第二十七話 久し振りの邂逅 (孤立編 第二部)
恐山…日本有数の霊場でたくさんの人霊が集まる場所として有名だ。
恐山に限った事ではないのだが、大きな霊園には何かしらの異能者が住んでいるらしい。
久城さんの知り合いが恐山に住んでいるという事で、恐山までの交通機関を世話してもらったのだが…
「久城さん、一体どれだけの権力持ってるんだろう?」
「ご主人、それは気にしてはいけませんよ。第一、これはあくまで月緋の家の権力ですから。あいつはあくまで代行者なだけですよ。」
「確かそれだけではなかったですよね?『ヤ』の付く職業の方ともお知り合いなのでしょう?」
う〜ん、何であの人あそこで働いてるんだろう?
久城さんの知り合いは恐山の頂上、つまり霊が最も集まる場所に大抵はいるそうだ。
山登りか〜。体力無いんだよな〜、僕。GWに友人に特訓させられたお陰で少しは伸びたが、出来るかな?
「小僧、なんだったら憑依して登るか?時間短縮にもなるしのう。」
「いや、それはやめとこう。もし憑依してから体を乗っ取られたら厄介だし。」
顔を若干引きつらせながら答える僕だが、内心はかなり嫌々である。
まだ朝早い事もあり、恐山は白い霧で覆われ不気味さを醸し出す。
大晦日などは人で賑わうであろう山道も、時期が時期である為人の姿は視えない。
もし雪でも降っていようものなら、今の僕達の装備では凍死していた事だろう。
京都を出発してからここまで着ている物は何一つ変わっていない。
セレはいつも通りの薄着だし、コンとコルは憑依状態の僕を模しているのか和服だし、僕は普通のジーパンに長袖のシャツ。
正直寒いが、文句を言える立場ではないし、僕よりもセレの方が寒そうなので僕が泣き言を言う訳にもいかない。
「ご主人、寒くありません?」
「な、何を言うかね。このくらい、寒いの内には入らないよ!」
「でもご主人様?さっきから腰より下が震えてますよ?それに、心なしか顔全体が青いですし。」
「だ、大丈夫。登っている内に戻ってくるさ、熱が。」
だから早く行こう。止まってると地面とくっついてしまいそうだから!
僕が先導して山道を進んでいく。
恐山は幾つかの山の集合体の名称だ。
山は登れば登るほどに様相を変え、その姿は『地獄』と形容したくなるほど岩が多い。
さらに温泉があるからか、硫黄の匂いも周囲に立ち込めている所でもあるのだ。
そういえば、ここって温泉あるんだよね?
だったら都合良く見つかったりは…
「あっ!ご主人、あそこに温泉がありますよ⁉︎」
「しかも無料みたいですし、入りませんか?ご主人様〜。」
あるものだな〜。さすが恐山。
急死に一生を得るとは正にこの事。
そろそろ手足の感覚が無くなっていたんですよ〜。
「いや、小僧、少し待て。いくらなんでも怪しすぎじゃあないかの?」
えっ、怪しい?どこが?
「いや、いくらなんでも登って早々に温泉なんぞ。怪しさしか感じんぞ?」
そうか〜。セレは怪しいと思うのか。
う〜ん…
「よし、行こう!黄泉返りの地へ!」
「まさかの無視じゃと⁉︎」
怪しい?そんなの知った事か!
生きる事と死ぬ事、このどちらを取ると聞かれれば断然前者確定だ!
僕の手足が青紫色になる前に肌色に戻さなければ山登りなんて出来るか!
セレがやれやれと苦笑いしながら僕とコンとコルの後ろを付いてくる中、硫黄の臭気立ち込める温泉へと入っていった。
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ああ、もう!どうやったらライカ達の事を思い出すんでしょうか?
