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第十一話 小休止:夏の思い出

夏は人生の勝負所

そんな言葉を言ったのは誰だっただろうか。

まあ、誰でも良い。そんな事は、些細な問題でしかないのだから。

夏、と言えば一体何を想像するだろう。

花火、海、夏祭り。

沢山の行事、イベントが連なる四季の王。

受験生は汗水流して勉強し、リア充共は…興味が湧かないので以下略。

まったく、人が何百年も寝ている間に人間共に何があったと言うのか…。

話が逸れたな、つまり夏とは、人間にとって忙しい時期に他ならない。

だが、妖怪にとっては大変嬉しい季節である。

何せ日頃の退屈を発散させるのに、これ程もってこいの季節はないからだ。

ああ楽しみだ。やっと、やっとこの季節が来た。

早く始まれ、お祭りよ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はあ〜。やっと終わった。」

一学期の終業式。

僕こと赤原 雷咼は、中間と期末、並びに最近の僕の授業態度(狩りの時の無断欠席)により呼び出しを喰らい、貴重なお小言を頂戴した帰りだった。

「まったく、何で教師はあんなに長く喋れるのか、僕は理解に苦しむよ。」

「(仕方ありませんよ〜。ご主人はお世辞にも、学校では品行方正とは言えませんから。)」

「(まあ、ご主人様が嫌になるのも頷けますけどね。でも、諦めた方が楽だと思いますよ?教師とは、そう言う物です。)」

僕の頭に直接届く声、コンとコルの声は、やたら真理っぽい事を言って励ましてくれる。

「二学期は頑張ろう。」

結局いつもの言葉に帰結する。

まったく、これでは成長もありはしないだろう。

「赤原君、お説教は終わった?」

自分の教室の前を通ろうとした時、中から学級委員の梶原さんが出てきた。

「梶原さんは…学級委員の仕事?」

「違うよ。て言うか、学級委員だったら赤原君も一緒にやってないとおかしいよ?」

コロコロと笑う彼女を見て思い出す。

そう言えば、自分も学級委員だったな…と。

「ふ〜ん、そっか。それじゃあ、僕ちょっと待ち合わせしてるから、これで。」

特に用も無いのに学校に残るのは不毛。

と言う事で、僕はその場から退散しようとする。

しかし、梶原さんはそんな僕を呼び止めた。

「あっ!そうだ赤原君。これ要る?」

そう言って梶原さんが取り出したのは一枚の紙、見るとそれは広告の様だった。

「夏祭り?このチラシを持って行けば、五百円の買い物券をプレゼント。…何で僕に?」

「えっ?私は要らなかったから。」

どうやら彼女は、自分の要らない物は人に押し付ける様だ。…それで良いのか?学級委員。

「あっ、勘違いしないでね?ただ単に、赤原君なら一緒に行く人がいるんじゃないかなと思った結果だから。」

何か弁明になっていたか、今の?

彼女が何を言いたいのか、さっぱり分からない。

「因みに、一緒に行く人って誰の事を言っているのかな?」

十割の恐怖心から質問する。

僕の行動を見ている人なら、恐らく勘違いするんじゃないかと危惧はしていた。

まあ、仕方ないと言えば仕方ないけれど…。

「中等部に彼女さんいるんでしょ?最近一緒に帰ってるし、あと朝いる妹さん…ではないよね?金髪の双子がいたけど、あの子達とはどう言う関係?」

予想通りの解答と、若干予想とは斜め上の見解が飛んで来た。

「えっ?か、彼女?僕に彼女っていたの?」

「いや、私に聞かれても。でも、彼女じゃないの?だって一緒に帰ってるよね、最近。」

そうか、確かに青田さんの家に泊めてもらうようになってからは一緒に帰っている。

鍵を持っているのが青田さんだけだから仕方ない状況ではあるが、まさかそんな噂になっているとは。

「え、えっと、彼女は別にそう言うんじゃなくて、親戚なんだよ。…そう、親戚。」

半分以上、挙動不審な人の対応だった。

笑顔は引き攣り、足腰が震え、声も少し裏返っていたと思う。

流石に信用されないだろう。

「ふ〜ん、親戚だったんだ、あの子。」

信用されてしまった。

僕が言えた義理ではないが、この人、将来きっと詐欺に会う。

なんとなく、そう思った。

「じゃあ、あの金髪の子達は?まさか本当に兄妹とかじゃないよね?」

どうしてこうも女子とは質問が直球なんだ。

さっきから、冷や汗が止まらないじゃないか!

