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第三十四話 説教 (孤立編 番外版1)

 これまでのあらすじ…を説明すると時間があまりにかかりすぎるので省略。

 説明したくても出来ない、と言うのが本音ではありますが。

 簡単に言わせてもらうと、久城さんの御葬式の後、私はショックを受けて寝込んでしまった月緋ちゃんのお見舞いに行きました。

「あの〜、失礼します」

 私は一人単身で月緋ちゃんの部屋に乗り込みます。

 他の部屋とは違って大きな部屋。

 女の子らしいぬいぐるみや、一般家庭として暮らせる程の設備の整った部屋はギリギリの均衡を保って互いを尊重している。

 その部屋の中央に置いてある大きなベッド。

 子供一人分の膨らみは小刻みに震え、泣いているようにも見える。

「あの、月緋ちゃん?大丈夫ですか?」

「…土花お姉ちゃん?」

 膨らみから声が聞こえる。

 心無し声が震えていますが、良かった。どうやら寝てはいなかったようです。

「久城さん、もう少しで運ばれてしまいますよ。最後の挨拶をするなら、今だけです」

「…良いんです。挨拶はもう済ませましたから」

 拗ねたような、意地悪を言う子供のような声で月緋ちゃんは答える。

 やはり、今回の事はかなり彼女の精神にショックを与えたのだろう。

 私や黒部さん、妖怪のカゲメや朱雀なら、少なからず人の死を達観する事も出来るでしょう。でも、彼女はおそらく人が何者かによって殺される事に理解を示せない。

 それ程に彼女は無垢で、純真で、未熟なのだ。

 そんな彼女は今のままではいずれ潰れる。

 肉体ではなく、精神が摩耗していく。

 それは普通の死よりも質が悪く、苦しみが長く続いてしまう。

 私はゆっくりと歩を進め、中央に陣取るベッドに近づいていき…

「いい加減にしなさーい!!!」

 憑依して思いっきり声を張り上げて布団を引っぺがす。

 こうでもしないと私の声は平坦で、出せる声の音量も制限されてしまうからです。

「あべぶっ⁉︎」

「ふむ!」

 奇妙な声を上げながら月緋ちゃんの全容が現れる。

 寝巻き姿の月緋ちゃんの髪は乱れ、いつもは幼くも凛とした顔立ちは血色が悪い。

 寝ると言っておきながら、どうにも寝れてはいなかったらしい。

「月緋ちゃん、悲しいのは分かりますけど、それは我慢しちゃダメです。悲しい時は悲しい、辛い時は辛いって言わなければ、いずれ月緋ちゃんは壊れてしまう」

 普通の人なら無意識に起こす感情の起伏。

 でも、それは皆が皆出来る事ではないのだ。

 月緋ちゃんのように悲しみを表に出さず、自暴自棄になるなり自我崩壊を起こす子も沢山いる。

 その場合の殆どが自覚なく、自分には何も悲しい事なんて無かったのだと言い聞かせてしまう。

 自ら、破滅の道を歩いてしまう。

「私は…何も悲しくないもん。久城が何かを隠しているのは分かったし、それが私には手が出せないのも知ってたもん。何も…私は出来なかったもん」

 ベッドの上で体育座りをしてしまう月緋ちゃん。

 そういえば、久城さんが最期に会ったのは月緋ちゃんだったみたいだ。

 となると、その頃には既に久城さんの様子がおかしかったらしい。

 死ぬのを覚悟していた?…いや、というより、死ぬのを知っていたという方が正しいか。

 誰に殺されたのかは未だに分かっていないが、久城さんも一応は妖怪を憑依させた身だ。

 そこら辺の暴漢に殺されたとは考えにくい。

 となると…

「妖怪…しかも、かなりの上級妖怪かそれ以上」

『未来視』の能力がある久城さんが簡単にやられてしまう奴なんて、相手も『未来視』が使えるか、はたまた単純な戦力差か。

「どっちにしろ、何か危ない相手である事に変わりはありませんね」

 顔をしかめて頷く私に、相変わらず体育座りをした月緋ちゃんが顔を上げる。

 その顔は現実を疑うような、何か物珍しい物を見たような、そんな顔。

「土花お姉ちゃん、その角って本物?」

 頭に生えた角を指差す月緋ちゃん。

 そういえば、彼女は私達が妖怪を憑依させるのを見るのは初めてでしたっけ?

