第四十五話 夜空の黒(遭難編 番外)
今日はめでたい一周年記念回!
後書きを一工夫加えてメインキャラクター全員集合のラジオ風後書きにしてみました〜。
注釈 ラジオ風ですので、結構な分量がございます。不快な方もいるかもしれませんが、ご了承下さい。
では皆様、最後までどうぞお楽しみ下さい!
狐の事情の裏事情 第四十五話 『夜空の黒』始まり始まり〜
わたしが生まれた場所は暗い暗い沼の底。
お爺様はその沼の主と言われ、わたしもいずれそうなるはずだった。
でも、不思議な事とは唐突に訪れる。わたしの場合は実に顕著だった。
まず、いつもわたし達を見下ろす人間のような姿…というよりも、人間そのものになっていた。
そして、見える物が変わった。
暗い沼の底に一本の光る筋が見えた。何の気なしに触って見たら、僅かながらも地面が揺れた。それは、地震の元となる種なのだとお爺様は喜んだ。
喜ぶ顔が見たくって、わたしは面白がって筋を触り続けた。その結果起こったのが未曾有の大惨事、沼の崩壊。
近くにあった山からの土砂崩れにより、沼は埋まった。生き残ったのは…わたしだけ。
それからは…皆と同じ。
出会ったマスターと共に暮らした。決して恵まれているとは言えなかったけど、寂しさは紛れた。
わたしに似たような仲間が、友達が、ちゃんといたんだ。
『逃げてくれ…、ルイ。頼む。君が逃げれば、まだ戦える』
悪夢を見た。
いつもと同じ、いつもと同じ日常に、大きな大きな波紋が立てられた。
『ははっ!良いのかい?せっかくのドーピング剤をむざむざ逃がして。それに、逃がすのならば主力の方が良いんじゃないかい?』
『分かってないな、化け物め。俺達の要はルイ一人だけだ。この娘はいずれ…神になる』
筋が幾本もマスターの身体から出ている。
これは震源の糸じゃない。…これは、何?
『ルイ、大丈夫。俺達が簡単に殺られる訳ないだろ?だから…逃げてくれ』
マスター‼︎
『逃げろ!ルイ、命令だ!』
筋が一つ一つ切れていく。胸騒ぎだけが訪れて、腰を抜かしたわたしは不意に……その意識を浮上させられた。
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「では…行きますね?」
「「「ごくりっ」」」
その場に居合わせる七人の間に緊張感が張り詰める。
鳴るのは六人の喉と一人がゆっくりと動く時に生じる衣擦れの音だけ。それ以外はまったく全員の範疇の外だ。
僕も参戦者の一人だが、ここまで切迫とした戦いは初めてだ。
コルがゆっくりと僕の喉元へと迫る。その手が掴むのは僕の魂だ。油断したら…死ぬ!
「これです!」
高々と宣言して引き抜かれたのは……僕の所持するトランプ、の一枚。
「なあ〜〜〜⁉︎」
「よっしゃーー!」
運は我に味方した!コルが引いて、放り投げたトランプの絵柄はジョーカー。先程まで僕の手札になっていた札だ。
残り枚数が二枚で引く確率は二分の一。しかも、攻防戦を既に十回以上繰り広げている中でジョーカーを引くなんて、コルの運は僕と同等かそれ以下のようだ。
「赤原さん、次で終わらせましょう」
「そうだね、青田さん!」
「コン〜、どうしましょう⁉︎何か、次の策は無いんですか⁉︎」
「ちょっと待って!今考えてるから!」
「ねえ、早く終わらせてくれない?」
「まったくじゃ」
げんなりとした眼で先に上がったカゲメとセレがボヤく。先に上がった者だけが出来る、敗者を見下した眼だ 。
しかし、勝者をいくら羨んでも結果は変えられない。ならば、現状最下位という汚名だけでも回避する事を考えねば。
「次はどうしようか、青田さん」
「そうですね。二人の性格を考えると正攻法は危険ですが、赤原さんの性格をも熟知している二人です。その裏をかいてくるかもしれません」
二人で顔を寄せて秘密の作戦会議。攻防戦が六回を過ぎた辺りで僕には青田さんが、コンにはコルがアドバイザーとして参加しているのだが、結局勝負は決まらず次で十一回。
そろそろ終わりにしたいものだ。
僕達と同じように、コンとコルも互いに狐耳を寄せて作戦会議。しかし、向こうは作戦をしながらも後ろ手でカードをシャッフルしているのは明らか。それを…読む!