「えっと、彼女達は…。」

それっきり、言葉が一切思い浮かばない。

どうしよう、本気で逃げたくなって来た。

「赤原さん。」

突然の声に少し驚く。

しかし、その声は僕がよく知っていて、尚且つ今話題が終わったばかりの人物だった。

「あ、青田さん?」

「なかなか姿が見えないので、捜しに来てしまいました。」

いや、その気遣いは今の僕には最悪としか言いようがない。

しかし、そんな思いとは裏腹の笑顔で、僕は青田さんに声を掛ける。

「やあ、青田さん。丁度いい所に来てくれたね。実は今、青田さん達の話をしていたんだ。」

青田さんは僕と梶原さんの顔を交互に見ると、何やら悟った様な顔をして、黙って元来た道を歩き出した。

「待て待て待て待て。何か勘違いしたまま去ろうとしてない?」

「大丈夫です。何も勘違いしていません。ですから、そのまま彼女さんとの楽しい時間を過ごして下さい。」

またも凄い勘違いをしていた。

どうして女子は、こうも早とちりをするのだろう。理解出来ない!

「あ〜、君は赤原君といつも帰ってる中等部の子だね?大丈夫、ヤキモチ焼かなくても私は赤原君を盗ったりしないから。」

柔らかな笑みを浮かべながら話す梶原さんの顔を見ながら、僕は頭に?マークを、青田さんは何やら赤くなっている。

「梶原さん、何を言っているの?」

思わず青田さんに小声で聞く。

青田さんは僕を睨みながら、僕の手を力強く掴み、そのままダッシュで走り始めた。

「青田さん⁉な、何?何が起こってるの⁉」

「じゃ〜ね。金髪の子についてはまた後日聞くから〜。」

梶原さんの笑顔を見ながら、僕の終業式は引き摺られて終わった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「まったく、あの人は何なんですか?」

「学級委員の梶原さん、名前はまだ知らない。」

「吾輩は猫である風に言われても、何もコメント出来ませんよ。」

そのネタが分かるだけで充分です。

心の中で感謝しながら、僕は一通りの説明をした。

基本的に説明する事なんて、遅れた理由と梶原さんとの遭遇ぐらいの物だから、たいして時間はかからなかった。

「そうですか、自分の自業自得の行動によって校門の待ち合わせに遅れた、と言う事ですね。」

「青田さん、言葉に棘があるよ。間違っていないから否定しないけど…。」

更に言わせてもらうと、否定出来ないのが情けない。…言わないけど。

「まあ、それについては別に構いません。後であの人との関係を洗いざらい白状する、と言う条件で飲ませていただきます。」

「関係も何も、ただのクラスメイトだと思うんだけど。」

どうにもさっきから機嫌が悪い。

彼女扱いされたのがそんなに気に食わなかったのだろうか?