 憑依した赤原さんは見た事があっても、あの時はカゲメを追いかけるのに夢中で覚えていない可能性もありますし。

 目を輝かせながら月緋ちゃんは小さな手を伸ばしては戻し、伸ばしては戻しを繰り返している。

「あの…触ってみます?」

「ぜひ ‼︎ 」

 それから約三十分間、私は月緋ちゃんに角を触られ続けたのでした。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「それじゃあ、もうすぐ行っちゃうの?」

「ええ、赤原さんから久々に連絡があって、静岡には一緒に行こうという事です」

「ふ〜ん、なんか唐突だね。事情が変わったのかな?」

「おそらく、赤原さん自身が大丈夫だと言っていますし、問題は解決したんじゃないですかね」

 まったく、あの人は連絡をするのが唐突過ぎるのです。

 御葬式の時に携帯を鳴らさなくとも良いではないか。まあ、向こうは事情を知らないでしょうから、如何ともし難いのは確かですが。

「土花お姉ちゃん…嬉しそうだね」

「ふえっ⁉︎」

 月緋ちゃんの思わぬジョブにたじろぐ私。

 憑依状態は解いているから顔には出ていないはずなのに。月緋ちゃん…侮れない。

「べ、別に嬉しくはありませんよ。こっちは学校を休んでまで来ているんですから」

「でも、公欠でしょ?」

 え、ええ、まあそうですけど…。でも、これとそれは違うでしょう?

