病気についても散々ご迷惑を…」
「いやいや、我々は何もしておりませんから。ただ…あそこまで悪化した病状が一日で全快するというのは、私の人生ではありませんでしたな。実に幸運ですよ」
幸運…か。確かに、瑠奈の病気を一時的に『無かった事』にする事は出来た。だが、この先生の言う通り、瑠奈は幸運だ。俺が烏天狗に会い、その烏天狗に瑠奈が会わなければ瑠奈は今頃ここにはいない。
同じように病に苦しんでる人がいるにも関わらず、俺と知り合いだったというだけで瑠奈は助かった。それを、瑠奈はどう思っているのだろうか?
もしかしたら、今ある自分の命を借り物とでも感じてしまっているかもしれない。
「まあ、今回の検査でも異常は見つかりませんでしたし、おそらく今回も疲労の類でしょう。もう退院してもらっても構いませんよ」
「そうですか〜。では、今日は夫と帰ります〜」
「おい!誰が夫だ!」
「どうぞお大事に」
「いや、先生やっぱりこいつ病気ですって。絶対頭に疾患患ってますって!聞いてます⁉︎」
俺が一人で騒いでる内に瑠奈の帰り支度が進んでいく。何度も来ているだけあって、その手際は慣れたものだ。本来、慣れてはいけないのだが。
小太り医者に見送られ、俺と瑠奈は帰路に着く。烏天狗は俺達の遥か上空から俺達について行く。烏天狗の人間不慣れも大したものだ。
「琇君、ありがとね」
「何だ?いきなり」
隣で歩く瑠奈がポツリと呟いた。いつもの元気さが少し無くなった、誠心誠意、心の籠った一言だった。
瑠奈の着替えが入った鞄を担ぎ直し、瑠奈の横顔を見る。夕焼けに照らされ、瑠奈の顔が少し赤くなっている。その姿は、純粋に綺麗だと思った。
「琇君と再会した時ね、本当はすぐにお礼を言いたかったのよ。今から…もう七年前か。あの学校で私は今も働いているけど、相変わらず見えない所で色々起こってたの」
「それは…あの苗草の奴が?」
「違う。あの人は琇君のお陰ですっかり大人しくなっちゃった。私に敬語を使うくらいに。そうじゃなくて、もっと上の方。同僚達の方は私もなんとか出来るんだけど、校長や教頭クラスになるとちょっとね…」
「そいつはどうしようもないだろ?教育委員会ぐらいに言わなきゃ」
「まあね。でも、とぼけられたら終わり。だから、琇君みたいな方法を取ったの」
「俺みたいな?」
「とにかく証拠を集める。少し生徒達に頼ったりして、そういう所をばっちりと!」
「………」
うん。俺もやってたからなんとも言いようが無いけど…そんなガッツポーズのドヤ顔で言う事か?というか、そんな簡単に集まるものなのか?俺だって知恵振り絞って考えたのに。
まあ、瑠奈ならやりかねないな。俺とは違って人付き合いが上手い瑠奈なら、俺のように不確実な方法に頼る必要も無いだろうし。なにより、上層部というのはボロを出しやすい。それが傲慢からきているのか、はたまたマヌケなだけかは知らんが。
「それで?学校改革は出来たのか?」
「八割五分くらいかな?今は膠着状態が続いている状態。向こうは一刻も早く追い出したいだろうけど、私の方には味方がいっぱいいるから迂闊には出来ないし。かと言って、私も切り札出しちゃったらそれ以降は打つ手なしって感じ」
「俺にまったく言わずにたった3年足らずでやったんなら凄えもんだよ。流石、努力家なだけはある」
「うん、…って違くて!私は琇君のお陰でここまで変われた。それのお礼を私は言いたかった。…なのに、琇君は傷が治ったらすぐにいなくなっちゃうし、帰ってきたと思ってもすぐにまた出て行っちゃうし。…言うに言えなかったの」
責める訳ではなく、ただ愚痴を言っているだけなのが俺の罪悪感を更に加速させる。俺にも事情があったとはいえ、確かに少しいつも急ぎすぎているかもしれない。
もし今回坊主共に帰る事を伝えていたら、もう少し居ても良かったんだが…。
「すまないな。今回も明日には帰らにゃならん」
「そっか。…じゃあ、今日は丁度良いかな?」
「ん?」
人のいない横断歩道で信号待ちをしている間、瑠奈は一切喋らなかった。ただ少し微笑を浮かべた姿には何か冷ややかなものを感じた。
「なあ、何を考えてるんだ?」
「帰れば分かるわよ」
