第四十七話 安寧と波乱
「さて、これで全部ですか?」
「たぶん…というか、なぜ私はこんな手伝いをさせられているのかしら?」
「まあ、この手では書けませんから」
猫の肉球を晒して自分に非が無い事を証明する。この体になってからというもの、実に不便で仕方がない。ですが、こういう時に仮にも神様をこき使えるというのは優越感がある。それが、私に癖を与えているのは確かだった。
決して上手くはないが、教えた要点をしっかり踏まえた上で書かれた何百通という手紙の山。
朱雀家の当主が変わってから初めての公共的依頼は、まずはこの手紙書きから始まる。
世界中にいる猛者達に呼びかけ、集め、競わせる。今回の依頼は一種のお祭り的要素が多分に含まれている。おそらく、彼らも楽しんでくれるだろう。
「では、お嬢様と共にこの手紙を出してきて下さい。決して落としたりしないでくださいね」
「まだ私を使う気⁉︎」
「当然です。この愛らしい肉球でそんなに大量の手紙を持てると思ってるんですか?」
「自分で愛らしい、とか言ってる時点でわざとこき使ってるという事実が浮かび上がるのだけど、弁明はある?」
「さて、私はお嬢様を起こさねば」
「あなた、その姿になってだいぶストレス発散してるわよね…」
げっそりとした様子のオレンジがかった天輪を持つ少女ーー朱雀が借りているワイシャツとフレアスカートをじっと眺める。
ここに着いた時は戦国時代の鎧に露出度を上げたような装備だったのだが、流石に外を出歩いたりする上ではマズイだろう、という事で土花様からお借りした服だ。おそらく、着慣れない服に当惑しているだろう。
「大丈夫ですか?動きやすい服だとおもいますが、慣れない内は大変でしょう?」
「いや、というよりこんな腰に布を巻いているだけではどうにもスースーして…。その…色々と防御力が低くないかしら?現代の装備」
中世からある立派な衣服なのだが…。やはり異文化を取り入れるのは大変という事ですか。
「あれ?でも、そのスカートは裾が長いのですから、着物と同じような物では?」
「着物は厚手だし…。風で捲れる心配が無いだけ防御力は高いわ。これじゃあ、捲れた時ほぼ半裸と同じよ?」
その一言に、少し違和感を覚える。いや、流石に杞憂だとは思うのですが、一応確認として…です。
「朱雀さん、貴女ちゃんと下着は履いてますか?」
「えっ?私一度たりとて履いた事無いわよ?」
この時ばかりは、サトリがいなかったのが悔やまれる。もし、この回答を初めから予知出来ていたら……不覚にもお嬢様に助けを求めになんて、行かなかったでしょうに。
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学校の授業の五•六時限目というのは惰眠を貪るのには最高に適した時間帯だ。しかも、それがまったく理解出来ない数学ならばなおの事。
僕、赤原 雷咼は絶賛数学の授業中に居眠りをしようとしていた。
いや、だからどうした?というものだし、別に大々的に宣言する事でも無いのだが、我がクラスの数学教師はとにかく厳しい。寝れればそれが勲章になるほどだ。
僕も二学年に上がった当初は舐めてかかっていたが、一度この数学教師を見れば、その考えも吹き飛ぶだろう。
体格は森場さんと同じくらい、しかし森場さんと違うのはスーツを着ている点…だけではない。つまる所、マジでヤクザなのだ。外見が。
髪の毛は完全に剃ってしまっているし、何か顔にはやたら大きな傷も持ってるし。日本刀でも握らせたら完全に職質を受けても文句を言えないだろう。
さて、ではなぜ今日に限って僕が居眠りを決行しようとしているのか?それは…
「(赤原、頼んだぞ)」
「(任せて。必ず、奴の目を掻い潜ってみせる!)」
「(俺達も全力でカバーする。だが、無理はするなよ)」
僕が今日学校に着いた時、教室ではクラスメイトが僕を待っていた。
一応言わせてもらうと、僕は決して学校生活を真面目に過ごしているわけでも、まして積極的に生きているわけでもない。
せいぜい、義務教育終了後の延長線上で行かせてもらっている、という方が正しい。
だから、僕は特に今までクラスメイト達の顔も名前も曖昧にしか覚えていなかった。だが、クラスメイトの方は違ったようだ。