「そうだ!青田さん、明日の夕方から、予定って空いてる?」

「空いていますが?」

僕は先ほど貰った夏祭りの広告を見せる。

青田さんはその広告を暫く見ていたが、急に携帯を取り出して何処かへと電話を掛ける。

電話を掛け終わった青田さんの顔は、何やら満足そうな顔をしていた。

「分かりました。明日の四時、会場の河川敷で待ち合わせしましょう。」

そう言って、彼女は黙々と歩き始めた。

何やら鼻歌交じりの上機嫌の様子で…。

無表情だろうが、そうでなかろうが、女の子の心理とは謎に満ち満ちている。

僕の脳はそんな判断を下し、その判断に苦笑いしていた。

終業式のつぎの日、今日は日曜日だ。

昨日はコンとコルによる討論(どうやら彼女達は、僕と青田さんが二人でお祭りに行くのが反対だったらしい。)によって夜更かしをした僕は、十時位に目を覚ました。

黒部さんは基本的にお昼まで寝ている。

つまり、朝活動する人間は限られてくる。

その中でも、青田さんの朝は毎日早い。

五時に目を覚ますとまずは洗濯を始め、そして全員分の食事を用意し、その後は基本的にのんびりしているがすぐに掃除を始める。

屋敷は大変広い。

床の雑巾掛けだけで二時間はかかるのだ。その他諸々の掃除も含めると、午前中は大体家事だけで終了する。

一度、大変じゃないのか?と聞いた事がある。

その時の答えは、好きですから、だそうな。

無表情な顔に変化は無いが、確かに彼女が家事をしている時は楽しそうだ。

あながち嘘でもないのだろう。

そんな彼女が、十時前に外出をしていた。

いや、青田さんだって年頃の女の子だ、外出の一つや二つするだろう。

しかし、午前中からとは、今までに無かった事なので少し驚いた。

「ご主人〜、おはようございます。」

「ご主人様〜、ご飯食べましょう〜。」

コンとコルが食堂から顔を出している。

そう言えば、食堂は玄関の近くだったな。

「コン、コル、青田さんを見なかった?」

「土花ですか?確か、九時位に何処かに行きましたよ?」

「家事もいつもより早めに終わらせていましたし。…まさか、今から会場に。」

「いやいや、流石にこんなに早く行く人はいないでしょ?」

「ご主人は分かっていませんね。…本当に。」

「ええ、分かっていませんね。…本当に。」

何やら神妙な顔で目を逸らすコンとコル、僕は…その答えを聞き出す事が出来なかった。

この後の僕の行動なんて、朝と昼を一緒に摂り、一時位に起きて来た黒部さんに予定を言ってからかわれたり、それに怒ったコンとコルが黒部さんに掴みかかったり、カゲメが傍観していたり、いつもの日常が繰り広げられた。

何か…これが日常って、間違ってる?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

夕方の四時、夏祭りの会場の河川敷で僕は青田さんが来るのを待っていた。

「やっぱり、河川敷じゃ分かりづらかったかな?」

とは言え、僕が指定した訳ではないので、この場合はお互い様だろうけど。

そんな薄情な考えをしていた僕の脳が、フリーズする。

人が混み始めた河川敷、その中には浴衣の人が沢山いて、色々な浴衣を観察していた僕の目に、人一倍綺麗な子が現れる。

基調は青、花火をイメージしてか所々に赤や黄色などの色が入っている。

お祭りの屋台の灯りに照らされたその姿は、昔華蓮と行った夏祭りを思い出させる。

「赤原さん、お待たせしました。」

その娘が僕の前で立ち止まり、あろう事か話し掛けてくる。

「赤原さん?どうしたんですか、ぼーっとして?」

待て待て、これは夢だ。何故僕が浴衣の美少女に話し掛けられるのだ?

普通に考えてあり得ないではないか!

「赤原さんが動かない。…てい。」

「痛い痛い、お願いだから脛は止めて!って、あれ?僕、一体?」

「お帰りなさい。何やらフリーズしていましたが、どうしたんですか?」

意識を戻すとそこには美少女、もとい、青田さんが浴衣姿で立っていた。

「あ、青田さん、その浴衣どうしたの?」

半分驚き、半分照れから言葉に詰まる。

さっきまで心で大絶賛をしていた少女が青田さんだったのだ、ドギマギもする。

「レンタルです。夏祭りと言えば浴衣かと…どうでしょうか?」

下から目線で心臓が高鳴る。

僕にロリコンスキルが無くて良かった、と心から思った。

「うん、似合いすぎてフリーズしちゃったからね。自信持って良いと思うよ。」

青田さんは僕の言葉に少し頷く。

その顔が少し赤くなっていたのは、気のせいか?

