表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/59

第二十九話 二時間 (孤立編 第四部)

「これで…八百!」

 通算八百匹目の鬼を溺死させた僕は、制限時間のタイムリミットが迫っている事を体感で知る。

 詰まる所、怠いのだ。ものすごく。

 鼬地の時は戦闘している内に消耗しているから仕方ない、と思っていたものだが。実際はタイムリミットが迫っている事を報せていたらしい。

 セレにはタイムリミットが迫ったら強制的に体から出るように頼んである。

 この入り乱れての大混戦の中で憑依が解けるのは、イコールで撤退不可能を意味する。

 僕は和袴に青い髪、というミスマッチとしか思えない身なりで刀を振る。

 近くにある温泉にある水を使い、僕の周りを囲んでいる鬼を一掃、洗い流す。

「邪魔…だ!」

 倦怠感を持ちながらも僕は鬼の大群を突破し、なんとか安全地帯まで撤退する。

 何度も検討している内に気づいたのだが、あの鬼共は森の中に現れ、一定の範囲からは絶対に出ない。

 出ないのか、出れないのかは分からないが。

 安全地帯で息を吐いた瞬間、丁度タイムオーバーになったらしいセレが光の球となって出てくる。

 セレと憑依している間は僕の視力は回復する。

 それは、最近映画のように視ていた風景を視覚として捉える事だ。

 当たり前で、本来は感慨も湧かない物であったが、セレと憑依し始めてからは五感が大切に思える。

「ふう、気持ちの良い暴れっぷりだったのう、小僧。目標は二百であったにも関わらず、まさか三百も倒すとはのう」

 光の球からいつものセレに戻ると、セレは青い髪を揺らしながら体をほぐす。

 その様子を視た僕は素朴な、一つの疑問を抱いた。

「ねえ、セレ。憑依する時にコンとコル、セレは光の球になるけど、あれってどんな感じがするの?窮屈な感じ?」

 セレは髪と同じ蒼い眼を僕に向けながら、暫く唸る。

 その仕草は見た目に反してとても可愛らしく、いつも大人な感じのセレが子供っぽく視えた。

「憑依の感覚…のう?強いて言うなら、胎児みたいな感じかの?ほれ、母親の胎内にいる胎児をイメージすれば良い」

 なるほど、あんな感じか。

 う〜ん、なんかそう思うと実に奇妙な感じがするなあ。

 まるで自分が母親になったような、そうでなくとも、セレ達を絶対に護らないといけないような気がしてくる。

「ご主人〜!」

「ご主人様〜!」

 僕が一つの疑問を解消していると、温泉のある方向からコンとコルが走ってきた。

 足場が悪い山路にも関わらず、二人は実に良い笑顔をしながら楽々と走る。

 そういえば、動物の尻尾はバランスを取る為の物だと言う。

 あの二人の持つフワフワの尻尾もそうなのだろうか?

「小僧、何故さっきから狐の尻尾ばかり見とるんだ?気味が悪いからやめてくれぬか?」

 セレに注意を促されて急いで二人の尻尾から目線を逸らす。…いや、別に触りたいとか思ってませんよ?確かに時々ブラッシングしてるけども!

「ん?どうしたんですか?ご主人」

「どうして顔を真っ赤にして私達から目を逸らしたんですか?ご主人様」

 あざとい我が家の狐達。

 僕が目線を逸らしたのを直球で突いてきた。

「いや、何でもないよ。それよりどうしたの?なんだか嬉しそうだけど」

 尻尾をフリフリと誘惑するように振るコンとコルを無の境地で視ながら、僕は二人がテンションの高い事に気付く。

 いつもテンションは高めの二人だが、今は更に高い。

 もう千切れるんじゃないかという勢いで振り続けている尻尾がその証拠だ。

「そうです!朗報なんですよ、ご主人」

「さっきお婆さんが言っていたんですが、もうすぐで土花さん達が合流出来るそうなんです!」

 コンとコルから発せられ、懐かしく感じる名前の女の子。

 ああ、ようやく来るのか。なんて他人事のように僕は思いながら、それでも心が踊るのを抑えられない。

 一週間、カゲメには言わなかった期日。

 カゲメが二人の記憶を戻す事は実際には出来ないはずなので、おそらくバックアップを使ったのだろう。

 今頃は久城さんの元で大体の説明を受けている所だろうか?

