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第十二話 辻斬りは晴天に現る (人格過多編 第一部)

人の欲望に際限は無い。

欲望をエネルギーに換算出来れば、一生分のエネルギーの確保も夢ではないだろう。

富、名声、権力、実益。

言葉にも、欲望は表れる。

字にも、欲望は表れる。

それは、まるで体現の様に、その人柄を的確に写し取る。

雑な人間には雑な字が、誠実な人間には誠実な字が書けると言われている。

もしかしたら、僕の字もそうなのかもしれない。

昼の僕、夜の僕、無自覚な僕。

全てが僕で同じ人間、なのに、その性格や好みは大きく異なる。

ああ、日が沈む。

僕の時間が終わりを告げる。

僕の一日はこれでお終い。

次は彼の番、夜の僕の時間。

さあ、眠ろう。

僕の一日は終わった。

また明日、無事に何事もなく明日の朝日を、迎えられますように…。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

夏休み。

夏祭りなんかに行ってフィーバーした一週間後、僕はせっせと課題に取り組んでいた。

「ご主人様〜、頑張って下さい〜。」

「ご主人〜、ファイトですよ〜。」

コンとコルの、漫画を読みながらの力無い応援を糧にして。

「ねえ、何でわざわざ僕の部屋まで来て漫画を読んでいるの?僕が珍しく課題をやっている時に限って。」

僕は課題の手を休めて後ろの二人を見る。

コンとコルは寝転がりながら漫画のページをめくっていた。

それはもうだらんと、べろんと、畳の床に身を投げている。

コルに至っては、瞼が落ちそうにまでなっていた。

「「だって暇なんですもん。」」

しかもこの反応である。

別に邪魔をしている訳ではないから無視すれば良いのだが、生憎、僕はそこまで強い精神力を持ち合わせていない。

「は〜、分かった。少し外を散歩しよう。家の様子も気になるし。」

結局、こうなってしまうのだ。

表では嫌々、しかし裏では大歓迎。

コンとコルは僕の言葉を聞いた途端に、嬉々としながら部屋へと準備をしに行った。

漫画…持って行って欲しかったなあ。


久しぶりに我が家へと足を向けてみると、青田さんの屋敷から僕の家は少し遠かった。

とは言え、それは歩いて行くには遠いだけで、総合的には近い分類なのだろう。

徒歩で進む事三十分、屋根の飛ばされた我がアパートは未だに、ブルーシートに覆われていた。

「大家さん、やっぱり改装する気無いんだな。」

我がアパートの管理人であり大家さんは、面倒くさがりを更に二倍した感じの面倒くさがりだ。

おそらく、このアパートが改装される日は、大家さんの身内が動くまでされる事はないだろう。

「ご主人、これって入れますかね?」

「土花さんの情報では、鍵を壊したみたいですから、部屋の前まで行ければ問題無いとおもうのですが。」

コンとコルがアパートの階段を行ったり来たりしている。

どうやら中に入りたい様だが、さて、まだ入れるかな?

