表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/59

第二話 ちっぽけな復讐者

初めて妖怪を斬った時、僕は12歳だった。

命乞いをする相手に向かって何度も、何度も、何度も刀を突き立てる僕の顔は返り血に濡れ、今となってはどんな表情をしていたか覚えてはいない。

覚えている事は、煩い程鳴り響く雨音に返り血の嫌な感触、そして雨と一緒に僕の顔を濡らしていく涙の感覚だけだった。

あの時、僕は泣いていた。

何が悲しくて、哀しくて、どうしてそれでも刀を振り下ろすのか、理解出来ないし、したくなかった。

やがて命は尽き果てる。

亡くなった、無くなった命は戻らない。小学生でも知っている事だ。

それでも、僕の中には罪悪感も後悔も恐怖心すら無かった。

ああ。思い出した。

そうだ、あの時だ。あの時、僕は…


『人間』である事を辞めた。

そして、諦めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

首に押し付けられた刃物の感触は背後の少女と同じ様に冷たい雰囲気を出しながら僕の命を脅かす。

体感だけで五分かそこら経っているようにように感じるのだが、実際は数分しかたっていないだろう。

何だ。何がこの少女の琴線に触れたというのか、皆目見当がつかなかった。

「もう一度問います。あなたの刀は私の敵ですか?」

「な…、何の事かさっぱりわからないんだけど。刀ってそんな誰でも持っている物じゃないよね?」

「とぼけるつもりですか?さっきあなたと一緒にいた少女二人があなたの刀でしょ?」

見られていたのか?しかし、どこで?

校門近くで姿を隠したとはいえ周りに人の気配は感じなかったし…

「まさか、妖怪の能力?」

「ようやく話すつもりになりましたか?」

「透視系、いや知覚系かな?」

「質問しているのはこちらです。話すつもりが無いのなら問答無用で刀を横に引かせて頂きますが…」

「ちょっ、ちょっと待って!話せば分かるはずだから!」

「ですから、こちらは初めからそのつもりなのですが。」

とぼけるつもりは無かったのだが、どうも癖になっているみたいだな〜。人を騙すのは狐の習性みたいな物だし。…いや、関係ないか今は。

「話すのは良いけど、取り敢えず刀を退けてくれるかな?話しづらいしさ。」

こちらが逃げる意志が無いのを確認してから刀を退ける少女。刀の威圧感はそのままだが首にあるのと無いのとでは雲泥の差があった。

「それでは話して頂けますね。あなたの刀について」

「うん、それは良いけど。そっちの情報もちゃんと教えて貰えるんだよね?」

構いませんと言って少女は刀を地面に突き刺す。すると刀はそのまま地面へと吸い込まれていった。

収納、便利そうで良いな…。

「ではまず、軽く自己紹介した方がいいですね。私は青田 土花。この学校の中等部に通っています。お察しの通り、あなたの事は刀の能力によって見つけました。刀は…まあ、いずれ紹介します」

話を逸らされてしまった。まあ、当然と言えば当然だ、誰が好んで自分の手札を晒すというのか。

「僕の名前は赤原 雷咼。ここの高等部で今日から二年生だよ。刀は…まあ、見た方が早いかな」

僕は青田さんを連れて空き教室が入っている教室棟へと入って行く。

しかし、自分から連れているとはいえ少し無警戒過ぎるのではないだろうか。それとも僕が過剰に反応してるだけなのだろうか?

教室棟の一番端、一番人が来ないだろう教室へと入った僕は学校指定の鞄に付いた狐のストラップを外して床に置く。

すると次の瞬間にストラップは消え、代わりに二人の少女が姿を現した。

流石の青田さんも驚いたらしく、今まで無表情だった顔に困惑の色が見える。

そう言えば、こうしてじっくりと彼女の姿を見てみると、どうにも中学生とは思えない程の身長である事に気付く。

140あるのだろうか?