俺はこの街を離れる時に全てを売り払った。瑠奈に再会していなければ、おそらくこの地を二度と踏む事も無かっただろう。
だから、今の俺のこの街の家は瑠奈の家だ。未だに『帰る』という感覚は無いが、気まずさは初めから無かった。……だが、俺はこの日ほど、帰りたくないと思った事はない!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「シャル!」
「兄さん?」
「どこに行ってたんだ⁉︎もしもの事があったら…」
「兄さん、私は大丈夫。それよりも、彼に会った」
「彼って…昨日バルギーが会ったっていう奴の事か?」
「そう。仮にも『あの人』が気にしていた人だったから、気になって…ね」
「そうか。…で?どうだった?」
「よく分からない。底が浅そうでいて、底が見えない。かと言って兄さん程強いわけではないから今は心配無いと思う」
「そうか。……一つだけ聞いていいか?」
「何?」
「『今は』って事は、これからまだ伸びる可能性があるのか?」
「環境に因ると思う。人間としての伸びしろは、彼にはもう無い」
「そうか…」
「兄さんも気になる?」
「ん?いや何というか、またあの感じがしてな」
「『死の欲求』?」
「シャル、二度とその言葉は言うな。ただの感覚でしかないのに、父さんの言う通りなはずがない!」
「……ごめんなさい」
「いや、すまん。強く言い過ぎた。まあ、俺に勝てないなら何も問題は無い。俺達五人の内、誰か一人でも残れば良いんだ。さあ、俺達の仕事は終わった。すぐにこの島を離れるぞ」
「うん」
「さて、爆弾の炸裂まで…あと二日か」
片 「今年も残り僅か。まさかここまで完成に時間がかかるとは…」
カ 「あら、ここに来るのは久しぶりじゃないの?」
片 「ええ、まあ今回はセレさん呼べないんで、出ざるをえないんですよ。それに、もう一人のパーソナリティーあの人だし…」
カ 「そういえば、まだ私も知らされてないわね。誰なのかしら?」
黒 「ちわ〜っす!邪魔するへぶっ⁉︎」
カ 「…チェンジで」
片 「お願いですから、影で脅すの止めてもらって良いですか?」
カ 「冗談じゃないわよ⁉︎何でよりによってクロベを連れてくるのよ!もっと他にいたでしょう?例えば…スザクとか!」
片 「スザクさんなら月緋ちゃんに連れてかれてた。あと久城さんは『猫が出るなんておこがましいw』って断られた」
黒 「というわけだ。諦めな」
カ 「納得出来ないわ…」
黒 「さて、今回のプロフィール紹介は狐共とセレだったな?」
片 「それなんですが…。全員から自己申告されたプロフィールが詐称ばっかりで発表出来る状態じゃないんですよ」
カ 「そもそも個人情報をそう易々教えるわけがないわね。特に女の子は」
片 「そういうカゲメさんも詐称が酷かったですがね」
黒 「ほう、例えば?」
片 「B87とか」
カ 「ちょっ!本気でバラすつもり⁉︎クロベもあちゃーみたいな顔してんじゃないわよ!」
片 「こういう分かりやすいのならまだ良いんですが…中には本当に微妙なものも」
黒 「なるほどな。嬢ちゃんぐらいなら家を漁れば何か出てきそうだが?」
片 「それも含めて、正確な情報を届けられるようになったら届けます!」
黒 「んじゃ、今回は何をする?」
片 「そうですね〜って、あれ?カゲメさ〜ん、どうしました?」
カ 「………ン」
片 「はい?」
カ 「確かクリスマスって、チキンが必要なのよね?」
黒 「おい、カゲメ?その二本の刃は何だ?」
カ 「せっかくの一年の集大成だもの。ここは……鴉と作者のお造り、なんてどうかしら?」
片 「お…う」
黒 「ははっ…、ダッシュ!」
カ 「逃が…さない!」
片・黒 「まだ、死ねない!」
・
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久 「やれやれ、とんだ年越しですね?」
月 「久城〜、大掃除終わった〜」
久 「はいはい。では皆様、良いお年を。そしてまた来年も良い年になります事を我々一同、心より願っております」
月 「誰に話してるの?」
久 「さあて、誰でしょう?」