「さあ…どうぞ」
「うん…行くよ」
右手に全神経を集中してカードの一枚に手をかける。しかし、触れた瞬間に感じた『ジョーカーかも?』という疑惑に手の動きが止まる。
「どうしたんですか、ご主人様?さあ、カードを…引いて下さい」
別段ログハウス内は暗くないのに、コルの顔が暗く笑っているように感じる。…これがプレッシャーというものか?
そうだ。コルは僕の性格を知っている。そして、それは僕も同じ。
ならば、何も考えずに引いてやる!
「こっちだーーー!」
本能に従い…先程掴んでいたカードを引き寄せる。そこには…待ち望んでいた『九』の模様が!
「ふっ…、強くなられましたね、ご主人様」
「いや、僕一人ではどうにもならなかったよ。…ありがとう」
共に戦った戦友として、そして、ここまで戦ってくれたライバルとして感謝の固い握手を交わす。
また、僕達の絆がーー深まった。
「お〜い、そこで絆を確認し合っとる二人よ。ビリとブービーで次の見張り、サボるでないぞ?」
「「はい…」」
セレの心ない一言で固い絆も、脆い絆だと痛感させられたのであった…。
「おい、こら!待ちやがれ!」
そんな湿っぽい空気をぶち壊す怒声が一つ。ログハウスの奥の部屋から聞こえてくる。
おそらく、第一回トランプ大会で負けた黒部さんと森場さん、そして一応として加わったエルフ耳が特徴のワカナさんのいる部屋だろう。
修行というか、遭難というか、つい昨日終了した一種の地獄の中で、最後の最後にカゲメと黒部さんが連れてきた女の子が目覚めて暴れでもしているのだろうか?
これってもしかして、見張り役お役御免?
とか思っていたのも束の間、その当の部屋が勢い良く開き、物凄いスピードで一人の少女が窓ガラスから逃げ出した。
「っくしょう!逃げられた!」
「まさか、このメンバーから逃げおおせるとはなあ?」
「実質動いていたのは彼だけで、主はずっと寝てたじゃない。さも、今まで見張りをちゃんとしてました、みたいな感じで登場しても無駄よ?」
黒部さん以外は気楽に、そして些末な事しか起きていないとでも言うように登場したのは、昨日までお世話になったいつも薄着の筋肉マン•森場さんと、青田さんに新しい自分を見つけさせてあげたセレに似て、それでいて似ていないエルフ耳の深緑な女性•ワカナさん。
因みに、森場さんの評価は僕だけでなく青田さんも関与しているので、そこの所はあしからず。
黒部さんは窓に張り付いて苦虫を噛み潰したような顔をしているが、後の二人は実にマイペースだ。もう席にちゃっかり座っている。
「あの…追いかけなくて良いんですか?黒部さん、もう行っちゃいましたよ?」
「何を言うんだ、赤原少年よ。俺達の仕事は終わりだ。ほら、時計もちょうど交代の時間だし」
「先程から聴いていたけど、勝負も決着したんでしょ?だったら、ついでに交代で良いんじゃない?」
あ〜、やっぱりそうなりますかね〜。
え〜っと、さっきのトランプ大会の結果からすると、僕とコルが行く事になるけど…
「ご主人!勿論、私もお供しますよ!」
「二人では流石に大変でしょうし、私もお手伝いします」
「ありがとう、コン、青田さん」
持つべき者は絆の厚い者である。どうやら、両陣営のメイカー二人がお供してくれるようだ。
正直、この広い森の中を二人で探すのかと思うと意識が遠くなりかけるが、二人追加ならば話は別だ。
「分かりました。じゃあ、行こうか」
ニコニコと笑顔で手を振る森場さんとワカナさんの見送りの中、日差しが照りつける森の中へと僕達は繰り出した。
そういえば、どうして黒部さんを数に入れなかったか、気にはならないだろうか?
