第十三話 作戦会議? (人格過多編 第二部)
暗い暗い泥の中、揺りかごに揺られる様な安心感。
誰も僕を理解しない。
誰も僕を理解出来ない。
誰も僕を見つけない。
僕の本性は化け物だ。
一体誰が、こんな化け物を認めてくれるだろう。
彼のフランケンシュタインですら自身の創造を許しはしなかった。
自身の創造に嫌悪し、恋人を殺され憎み、挙句の果てに化け物を追い求めて死んだ。
あれは人間の具現だ。
人間の理不尽の塊だ。
そうでなければ、彼の作品が名作となる事は無かっただろう。
フランケンは化け物だ。
化け物は理解されてはいけない。
化け物は馴染んではいけない。
化け物は慕ってはいけない。
それが、化け物の宿命だ。それが、化け物が化け物たる所以なのだから。
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公園で起きた辻斬り騒動は取り敢えず警察に任せ、僕達は青田さんの屋敷に戻ってきた。
「ただいま…。」
「「……。」」
コンとコルはずっと黙ったままだ。
先程の惨状が、それ程までにショックだったのだろう。
「おかえなさい。どうしたんですか?顔が真っ青ですよ、赤原さん。」
青田さんがエプロン姿で出迎えてくれる。
昼食を作っている最中だったのだろう。
青田さんはエプロンで手を拭って僕の持っていた袋を受け取る。
「アイス、ですか?ドライアイスのお陰で溶けてはいなそうですね。お昼の後に食べますか?」
「いや、僕はいいよ。ちょっと部屋で考えたい事があるから、お昼は要らないよ。」
弱々しい笑顔を浮かべながらお昼の辞退を告げる。
人の死体なんて見たのだ、何かを胃に入れる様な気分にはならない。
コンとコルもそうなのか、二人共、青田さんにお昼は要らないと言って僕の後ろをついて来た。
部屋の襖を開いてコンとコルと共に部屋へと入る。
コンとコルは部屋へ入ると同時に、腰が抜ける様に畳へと腰を落とした。
「大丈夫?」
「はい。ですが、まさかあそこまで猟奇的とは。」
「ご主人様、申し上げ難いのですが、あれは人間に出来る様な事ではありません。」
分かっている。
人間を腰から両断するなんて、そう簡単に出来る事ではない。それに、あの遺体の血は流れたままだった。
これは、まだ両断されてからそんなに時間が経っていない事を表す。
そんな事が出来るのは…
「犯人は、刀の所有者。」
「又は、刀その物って可能性もございますが。」
コンがそう言って立ち上がる。
頭の良い子だ。
次に僕がやる事が分かったのだろう。
コンが立ち上がった事でコルも立ち上がる。
この二人は双子よりも繋がっている。
コンの意思がコルに伝わったのだろう。
「ご主人、私達はご主人を止めることはしません。しかし、もしご主人の身に何があっても看過出来ませんので、そこの所宜しくお願いします。」
「分かってる。僕だってもう馬鹿な事はしないつもりだよ。」
「ふふっ、こんな事に首を突っ込む時点で馬鹿な事、なんですけどね。」
コルの的確なツッコミに三人の笑顔が戻る。
僕達がひとしきり笑った後、急に襖が開いた。
「坊主、良いか?」
襖の向こうから黒部さんが顔を出す。
いつもこの時間に起きくる黒部さんだが、その顔はいつもの悪い笑顔が浮かんでいる。
この人は寝ている時でも笑っていそうで怖い。
しかし、今日の黒部さんは少し違った。
なんて言うか、『狩り』の時の顔をしていると言うか、とにかく真剣な顔をしていた。
「何か用ですか?」
黒部さんが部屋に入ってくる。…パジャマ姿で。
「さっきの話を詳しく聞かせろ。」
「さっきの話、とは?」
「犯人は刀の所有者、ってやつだ。」
どうやら聞かれていた様だ。
まあ、僕としても協力者がいるのは心強い。
特に不満も無く、僕は黒部さんに屋敷に帰ってくるまでにあった殺人事件について話した。
僕が話している間、黒部さんはずっと険しい顔で腕を組んでいた。
パジャマ姿で腕を組んでいる黒部さんの姿は、なんだかとても可笑しかった。
「真っ二つの死体…か。」
僕の話を聞いた黒部さんの最初のセリフは、それだけだった。
それっきり暫く、黒部さんはずっと押し黙ってしまう。
「あの、黒部さん?」
「何だ?」
「何か気になる事でもありましたか?」
「ああ、少しな。…坊主、お前は今回の件の犯行の仕方、分かるか?」
黒部さんの顔は真剣その物だ。
今回の事件、辻斬り騒動を知っていたのかな?