「あの〜、ご主人。さっきからずっと成り行き見てましたけど、何なんですか?このチビっ子」

青筋一本目

「そうですよ。ご主人様の命を脅かすなどと、何様ですか?このチビっ子」

青筋二本目

流石にまずいと思った僕は二人に注意を促す為に口を開く。

「お前達、幾ら何でもそんなにチビチビ言っちゃまずいと思うんだけ…ど?」

良ーく見てみよう。コンとコルによって与えられた青筋は二本。だが今、彼女も美少女として通用するだろう整った顔の額には…青筋が見事に四本。

表情は一切変わっていないのにも関わらず、今彼女は雰囲気だけでその場にいる全員を萎縮させる程の殺気を放っていた。

「よってたかってチビチビと、大体そちらの幼女も私とたいして変わらないじゃないですか!」

まあ、そりゃそうだろう。

彼女達は出会った時から138で止まったままだ。そんな彼女達と比べても意味が無いような気もするけど。

「はっ!成長しない私達と比べた時点で貴様は敗北しているのだ!」

言っちゃったよ。コンさん本当に言っちゃったよ。青田さんなんて無表情から一転しちゃって敗北感満載の顔になっちゃったよ。

もはや場で一番落ち着いているのは僕とコルだけ、二対二であれば止められるとか思われるのは心外なのであえて言わせてもらおうと思う。

…コンはケンカを始めれば並の努力では止められない。ていうか止まらない。

ケンカを面白がっているコンは意図的にケンカをやめようとは絶対にしない。満足するまでケンカをしなければ不機嫌になる程である。

故に僕達は絶対に止めない。

触らぬ神に祟り無し…の精神でこの場から撤退するのが正しい選択だ。

と言うわけでコルと共に昔の罰よろしく廊下で直立不動を維持してケンカがひと段落するのをただ待ち続ける。

…三十分後…

教室内から机や椅子が飛ぶ音がようやく消えた。僕とコルは互いに目配せをしてから教室内へと静かに入って行く。

教室ではなくなっていた。一言でいうなら戦場だ。

元々あった机や椅子は原形を留めている物の方が少なく大抵は木屑と化していた。

しかし、どうやったらこんな風になるのだろう。壁には刀傷の様な物まである始末。

まさか青田さん、ここで刀を使ったのか?たかが一回のケンカで…。

そして当の本人達は…

「まさか、ここまで私を疲弊させるとは…

正直…驚いたぞ。小娘」

「当然…ですが、…さすがは妖怪…ここまでやるとは」

教室の中央で二人並んでスポ根漫画みたいな事をやっていた。

「あ〜、青田さん?」

「はい?」

「僕、そろそろ教室行かないと、ていうか始業式サボった挙句ホームルームまでサボる訳には…」

「それもそうですね。この刀は私の敵とは違うと言うことが分かりましたし。私もそろそろ教室に行かなくてはいけません。」

だったら最初から絡んで来なければ良かったのではと思うがあえて言わないでおく。

これ以上拘束されるのは僕の学校生活に関わるので…

空き教室棟を出て本来向かうはずだった高等部教室棟へと足を向けながら再びストラップとなったコンに尋ねてみる。

「青田さん、刀を使ったのか?コン」

「(ええ、使いました。使わせるのに大分時間を掛けちゃいましたが、こっちがそれを狙ってるの気付いてないようですよ。大体、あの小娘の刀の能力はわかりました。正体まではわかりかねますがね)」

「(まあ、僥倖でしょう。気付かれるのは覚悟の上でしたから。それを避けられたなら十分だと思いますよ)」

「で?コンさんの考察を聞かせてくれるかな?」

「(はいな〜。ですがご主人、何も今聞くことはありません。学校が終わった後に聞いても別に遅くはないと思いますよ)」

珍しくコンが気の利いた事を言ってくる。

だが、それと同時になぜか嫌な予感がする。まるで、シシュポスの岩の様に転がしては戻ってしまう岩を押しているような、そんなもどかしさ…

このもどかしさを僕は一生忘れないだろう。すべてはこの予感から、渦中に飛び込むキッカケになったのだから。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