学校内で流行っている一種の遊びというか、チャレンジャー精神の奮起というか、そんな物に突き動かされて今、クラスメイト達は僕が居眠りを成功させる事を切に願っている。
まあ、僕としては熱中しているふりをしていつも通り寝るだけだ。なんという事はない。後は周りに任せるとしよう。
今回はあくまで寝る事が目的。だから上体を落とさず、ペンを握ったまま目だけを瞑る。…よし、後は寝るだけ…
「良い度胸だな?貴様ら」
頭に鉄板でも叩きつけられたのかと思った。
それほどの衝撃を脳天に浴び、落ちかけた意識が急浮上する。
バ、バカな!さっきまで教卓で板書していたはず。瞬間移動でもしたというのか⁉︎
「ちっ、やっぱり赤原でもダメだったか…」
「やはり、こいつに勝てる奴はいないというのか?」
僕のフォローをしてくれていたはずの前と横の席の奴が諦めの声を上げる。
というか、やっぱりとか言うなら初めからやらせるなと言いたい。まあ、別に誰かに言われなくても寝たとは思うが。
殴られた頭を押さえて痛みに耐えていると、ヤクザ…もとい先生は再び教卓に戻って板書を始める。
流石の僕も、二度寝に入れるほどの勇気は…持ち合わせているわけがないでしょ。
というわけで、真面目に授業を受ける気にもならない僕は、この安寧に至ったあとで気付いた事を整理していた。
まず、久城さんが生きていた。いや、正確には死んだ後に魂だけを別の器に移し変えて生き永らえた…という方が正しいか。
ただ、今回の事は久城さんにしろ月緋ちゃんにしろ、ハッピーエンドではなかったがデッドエンドでもなかった。それだけで充分な気がする。
今、この安寧を味わえるのは久城さんがいてくれたからだ。そこの所は感謝している。
ついこの間まで当たり前だった登校も、今日はなんだか新鮮な気分だった。土花もそのようで、今日は無表情の中にも嬉しさが滲み出ていた気がする。
「そういえば、土花の新しい能力。僕達何も聞いてないんだよなあ…」
いろいろあったというのも理由の一つだが、土花自身の口から聞きたかったというのが僕の本音だ。
黒部さんはそもそも土花の能力は見ていないから、知っているのは僕とセレ、コンとコルの四人だけである。
その誰も、自分から土花に聞く事はしなかった。何を思ってかは分からないけど、コンとコルは僕と同じだと思う。
「(ねえ二人共、土花の事なんだけど…)」
頭の中からストラップ状態の二人に話しかける。僕から話しかけるのは実に珍しい。逆の場合はよくある事だが。
「(土花がどうかしましたか?ご主人)」
「(ご主人様、ただでさえ数学は苦手なのですから聞いていないとマズイのでは?)」
「(いや、もう今さらって感じだし)」
赤点回避…が出来るかも分からないが、そもそも聞いても理解出来ない事は仕方がない。諦めも肝要だ。
「(いや…、そこは諦めずに頑張りましょうよ、ご主人)」
「(そんな事より、土花のあの力について何か聞いてない?)」
「(知りませんね〜。また次の機会にでも聞くのがよろしいかと、ご主人)」
あまりその機会が来て欲しくはないな。命の危機なんて人生に一度あれば充分だ。出来る事なら、それが寿命の尽きる時であって欲しかった。
「平和だね〜」
窓際から見える澄み切った青空が僕を見下ろす。おそらく、中等部の校舎では土花も授業を受けているのだろう。
体育で野球でもやっているのか、白球を打つ音が響いていた。
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「というわけで、今から会議室集合だよ」
「というわけで、の意味合いがさっぱり掴めないのですが?」
五•六時限目の数学を乗り切り、いざ帰らんと意気込んだのも束の間、僕は学級委員長の梶原さんに笑顔で首根っこを掴まれた。
「赤原君は公欠してたから知らないと思うけど、今年から修学旅行と文化祭が同時期になったんだよ」
「へ〜、そろそろ修学旅行の季節だな〜、とは思ってたけど文化祭もこの時期とは。正直もう諦めてたよ」
首根っこを掴まれたまま、僕も愛想良く笑顔を浮かべる。
そっかそっか、修学旅行か〜。楽しみだな〜。どこ行くのかな?