「死体の感じからすると、一斬りで即死って言う感じです。あと、犯行はそんなに時間が経っていないと思います。」
「その理由は?」
「血です。血液は固まると黒く変色します。しかし、あの血はまだ固まっていなかった。それどころか未だ流れていた、これは時間が経っていない証拠です。」
「なるほど、正しい判断だ。だが、少し足りない事があるな。」
そう言って黒部さんは人差し指を立てる。
僕にはそれが、教鞭の様に見えた。
「今までの刀、それに限らずお前の刀。それらは人一人真っ二つに出来る程の切れ味があるか?」
黒部さんに問われて気付く。
そうだ。コンとコル、セレやカゲメの様な刀の恐ろしい所は、切れ味ではない。
異刀の切れ味は普通の刀と変わらない。
人間の胴体を、真っ二つにする程の威力は備わっていないのだ。
本当の恐い所、それは彼等の特殊な力。
コンとコルは雷、セレは水、カゲメは影。…青田さんの土蜘蛛は確か、重力だったかな。
そのどれもが人を圧倒する物、だがそのどれとして、刀身に直接的な強化をする物ではない。
「気付いたか?人を真っ二つに出来るのはカゲメの様な、能力で作られた刃以外にあり得ない。」
黒部さんはそう言ってまた一つ、僕に知識を与えてくれる。
「人を真っ二つにする程の純粋な力を持つ、又は人の欲望を叶える刀は魔剣。逆に妖怪にしか効果を与えられない刀を妖刀。その二つの特性を半々に持っている刀が、俺達の持つ異刀だ。」
妖刀と魔剣、更に中間の異刀。
今の説明を考慮すると、今回の件は魔剣の仕業と言う事か?
その考えを黒部さんに告げると、黒部さんは静かに首を横に振る。
「その考えは早計だ。異刀の中にはカゲメの様な奴もいる。さっきも言ったはずだが、能力で作られた物ならもしかしたら…な。」
能力で作られた刃、人を殺す為だけの能力。
そんな刀には、今まで出会った事が無い。
「まあ、敵が魔剣か異刀かはこの際どうでも良い。異刀はどちらにも対応出来るからな、犯人については俺の方でも考えておく。…ところで坊主、一つ良いか?」
「何です?」
黒部さんの雰囲気が少し柔らかくなる。
一体、何を言うつもりなのか。
僕は黒部さんの言葉に注意を向ける。
「そろそろ着替えに行って良いか?」
いつも通りの笑みを浮かべながらのたまう黒部さんに、僕が思わず雑な返答を返したのは言うまでもない。
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黒部さんは着替えた後、直ぐに烏天狗を飛ばしてくれた。
犯行が昼間に起こったのならば、それだけ隠蔽されている可能性があるが、本人曰く『気休め』との事だ。
まあ、期待しない方が吉らしい…鴉、少し同情するよ。
黒部さんに話した後、やっぱりお腹が空いて僕達は青田さんのお昼を食べた。
青田さんは何も言わずに、何も聞かずに出してくれた。
その気遣いに感謝しつつ黒部さんと一緒にニュースを確認する。
先程の事件はまだでも、最近の猟奇殺人位はあるかもと思ったからだ。
結果は無駄足だった。
こんな小さな町の事件はそこまで重要視されないらしい。
まあ、正体どころか方法すら見当がつかない、なんて放送し辛いかな。
「何かあったんですか?私には全く話が見えてこないのですが。」
青田さんが黙々と食べながらこっちを睨んでいる。
最初は何も言わなかったが、青田さんも流石に我慢の限界なのだろう。
よく見れば、セレやカゲメまでもがこちらに視線を向けている。
黒部さんと僕、コンとコルは四人で顔を見合わせて、再び事の次第を説明した。
カゲメとセレは箸を置いて、青田さんは黙々と食べながら、僕の話を聞いていた。
暫くの間、皆が無言になる。
まず最初に口を開いたのは、以外な事にカゲメだった。
「その被害者と言うのは男か女か、どちらですか?スーツ姿、と言っていましたがこのご時世、男も女もスーツを着ますよ?」
「ああ、ごめん。スーツって言うか、ヤクザっぽいって言うのかな?そんな感じの男の人。」
カゲメはその説明だけで分かったらしく、なるほどと言ってまた黙ってしまった。
「皆さん。」
そこに響く、青田さんの無表情の声。
彼女は箸を止めながら、僕達に諭す様にたしなめた。
「今は食事中です。生々しい話は、後にして下さい。」
彼女のいつも通りの無表情と声に、その場の全員が苦笑で応えた。