「赤原さん、行きましょう。」

「あ、うん。」

青田さんが僕の手を引いて歩いて行く。

僕は急いで青田さんの横まで行くと、しっかりその手を握り返した。

それからは、珍しく事件も無いままにお祭りを楽しんだ。

金魚釣りに射的、焼きそば等の王道から意味の分からないゲテ物類まで、お祭りの屋台を全て周る勢いで僕達は遊んだ。

「へいへい、そこのお兄さん。」

そんな時だ、何やら見覚えのある人に声を掛けられたのは…。

「…コン?」

金色のショートヘアー、十二歳位の幼い体躯、更に最近着出した準和服の出で立ち。

間違いなく、コンだ。

コンが屋台を開いている。

しかも何やら変なお面を付けて。

「コンさん?何しているんですか?」

「コ、コンとは誰の事ですかな⁇私はただのしがない店主ですよ?」

見るからに挙動不審だった。

屋台にいるのに不審者だ、まるで。

「と、ところでお兄さん。可愛い彼女さんをお連れの様で、特別におまけさせて頂きますよ?」

コ…店の店主は見るからに作り笑顔を浮かべながら僕達に話しかける。

見れば、その屋台は何やら可愛らしい字で、『わんこそば屋』と書かれていた。

「スタッフを倒せば豪華景品プレゼント!これはもう、やるしかない!」

顔をどアップで近づけてくる店主に微笑を浮かべて考える。

あ、今尻尾出た。

じゃなくて、この勝負、受けるか否か。

「赤原さん、やりましょう。」

青田さんが僕の袖を引っ張ってアピールする。

どうやら自信が有るらしい。

「よし、分かった。受けよう、その勝負!」

出てしまった尻尾を一生懸命隠そうとしている店主…コンに向かって宣戦布告をする。

コンは尻尾を隠すと、僕達を店の裏へと案内した。

「どうぞこちらの席に。今スタッフを呼んできますので、少々お待ち下さい。」

コンは僕達を二つ用意された席の内一つに青田さんを座らせると、また表の店へと戻って行った。

「青田さん、大丈夫?」

「何がですか?」

「あれがコンなのは間違いない。となるとスタッフって、多分あの人だから。」

「そうですね。十中八九あの人でしょうね。でも、大丈夫です。」

青田さんを心配した僕だけれど、どうやら彼女はわんこそばに対してかなりの自信が有るらしい。

それは彼女の視線の強さが如実に物語っていた。

「お待たせしました〜。」

青田さんの自信の程を聞いている内に、コンがあの人を連れて戻ってきた。

その顔は鴉の様な黒い笑顔、細身の体に自信を漲らせた…変装もしていない黒部さん。

「変装ぐらいしろよ‼」

思わず叫んでしまった。

しかし、黒部さんはそんなのお構いなしでどっかりと席へと座る。

相変わらず、自由だ…。

「さて、見ず知らずの嬢ちゃん。彼氏の前で恥は欠かせたくないが、こっちも仕事でな、悪いが手加減出来ねえぜ。」

しかも、この後に及んで赤の他人設定を続けるのか…もうツッコむの止めよう。

「大丈夫です。私の彼氏はそんな事で失望する様な人ではないですから。」

おや?知らない間に青田さんが向こう側の人間になっている。

まさか、今この状況がおかしいと思っているのは、僕だけなのか?