この一週間、簡単な質問から直接的な接触まで色々試してみましたが、ツチカどころかクロベすら思い出す気配が無いなんて。
この試練をクリアしなければあの人魚にまで遅れを取る事になる。
「ライカは私の同志です。絶対、あんな魚もどきに盗られてたまるものですか!」
先ほど閉めた襖を再び開けて外に出る。
おそらくこの時間だとツチカは屋敷の掃除、クロベは部屋で爆睡といった所でしょう。
「セオリーで行くならクロベですが…正攻法は私の得意分野ではありませんし、相手の影すら利用するのが私の流儀。ここでは、ライカ自身を使わせていただくとしましょう。」
私は考えをまとめると一つの部屋へと向かいます。
そう。一週間前までそこで暮らしていた人物達の部屋。
狐とライカが使っていた和室の一室へと。
存在を消させたライカ達が自身の痕跡を残しているとは思えませんが、それをやっているのがクジョウと朱雀なら話は別。
おそらくクジョウは公正を期す為に何かしらの形で証拠を残しているはず。
今は空室となってしまったライカ達の部屋を勢い良く開け放つ。
今まで本当に何も無かったかのような新鮮な畳の匂い。
塵一つ見つからない畳の上を舐めるように証拠を探す私。
おそらく端から見たら異常者か犬その物でしょうね。
まあ、昔は犬のように泥だらけで過ごしていた訳ですから、それに比べたら室内であるだけマシですね。
しかし、本当に何もありませんね?
それこそゴミどころか髪の毛一つ無く…
「あっ、ツチカが掃除しているからですか。」
しまった〜、迂闊だった。
私とした事が、ツチカが毎日掃除するのを知っていたのだからゴミなんてあるはずがないんです。
それどころか、ツチカの手によって証拠すら消えている可能性さえあります。
予想外…いえ、予想していなければおかしい事を思い私は頭を抱えます。
ヤバイ、ヤバイですよ。まさかの探し物を自分の手によって捨ててしまったような気分です。
もしツチカがここを掃除したのが昨日ならまだ救いがありますが、最悪既にゴミ収集されているかもしれません。
「悩んでいる場合じゃありません!今すぐツチカに確認しなければ!」
ライカの部屋を飛び出し、屋敷のどこかを掃除しているであろうツチカを探します。
しかし、ここで厄介なのがこの屋敷の大きさ。
私のような体の小さい者では無駄に時間を浪費してしまいます。
「こうなれば!」
自分の意識を自分の影に集中。
力を封じられているとはいえ、私も妖怪のレッテルを持つ者。
自分の影を屋敷中に這わせて屋敷内を探索していきます。
食卓…誰もいない。
クロベの部屋…爆睡するクロベと見た事の無い大男。
黒い翼を持っている所を見ると、どうやらあれは烏みたいですね。
キッチン…誰もいない。
庭…見つけた!
這わせた影を瞬時に回収すると、私は一目散に庭の縁側に腰掛けていたツチカへと走っていきます。
庭には縁側で目を閉じて日向ぼっこ中のツチカと、その横に立てかけてある箒。
どうやら掃除中にうたた寝をしてるみたいですね。
「ツ、ツチカ!起きて下さい。少しお話しがあるんです。」
悪いとは思いますが、ツチカにはここで惰眠を貪られては可能性が消えていってしまいます。
ツチカはまだ眠そうな目で私を見ると小首を傾げます。
私は切羽詰まった様子で事のあらまし、詳しくはライカの部屋で何かを見つけなかったかを問います。
「ああ、ありましたね。誰の物か分からないやつが。あれなら、食卓の神棚に置いてあると思いますよ?」
ツチカの返答を聞いた私は今度は食卓の神棚を目指します。
食卓に神棚…そんなのありましたっけ?
私の視点が低いから見つからなかっただけでしょうか?
しかし、流石はツチカです。
誰の物か分からなくても取り敢えず取っておく。今回はその行動に助けられました。
食卓に着いた私は、その部屋の上座から見て右側にある神棚の上に置いてある人形を見つけます。
三つの御神体のように飾られた人形。
それは確かに、いなくなった四人の内の三人。
アカハラ ライカ、コン、コルを模した人形。
所々糸がほつれたり、色がくすんだりしていますが間違いない。
クジョウの気まぐれで残された唯一無二の武器。
それは三人の姿容という、実に決定力のある物品でした。
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「ふ〜…。暖かい。」
外に設置された天然の温泉。
男湯と女湯は勿論別れているので、男である僕は一人で男湯を占領している。
女湯と男湯を隔てているのは今僕が背中を預けている壁のみであり、頑張れば登る事も出来るだろう。
「まあ、やらないけれどね。僕もそこまで勇者じゃない。」
当たり前だ。何で自ら死期を早めねばならんのだ。
いや、コンとコルは問題無いだろう。
一応、中二までは一緒に入っていたから。たぶん、少し怒られるくらいで済む。
だが問題は、セレだ。
セレは未知数な部分が多すぎる。
怒るか、殺すか、沈めるか、ありとあらゆる可能性を考えてはみたが、どれも最後はデッドエンドに直通である。
「勇者はこの場に必要無し。ゆっくりと浸かって疲れを癒そう。」
「はっ!所詮貴様はその程度か!それでも男か、お前は!」
うん、何だろう?今某とある友人の声がしたと思うのだが、いやまさか。
「まさか青森にいるなんて偶然は…」
「おう、久し振りだな。折坂 竜司、ホームグラウンドから抜け出てきたぜ!」
あったわ〜。まさかの展開って奴だよ?これ。
GWに知り合った友人、折坂 竜司が立っていた。…タオル一枚の姿で。
彼についてはいつか話すとして、今は青田さんの師匠と思ってもらえれば幸いだ。
おそらく男湯の奥の方にいたのだろう。
湯気でよく視えなかった温泉の奥から出てきた竜司君は僕の隣に腰掛けると、声を潜めて話しだした。
「なあ赤原さん、あんたは行きたいと思わないか?この壁の向こうにある桃源郷へと。」
何やらキリッとした顔でとんでもない事を言い出した。
えっ、何?君今日はテンション高い日なの?