時は変わってお昼後。
改めて催された話し合いも結局の所、あまり意味を成さなかった。
なんせ今日知ったばかりの出来事だ。
明確なプロファイルも出来はしない。
結果、各自自由行動と相成った。
「さて、と言う訳でパトロールを始めたいと思います!」
「「おー!」」
非常に微笑ましい掛け声を掛けながら、僕とコンとコルは町を歩き出す。
対した効果は期待出来ないが、無いよりある方がマシだろうと言うコンの提案により、このパトロールは実現した。
「なあ、コン。犯人はどうすれば現れるんだろうな。」
「そんな事聞かれても困ります。犯人は無差別に殺しをしているんですし、出来る事はただ歩くだけです。」
「そうですよ、ご主人様。まだアパートの近くと言う範囲があるんですから、良い方に考えましょう。」
コンとコルはいつも通りの笑顔を取り戻している。
皆で話し合ったおかげか、はたまた単純に元気になっただけか。
何はともあれ、それはとても嬉しい事だ。
彼女達が黙っているなんて、失礼だけどイメージ出来ないし、そんな彼女達は見たくない。
僕達はアパートの周りをうろつきながら、怪しい人物がいないかを探る。
刀の所有者は独特の雰囲気がある。
刀と関わってきた僕なら、違和感の一つや二つは感じてくれるだろう。…多分。
「人を両断出来る程の威力を持つ刀。純粋な力だけでやっているのなら、質が悪いにも程がある。」
「そうですね。私達としては、魔剣や妖刀なんて物まである事に驚きましたが。」
コルが何故か遠い目をしている。
異刀なんてあるのだから魔剣や妖刀があっても不思議ではないと思うんだけど。
少し不思議な気持ちでコルを見ていると、いつの間にかコンの姿が消えている事に気付いた。
「あれ、コンは⁉」
「さ、さっきまで一緒にいましたよ?ちょ、ちょっと待ってください。」
コルはそう言うと目を閉じた。
コンとコルが双子よりも繋がっている、と言う証拠の一つ。
それは、二人がどんなに離れていても、互いに居場所が分かる事。
一応説明は受けたのだが、残念ながら理解出来ず、携帯みたい、と言う感想しか抱けなかった記憶がある。
「ご主人様、どうやらそんなに離れてはいない様です。」
コルは目を開けると、僕の手を引いて歩き出す。
その顔はまるで、妹を心配する姉の様だった。
コルに手を引かれながら歩く事数分。
例の殺人があった公園の近くでコンは発見された。
何故か知らない少年と一緒に…。
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少年は気を失っていた。
コンが発見した時から気を失っていたらしく、見つけた時のコンはオロオロとしていた。
取り敢えず放置も出来ないので、僕達は協力して青田さんの屋敷へと運んだ。
「パトロールって本気だったんだな、坊主。」
「なんで疑ってたんですか?その代わり、青少年を保護してしまいましたが。」
少年は今、僕の部屋で眠っている。
青田さんが面倒を看てくれているが、まだ目覚めたと言う事は聞いていない。
「しかし、まだ三時前だっつうのに何でその坊主は気なんか失ってたんだ?」
「それが分かれば手っ取り早いんですけどね。見つけた時から寝てましたから、目覚めないと話になりません。」
「そんな事より、鴉の方はどうなんですか?」
「そろそろ何か情報が来てもおかしくないのではないですか?」
コンとコルが黒部さんに棘のある問いをする。
黒部さんが鴉を放ったのが約三時間前、小まめに連絡がくるらしいから、確かにそろそろ来てもおかしくない。
「鴉からは特に何も無いな。怪しい人物を見た、とかその手の報告は一切来ていない。」
黒部さんの返答を予測していたのか、コンとコルはそうですか、と言ったままくつろいでいた。
黒部さん、とことん嫌われているらしい。
「坊主、何で俺はこんなに嫌われているんだ?」
「黒部さんと最初に会った時、鴉を僕の中に入れたの覚えてます?何か、それが原因らしいですよ。」
「あったな〜、そんな事。でもそろそろ時効じゃね、それ?」
黒部さんがコンとコルに背中を向けて僕に話し掛けてくる。
妖怪を人の中に送り込んで、更にあわよくば人の頭の中を掻き回そうとした人とは思えない。
何だ、時効って。僅か数ヶ月で消える様な些細な事なのか?