「それじゃあ、行き先とか諸々の諸連絡、楽しみにしてるから」
「何言ってるの?赤原君も学級委員に入ってるんだから会議には出席しないと…って、本気で嫌そうな顔しないでよ」
だって、会議なんて僕が出来るわけないじゃない。そもそも発言権あるの?僕なんか蚊帳の外どころか空気ほどの存在感もないに違いない。
とはいえ、そんな事を口に出す事も出来ない。任されている仕事があるなら、少しはやらねば文句を言われてしまうからだ。
「あっ、雷咼さん。丁度良かったです」
「あれ?土花?」
首根っこを掴まれている所為で後ろは向けないが、確かに後ろから土花が僕を呼ぶのが聞こえた。
土花は僕の帰りのホームルームが終わってから大体二十分で高等部の校舎に進入してくる。
それまでは正門の方で僕を待つ。最初は鍵を持っていたのが土花だけだった、というのが理由なのだが。屋敷で待っている人間が増えたし、あまり意味がなくなってしまった今でも、それがお約束みたいになってしまった一面がある。
土花が拒否してこないから、それに甘えている僕も僕だが…。
「あの、会議室ってどこにあるんでしょうか?」
「土花、お願いだから僕の前に来て話してくれない?あと、この状況に関しては説明させてくれると助かる」
「あれ?いつぞやの赤原君の彼女さん?やっぱり可愛いね。隅におけないなあ、赤原君」
首根っこを掴まれて引きずられる男子高校生とそれを引っ張る女子高生、ならびにそれを眺めているのであろう女子中学生。
「これが公共の場だったら修羅場とか思われるのかな?」
なんだろう。首根っこを掴まれてなければ、少しは違う気持ちになっただろうに。
「梶原さん、取り敢えず首だけでも解放してくれるかな?あと、別に彼女じゃないです……」
「…………」
「はいはい、もう逃げないでね」
ようやく解放された襟を正し、深呼吸を何回か繰り返す。
逃げることは諦めるが、会議を早く終わらせる事に尽力させてもらおう。
土花に改めて向き直ると、こちらは予想とは少し違って頬を膨らませていた。…不機嫌?
「土花、なんか不機嫌になってない?」
「別に……」
「あはは、痴話喧嘩が始まっちゃった」
ニコニコと楽しそうに先行し出した梶原さんを追いかけて土花も走り出す。
(ご主人は相変わらずですね〜)
(土花はライバルですが、少し不憫に思えてきました)
一体何がなんなのか、それを分かっていないのはまた僕だけらしい。
……解せない。
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僕達の通う條崇寺高校は中等部•高等部と分かれている故に学校全体が大きい。
グラウンド数も、大きいものから小さいものまで含めれば十を超えるだろう。そして、中等部•高等部のそれぞれの委員会の会議で使用される会議室もまた、数が多い。
土花の用事も他の会議室で使われると思っていたのだが……
「会議室Aって…ここですね」
「土花、今更なんだけどさ。もしかして、土花って学級委員なの?」
「今更すぎません?」
当然のように僕達と同じ目的地を呟いた土花は問いかけた僕を冷たい目で見る。
いや、確かに土花ならば学級委員でもなんら不思議ではない。ただ、僕が彼女に学校の事を聞かなかっただけだ。僕が話さなかったように。
「雷咼さんはもう少し他人に興味を持った方がいいですよ。だから『窓際の王』とか言われるんです」
「えっ?僕そんな風に言われてるの?」
「それは一部だよ。『陸の孤島』の方がウチのクラスではポピュラーだね」
僕の知らない所で不名誉なあだ名が開発されていた。…というより、何で土花はそんな事知ってるの?