「それではレディー、ゴー‼」

コンの合図と共に、脇からわんこそばが運ばれてくる。

しかも、それを運んでいるのがお面を付けたコルと、髪を結んだカゲメと言うのだから、これは作為以外の何物でもないだろう。

最初はやはり黒部さんの優勢、大人の肺活量を使って蕎麦を啜っていく。

その姿、まるで掃除機の如く。

しかし、青田さんも出遅れてはいるがしっかりと蕎麦を啜っている。

小さな口で少しずつ、しかし着実に杯を重ねる。

その姿、まるでシュレッダーの如く。

わんこそばはいわば持久戦、どちらが先に箸を置くかで勝負が決まると言っても過言ではない。

最初の三十分、両者の勢いは一向に落ちなかった。

最初に陰りが見えたのが四十分程経った時、黒部さんのスピードが明らかに遅くなった。

杯の数は青田さんが十は劣っている。

余裕を見せ始めたのかと勘違いしたが、確かに黒部さんのスピードは少しずつ遅くなっている。

対して青田さんは未だにペースが衰えない。

祭りに来て、既に色々な物をその胃袋に詰め込んでいたはずなのに、それでもペースは揺るがない。

君の胃はブラックホールか!とツッコミかけたが、流石にデリカシーに欠ける為ボツ。

「くそっ、本当に祭り楽しんだ後か?あの食いっぷり、腹ペコでもそう出来ねえっつうの!」

どうやら限界が近いらしい黒部さんが不満を漏らしている。

まあ、気持ちは分からないでもない。

何故なら、僕もそれは思ったから!

そのままのペースを維持した青田さんは、五十分を過ぎた辺りで遂に、黒部さんの杯を抜く。

黒部さんの顔は既に真っ青になっており、ここら辺が潮時だろう。

「黒…スタッフさん、そろそろ限界の様ですし、リバースする前に止めた方が良いですよ?」

僕の忠告に黒部さんは静かに頷くと、最後の一口を終えると同時に椀の蓋を閉める。

サレンダー、つまりは投了。

青田さんの驚異の胃袋の勝利だった。

「あれ?もう終わりですか?」

最後の一言は聞かなかった事にしよう。

うん、そうしよう。

僕達はコンから一枚のチケットを貰い、その場を後にした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

河川敷近くに設置されたテラス席、僕達はここで一つのイベントを待っている。

「まだですかね、花火。」

青田さんの呟きが聞こえる、その姿は先ほどまでわんこそば対決をしていた人物とは思えない程、落ち着いていた。

「そうだね。しかし、コンはよくこんな席を取れたな。」

先のわんこそば対決でコンが渡して来た豪華景品、それがこのテラス席でのペア花火鑑賞券だった。

「恐らく商店街の福引きだと思います。ほら、ここに商店街の名前が。」

青田さんの指差す先、券の端には小さく商店街の名前が書いてあった。

僕が納得してまた川を見た時、一筋の光が空へと昇り、輝かしい大輪を咲かせる。

「始まりましたね。」

「うん、凄く綺麗だ。」

川に反射したもう一つの花火と空へと昇る花火は、天と地で花を咲かせる。

その光景は、今まで見た来た花火の中で最高の物だった。


花火を途中で切り上げ、僕達は帰路を歩いていた。

「良かったの?最後まで見ないで。」

青田さんの顔を見ないで、世間話の様な体で話し掛ける。

花火の中盤、おそらく一番の目玉が出る前に青田さんは帰ろう、と言い出した。

僕自信も、それを進んで賛成したワケだが、青田さんの考えている事を僕は完璧に分かる訳ではない、故に聞きたかったのだ。

「赤原さんだって、私と同じなんじゃないですか?」

青田さんも僕の顔を見ずに返答する。

その手は未だに僕と繋いだままだ。

「次は、赤原さんや皆と、見たいですから。」

青田さんの顔は相変わらず無表情だ。

しかし、握られた手に少し力が入ったのは間違いなかった。

「来年、皆で来ましょう。テラスではなく、他の穴場を見つけて。」

青田さんの言葉に少し想像してみる。

今日の様に浴衣を着ながら屋台巡りをする青田さん、黄色のお揃いの浴衣を着たコンとコル、カゲメは浴衣を着るのかな?それは保留として、そんな面々のお守りをする黒部さんの苦笑い。

ああ、なんて楽しそうな光景だろう。

来年が本当に楽しみで、その時の為ならどんな事でも頑張れる。

そんな気をさせてくれる程、その光景は夢の様な温かさがあった。

「うん、そうだね。また来よう。皆が嫌と言っても無理矢理連れて来てやろう。」

僕と青田さんは帰路を歩く、今日は色々と気を遣わせてしまった、家族の元へと。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

