第一話 狐と暮らす少年
燃え盛る炎
外から見るその光景はどこまでも赤く、黒く僕の目に焼き付いていく。
もう助からない。
そんな事は分かっているのにどうしても足は燃える家へと伸びていく。
あの子はどうした?
助かったはずだ!
一縷の望みを頭の中で精一杯に叫ぶ。けど、もう分かってる。なにもかもが手遅れだ。
あの子の笑顔も、あの子の後ろ姿も、それどころかあの子の姿を見ることすら、もう叶わない願いとなってしまった。
誰のせいだ?
誰がやった?
誰でも良い。今すぐにこんな事を引き起こした犯人を見つけられるなら、僕は悪魔になっても構わない。
「(悪魔とはいかないが、私らで良ければ力になりますよ?)」
「(私達でもそれなりには役に立つと思われますしね)」
頭に鳴り響く二人の少女の声。
声は燃える家の中から聞こえてくる。
やがて燃える家は激しい音と共に崩れて小規模な爆発を引き起こす。消火をしていた消防隊も思わず怯むほどの光が辺りを照らす。
その瞬間、二条の光が僕の手の中へと吸い込まれる様に入ってきた。
それが僕こと赤原 雷咼と狐の異刀であり妖怪、コンとコルの初めての邂逅だった。
あれからはや五年、当時の年齢は11歳、現在は16歳で今日から高校二年の僕は学校に行く準備を終え玄関で立ち往生していた。
「ご主人、もう少し、もう少しだけ待っていて下さい」
「コン、ご主人様はもう学校に遅刻確定ルートなんですよ!早くして下さい!」
今僕のアパートで行ったり来たりと慌ただしく動いている、金色のショートカットに金眼、挙句の果てにお尻の上に同じく金色の狐の尻尾という人間離れした容姿を持っているのがコン。
そして、そのコンに僕の横で注意を促している、髪型がツインテールということ以外はコンと同じ容姿を持っている少女がコル。
あの火事の日に僕の手の中に入ってきた光の正体だ。
幼馴染、長篠 華蓮という女の子が亡くなって、僕はコンとコルに出会った。そして色々な事を教えて貰った。
コンとコルの事、あの火事の正体、明確な犯人像は未だ解らず仕舞いだが、警察ですら知らない事を知る事ができた。
曰く『犯人は人ですらあらず』
人が創りしオカルトの類い、魑魅魍魎、夜の住人、人が信じる事で存在を保つ、そんな不安定で強大な力を持つ者達。
『妖怪』、『怪異』、コンとコルはこう言った。自分達もそんな存在であると…
五年前、僕は二人に願った。犯人を倒す、華蓮と同じかそれ以上の苦痛を与える為に力を貸して欲しい…と。
回答は、『NO』と言われてしまった。
その代わり、犯人を見つけるまでは手を貸すと言ってくれた。それからは僕達はずっと行動を共にして来た。
以上、現状説明終了。
「出かける準備終了!」
どうやらコンの準備も終わったようだ。
ーー ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 遅刻確定の 学校へと向かう為に通学路を尻尾を隠したコンとコルと共に歩く。見た目12歳の美少女と歩く高校生など正直、通報されても仕方無いのだが、世界は以外と寛容な物で去年一年間怯えていた自分が情けなくなってくる程のスルー具合である。
通行人が時々こちらを見てくるのはどんなに経験しても慣れた物では無いが…
「ご主人、今朝はすいませんでした。これでまたご主人の遅刻ギネスが更新されてしまいます」
「コン、自覚が有るのは良い事ですが明日からはしっかりと起きて下さいね。ご主人様なんて私が起きる前から既に朝食を食べていたんですから」
「いや、フォローする所が違うと思うんだけど…まあ、いいか。僕はただ単に朝からやる事が多いから起きてるだけだからコンもコルもゆっくり寝てて良いんだよ?」
「そうはいきません。ご主人様が起きても私達が起きなければご主人様の遅刻ギネスは更新され続けるだけですから!」
「コル、もしかしてわざと言ってない?ていうか面白がってない?」
「そんなまさか〜」
「本音は?」
「ご主人様がもっと遅刻してくれれば私達と話す時間も増えるんじゃないかな〜と思っています。」
思ったより直球な本音が来てしまった。
仮にも美少女にそんな事を言われたら彼女歴無しの僕には辛いものが…
「ご主人、どうしたんですか?顔が赤くなってますよ?惚れました?」
惚れてなるものか。この歳で警察のお世話になどなってたまるか。
なんて話している内に早くも学校の校門が見えてくる。コンとコルには出会った時の姿になってもらうとしよう。
「コン、コル。そろそろ学校だから化けてくれると助かるんだけど」
「ああ、はい。分かりました。ではご主人、今日一日頑張って下さい」
「ご主人様、ご武運を」
一回瞬きをしただけ。ただそれだけの間に目の前にいたコンとコルの姿は消え、手の中には二匹の狐のストラップが握られていた。
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私立條崇寺高校
それが僕の通う学校の名前だ。
そこまで偏差値も高くなく別に附属という訳でも無い。だがこの学校の最大の特徴は初等部、中等部、高等部で別れていることだ。
それでは附属と同じと思うかもしれないが、この学校、初等部やら中等部やら言っているがその実、内部進学が存在しない。
つまり、初等部から中等部に上がるにはテストを受けなければ上がれないのだ。もちろん義務教育である初等部は落ちても市立の中学に進学するシステムである。だが、もし中等部から高等部の受験に落ちたらそれこそ他の学校を受けなければならなくなってしまう。
まあ、市立の中学から進学した僕は関係ないけど。
話を戻すと、実質三つの学校を同時に抱えている様な物なので敷地は相当広い。体育館なんか三つある程の余裕があるのだから、金銭的にも余裕があるのだろう。
二年最初の始業式をサボった僕はクラスを確認すると誰もいないだろう教室練へと足を運ぶ。
別に言い訳を言うつもりは毛頭無い。
朝だったから集中力が無かったとか、相手が小さくて見えなかったとか、女子を相手にするのは大人気ないかなとか、そんな事は微塵も考えていなかったはずだ。たぶん…
ただ純粋に単純に僕は弱かったのだ。
少なくとも、相手が、目の前から歩いてくる少女が僕の首に一本の刀を押し付けるまでは、その姿を視認出来ていたのだから。
首の刀は見た限り本物。しかも柄は普通の刀とは思えない程に無骨で、まるで土がそのまま柄になった様で…。
なんて考察を続けている内に少女が徐に口を開く。
「あなたと私は同業者。怪異の刀、異刀を操る復讐者。あなたの刀は私の敵?」
高い少女らしい声とは裏腹に声の調子はこの上なく冷たく、暗い。
何が『ご武運を』だ。シャレにならないレベルの予知をしないでもらいたい。
この状況、どうやってくぐり抜けた物か。
まだ死ぬ訳にはいかないしね。
はい!どうも。
数時間前に投稿させて頂きましたが、早速続編が出来上がったのでお届けしたいと思います。
いや〜、ようやく本編が始まりました。
これからは流石にこんなに早く投稿出来ませんが完成次第お届けしたいと思います。期待して待っていてくださる方がいらっしゃるならこれ以上嬉しい事はありません。
次回はまあ、出来ればバトルに持っていきたい所ですが実際問題まだ未定です!
拙い文章で心苦しい限りですが読んで頂けると幸いです。
読み辛かったりしたら本当にすいません。