確かに元々そんな性格ではあったけれど、幾ら何でも勇者過ぎないか?
「いやいや、これでも勇者だから。」
勇者は心も読めるのか⁉︎最近そんなのばっかだな!
「まあ、それはさて置き。竜司君、君は向こうに誰がいるか知ってるの?」
「いや、知らないけど。青田さんいるんでしょ?なら、それで十分覗く価値は…」
「ああ、ごめん。青田さんと僕、実は今別行動中で。」
「………」
あっ、今テンション下がった。
この人、青田さんに気でもあるのかな?でも、それだけじゃないような気もするんだよな。
「え〜、それじゃあもしかしてコンちゃんとコルちゃんだけ?」
「いや、まだ出てなければセレもいると思うけど…。」
変化はすぐに起きた。
先ほどまで隣にいた竜司君が姿を消し、いつの間にか境となる壁を登ろうとしている。
「今すぐ会いに行くぞー!待っていろよ、夢の桃色空間よ!」
単純な人である。
しかしその意気込みはかなりの物だ。
なんせ、一切取っ掛かりの無い壁をまるで蜘蛛のように登っていくのですから。
「本当、人外としか思えない。」
「ん〜?何か言った?」
聞こえていないのなら結構。そのまま壁を登り続けてもらうとしよう。
「どう?もう着いた?」
「いや、もう少し…よし!ってあれ?」
おそらく壁のてっぺん、覗きが出来る位置に辿り着いたのであろう竜司君。
しかし、彼が疑問符の声を浮かべた後、思わぬ出来事が僕らを襲った。
一言で言うなら、壁の崩壊。
別に巨人が現れたとかではなく、壁が壊れる直前で視えた電気からすると、おそらくコンとコルの仕業だろう。
勿論、壁に登っていた竜司君は温泉の中へとダイブ、僕は吹き飛ばされる形で竜司君と同じ道を辿った。
「まったく、いつかはやると思っていましたが、流石に見損ないますよ?ご主人。」
「そうですよ。せっかく久し振りにエクスさんに再会したのに。空気を読んで下さい、ご主人様。」
粉々に消えた壁の向こう側には、左手を前に出すコンと右手を前に出すコル。
それと眼を閉じて失笑しているセレに、コンやコルとは違う金髪の幼女がいた。
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さて、リアル犬神家一族から回復した僕と竜司君は今、正に三人の金髪幼女にお説教されていた。…温泉の中で正座させられながら。
「良いですか?ご主人。まずは何の為に女湯と男湯が別れているかを理解して下さい。ご主人達は知りませんが、私達には羞恥心があるのです。分かりますか?」
重々承知しております。あと、ちゃんと僕達にも羞恥心はあるので勘違いはしないで欲しい。
しかし、今はお説教よりも大事な懸案事項があると僕は思うのですが?