「それでですね。お婆さんが言っていたんですが、なんでも土花が異常に怒気を孕んでいるそうなのですよ」

「あのお婆さんはイタコですからね。霊を遣わして見てもらったんですが、土花さんはご主人様に激怒してるそうですよ?」

 う〜ん、やっぱりかあ。

 まあ、京都で二人と別れる事を話した時から怒ってたから、想像出来るけど…

「青森なんて美味しい物がある所に行くなんて聞いてない!って」

「怒る所そこなの⁉︎」

 あまりにも二人が飄々と話すものだから、青田さんが怒っている所を想像出来なかった。

 しかし、改めて考えてみると、もし僕が二人に会ったら殺されたりしないだろうか?主に青田さんとかに。

「ご主人、ご主人!」

「ん、何?コン」

「鬼の方はどうなっていますか?そこの人魚とのツーマンセルなんかじゃ、たいして倒せなかったんじゃありませんか?」

「これ狐、我なんかとはなんじゃ。たった三十分なれど、我は十分以上の仕事をしたぞ。…少なくとも、貴様らよりはな」

 コンとセレが対抗心を燃やして火花を上げている中、僕とコルは十二分の距離を離して会話を続ける。

「それじゃあ、もしかして青田さん達は今日中に合流するのかな?」

「流石にそれは…でも、私達が静岡に行く頃には合流出来ると思います」

 コルがにっこりと僕を見上げて笑う。

 そういえば、最近二人の笑顔を視る機会が減った気がするなあ。

「はわ⁉︎ご、ご主人様、何故頭を撫でるのですか?」

 うん、髪もフワフワで触っていて気持ちが良いよ。

 鬼共の相手をしていて緊張していたのだろう。どんなに弱くても相手は妖怪、知らない間に力が入っていたようだ。

 最初は嫌がっていたコルも髪を触られる事に慣れたのか、今度は気持ち良さそうに目を細める。

 その姿は狐と言うより、むしろ猫のようだ。

「ああ!コル、ズルいです!ご主人〜、私も撫でてくださいまし〜」

 セレと火花を散らしていたコンが、今度はコルに対して対抗心を燃やす。

 両手をコンとコルの頭に置きながら、空いている口はコンを逃がしたセレへと割く。

 岩場での久々のくつろぎ、青田さん達と合流出来ると知った途端にこれだ。

 やっぱり、最初から連れて来れば良かったのかな、と自分の判断を疑いそうになる。

 気が緩んだ所為だろう。

 不意に体を襲う大量の悪寒。

 そして響く、僕であり僕ではない本能の声。

 この恐山に来るまでにもあった、自分の体を乗っ取られる感覚。

「へっ?ご主人?」

「ご、ご主人様〜!」

「 ‼︎ 」

 ああ、遠くなる。

 瞼が鉛のように重い。別に瞼を本当に閉じている訳でもないのに。

 意識が完全に闇に堕ちる寸前、僕は確かに視た。

 僕の頭の中で不敵に笑う、とある一人の赤い髪の男を。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「負の感情?」