僕の新しいクラス、2-A具では既に委員会なる物が決められようとしていた。

もちろん、僕は委員会や他の行事に積極的に参加するタイプの生徒では決して無い。

だからこそ別に遅れて教室に入ってもたいして問題は無い。

もし、黒板に僕の名前が書かれてさえいなければの話だが。

「へっ?これは…どういうこと?」

「やっと来たね。赤原君。今年もまたよろしくね」

そう言って話かけてきたのは去年も同じクラス(だったらしい)見るからに委員長タイプの女子だった。

いや、別に女子の友達が多い訳ではないですよ?どちらかというと友達はいないタイプの人間です。

「どうしたの?ぼーっとしちゃって。そんなに委員会やるの嫌だった?」

「いや、そうじゃなくて。どうして僕の名前が書いてあるのか不思議で…」

「そりゃそうだよ。私が推薦したんだからね。私と同じ学級委員」

あなたでしたか〜。でもなんでよりにもよって学級委員。下手にサボると内申に響くじゃないか〜。

そんな僕の内心を他所に続々と委員会が決められていく。そして気付けば…

「では、今年の委員会は学級委員の赤原と梶原の二人を中心にやってもらう。では、今日はこれで解散。明日から授業だから忘れるなよ〜」

そんな教師の適当な言葉で一日が終わっていた。

帰り道。ストラップから少女姿になったコンとコルにより先程の委員会決めの事で僕はからかわれていた。

「いや〜、ご主人も本当に運が無いですよね〜。まさかお節介で一番面倒な役職に推薦されてしまうとは。ププッ!」

「運が悪いというか、交友関係の方がご主人様は悪いですよね〜」

何気に容赦のない言葉の暴力に耐えながら自宅として借りているアパートの直ぐ前に到着する。

地震が起きた。

震度は5位だろうか。急な強い揺れに対応出来ず、僕達は地面にしゃがみ込んで揺れが治まるのを待つ。

地震自体は数分で治まった。だが、揺れが治まると同時に場の空気に何か殺気の様な物が渦を巻いている。

その殺気は、つい今朝方、まさしく僕がその身で味わった殺気だった。

「青田さん?」

「小娘の殺気…、さらに今の地震…もしかしたら戦ってるのかもしれないですね」

「どうしますか?私達なら簡単に見つけられますが…」

初めて妖怪を斬ったのが五年前、その後も僕は少なくない数の妖怪を斬ってきた。

全てはあの日、あの家事を起こした犯人を倒す為だけに…

「コン、コル。探してくれ。青田さんを…青田さんが狙っている獲物を…」

「承知致しました。我がご主人」

「あなたと出会った時の約束を今こそ果たして見せましょう。ご主人様」


そこにいるのは普通の高校生にあらず。

そこにいるのは人間にあらず。

そこにいるのは復讐鬼…。

一度の事件で人生を狂わせた、狂わされた人間の願い…


「ご主人、見つけました。どうやら地下に潜っているようですね。地下の下水道に生きている人間の生体電気を感じました」

「それと、その人間が向かう先に何か居ますね。人間ではない…でも、人の形をした何かが」

「そこまで分かれば十分だ。コン、コル。その場所に案内してくれるか?」


別に復讐を肯定している訳ではない。

…だが、幾ら何でも理不尽だ。

ただの理不尽が彼女の命を奪った。

ただの理不尽が彼女を世界から消してしまった。

さあ、始めよう。

彼女を奪った奴を探す為、出会わなければ話にならない。咄にならない。

復讐者は歩を進める。

蛇か虎か、その道に何が潜んでいるのかを知りもせず…。


どうも〜。

片府です。

前回の後書きでバトル展開まで行ければなんて言っておきながら今回残念ながら持っていく事が出来ませんでした。

誠に申し訳ありませんでした。

ですので、次回こそはバトル展開まで行けるよう尽力させて頂きます。

では次回も読んでいただける事を祈って。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