簡単な話、方向音痴な人を戦力に数える事は出来ない。それだけである。
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わたしは逃げた。
肩口で切り揃えた鈍い黒色の髪が眼の端で揺れる。まるで、逃げる為にそうしたかのように、髪が邪魔になる事はない。
わたしを殺そうとお腹に穴を開けてくれた、私と同じくらいの背丈の少女もあの場にいた。ということは、わたしは捕虜になって何をされるか分からないという事だ。
最悪、死ぬ可能性だって多いにある。
「マス…ター。ひぐっ…」
涙が出かける。駄目だ。泣いてはいられない。
わたしはマスターを助けなければならないのだから。
やがて、樹々が無くなり、眼下に長い川を見つけた。全力で走ったお陰で喉は燃えるように熱い。
引き寄せられるように、わたしは川へと近づいて行った。
「そういえば…、最近何も食べてなかったっけ?」
妖怪といえど、やはり腹は減る。食わねば死ぬ訳ではないが、不快感に耐えきれないものがあるのは確か。
川であれば魚もいるだろう。水辺に住んでいたわたしなら簡単に採れるはず。
「よしっ!」
「ちょっと待ちな!」
身体が跳ねる。
後ろを振り向くのが恐ろしい。
だって、この声は…
「人の身体に勝手に入り込んで何も言わずに逃げ出すのは、ちと卑怯じゃないか?」
「川…やはり、セレと同じで水辺から発生した妖怪ですか?」
いつの間に追いつかれたのか、後ろには人の気配が二つ。一人はわたしが中に入ってやった…アカハラとかいう奴。もう一人は、名前は知らないけれど、実力はアカハラとたいして変わらない女。
「簡単に入り込まれる方が悪いのです。それに、あなたのお仲間さんがわたしのお腹をぶち破ってくれましたし、トントンなのです」
川を使って逃げる?もともと水の中で住んでいたわたしなら逃げ切れる確率は高い。
駄目だ。一度入ったからこそ分かる。そんな事をすれば雷で撃って下さいと宣言するようなものだ。
だが…、力ずくで逃げ切れるだろうか?
ふと脳裏に意識を失う前に聴いた声が蘇る。
『一人では生きられないのでしょ?』
「くっ!」
あの時は腹も立ったが、言われてみればその通り。わたしは一人では生き延びる事も出来ない。
かと言って、むざむざ死ぬような事はしてたまるものか!
「なあ、そんな殺気出さなくても殺したりしねえよ。殺す気だったら最初から助けたりしねえし…」
少し困ったような声が後ろから聞こえる。確かに、わたしはお腹を刺されて瀕死の状態だった。本来なら、こんなに元気に動けるはずがない程に。
「ならば、逆に聞くです。なぜ、お前達はわたしを助けたりしたのです?」
あくまで振り返りはせず、どこかに入り込めるようなーーわたしだけの空間を探す。
「特に理由は…強いて言うなら、理由を聞きたかっただけだ。どうして、あんな事をしたのか」
ダメです。見つからない。
どこでも良い。今はとにかくあの二人の手の届かない場所に行か…ね…ば。
「…そうなのです」
「「はっ?」」
そうです。最初から目の前に最高の場所があったのです。決して誰の手も届かない、攻撃も邪魔も入らない最高の場所が。
「わ、分かったのです。投降するのです。だから、命だけは助けて欲しいのです」
「いや、最初から殺す気なんて無いし」
「ええ…」
両手を挙げて降参の意を表しながら一歩ずつ歩く。
男の方は一度入り込んでいるから警戒されるかもしれませんね。であれば、まだ入っていない女の方にする。それなら、きっと手を出すのを躊躇うはずだ。
アカハラとかいう奴とは少し距離を取りながら、女の方に歩み寄る。こっちなら、まさかいきなり拘束するほどの鬼畜性は無さそうなのです。
「それじゃあ見つかったし、帰るか」
「ええ、そうですね」
今なのです!
憑依と同じ要領で、わたしは女の内に滑り込む。
わたしの妖怪としての能力は『精神寄生』。本来なら、霊力や妖力の底上げなど、ドーピング剤に等しい力ですが、使い方を変えれば妖力や霊力を意図的に暴走させる事も出来るのです。
先のアカハラとかいう男が暴走したのも、白状するならばわたしがやった事なのです!
さあ、これで逃げる為の足と人質が手に入ったのです。この女には悪いですが、わたしの言う通りに動いて…
「ふむ、まったくもって小僧の予想通りじゃな。我も入っておって正解であったか」
あれ?
見えない誰かの手がわたしの服の首根っこを掴んでわたしごと女の身体から出る。
いやいや、嘘です。そんなはずは無いのです!
そんなわたしの内心とは裏腹に、首根っこを掴んだ誰かは小柄な体躯のわたしの身体を持ち上げたまま本来の姿へと戻る。…青い髪の…美人さんなのです?
「お疲れさん、セレ。悪いな、変な手間をかけて」
「本当に中に入ってくるんですね。特に違和感もありませんから、気配を消されて入られたら厄介です」
「だろ?」
うんうんとシンクロした動きで頷き合う二人を尻目に、わたしの首根っこを掴んだ妖怪がわたしをゆっくりと下ろす。
「それで、どうするのじゃ?この小娘、いつまた逃げ出すか分からぬぞ」
や、やばい、ミスったのです!もう、これは死んだのです!