 久城さんの説明を聞きながら、私は彼の最後の言葉を反芻します。

 今私達がいるのは朱雀苑の久城さんの自室。

 赤原さんが一体どうなって、何をしようとしているのかを説明してもらっている最中です。

「ええ、人間とは誰であれ負の感情が宿るもの。私でも、黒部様でも、青田様でも…」

 久城さんは自分の胸に手を当てて、私達一人一人を見ていきます。

 人を取り込む会話術、それは時にカリスマのように作用してその場を支配する。

 私の師匠とも呼べる人や、憑依状態の赤原さんなんかがそうである。

「誰でも持つ負の感情。それは嫉妬、執念、憤怒、我欲…様々な形で現れます。今の赤原さんの中にいる者のように」

 自分の中に居座るドス黒い感情。

 それが人という弱い物であるが為に、人は耐えられずにそれに縋る。

 久城さんの話は詰まる所こういう事だ。

「でも、赤原さんはそんなモノに縋りません、絶対に…」

 そうだ。縋るはずがない。

 彼は自分の頭で考えて行動する人だ。

 少しだけ聞いた事だが、赤原さんも復讐を企む人間の一人だと言います。

 それが誰なのか、それは一体どこにいるのかも分からない。

 それでも、彼は自分で考えて行動を起こすのだ。

 たとえ、それが自分勝手なわがままだと分かっていても。

「縋りもしないモノに、今の赤原さんは囚われているんですね?」

 無表情でも無感情な訳ではない。

 表情に出せないのならば行動で、または視線で訴えれば良い。

 復讐を考えていたのは、赤原さんだけではないのだから。

「囚われている…は間違いかもしれませんね。確かに彼はアレに縋る事は無かった。でも、アレはもはや別の意識と言っていい。赤原さんも、それは自覚していましたよ」

 赤原さんの事を何でも知っている風に言う久城さん。それを、私は見逃す事が出来ない。

「あなたに、あなたに赤原さんの全てが分かるって言うんですか⁉︎いくら協力関係にあったからってそれは…」

「嬢ちゃん、少し落ち着け。嬢ちゃんが言いたい事は分かるが、久城も馬鹿じゃねえ。何か根拠があって言ってんだろ?」

「そうですよ。根拠無き言動は私達への冒涜。それが分からない男では、ないと思いたいですね」

 隣では黒部さんとカゲメが黒い笑みを浮かべて久城さんを見ている。でも、私には分かります。

 黒部さん達も、怒っている。

 たぶん、私とまったく同じ理由で。

「そう怒らないで下さい。ちゃんとお話しますよ。根拠も、私の目的も含めて」

 久城さんは自分の座る豪奢な椅子を傾けながら、私達に静粛を促します。

 大きく息を吐いて、まるで昔話をするような面持ちで久城さんは語り出します。

「さて、どこから話しましょうか。まずは、誤解を解く為に私の事から話しましょう。少し長くなってしまうかもしれませんが、ご容赦の程を」

 孤独な賢者はその実、孤独である事に耐えられないものらしい。

 そんな語りだしで始まった久城さんの話は、とても奇怪な物に感じられた。

 まるで、無機物が有機物になろうとするお話のように。

 そこいらの三問芝居と、大差の感じられない様相で。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「さて、まず皆様は一つ聞きたい事がございませんか?そう、あの私共の依頼を聞いた時の話です。

 流石黒部様、ご明察。私がどうやって朱雀がループさせていた時間を抜け出したか、皆様はまずこれを聞かねばサトリを知る事は出来ません。

 サトリは、人の心を読み、そして未来を視る者でございます。

 サトリの主となる者はサトリと同化し、その者自体がサトリとなる事で力を発揮します。ええ、今の私のように。

 しかし、未来とは無数に枝分かれしているモノでございます。サトリはその無数の未来を選択、排除の自由があるのです。

 簡単に言うなら、いつぞやに話した記録宇宙と観測宇宙、サトリは観測宇宙にいながら記録宇宙にいるのです。

 好きな時に絵本から抜け出せるジョーカー…とでも思って下さい。

 あくまで時間の枠組みから出るのではなく、選択した時間が実行されます。

 だから私だけは朱雀の時間ループを脱する事が出来たのですよ。

 しかし、そんな反則な事が出来るサトリですが、一つだけ定められた事がございます。

 まあ、ありがちなのですが、その未来を他者に話す事は厳禁なのです。

 未来が確定しているなら大丈夫なのですが、確定していないにも関わらず話すと、私達は世界に殺されます。

 だから、私は赤原様がどうなるかを知っていながら、話す事が出来なかった。

 誰だって命は大事ですからね?

 でも、皆様がここに来てくれたお陰で、一つの未来が確定されました。

 ほんの小さな、皆様に丸投げしたような小さな希望が生まれました。

 何に対して?

 ああ、まだ話していませんでしたね。

 青田様、貴女は小さい時にご両親を亡くされていますね?世間的には事故で処理され、貴女は両親の形見である今の刀と共に生きてきた。

 当時は複雑な心境だったでしょうね?

 妖怪が両親を殺した、なんて言っても誰も信じてくれませんから。

 おおっと!椅子は投げないで下さいよ。高いんですから、それ。

 まあ、気分を害されたのなら謝罪します。

 でも、今の話で出てきた妖怪、それの打倒が赤原様の、そして貴女様の悲願でございます。

 赤原様の過去については私は語りませんよ?