「友達に情報通がいますから」
「あっ、そうですか」
会議室に入ってそれぞれが指定された席につく。教師陣はまだ来ていないようで、見た事のある者から無い者まで、全員が好き勝手に集まって話していた。
僕としては動く理由も無いのでじっとしていたのだが、土花は違うらしく同学年と思われる女子集団の中に入っていた。
「それで?あの子とはどういう関係なの?」
「梶原さんってそういう話題が好きなの?何か意外かも」
隣に座っている梶原さんがニヤけた顔で話しかけてくる。
女子は大抵ゴシップ好きだとは思っていたけど、まさか梶原さんもだとは思わなかった。見た目からして学級委員長然としてるのに…やっぱりそこは女子なんだな。
「彼女とかではないけど…う〜ん、ちょっと難しい関係かな」
「家族ぐるみの関係とかでもないんだね」
「まあ…ね」
一般の方には少し説明しにくい関係ではあるかな。この世界において、第一声に「妖怪を機会に出会ったんだ!」なんて言ったら、すぐその場で精神鑑定されてしまう。
本当は家族ぐるみの付き合いとか言った方が楽なのだろうが、僕も土花も『家族』というワードは一種の禁則事項みたいなものだし。梶原さんなら深く追求してきたりはしないだろう。
頬杖をついて友達と談笑している土花を見る。相も変わらずあまり変化のない表情を見ていると、憑依した時の感情豊かな土花を知っている僕としては罪悪感が湧く。
学校生活で泣いたり笑ったりする事の出来る土花。いつか、それを見られる日が来ないだろうか?
「待たせたな。ほら、席に着け!」
五人の教師が会議室に入ってくる。それぞれが白い紙と薄緑色の小冊子を抱えており、会議が始まる事を理解させる。
「さて、来週に迫った修学旅行の会議を始める。起立!」
教師の毅然とした声が部屋に響く。
会議自体は梶原さんが僕の分も頑張ってメモを取ってくれるから問題ない。そんなに時間はかからないだろうが、僕は会議が終わるまで、ずっと思索に耽るのであった。
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「ほう、来週は修学旅行か。留守は任せな」
「黒部さん、お願いですから面倒は起こさないで下さいね」
「嬢ちゃんと同じ事言ってんじゃねえよ!」
さて、場所は変わりまして土花の家の黒部さんの部屋。会議終了後すぐに帰って居間でくつろいでいた黒部さんに報告したのだが、どうやら一足遅かったらしい。
まあ、若年層にまったく信用されていない大人というのは珍しいが、この人は人の家の天井を吹き飛ばした前科もある。警戒もされるというものだ。
「修学旅行なんて半分諦めてたからなあ。行けるのは嬉しいかな」
「まあ、学校生活の花形の一つと言っても過言ではないからな。…んで、場所はどこなんだ?」
「どこなんでしょう?」
「知らんのかい!」
そりゃ、まあ全部会議では人任せでしたから。でも、確か国内ではあったはず。
あとで土花に聞いておくとしよう。
「となるとだ、坊主、狐共はどうするつもりなんだ?」