内心の緊張はピークを迎え、身体が自然と晒し首を覚悟して正座に移行する。自業自得だというのに、涙までとめどなく溢れ出てきてしまった。
「ひっく…えぐっ…ふえぇぇぇ…」
「ぬっ?おい小僧、こやつ遂に泣き出したぞ。まだ我らが命を取ると思っておるようじゃの?」
「まったく…カゲメが脅し過ぎた所為だな?」
「これじゃあ帰っても仕方ありませんし、少しここで頭を冷やしてもらいますか?」
「そうだな。こっちが武装してたら気も休まらないだろうし、憑依は解いておくか」
首を落とされると覚悟していたわたしに、とてもではないが信じられない話が聞こえてくる。
敵の前で武装を解く?しかも、あまつさえつい先日酷い目に遭ったばかりだというのに?
下を向けて泣いていた顔を上げ、本当に二人が憑依を解いたのを見たわたしは、本格的にこの二人が分からなくなる。
まさか、本当にわたしを殺す気は無い?
いやいや、何を血迷っているのです!これはきっと、相手が心を開いた所で殺してしまおう、的な鬼畜の所業に違いないのです!
「となると、長くなると厄介だのう?……よし!我は食料を探してこよう!」
「「よろしく〜」」
「もはや警戒度がゼロなのです‼︎」
スタコラサッサと森の中へ入る青い髪の妖怪を手を振って見送り、残った人間二人と狐耳の妖怪二人はもはやわたしの存在など忘れたように遊びだした。
そりゃあ、もう、楽しそうに。
狐耳の二人は服が濡れるのも気にしないで川へと進軍して水かけあってるし、人間二人の方はそれを保護者的視線で眺めてるし…。
「何なのです?この一行は…」
ポツリと呟かれたわたしの言葉を聴いてくれる人は、誰もいなかったのです。
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ルイというのはマスターの付けてくれた名前だった。
日本には沢山の旧家名家がある。しかし、それは何も今現存しているものだけではなく、むしろ過去の物として消えた家も多くあるのです。
そして、そのような家には名字に特徴が少なからずある。わたしのマスターも『色の名家』と呼ばれる一族の人間だったのです。
妖怪を使役…奴隷化させるのに特化した家では、引き取られた妖怪の最期は惨めだ。
引き取られた妖怪達は当初、人並みの教育を施されてある程度の教養を得る。
しかし、その扱いはあまりにも酷い。人よりも限界値が高いのを良い事に、無理矢理に知識を詰め込まされるのだ。
そして詰め込むのは知識だけでなく、忠誠心まで。わたしの同期や先輩後輩の中には耐え切れず自殺した子もいるのです。
そんな家で、マスターだけが唯一友人として、仲間として扱ってくれた。
「マス…ター…」
「……え、ねえ、大丈夫?」
「はわっ⁉︎」
眼を開けると同時に見えた顔に驚き、座ったままで飛び上がる。眼の前には、アカハラというマスターとは似ても似つかない少年が心配そうに見ていた。
「あ、あれ?あっ…、わたし、寝てたのです?」
木の幹にもたれかかり、開けたばかりの眼をこする。しかし、何故この人間はわたしを心配そうに見ているのです?
「よく寝てたと思ったら急に辛そうにするし、ちょっとびっくりしたよ」
びっくりしたのはこちらなのです!とは、言わない。
優しくされて怒るのは筋違い、とマスターに昔言われたから。
「もう…夜なのですか?」
「うん、よく寝てたし、寝ている間に運ぶのはフェアじゃないと思って。もうコンとコルは帰っちゃったけど」
「雷咼さん、起きたんですか?」
「うん、そうみたい」
山の星が綺麗に輝いているのを背景に、まったくの無警戒な人間二人がわたしを見下ろす。
『また、泣いてたの?』
唐突に、昔マスターと過ごした日々の一幕が頭に浮かぶ。辛い事があると屋敷に生えていた大きな木の幹に身体を預けて夜だけ泣いていた。…夜は、人間が活動しないから。
「ひくっ…、えぐっ…、すんっ…」
また、涙が零れる。
ダメなのです。敵の前で弱みを見せるなど、やってはいけないのです。ですが…
「ど、どうしたの?大丈夫?」
「雷咼さん、こんな幼い子に何をしたんですか?」
「つ、土花!真っ先に出る言葉がそれって酷くない⁉︎」
こんな、こんなにも優しい人達は知らないのです。こんな、家族に接してくれるような反応をしてくれるのは、マスターだけだと思っていたのです。
だから、涙が零れる。声が震える。顔がクシャクシャになっても、恥だと思えなくなる。
少年が慌てた様子で少女に寄ると、少女はその度に半歩だけ引く。なんというか、面白いのです!