 流石にプライバシーがありますからね。

 私が話せるのは、赤原様と青田様は共に協力してアレを倒さねばならないという事です。…いえ、『倒す』なんて甘えた言い方はやめましょう。

 アレを殺して下さい。

 アレが行おうとしている事は間違いなく有害。

 世界の危機なんて言うつもりはありませんが、しかしそれも可能にしてしまう企み。

 それをアレはやろうとしているのです。

 おそらく赤原様と青田様、二人だけでは大変でございましょう。

 ですから、私は黒部様が二人と出会うルートを選択し、カゲメ様やセレ様が出会うルートを用意しました。

 仕組まれた…そのように言えばその通りでございますが、しかしそれを可能にしたのは皆様でございます。

 本来は出会うはずのなかったルートを、私は自分の力を最大限に生かして繋げた。

 繋げたルートを、皆様は自身の力で固めた。

 どうか誇りに思って下さい。

 そしてその誇りを胸に抱いて、私が何年も前から視てきた破滅のルートを、壊して下さい」

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 長いようで短い、久城さんの語りは幕を卸した。

 正直、まだ何がなんだか分からない事の方が多い。

 途中で告げられた私と赤原さんの敵、そしてここにいるメンバーが久城さんの手によって出会ったという告白。

 分かる事だけを聞いている分には、馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 私達の出会いが仕組まれていた?しかもそれを誇りに思え?

 どこまで頭のネジが緩んでいるんでしょうか、この人は。

 赤原さんもよくこの人を信用して旅に出たものです。

「はあ…、本当に馬鹿馬鹿しい。もう怒る気力すら湧きませんね。これからこの屋敷の食べ物を完食しても満ち足りるかどうか…」

「おっ、嬢ちゃんはやけ食いか?そりゃあ良い。俺も同じ事を考えていたんだ。お供するぜ?」

「まったく、私を空気みたいに扱わないで下さい。ツチカが行くなら私も行きます」

 私達は口を開けて固まっている久城さんを無視して部屋を出ようとします。

 扉に向かっていると、後ろから誰かが慌てて椅子から立ち上がる音がして私達を呼び止めました。

「ま、待って下さい!そんな、やってはくれないんですか⁉︎」

 その慌てぶりは未来を知る者とは思えず、明らかに予想外の事に戸惑っています。

 おそらく、久城さんが視た未来の光景では、私達は久城さんの言葉に怒りながらも引き受けたのでしょう。

 未来を視るサトリが聞いて呆れます。

 やる訳無いじゃないですか、久城さんの努力を実らせる為になんて。でも…

「やらない、なんて一言も言っていませんよ。私達がやらないのはあなたの為の行動。私が起こす行動は、常に赤原さんの為の物ですし、勘違いしないで下さい」

「俺は坊主の為にも動かないぜ?俺は気が向いたら手伝ってやる。戦闘は苦手だが、結界を張るのだけは得意だからな。民間人に被害が出ないようにはしてやるよ」

「素直じゃありませんねえ、クロベ。どうせそんな事言いながら、私達がピンチになったら率先して盾になる気満々なのに」

 三者三様の笑顔と誓い。

 久城さんの思い通りには行かないけれども、完全に行かないのでは面白くない。

 そんな私達のアドリブの演技。

 どうやら大成功みたいだ。だって…

「ほら、そんな所でほおけてないで行きますよ。キッチンに案内して下さい」

 あんなにも目と口を丸くしてくれたのだから、これで満足というものだ。

 待っていて下さいね、赤原さん。

 ようやく、ようやくあなたと戦える。

 あなたと同じ土俵に立って、あなたと同じ視点を持って、あなたと同じ事情を取り除く。

 あなたに助けられたあの時から、私が夢見た一つの情景。

 それを今、私は叶えに行きますよ。


「さあ、私達の復讐劇の本番です」


 ひとまず向かうはキッチンの冷蔵庫。

 こんなに大きなお屋敷だ。きっと美味しい物も沢山あるに違いないですよ。

 目を閉じてゆっくりと歩き出す。

 この細い道は、未来への道。

 数を限定されても、それでも伸びる不確定な道。

 さあ、歩こう。

 きっと四人は待ちくたびれているだろうから。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あと二時間…ですか」