「どうしましょうか。連れて行ってもあまり自由に動けないと思いますし、ここは置いて行った方が吉ですかね?」
二人と距離を置いて、いざという時があったら怖いが、しかし衆人環視の中で憑依するわけにもいかない。
土花のように常時妖怪を宿していれば話が早いのだが、コンとコルはきっと嫌がるだろうからな。
話して分かるとも思えないしなあ。
「あの、夕飯が出来ました。皆、もう待ってますよ」
「おう、嬢ちゃん。今行くよ」
襖越しに土花の声が聞こえる。どうやらもうそんな時間になってしまったらしい。
コンとコルに話をするなら、ストッパー役がいるご飯時が一番良いか。
身体を伸ばして固まった筋肉をほぐす黒部さんに続いて居間へと向かう。
外からは静かに屋根を叩く雨の音が聞こえた。
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土花家の屋敷は広いとはいえ、久城さんやルイを含めれば今や総勢十人と一匹がこの屋敷で暮らしている。
居間に全員が収容出来るはずもなく、久城さん、月緋ちゃん、朱雀さんは同じ部屋で寝泊まりしている事もあって別で食事をする事になった。流石に、知り合いのいないルイを一人で食べさせるわけにもいかないので、そこは居間に連れて来たが…。
そんな訳で八人で食事をしている途中、僕はコンとコルに修学旅行はお留守番しているように自然な流れで言ってみた。しかし……
「えっ、私達は…お留守番?」
「ご主人様……そんな、ご冗談を」
表情は笑顔で固まり、なぜか言葉にも抑揚の無くなった人形のようなコンとコルが、そこにいた。
笑顔という仮面を作ってそれをそのまま貼り付けた…みたいな感じの眼が死にかけの光を灯して僕を視界に収める。若干、僕の視界に暗い影みたいなのが出ている事から察すると、意識が遠のきつつあるようだ。…そこまでショックか。
「コンさん、コルさん、修学旅行は学校のイベントです。自由時間ならまだしも基本的には班行動ですから、お二人を人の姿にする事が出来ません。雷咼さんもそう思ってでしょう」
「し、しかし、それではご主人に何かあった時に護れません!」
「ご主人様が〜、私達を〜、置いて一人で〜沖縄〜♪」
コンはいかに自分達が必要かを手振りを加えて熱弁。コルは現実逃避しながら生気のない眼で変な歌を歌い出した。
予想通り、いやそれ以上の反抗だ。純粋にボコボコにされるより堪える。
助け舟を出してくれた土花もダメだとばかりに首を振って僕を見た。
無論、これにまったく関係のない黒部さん達は黙々と食事を続ける。カゲメに至っては本日三杯目のおかわりを既に胃袋に納めていた。
「流石に沖縄まで二人を連れて行くのは危険があるよ。少しでも姿を見られたら説明出来ない」
茶碗と箸を置いてコンとコルに語りかける。二人共、姿を見られる事の重大さは僕と生活していて知っているはずだ。
学校に行くだけならば半日で済むが、修学旅行は三泊四日の長丁場だ。その間、コンとコルがストラップでいる事を許すだろうか?いや、絶対に無い!