「……ルイ」
「「へっ?」
「わたしの名前は…ルイ。ナマズの妖怪で、地震や妖力を操作する事が出来る…です」
漫才みたいな事をしていた二人が、わたしが初めて自分から口を開いた事に驚きを隠せずポカンとする。しかし、少女の立ち直りは早く、すぐにわたしに近づいて片手を差し出した。
「私は青田 土花。仲間の妖怪は…たくさんいますし、後で話しましょう。とにかく…よろしくお願いします」
無表情で抑揚は少し低いけど、優しさを感じさせる声にわたしはその手を握る事で応える。
優しく、暖かい人間の手。
それを感じた途端、涙腺が再び決壊して涙が出かけた。それを押さえつけ、少女ーーツチカに引き上げられ立ち上がる。
未だポカンとしている少年を小突き、ツチカは正気に戻す。
正気に戻った少年は未だに混乱しているようだが、それでもはっきりと自己紹介した。
「え、えっと、赤原 雷咼…です。えっと、別に身体に入られた事は気にしていないから大丈夫だよ。よろしく」
「はい…はいなのです!」
マスターの事は忘れない。忘れるなんて出来るわけがないです。
マスターならばきっと、きっとあんな化け物に殺されずに生きているに決まっているです。だから、探すです。
この人達と一緒なら、マスターの一人や二人訳がないです。
そう思わせてくれるような、いや、そう確信させてくれる空気がそこにはあった。
「よし!帰ろうか」
「はい」
「はいなのです!」
マスター、わたしは絶対に探し出すのです。この命はマスターの為に、マスター以外にはあげないと決めているのですから。
燦然と瞬く星々の空に見守られながら、わたしは新たな目標を見つけて歩き出せた。そう、思ったのです。
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時は遡る事ーーー数刻前
川で水遊びしていたコンとコルだが、服が濡れて肌に張り付いた辺りで羞恥心に目覚めた。
「ご主人!幼女の危ないシーンは法律で禁止されているのです!」
「加えて言うなら、ここは現場、修正も加筆も無理なのですよ、ご主人様!」
「二人共何を言ってるの?」
例の見知らぬ少女が木陰で眠り始めてしまってから、実は意外な事が起こっていた。その一つがコレ。
他にも、セレがどこからか持ってきた木の実と採った魚で昼食をしている時、セレの憑依の影響で髪の長くなった青田さんの髪を眺めていたらコンとコルに怒られた。
青田さんはその指摘を受けて走って行ってしまったのだが……まあ、いずれ戻ってくると思う!そう思おう!
さて、話を戻してコンとコルの不明な言動の話だ。
二人の言っている事が某とある法律なのは分かる。僕も学校ではヒヤヒヤしているのだから。しかしだ…
「ねえ、二人共、そう言いながら一切身体を隠そうとしないのはどうしてなの?」
「えっ、だってご主人ですよ?」
「そうですよ。初恋の相手を未だに想っているご主人様ですよ?」
「話が見えません…」
「「おかしいなぁ〜」」
おかしいのは二人の脳内です、というツッコミを賢明に堪え、取り敢えず礼儀として後ろを向く。
確かに、二人の水に濡れた姿は実に艶やかだったとは思う。濡れて輝く金髪、肌に張り付いて扇情的に現れる体のライン、多少は気恥ずかしくはあった。
「なんだ、ご主人がっつり見てましたか」
「女の子に興味が無いのかと少し心配になりましたよ。…良かった」
「さては読心術を使ったな⁉︎『親しき中にも礼儀あり』って言葉を知らないの⁉︎あとコル、そのマジなため息やめて!」
決して眼は開けず、後ろを向いて悲痛に叫ぶ僕。この二人は…そういうイタズラ心があるから困る。
「別に、イタズラじゃないんだけどなぁ…」
「鈍過ぎです、ご主人様…」
二人が小声で言った言葉は聞き取れなかった僕はもう一度、二人に尋ねようと身体を二人の方へと向ける。しかし…
「あの、赤原さん、何を見ようとしてるんですか?」
恐ろしく冷たい感情の感じられない声。それが一つ、僕の後頭部の方から聞こえてきた。
人間というのは、ピンチな時ほど自然と冷静になるらしい。僕は実に何の気なしに彼女を迎えた。
「あっ、青田さんおかえへぶっ!」
実に綺麗な蹴り…だったと思う。見えてないけど。