 だっていきなりですよ?いきなり危険だから単独行動するって言い出したと思ったら、今度は合流しようなんて。

 そうです、そんな勝手な人は知りません。あえて、私はここに残って黒部さん達を行かせる事も出来…

「土花お姉ちゃん、もう持ってきた服そんなに残ってないでしょう?少し持ってく?給仕さんのオシャレな服」

「是非とも」

「即答だったね」

 う、嘘ですよ。すいません、嘘を吐きました。赤原さんに会うのは凄く楽しみです、はい。

 なけなしの見栄も玉砕され、月緋ちゃんと一緒に座っているベッドが私の重心の変化に揺れる。

 角を触るだけ触った後、月緋ちゃんは心の防波堤が崩れたように色々な事を話した。

 最後に会った久城さんと話した事、その時の様子、凄く悲しそうな顔をしていた事。

「久城は死ぬ事を知っていた…それは本当だと思う。そうでなければ、私に『いつまでも成長して欲しい』なんて親馬鹿な遺言は言わないもの」

 枕を抱えながら、月緋ちゃんは涙を目に浮かべて不平を漏らす。

 本当ならこの場にいるのは私ではなく、今は亡き彼だと言う事を象徴するように。

 私達が最後に会った時、久城さんに変化は無かった。

 月緋ちゃんだから見逃さなかったのか、それとも久城さんは彼女だけは誤魔化せなかったのか。なんにしても、彼女の言葉を聞く限りでは彼は嘘を言っていない。

『未来視』という能力を持つが故に彼は嘘を吐けなかったのか、それとも元来そういう性格だったのかは分からないが…

「久城は嘘なんて吐かないよ。私にも、土花お姉ちゃんにも、誰に対しても。久城が言葉を濁す時は大抵、久城が言えないように制限されている時だけ」

 へえ、そんなんですか、初めて知りましたよ。

「そうだよ。久城は私を子供扱いして嘘を吐かないし、あくまで一介のお嬢様として扱ったの。…まあ、それも少し不満だったけど」

 枕に顔を埋めて嗚咽を漏らす月緋ちゃん。

 久城さんの遺体は今日一日だけなら運ぶのを待ってくれるらしいので、そこはもう手回しを終えている。

 最初から、今日一日は月緋ちゃんの心の整理をさせようと思っていたのだ。

「なんだ、土花お姉ちゃん嘘吐いてたんだ」

「あの…月緋ちゃん、さっきから私の心を読み過ぎでは?」

「だって分かるんだもん。土花お姉ちゃんの考えが、頭に流れ込んでくるんだよ」

「そ、それって…」

 ま、まさかとは思うのだが…

「月緋ちゃん、少し目を瞑ってくれますか?それで、自分の意識を内側に引き込む感じで」

 口で言ってもあまりよく分からないがだろう。

 なんせ、私も偶然出来た時はかなり驚いたものだ。

 妖怪を憑依、又は所持した者が行き着く自己の内面、分かりやすく言えば『精神世界』だ。

「だいぶざっくり言ったね。でも、それがどうかしたの?別に私、妖怪と好んで関わりを持つつもりは無いんだけど」

「まあ、一応というか、用心してという感じですよ。心を読む妖怪なんて、ザラにいるとは思えませんし」

「いや、案外いっぱいいるものだよ。私も含めて、ある程度の力を持つ妖怪なら出来てもおかしくないと思うな」

 突然の声、扉には煌びやかな装飾と赤を基調にした服、威厳と自信に満ち溢れた眼。

 妖怪であり、四神の座の一柱である朱雀の名を冠する少女。

 今は奉られている祠も無く、行くアテも無いと言う事でここでお世話になっているらしい。

「珍しいですね、朱雀さん。私の部屋に来るなんて」

「幼女は昔から苦手でね。あやつらは願えば何でも叶うと誤解しているからな」

 なんとも辛い事を言ってくる。

 どうやら本気で幼女が嫌いなようだ。いつにも増して顔が嫌悪感出してるし。となると…

「朱雀さん、カゲメはどうなんですか?カゲメも十分に幼女ですけど」

「あやつは別に良い。身体が幼くとも、精神や考え方はそこらの大人よりも大人びているからな。知らないか?」

 知りません。知っていたとしても、そこまでの反応はしません。

「カゲは私の味方だもん!カゲにも幼い所があるのは、私がよく知ってるもん!」

 そんな所で張り合わないで欲しいなあとは思うものの、しかしこの二人はそんな事はお構いなしにヒートアップしていく。

 月緋ちゃんはベッドから飛び降りて、朱雀さんは不遜な様子で近付いて、目線だけで火花を散らす。

「心を読むなんぞ私でも、それこそあの少年の狐でも出来る事だぞ」

「狐?」

 月緋ちゃんの視線が疑問に眩む。

 月緋ちゃんは赤原さんの名前は私から聞いた事があるけれど、赤原さんの妖怪であるコンさんやコルさんの事は聞いていなかったからでしょう。

 しかし、だとしても月緋ちゃんの驚き方は少し大げさなような…

「ねえ、土花お姉ちゃん。土花お姉ちゃんが言っていた赤原さんって人も、妖怪を憑依させられるの?」

「え、ええ、憑依した赤原さんはだいぶ口調がフランクになったりしますけど」

「その人だ!」

 えっと、何がですか?