「ライカ、さっきから聞いてたけど、どうしてストラップで連れて行くのを嫌がるのかしら?」
「カゲメ、四杯目はやめなさい。お腹壊すよ。……嫌がってるわけではなく、単純にコンとコルが耐えられないんだよ」
「耐えられない?」
「ねえ?コン、コル」
「カゲメには分からないのです。…いつも幼女姿で影を行ったり来たりしてるようでは」
「あの時の窮屈さと言ったら……緩衝材で包まれて更にギリギリまで物を詰まれた段ボールに入れられたようなものですから…」
よくそんな窮屈さを感じながら今までストラップになっていたものである。前々からなんとなく知っていた僕までもが同情の念を禁じえない。
しかし、そうであるならば余計に三泊四日なんて耐えられないだろう。ここはやはり皆と一緒にお留守番を……
「しかし!それはあくまで平時の時です!」
「そうです!ご主人様をお護りする為ならたとえ段ボールだろうと詰め込まれましょう!」
どうだ⁉︎みたいな感じの興奮した顔で僕の顔を覗き込むコンとコル。しかし…二人が言うほど危険が孕むとは思えないのだが。
「マスターが言っていたです…」
ポツリ、と今まで黙々と食べていた新しい居候…もといルイが会話に参加する。
本人曰く良い所の出なだけあって、姿勢も箸の持ち方も綺麗なものだ。完全に野生児みたいな生活をしていたカゲメが始めて箸を持った時なんかは赤ん坊のソレだったんだけど。
こういう点も、人間と共生して身に付くスキルということか。
「妖怪と一度でも関わってしまった人間は、死ぬまで妖怪に付きまとわれるって……それは悲しそうに言っていたです。だから、お前も気を付けるに越した事はないです」
「死ぬまで…か」
コンとコルにしがみつかれながら、思わず苦笑が漏れる。確かに、この二人とは一生離れる事はないだろう。
それは、華蓮との約束だけではなく、既にこの二人が家族だからだ。
それはルイに言われるまでもなく分かっている。
「はあ…、しょうがないか」
「ご主人!」
「ご主人様!」
諦めの溜め息をついた僕を見てコンとコルが歓喜の声を上げる。
まあ、このまま二人を残す事にしたら、どんな手段を使って紛れ込んでくるか分かったものではない。未然に防ぐという意味では、連れて行った方が無難だ。
それに、沖縄といえば彷徨っている幽霊の一人や二人…下手すると三十人以上なんて事もありうる。恐山ほどではないにしろ、鬼が出る事を警戒しなければならないだろう。
「コン、コル、連れて行くけどくれぐれもストラップ状態から人型になったりしないでね?」
「モチのロンですよ!」
「ご主人様のご迷惑にはなりません!」
輝くような笑顔を見せて尻尾を嬉しそうに振るコンとコル。
僕の視界も良好になり、二人の意識がちゃんと浮上した事を確認した所で、僕は食事を再開する。
僕達が論争を続けている間、食べ終わっていた黒部さんやセレはずっと待っていてくれた。その心意気に感謝。
「それじゃあ、今週の休みに必要な物を買いに行こうか?土花」
「はい、そうですね」
「ぬっ?買い物か?ならば我も同伴しよう。現代のまだ見ぬ物を見たいのでな」
「それじゃあ、皆で行きましょう!勿論、そこで他人事みたいにしてる鴉も同伴ですよ」
「何で俺まで⁉︎」
そんな楽しい談笑で至福の時間が流れる。
刻一刻と流れる時間の流れ。それは万物に変化を与え、勿論それは今の現状だって例外ではない。
少しずつ、少しずつ蛇の毒が身体に回るように、世界を改変する。
この先の『事情』も何も分からぬまま、ただ平穏が過ぎ去る今を生きる幸福を、僕達はまだ知らない。
そう。僕達はまだ なにも知らない という事にすら、気付いていなかった。
夏だな〜。八月だな〜。入試まであと半年だな〜。
はい、どうも。最近居間で大音量で映画を観る父親に苛立ちを覚えてきた受験生、片府です。
八月の中盤、というわけで本来なら受験の天王山ですが、片府はちょっと五月病っぽくなってきました。一応、勉強はしていますが、まったく成績が伸びません!正直このまま来年の夏まで眠ってしまいたいです。
皆様が一体どんな夏をお過ごしかは想像するしかありませんが、どうか楽しんで下さい。私は来年楽しみます!
さて、今回のお話で修学旅行が出てきましたが、次回以降は〜編とは銘打たず、小休止のように銘無しの物語にしようと思っています。三泊四日、雷咼と土花は無事に修学旅行を終われるのか!…まあ、ただで済まそうとは思っていませんが。少なくとも、楽しい旅になって欲しいものです。
では、今回はこの辺でお暇を。
皆様、また次回のお話でお会いしましょう!さよなら〜。