「赤原さん、流石に本当のロリコンになるのはまずいかと」
「あっ、ツチカおかえなさい!」
「ツチカさん、おかえりなさい」
「ええ、あの、お二人は戻って着替えでもしてきたらどうですか?その…格好が格好ですし」
痛む頬を抑えて上体を持ち上げて、同意を表すように首を縦に振る僕。というか青田さん、やっぱり僕の事をそんな風に…
青田さんの進言もあり、セレもいるからと二人はログハウスへと戻っていく。
これで目を閉じている必要もなくなった。
「ふう〜、一時はどうなるかと」
「理性がですか?」
「お願い、青田さん。その誤解、土下座でも何でもするんで解いてくれませんか?」
「……」
悲痛な様子で土下座する僕を一瞥した青田さんは少し思案顔をした後、頬を染めて一つの『お願い』を切り出した。
「で、では、下の名前で呼んでくれませんか?その…色々と面倒ですし」
「えっ、それでいいの?」
確かに、お世話になり始めてから結構な月日が経ってるし、仲良くもなっただろうけど、僕としてはちょっと拍子抜けだ。
女の子というのは、もっとこき使ってくる生き物だと思っていたから。僕の偏見ではあるが。
「い、いいんです。それで…今はいいんです」
頬を染めて顔を落とす青田さんの姿に、すこし心臓が高鳴る。まあ、青田さん…土花が望むなら。
「こ、これでいいのかな?土花」
「はい、ありがとうございます。雷咼さん」
二人でしばし見つめ合う。
感情の乏しい今の土花でも、その頬の上気は感じられる。それに、心なしその頬は緩んでいるようにも見えた。
その様子に、自然と僕の頬も赤くなるのが分かる。なんというか、恥ずかしいけど嬉しい。そんな対局の気持ちがあった。
「お熱い所申し訳ないのじゃが、我も帰って良いかの?」
ふわふわした空気が一瞬で、本当に一瞬で壊れた。
「せせせせ、セレ!いつから?」
「うむ、昼食後はずっと川に流されておった。下流まで流されて今帰ってきたのじゃ」
元が人魚であるセレの服はセレが自分で作ったものであり、濡れる心配はない。という事なのだろうか?
セレは髪だけを濡らし、実に嫌な物を見たような顔で草むらから上体を出していた。
「それで?二人はこの後夜までランデブーかの?」
「なんでセレがそんな言葉を知ってるの…」
カゲメと同じでテレビから知識を吸収しているのだろうか?であるなら、テレビを少し規制しないといけないかもしれない。特にカゲメ!
「ら、ランデブー…いや、その、まだそこまで求めては…はうぅぅぅ」
青田さんは視線だけを泳がせて呟いたかと思うと、今度は蹲って殻に閉じこもってしまった。…これは、救えん。
「で、どうなのじゃ?小僧」
「雷咼さんと…いや、でもまだ二人とも未成年ですし、いや、別に嫌だというわけでは…」
セレからの質問責めと土花の独り言。これは他者から見たらどうなるんだろうなあ?と思いつつも、視線を眠る少女に送る。
相変わらず深い眠りにいる少女に起きる気配は…無い。
僕は苦い笑みを浮かべながら暗くなり始めて光り出した星々に向かい、力なく言った。
「誰か……助けてください」
答える声はいずこにもあらず。
この騒動はセレを納得させて帰らせるまで続いたのであった。
コン•コル「『狐の事情の裏事情』一周年記念ラジオ〜!」
黒•セ•カ「いっえーーい!」
青「いえーい…」
コン「おやおや、土花はどうしたんですかね?いつにも増して表情が乏しいですよ?」
コル「コン、少しは気をつけなさい。今回は『あんな回』でしたからね。恥ずかしがっているんですよ」
コン「なるほど〜。それじゃあ、無視して始めるとしましょうか!」
コル「そうですね。今回はラジオ風ということで、作者の方はスタジオの外からご主人様と一緒に見学みたいですね。時々指示を出すくらいで、基本は自由だとか」
黒「というか、なんで坊主は出てこねえんだ?主人公だろ、仮にも」
コン「理由は色々あるんですが、何でも作者の友人の要望らしいですよ?『あいつだけは出すな!』と念を押されたとか」
カ「それでライカは朝から泣いてたのね…」
セ「不憫過ぎて涙が止まらぬぞ…」
コル「まあ、そんな事は気にせずに。尺も決して長くはありませんし、早速お便りから行きましょう!」
黒•セ•カ「来てるの(か)⁉︎」