「ねえ、竜司君。何で君だけでなくエクスちゃんもいるの?この娘、向こうの世界の住人でしょ?」
「えっ?だって俺とエクスは相棒同士だもん。むしろ、一緒にいない方がおかしくね?」
ああ、そうですか。
もう良いです。何か色々と諦めようと思います。
「それじゃあ竜司君、質問を変えるよ。…何でこんな所にいるの?」
もはや一つの温泉となった女湯でゆっくり肩まで浸かっている竜司君。
僕もそれに習って正座から胡座に移行すると、男湯より若干広そうである女湯へと進入した。
「いや〜、その事に関しては残念ながら話せないんだよ。ボクもリュージ君も、内容は触りの部分しか知らないから。だから、ごめんね☆」
えっ、何?今何か星みたいな物が視えたのですが?これがあれか。ボーイッシュキャラ特有の感情表現というやつか。
エクスちゃんは温泉の中を進みながら竜司君の元まで辿り着くと二人並んで顔がほころぶ。
まあ、幸せそうで何よりです。
「そんじゃ、そっちの質問が終わった所で、今度はこっちの番。赤原さん、あんたは何でこんな所に?」
まあ、そうなるわな。
どう考えても青森は僕のホームグラウンドじゃないし。
さて、どう切り抜けたものか。相談する意図を含めた視線をコンとコルに向ける。
コンとコルも困った顔をしており、どうやらここを切り抜ける良い言い訳が浮かばないらしい。
セレは…ダメだ、潜水ごっこに夢中になっていらっしゃる。
僕達が困っているのを見兼ねてか、意外な事にエクスちゃんが助け舟を出してくれた。
「まあまあ、リュージ君。彼らは彼らなりの理由があるんだよ。それを詮索するのは、流石にマナー違反じゃないかな?」
エクスちゃんがこっちに目配せしながらウインクをかましてくる。
その目は悪戯を黙っている悪友のような色を宿し、僕達がここにいる理由を察している顔だった。
「ふ〜ん、まあ良いけど。…ところで、セレさん大丈夫?かれこれ五分くらい潜ってるけど。」
「ああ、大丈夫だと思いますよ?あれで人魚の一族ですし、ね?ご主人様。」
「おそらく、久し振りに水の中なものだから懐かしんでいるんでしょう。詳しくは知りませんが、どうやら自分の故郷には帰れないみたいですし。」
コンとコルが物憂げな様子でセレが潜っている場所を見る。
おそらく、今の自分達の状況とセレを重ねているのだろう。
いや、コンとコルだけじゃない。僕も、もうあの屋敷には帰れないのだから。
一気に場の空気が悪くなる。
それは誰の所為でもなく、強いて言うならこの状況を作った僕だけだろう。
「…何か悪い事言っちゃった?俺。」
「リュージ君は関係無いと思うよ。ボク達が出来る事は、せめて場を盛り上げる事だけだと思うね。」
そう言うと、エクスちゃんは一人で立ち上がると備え付けの桶を人数分持ち出し、僕達に投げてよこした。
「誰もいない貸切の温泉。そこでやりたい事のトップと言えば?…エクスカリバー主催、水かけ合戦〜!」
タオル一枚巻いただけのエクスちゃんの笑みは、久し振りに僕に安堵感を与えてくれた。
少なからず寂しさが込み上げる中、僕達は全員で水かけ合戦を行った。
一体どんな能力を使ったのか、どんなに水をかけてもタオルが取れる事は誰も無かった。
その水かけ合戦は番台のお婆さんが飛び込んでくるまで続いた。
青田さんは元気にしているだろうか?
黒部さんは相変わらず黒い笑みを浮かべているだろうか?
カゲメも早く合流出来たら良いな。
早く、早く、早く、皆と会いたいなあ。
どうも、皆様いつも読んで下さりありがとうございます、片府です。
今回も一つ、コラボレーションとしてかわまさ先生の登場キャラを二人ほど特別出演させていただきました。
この二人の詳しい設定などは、かわまさ先生の作品を読んでもらえれば分かると思いますので、触りの部分を紹介しようと思います。
まずはGWに知り合った友人こと、折坂 竜司君。彼は一度赤原さん側の世界で重賞を負い、異世界に勇者として召喚された過去を持つ少年です。
そして、その異世界で彼の武器であるエクスカリバーことエクスちゃん。人間から武器までと幅広く変身する事が出来、竜司君の相棒として頑張っています。
赤原さんと竜司君の出会いはかわまさ先生の『転生する前の俺は普通の日常を満喫するそうですよ?』で投稿する予定となっております。
投稿する準備が整い次第、こちらでもお知らせしたいと思います。
では、本日はこの辺で。
今回は拙い文章で竜司君達がちゃんと書けているか不安ですが、その場合は申し訳ありません。
では、皆様、また次回の投稿でお会いしましょう。