 皆様をキッチンに送り届けた後、私は自室で一人過去を思い出す。

 サトリと同化したのは、そう前の事ではない。

 精々二桁前に行くか行かないかぐらいでしかないのだ。

「お嬢様のお目付役になって早八年。ここまでは上々、あの人達に嵌められたのは意外でしたが」

 先ほどの自分の顔を想像すると笑みが零れる。

 なるほど、私は『サトリ』に相応しい。…いや、『サトリ』だから私なのか。

「旦那様は不運だったが、まあ、それは八年前から分かっていた事。旦那様とお嬢様の命なら、断然後者を取る」

 未来は無数に枝分かれしている。

 しかし、その中でも最も可能性の高いルートというのが存在する。

 朱雀苑の不幸も、旦那様の死か、はたまたお嬢様の死のどちらかだった。

「久城、いますか?」

 おや、噂をすればなんとやら。

 一つしかない出入り口である扉から、毎朝見ている少女がこちらを見ている。

「どうしたのですか、お嬢様。あまり夜更かしすると、明日の学校に遅刻してしまいますよ」

 ああ、なんと白々しい事か。

 何が、学校に遅刻する…だ。

 私は知っている。

 お嬢様が明日味わうショックを、お嬢様が明日味わう可能性の道を。

「いつの間にかキッチンに土花お姉ちゃんが居て張り付いて離れないんだけど、いつ来たの?」

 土花お姉ちゃん、か。

 ちょっと見ない間に仲良くなってくれたようで何よりだ。

 またも私の顔に笑みが宿る。

 ああ、これも見た事の無い未来の可能性だ。

 私が選んで進めてきた未来は、今少しずつ変わってきている。

 それが良い方なのか、悪い方なのかは分からない。

「(でも、これが悪い方向な訳ありませんよね)」

「 何を笑ってるの?それより、またお話して下さい。じゃないと寝れません」

 年相応の笑顔を見せてくるお嬢様。

 彼女が産まれてから、私はずっと彼女を見てきた。

 彼女が今まで経験してきた辛い事も、嬉しい事も、全ては私が選択してきた。

 そうでなければ、彼女は既に死んでいてもおかしくなかったから。

「お嬢様、残念ながら今日は面白いお話は出来ないかもしれません。でも、ベッドまではお供しますから一緒に行きましょう?」

「うん!カゲも連れて行きたいけど、久城がいるなら我慢します」

 何度も繋いだ手を握る。

 孤独な賢者は孤独に潰される。

 そんな時期が私にもあった。この少女に出会うまでは自暴自棄だった。

「お嬢様、これからも健やかに、元気で過ごして下さい。妖怪と交わりの深いこの家で、無理に妖怪と関わらなくても構いませんから。いつまでも、成長して下さい」

「久城?」

 お嬢様の顔は疑惑で満ちている。

 悟られてはいけない。

 この人が悲しむのは、一度だけで十分だ。

 お嬢様をベッドへと入れ、いつものようにしっかり眠るように注意を促す。

 少しだけでも話したい、彼女はそう言って手を差し出した。

 暗くてよく見えないけど、凄く哀しそうな顔をしていたように思う。

 残り時間を惜しむように、それでいて全てを消費し尽くすように話をした私。

 お嬢様が寝たのを確認すると、音を立てずに部屋から出て再び自室へ戻り始める。

 その道すがら、微かだが窓ガラスの割れる音が響く。

「来たか…」

 発生源は私の部屋。

 腕に巻いた時計を見てみると、丁度最後に時計を見てから二時間が経過していた。

二週間前じゃーい!

えっ?何が二週間前かって?

それはですね、学生の本分…というより、学校に通っていれば必ずある事。そう、テストです!

あと二週間で二学期に入ってからの中間テストがあるんです!

まだ文化祭が終わってから二週間ですよ?

授業で何をやったと言われると、一•寝る、二•寝る、三•本を読む、四•教師の雑談を聞く、ぐらいですよ⁉︎

一体これで何をテストするってんですか⁉︎

いや、まあ雑談してるのは主に若い先生とご年配の先生という両極端な人な訳ですが。

なんでしょう、人って最初と最後は舌が饒舌になるんですかね?

若い先生の話は面白いんですが、ご年配の先生はもはや何を言ってるのかも分かりませんよ。…はい。

さて今回、孤立編は丁度中間を迎えます。

皮肉みたいですよね〜。話が中間でテストも中間なんですから。

まあ、面白くない話は終わりにして、孤立編は赤原さんが再び土花御一行と出会えるまでと予定しております。

中間が控えておりますが、更新はちゃんと行っていきますのでご安心下さい。

次回は『推理否定の探偵部』を一部更新してからです。

では皆様、また次回でお会いしましょう!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