コン「勿の論!とはいえ、全部作者の友人がこの一年で作者に質問した物を簡略化しただけみたいですけど」
コル「コン、それはバラしてはいけない約束です!」
コン「あっ…。まあ、後で謝ろう!」
黒「コレ、もう二度と無いかもな…」
コン「さて、一枚目のお葉書は〜?」
コル「東京都在住、趣味は小学校鑑賞さんからのお便りです!…あれ?皆さんどうしました?」
セ「良い…、ツッコミを入れていたら話が進まぬ。早く進めよ」
コル「ああ、はい。え〜と、『最近、青田さんを夢に見ます。これは運命でしょうか?』だそうです」
黒•セ•カ「んな訳あるかーーーーーー‼︎」
青「いや、あの…私、好きな人がいますので」
カ「ツチカもまともに答えちゃダメよ!この手の輩はしつこいってテレビで言ってたわ!」
セ「第一、この小説は挿絵が無かろう⁉︎何を夢に見とるのじゃ、こやつは!」
黒「どうどう、坊主落ち着け。そのガラス窓破っても放送事故にしかならねえよ」
コン「ん〜、皆さんには不評だったようですね?コルさんや、簡単に答えて次に行きましょうか」
コル「そうですね。え〜と、趣味は小学校鑑賞さん、私達は今戦争中ですので、勝負がつき次第…で、どうでしょう?」
コン「さ〜って、次のお便りは?」
青「勝手に話を進められました。…というより、勝負って何ですか?」
コル「次のお便りは…こちら!同じく東京都在住、目指すのは八十一禁さんからのお便りです。『赤原 雷咼が憎いです。殺して青田さんを貰って良いですか?』だそうです」
黒•セ•カ「まともな頼りは無いのか⁉︎」
青「雷咼さんは私が守ります!」
コン「えっ、ちょっと土花?スタジオ飛び出してどこに…ああ、作者をボコボコに…ね」
コル「助けなくて良いんでしょうか?」
コン「良いんじゃない?既にご主人が作者の喉を締めにかかってるし」
黒「それはむしろ悪いんじゃ…。ええい!もう、うんざりだ。おら狐共、席変われ。メインパーソナリティの交代だ!」
コン•コル「「ええ〜〜!」」
黒「ええ〜、じゃねえ!お前らの事だ。どうせふざけた便りしか紹介しねえだろ。だったら、俺が選定に回った方が良い」
コン「ぶ〜」
コル「せっかくの見せ場が…」
黒「さて、気を取り直してちゃんとした便りを紹介するとするか!ん〜と、……これなんてどうだ?埼玉県在住、週末はいつもゾンビさんのお便りで」
セ•カ「お前も大して変わらないじゃん!」
黒「俺を責めるな。なぜかペンネームが全部そんな感じなんだ。中身は問題無いから安心しろ。『狐の事情の裏事情の裏話があったりしたら教えて下さい』だってよ」
カ「裏話って、例えばどんなの?」
セ「元々は違う役回りだったかもしれぬ、とかそんな感じかの?」
コン「あっ!それなら私、何個か知ってますよ?なんでも、最初はカゲメがラスボスだったらしいのです!」
カ「へえ…、でもなんでかしら?私、この中では今一番弱いポジションよね?そんな私にラスボスなんて務まらないわよ?」
黒「いや、一番弱い奴がいきなり敵の腹に影ぶっ刺したりしねえよ。どんだけ無意識なんだ」
コン「他にわ〜、本当は私達って一人だけの予定だったり〜。あとはセレが当初はロリだったり〜」
セ「なるほど、その所為で我はスピンオフの方でロリ姿にされたのじゃな?よし、ちとあやつを痛めつけてくる」
コル「あっ!行くならついでに土花には帰って来てもらって下さいな。次のコーナーは土花が必要不可欠なのです」
セ「うむ」
黒「しかし、そうすると裏話って色々と作品の根幹を揺るがしたりするよな?もしも、お前達が一人だったら結構変わったろ?」
コル「そうですよね〜。私達二人でないと出来ない事もありましたし。主にスピンオフの方ですけど」
コン「それよりも、私はご主人の初期設定とか気になります!この作品って、作者曰く中学生の時からボンヤリとあった物らしいですからね。当時のご主人はどんなだったんでしょうか?」
青「やはり、イラストとかあるとそういう点は便利ですよね」
コン「あっ、土花おかえりなさい」
青「ただいま戻りました。それで、裏話なら今面白い話を聞いて来ましたよ。なんでも、この作品には過去のお話があるらしいんです。その名残りが私の父だとか」
コル「そうだったんですか⁉︎では、計らずも当初からコラボレーションを果たしていたと?」