「コン、コル。階段はどんな感じ?」

「完全に塞がれてます。やっぱり、土花が入ったのバレてたみたいです。」

「まあ、鍵が壊れていれば誰かが来たのは明白。完全に進入禁止にするのは当たり前の判断ですね。」

鍵の方はおそらく問題無い。

しかし、階段を塞がれてしまえばアパートには入れない。

手詰まりか。

「コン、コル。何を取りに来たのか僕は知らないけど、入れないんじゃ仕方ないよ。アイスでも買って帰ろう。」

僕がコンとコルに声を掛ける。

家に入れるようだったら取りたい物がある。

そう言われて、アパートを視認するまでからアパートの前まで位を上げたが、そも前提から崩れてしまった。

これ以上ここに居ても、体の水分を蒸発させるだけだ。

「む〜、いっそもう一つ階段を作ってしまいましょうか、瓦礫で。」

「かくなる上はそれしかありませんね、コン。」

二人共、目がマジだ。

本気で、無理矢理進入経路を作ろうとしている。

「ご主人、少し離れていて下さい。」

「大丈夫です。ほんの数秒で終わりますから、ご主人様。」

コンとコルが体に雷を纏わせる。

やばい、このままでは階段どころかアパート全体が危ない。

そう判断した僕は大急ぎで二人を止めた。

「待て待て待て!他の人に見られたらどうするつもりだ⁉」

二人はそう言われてがっくりと頭と肩を落とす。

今の二人の顔はきっと、今まで見た事が無いくらい残念そうな顔をしているだろう。

コンとコルの落ち込み様は、それ程までに大きかった。

「ったく、仕方ないなあ。」

僕は一人で塞がれている階段に足を伸ばす。

階段は塞がれている、というより埋め尽くされていた。

階段の初段から上まで、大量の段ボールで埋め尽くされている。

中に何が入っているのか、かなりの重量があり、一つ運ぶだけで一苦労する。

これでは二階にある僕の部屋には行けない。

アパートの全体の大きさとしては、僕とコンとコルの三人が暮らせる程大きいが、その分、室内に色々と問題があったりするので家賃は安い。

僕は次の手として、窓を使う事を考えた。

どうせ僕の部屋はボロボロだ。今更窓の一つや二つ壊しても大丈夫だろう。

「部屋は…あそこか。」

裏手に回って僕の部屋の窓の見当をつける。

窓は防弾ガラスの様な特殊な作りはしていない。

壊そうと思えば簡単に壊せるだろう。

そう考察した僕は、未だに表でうな垂れているコンとコルに一通りの考えを説明した。

「窓…ですか?確かに、裏手なら人通りなんて皆無ですから簡単に壊せますけど、しかしそこまでどうやって行くんですか、ご主人様?」

コルが素朴な質問をする。

確かに普通の人間なら、二階から飛び降りる事は出来るだろうが逆は出来ないだろう。

だが悲しいかな。僕はただの人間ではないのだ。

僕はコンとコルにちょっと悪い笑みを向けながら、いたって陽気に答えた。

「憑依して跳べば良いじゃん。」

その時の、そんな事で憑依を使うのか、というコンとコルの顔を、僕は一生忘れないだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

流石に思いっきり窓を壊す事は憚られたので、泥棒よろしく穴を開け、鍵を解除して中に入った。

憑依を解いて部屋の中を適当に散策してみると、家具などにはたいして痛みなどは見られなかった。

ブルーシートのおかげで雨風を防げているのが幸いしたのだろう。

屋根さえ直れば直ぐにでも、また住めそうな感じだったので安心した。

「ご主人〜、居間に人形置いてありません?」

「人形?って、これかな。」

居間の机の端、そこには以前コンが作った三つの人形が置いてあった。

「コン、机に置いてあるよ!」

僕は和室にいるコンに向かって返答しながらキッチンへと向かう。

冷蔵庫は既に機能していない為、中の物は全部駄目になってしまっている。

一度開けてみたが、中の混沌具合にもう二度と開けたくなくなってしまった。

ため息一つをして再び居間へと戻る。

居間にはコンとコルがそれぞれ自分の目的を果たして談笑していた。

「あっ、ご主人様〜。こっちの用事は終了しました〜。」

「ご主人は何かやり残した事でもあったんですか?」

コンとコルの手にはそれぞれ人形と一つの箱が握られている。

どちらも、コンとコルが大事にしている物だ。

「いや、特には何も。二人は…言わずもがなって感じだね。」

コンの持っている人形は謂わば記念品の様な物だ。

その価値は当人達にしか生じない。

去年コンが作ったその人形は、今でも新品の様に新しい。

何はともあれ、無事に取りに来れて良かった。

コルの持っている箱は片手サイズ。

いつもコルが枕の横に置いている、コルの宝箱だ。

中身は、僕もまだ知らない。

「いや〜、これだけが心残りでしたからね。本当に取りに来れて嬉しいです。ありがとうございます、ご主人。」

「本当に、この中にはご主人様の思い出の品が沢山入っていますから。我儘を言ってすいませんでした、ご主人様。」

コンとコルが尻尾を揺らしながら頭を下げる。

別に何もしていないのだが、感謝される事は悪い事じゃない。

僕も頭を下げながら、どう致しまして、と答える。

そこから暫く、僕達は家の掃除や着替えの調達をして家を出た。

階段が使えないという事は上る事は出来ない、それは逆もまた然りだ。

結局僕は、命綱無しのバンジージャンプをする事で部屋から脱出した。

「ふう、脱出成功。いくら憑依してても恐い物は恐いな。」

「何を言ってるんですか?ご主人は今までだけでどれだけ無茶をして来たか、自覚無いんですか?」

「そうですよ。確かカゲメにビルに拉致された時、最上階からバンジージャンプしていましたよね、ご主人様?」

二人の視線が驚く程冷たい。

それは瀕死状態だから出来た事。

冷静な思考で誰が、十階以上あるビルからダイブしようと考えるか。

第一、あれの所為で出血量増えたんだ。…いや、自業自得ですけど。

「まあ何はともあれ、これ以上バンジージャンプは御免だ。」

「そうですね〜。そうならない様、お祈りしておきます、ご主人。」

「じゃあ、私は家内安全のお守りでも買っておきます、ご主人様。」

二人共、シャレにならないんでやめて欲しい。

夏休み前の出来事を思い出しながら渋い顔をする僕、コンとコルはそんな僕を笑みを浮かべながら見ていた。

「さっ、用事も終わったし、帰りにアイスでも買って帰ろう。」

「「はい!」」

コンとコルは僕の前を先行しながら、久々のスーパーへと走って行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スーパーに行くとおばちゃん達に気を遣われた。