「時効の事はともかく、黒部さんが嫌われているのはそう言う事です。好かれたいなら自分を変えてみたらどうです?」
「ご忠告どうも。だがこれが俺なんでね、変えるなんて事はしないさ。」
相変わらずの自由さで言葉を締めると、黒部さんは立ち上がり部屋から退出して行った。
多分、トイレか何かだろう。
基本あの人はここか、自分の部屋か、トイレにしか現れないから。
「小僧、少し良いか?」
「セレ?」
セレが襖の向こうで手を招いている。
僕はコンとコルを見た後、二人がテレビに夢中なのを確認してから席を立った。
「何かあった?セレ。」
「うむ、小娘からの伝言じゃ。お前が連れて来た小童、目を覚ました様じゃぞ。」
セレは言葉とは裏腹のイラついた顔をしている。
何かあったのだろうか?
「何もない、とは言えないのう。あの小童は我には相性が合わん。」
セレはそう言って立ち去った。
最後に見せたあの顔は…怒り?
「そうだ、早く様子を見に行こう。」
セレの様子は気になるが、今は少年の様子を見に行くとしよう。
「お邪魔するよ〜。」
自分の部屋に入るのにこの掛け声はおかしいと思うのだが。何だか笑えてしまう。
「赤原さん、どうぞ。」
青田さんが襖を開けて迎え入れてくれる。
少年はまだ布団の中で目を閉じていた。
「もしかして寝ちゃってる?」
「いえ、多分目を閉じているだけです。」
青田さんが布団を揺すって少年を起こす。
何も起こす必要は無いのだが、青田さんは容赦無く少年を起こす。
少年は目をこすりながら上体を起こした。
「ああ、どうも、今回はご迷惑をお掛けしまして申し訳ありません。」
少年はまだ寝ぼけているのか、まだ働いていない頭で挨拶をする。
しかし、次の言葉は大気を揺らし、僕の鼓膜を揺らし、驚愕を与えた。
「もう一人の僕の辻斬り騒動。本当にごめんなさい。後で説明をさせて頂きますので、眠らせて下さい。」
少年はそれだけ言うと、電池が切れた様に上体が倒れる。
僕と青田さんが問い詰める前に、少年は完全に意識を放棄していた。
辻斬り被害者 計四人
辻斬り容疑者 一人確保
祝、掲載一ヶ月突破!
皆さんのおかげで、この狐の事情の裏事情が連載一ヶ月を突破しました。
現在のアクセス数は934、十三部を掲載していますので、計算すると何と一部71人もアクセスしてくださっている事になります。
有難い限りです。
因みにユニークの方は現在275人、今は500人を目指して頑張っていきたいと思います。
さて、今回の話はサブタイトルに書いてある様に人格過多編と銘打ってお送りしております。
私片府はネタバレをするつもりは毛頭ございません。
しかし、察しの良い読者様は今回のサブタイトルを見て、何となく分かるかもしれません。
未だ何部構成になるかはわかりませんが、読者様に楽しめる作品を作れる様に精進したいと思います。
では皆さん、今回はこの辺で。
次回もここで出会える事を祈っております。