黒「物語が出来るまでって、色々試行錯誤があるらしいからな。今でもパソコンの中に眠ってたりしてな」
カ「ねえ、そろそろ次のコーナーに行きましょう。尺も怪しくなってきたし」
黒「おっと、そうだな。え〜と、次のコーナーは『メインヒロインの本性が分かる?ドキドキ、本音ぶちまけコーナー』!」
カ•青•wコ「…………」
黒「ん?どうした?」
コン「鴉、今すぐセレを呼んで来なさい。そして、今からあなたはご主人と一緒にお留守番です」
黒「……了解」
コン「よし!邪魔が消えた所で、時間ももったいないし直ぐに始めましょうか!誰から行きます?」
青「誰でも良いんですが…そもそも何に対する本音をぶちまけろと?」
カ「これじゃない?引き出しの中に入っていたわよ。この茶封筒」
コル「では僭越ながら、私が発表させてもらいます。お題は…ジャジャン!『これまでのお話を通しての感想と心境』!」
青「感想と心境、ですか。また難しいものが来ましたね」
カ「私は狩り編から登場したのよね。懐かしいわね。アレもだいぶ初めの頃のお話だから」
コン「あの時のカゲメはまさにラスボス的空気を纏っていましたね!」
コル「まあ、今では引きこもりのしょうがない子供でしかありませんが」
カ「あらあら、子供はあなた達の方でしょう?いつもライカ、ライカって甘えて、子供そのものよ?」
(三人の睨み合い)
青「ま、まあまあ、落ち着いてください。そういえば、カゲメはこの中では一番仲間になるのが遅かった子でもありますよね。どうです?慣れましたか?」
カ「そうね。割と今の生活は気に入ってるわ。当時の私は常に戦闘狂だったから、まともに休む事もしなかったしね。その点では、あなた達には感謝してるわ」
コン「おやおや、コルさん。遂にカゲメがデレましたよ?」
コル「これがコーナーの魔力というものですかね?ご主人様以外にデレるのは初めてですよ」
カ「うるさいわよ、狐」
青「私も雷咼さんには最初、失礼な事を…」
コン「ああ〜、そういえば、私と土花は拳で語り合った仲でしたね」
コル「あの後の修繕は大変でした…。ご主人様と二人で放課後に頑張りました」
セ「我も小僧には感謝せねばならぬな?奴には二度も助けられた」
コン「セレ、あなたいつの間に?」
セ「たった今じゃぞ?それより、昔語りの場なのであろう?我も混ぜろ」
青「ええ、むしろ入ってくれないと困りますよ」
コル「私としては一番印象に残っているのは…鼬さんの時ですかね。あの時のご主人様はカッコよかったのです!」
青「ああ、あの無茶した時の…。私は、まだあの時の無茶を許してはいませんけどね」
セ「ふむ、良い女というのは、無言で抗議するのが一番じゃ。向こうが気付くまでは我慢。どうしても気付かねば実力行使じゃよ」
コン「ご主人に関しては、鈍感が過ぎると思いますけど。私達の母親がバラすまで、疑ってもいなかったはずですよ」
コル「まったくです。これまでも、結構なヒントを与えてきたというのに!」
青「ま、まあ、あの人はそういう人ですから」
カ「そういえば、クロベはどうやって仲間になったの?やっぱり、ライカに負けたのかしら?」
青「ええ、確か意識を刈り取るっていう感じのやつでしたよね?」
コル「はい!でも、あれもう出来ないんですよ。そもそも、あれは隙だらけの相手だからこそ出来るわけで、普通の戦闘で出来るはずがないんです」
コン「つまり、鴉は弱いということね!」
赤「あの〜」
コン「あっ、ごっ主人〜、どうしたんですか?もしかして、ガールズトークに混じりに来たんですか?」
赤「あっ、いや、そうじゃなくて。作者の方がそろそろ時間だから締めてくれってさ。尺が限界だって」
黒「なんでも、この後にもこのスタジオを使う奴がいるんだと」
コル「まだ話し足りないです〜。う〜、でも、ここでワガママは次回以降に響きますね。諦めましょう」
青「では、締めに入りましょうか」
全員「初投稿から一年ありがとうございました。これからも、『狐の事情の裏事情』をよろしくお願いします!」
忍「好評だったら、またやろうかな〜」
赤「そもそも感想来ないのにどうやって判断するのさ…」
青「さよなら…です」
コン•コル「さよなら〜、さよなら〜!」