どうやら黒部さんが僕の家を襲った位から、この付近で辻斬りが出た、と噂になっているらしい。

辻斬りって何時の時代だと思うが、被害者は刃物、日本刀の様な物で斬られていたらしい。

被害者は三人で、三人共一息に斬られておりほぼ即死。

幸いな事は、黒部さんが容疑者になっている、という事はないみたいだが。

アイスを買い終わり、青田さんの屋敷へと帰りながら、コンとコルに話しかける。

「今回の事、異刀が関係しているのかな?」

「どうでしょうね?ただの歴史マニアの狂乱、と言う可能性もありますが。」

「まあ、そうだとしてもご主人様ならそのくらい、簡単に撃退出来ますよ。」

実に気楽に言ってくれる。

僕の危険なんかこれっぽっちも考えていない顔で、コンとコルは僕の持つ袋を注視している。

早く食べたくて仕方ないのだろう。

ウズウズとしながら見ているその姿に、僕の顔も少し微笑みを浮かべた。

「ご主人、あそこを見て下さい。」

コンが袋から視線を外して公園の方に指を差す。

そこには沢山の人集りが出来ていた。

「何でしょうね?皆さん何かを見ている様ですが。」

人集りは皆、ただの一点を見つめて大声をあげている。

ここからでは何があったのかは把握出来ない、僕達は野次馬根性を剥き出しにして人集りへと近づいて行った。

人混みへと近づく事でようやく気付く異臭。

以前一度、『狩り』の時に嗅いだ事がある。

既に知っている、悪臭と雰囲気。

鼻につく血の匂い、時間が少し経っただけなのに強いそれは、僕の脳に危険信号を出す。

忘れるはずが無い。

忘れるには、あまりにも時間が経っていない。

混乱する人混みの中、僅かに開いている隙間から覗いた、その先に…

「うっ!」

「「……!」」

腰から綺麗に両断された…スーツ姿の人間が、血の海に沈んでいた。

つい最近の記憶が脳のスパークで呼び起こされる。

コンとコルがいなければ僕は、おそらく吐いていただろう。

コンとコルの体を抱き寄せる事で、僕は心の平穏を取り戻す。

コンとコルも僕の体に寄りながら、あまりの惨状に目と口を力強く閉じる。

コンとコルも、惨状には慣れていない。

下手をすると僕よりも耐性が無いかもしれない。

いくら妖怪でも、その心は女の子に変わりはないのだ。

遺体の血は留まる事なく流れ続け、野次馬の足を徐々に遠ざけて行く。

その様子はまるで、死してなお周りの人間達を巻き込まない様にしている、壁の様に感じた。

やがてサイレンが鳴り響く。

野次馬の誰かが既に、警察を呼んでいたのだろう。

だが、警察は無意味だ。

僕には分かる。

僕達には分かる。

この事象の原因を、この事態の根元を。

また始まった。

ここから僕達の命懸けの事情がまた始まるのだと、僕達は直感で感じ取った。

真っ二つの死体、所持品のバッグは遥か前方でズタズタの血まみれ状態。

猟奇的な殺人現場。

最近起こり始めた正体不明の辻斬り。

夏真っ盛りの晴天の日、辻斬りの所業を見たのは、そんな晴れの12時過ぎだった。


辻斬り被害者 計四人

おはようからお休みまで。

どうも、片府です。

今回の後書きでは主人公達が暮らしていたアパートと青田屋敷について書こうと思います。

本作では赤原家はアパートとありますが、実際の広さはそこらのマンション並の広さがあります。

今回、赤原少年は色々あって、等と誤魔化していますが!そうは問屋が降ろしません。

この話で名前だけ登場している大家さん。

この大家さんは大変面倒くさがりです。

それ故、過去このアパートは一切の改修が行われておりません。

結果、壁は無くなり隣の部屋と同一化してしまっているのです。

そんな訳あり物件ですから、部屋の家賃は実質一つの部屋を借りているのと同じ値段。

どうです、これは安いと思いませんか⁈

まあ、普通はそんな物件があったら国が許さないでしょうが…。

さて、話は変わって青田屋敷は普通に広いです。

屋敷は正方形をしており、部屋の数は九。

食堂、風呂場、トイレ、更にそれぞれ個室を与えられています。(コンとコルは同室)

ちょうど九です。

まあ、これが何を示すのかは読者様のご想像にお任せしたいと思います。

これで少しは想像し易くなった事でしょう。

あまり描写を的確に書けず、こんな時に説明を書いている事は心苦しいですが、皆様の場面想像の手助けになればと思っております。

では、そろそろ本題へと入りたいと思います。

今回は人格過多編と銘打ってお送りしたいと思います。

何部構成になるかはまだ決まっておりません。

もしかしたら前回のを超える程長いかも…なんて事もありえます。

しかし、私も精一杯頑張っていきますので、是非とも応援の程を宜しくお願いします。


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