オマケと言うか後日譚と言うか、僕達が帰宅した時の状況を報告しておこうと思う。

僕達が帰宅した時、コンとコルは何もバレていない様な笑顔で僕達を迎えた。

勿論、僕と青田さんはその事について何か言う訳がない。

コンとコルはあれだけ反対していたのに、結局は僕達が祭りを楽しめる様にサプライズを用意してくれた。

そんな二人をどうして責められるか。

だがしかし、僕達はすっかり忘れていた。

今日、まだ一度も会話どころか、姿すら見ていない人物を…。

「おう小僧共、何処かに行って来たのか?なんじゃ、小娘に至っては浴衣なんぞ来て。」

そう、我が家の人魚、セレだ。

辺りは何やら訳のわからない罪悪感で満たされていく。

コンとコルも笑顔が固まり、僕と青田さんは今思い出した顔をはっきりとしている。

「なんじゃ?祭りでもあったのか?それならそうと、我にも声を掛けてくれても良かろうに。」

純粋に悲しそうな顔をされて、辺りが凍りついていく。

セレは今日一日何処かに出かけていたのは知らなかったが、まさか存在を忘れるとは…申し訳ない。

「ちょっと、何故玄関で修羅場が発生しているのですか?」

そこに指す一筋の光、否、黒い…光。

玄関を開けて姿を現したのは、黒いワンピースという、いつもの格好をしたカゲメだった。

カゲメは両手に大きな袋を一つずつ持っている。

「お、おかえり。カゲメ、その袋は?」

場の緊張感に耐えられずカゲメに会話を振る。

カゲメは重そうな袋を置き、中から沢山のプラスチック容器を取り出した。

「お祭りでとある手伝いを頼まれたのですが、生憎手伝いの所為で殆ど周れなかったので、食べ物を中心にお土産にしようと思ったんです。」

カゲメの言葉通り、プラスチック容器の中には祭りにあった屋台の料理が入っている。

おそらく、袋の中のプラスチック容器全てに料理が入っているのだろう。

「それより、この騒ぎは何なんですか?…それと、何故セレは涙目でこちらを見るのです?」

セレが懇願する様な顔で、カゲメと袋に視線を行き来させる。

やがて、カゲメは諦めた様に一つ、ため息を吐くと渋々といった様子で口を開いた。

「食べたければどうぞ。…元々、お土産のつもりですし。」

瞬間、セレがカゲメと袋を担いで大喜びで食堂へと向かっていく。

カゲメは何が起こっているのかわかっていない様子で、されるがままになっていた。

「は〜、危なかった。」

修羅場脱却に思わず安堵する僕、それを見たコンとコル、青田さんがクスクスと笑っている。

その様子に僕も少し頬を緩める。

僕達はそのまま屋敷の中へと入り、カゲメが買ってきたお土産で文字通り、お祭り騒ぎを繰り広げた。


欠席者一名、理由 腹痛によるリタイヤ。


ご無沙汰の、片府です。

スピンオフを読んだ方は小お久しぶり、読んでいない方は大お久しぶり、初めて読んだ方は初めまして。

私は今、長野のとある町に来ています。

旅行ではありませんよ?

私が通っている学校では勉強合宿なる物があるのですが、私はそれに来ています。

別に私の意志ではありませんよ?

子供と言うのは親には逆らえません。

行け!と言われれば、はいと答えるしかないのです。

まったく、大人はなんて酷い事を考えるのでしょうね?

今回は、いわば自分の願望を書かせてもらった様な物かもしれません。

地元の夏祭りなんて、たいして目新しい物はありませんが、せめて小説の中では夢を見たい。

小説を書く者なら一度は、考えるのではないでしょうか。

とは言え、書いてみて気付いたのですが、浴衣って難しい!

如何せん、私自身が浴衣を見た事があまりありませんので、漠然としか書く事が出来ませんでした。

ですので、そこは読者様の想像力にお任せします。

ぜひ、土花やコンとコル、セレやカゲメの浴衣を想像して見て下さい。

次回からは、また赤原 雷咼達がドタバタと事情に取り組んで行きます。

次は何編になるのか、皆様も楽しみにして下さると幸いです。

では、今回はここまでに。

皆様、さようなら〜。

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