「あっ、すいません。まだ話していなかったね。実は…」

 そこからの話は長い物ではあったけれど、実に不思議な話ではあった。

 暗闇の世界に赤髪の少年の話。

 そこで自暴自棄になった月緋ちゃんを扉の向こうに投げて、『俺によろしく』と言った隻腕の少年。

「でも、赤原さんは隻腕ではありませんよ?」

「だって、その人が着ていたの和服だったし、狐の耳とか尻尾みたいなのつけてたし」

 まあ、確かにあんなに特徴的な憑依体も珍しいとは思いますが。

 しかし、それが赤原さんとはどうにも思えないのです。

 口調は確かに赤原さんですが、どうにも雑さが三割増しぐらいになってますし。

「なんだ、そのくらい。本人に確認を取れば良いじゃない。簡単な話でしょ?ついでに、あのガキの知り合いにそこな幼女を診せればいい」

 本当に飄々と、何でもないように言ってきますねえ…とは口にしない。

 どうせ口にしなくても読み取ってくれるのだから、不平不満を口に出していたらキリがありません。

「かと言って、口に出さねば分からん事もあるんだぞ、小娘。お前の気持ち然りな」

 そこは今はどうでもいい事です。

 私達がここを離れるのは明日の夕方の予定です。

 その理由は色々あるのですが、一つは黒部さんが御葬式の後から姿を見せないというのが強く影響しています。

 一体どこに行ったのか、どうやらカゲメも付いて行っているようですが、私にはまったく見当もつきません。

 黒部さんはともかく、カゲメまで黙っていなくなるのはどうにも奇妙です。

「いきなりですけど、朱雀さん。久城さん亡き今、あなただけの力で赤原さんや、私達の存在を消せるものなんですか?その上、瞬間移動もするとなると、かなりの力がいるんじゃ…」

「なあに、そこら辺は問題無い。元からあのガキの力なんて借りてないし、瞬間移動なんて私にかかれば使う力なんてほんの少しだし」

 だそうだ。流石は元神クラスといった所ですか。

 見かけや態度はどうやら伊達ではなかったようで、大変安心しました。

 となると、あとは黒部さんとカゲメを発見する事が出来れば、私達は出発出来る訳ですね。

「それでは月緋ちゃん。私は黒部さんとカゲメを捜しに行きますので、久城さんとのお別れ、ちゃんと済ませて下さいね」

「うん…」

「ちょっと待て!私をこの幼女と二人っきりにする気か⁉︎」

「少しは仲良くなる努力をして下さい」

 腰掛けていたベッドから立ち上がり、行きと同じく一人で扉に向かいくぐり抜ける。

 土蜘蛛の探査能力は正確無比。二人を見つけるまでの短い時間ですが、二人の距離が少しでも近付くと良いのですが。…まあ、無理ですよね。

「無いよりかはマシ、程度に考えておきましょう。久城さんの考えでは、どのみち月緋ちゃんは朱雀さんに憑依してもらうしかありませんし」

 朱雀苑の玄関を出て朱雀さんが眠っていた洞窟への一本道の入り口に立ち、私は二度目の憑依を始める。

 最近は土蜘蛛との会話も出来るようになり、以前とは比べ物にならない程に強くなった。

 それは、赤原さんと別れた後にも特訓を続けたお陰でもあるのでしょう。

 頭にちょこんと乗っている角、刀身は普通ながらも柄は土塊が固まって出来ているような無骨さを持ち、それ故に刀の歪性を語る。

「土蜘蛛よ、私に力を」

「我が主は妖怪使いが荒いなあ。まあ、それは私にも責任があるかも知れないが」

「口を開けば嫌味ばかりの貴方には、いつか疲労困憊というプレゼントを差し上げます」

 刀を地面に、意識を広範囲に、ありとあらゆる生命の脈動を感じ取る為に眼を閉じる。

「……見つけた」

 ここから成人男性が約三十分程歩いて行ける場所。

 そして、一人の男性が事切れた場所。

 探査能力を使い始めた辺りから感じた、以前にも対峙した事のある妖気。

 赤原さんにも重傷を負わせられる程に強く、全身から黒い雰囲気を纏わせた少女が頭に浮かぶ。

 角が取れて可愛い妹のように接してきた彼女の力が、男性の死んでいた場所から流れている。

 禍々しく、深く、引き摺り込まれそうな深淵の妖気を持つ少女の名は…

「力を取り戻したんですね…カゲメ」

 復讐に生き、死んでも強い怨みで生まれ変わった少女を、迎えに行こう。

二学期の一大行事終了しました〜!

そして〜、逆に『狐の事情の裏事情』は終わりませ〜ん!

はい、前回の後書きも読んで下さった皆様はご存知かと思いますが、本当は今回は番外版を一つだけで完結させるつもりが、残念ながら出来ませんでした。…申し訳ありません。

ですが、何とかして次回は合流させて完結を目指しますので、皆様もう少しだけお付き合いして頂きたいと思います。

時間も差し迫ってきましたので今回はこの辺で。では皆様、感想•質問は常時募集しておりますので、是非ともお願いいたします。

では、また次回にお会いしましょう。

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