表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/59

第九話 夢の中 (狩り編 第三部)

深い深い水の中にいる様な浮遊感、辺りはただ真っ暗な空間があるのみ。

その中で、僕は一人流される様に存在していた。

真っ暗な空間に空虚な僕、今の僕にはこの空間が癒しとなっている。

「こんな空間が癒しなの?ただ真っ暗なだけで、お化け屋敷の方がまだ癒されない?」

誰かが話しかけてきている。

しかし、今の僕にはそんな事はどうでも良い。

「ちょっと!珍しく人が話しているんだから無視だけはやめて欲しいんだけど!」

無視なんかではないさ、ただどうでも良いだけ。話したければ一人で話せば良い。

一人?

ちょっと待て。一人とは僕の事か?それとも、今話してきた奴の事か?

そもそも、ここには僕しかいなかったはずじゃないか?

「まったく、何でこんな風に育っちゃったんだろうね?こんな風にする為にずっと側に居続けた訳じゃないんだけど。」

いい加減誰なのだろう。

今の僕には休養が必要だと言うのに…。

「休養ならちゃんとした所で取りなさい。昔の君は、サボれる時にサボっていたと記憶しているんだけど?」

「誰がサボっていただよ。僕は常に全力でしたけど?」

重たい瞼をこじ開けて相手の顔を確認する。

そこには…

「やっと私を見たね雷君。でもそうだね、雷君は常に全力、それはずっと見てきた私が知っているよ。久しぶり…かな?」

そこには…死んだはずの華蓮が立っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「嬢ちゃん、本当にここで良いのか?」

「ええ、逆にここでないと被害が出るかもしれませんから。」

私達は今、とあるアパートの前にいる。

とある、なんて言うのは失礼かもしれない。

訂正しよう、私達は今、赤原さんが元々住んでいたアパートの前にいる。

現在赤原さんが住んでいたアパートは、黒部さんが屋根を吹っ飛ばした影響により閉鎖されてしまっている。

なんでも管理人自体があまり真面目な人ではないらしく今でも改装らしい話は聞いていない。

その内住居者から苦情が飛ぶだろうが、それまではおそらく改装はしないだろうと赤原さんが言っていた。

「しかし、俺が屋根を吹っ飛ばした分、何か複雑だな。坊主だけでなく他の住人の屋根まで吹っ飛ばす必要はなかったな。」

そう思うんなら最初から穏便な方法を取ればいいのに、とは言わない。

この人はそう言う手段が取れない人間なのだと諦めた方が簡単なのだ。

「では鴉さん、見張りは宜しくお願いします。」

「まかせな。最悪、道連れにでもしてやるさ。」

絶対そんな事は思っていないだろう顔で笑みを浮かべる黒部さん。

まあ、そうでなければ信頼など出来ないか。

「じゃあな嬢ちゃん。しっかりやって来い。」

「はい、あなたもサボらずに頑張って下さい。」

「はは!手厳しいな。」

私は一人でアパートの中へと入って行く。

黒部さんは外で一般人や本命が接近してこないかの見張りをしてもらう。

これで私は思う存分、刀と対話する事が出来る。

赤原さんの部屋の前で用心の為に辺りを確認する、辺りに人がいないのを確認してから刀を使って鍵を壊す。

赤原さんには…会ったら謝っておこう。

部屋の中は思いのほか綺麗なままだった。屋根にブルーシートがかけてあるお陰だろう。

一度入った事もあるので、どこがどの部屋かは判断がつく。

何個かある部屋の内、私は和室を借りる事にした。

家の雰囲気に近い方がやりやすいと思ったのだが、残念ながらあまり期待出来ない。

部屋の中にある三つの人形を見つけた所為だ。

「これは、赤原さん達の人形?」

少し可愛らしくアレンジが入っているが見るからに赤原さん達三人にそっくりの人形が和室の端に置いてあった。

「中々の腕前。コンさんかコルさんの作品でしょうか?」

赤原さんにこんな特技があるとは思えない、と言うのは口に出さないでおく。

「さて、そろそろ始めようかな。」

私はその人形を居間の方へ移動させてから、再び和室に入り中央に正座する。

その昔、まだ両親が生きていた頃、両親はよく言っていたものだ。

妖怪とは夢の様な存在だ。

妖怪は語られる事で生まれてくる。

それは可能性であり、霧の様に曖昧だ。

火を吹く妖怪、風を操る妖怪、物に宿る妖怪。

全ては人が願い、想像し、語ってきた。

昔は語る事は娯楽だけだったけれど、いつしかそれは、命を吹き込み始めた。

私がよくしてもらった昔話。

昔話の後には必ず、両親はいつも私に言い聞かせる様に一言漏らしていた。

妖怪は、不確定な存在なんだよ。と…

両親の言葉は複雑怪奇だと常々思っていたが、この言葉だけは依然として私の脳に響く。

忘れさせないようにする為なのか、はたまたただ単に聞きすぎた所為なのだろうか。

和室の中央、刀の刀身を撫でながら私はぽつりと一言漏らす。

「妖怪とは夢の様な存在だ。」

それは、つまり、妖怪を夢として認識する事で対話が出来ると言う事だ。

「そんなまどろっこしいやり方より、やっぱり実体化して欲しかった。」

そういう意味でも、赤原さん達はとても羨ましい、あと、黒部さんも。

何にしても意識を集中して目を閉じる。

本当に寝るのでは無く、ただ向こう側から引っ張ってもらう様にしてもらう。

私は刀を膝に乗せ、目を閉じ、意識が引っ張られる感覚に任せて暗い暗い空間へと旅を始めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「そっか〜、大変だったね。それじゃあ、これからも頑張って。んじゃ。」

「いやいや、そこで帰られたら僕はどうすれば良いのさ!」

「いや、だって、私もうここでしか生きられないし。雷君の役には立てないよ?」

ぐっ!それはそうだが、しかし、だったら何故僕は華蓮に今までの事情を話したんだ。

「私は聞かせて欲しいなんて言った覚えはないからね。そこの所はあしからず。」

昔から変わらない。

自分の責任は出来るだけ少なく、その上で相手の迷惑にならない様に踏み込んで来る。

この手の掌握術では華蓮に勝てる気が全くしない。と言うか勝った事が無い。

「じゃあ、いいよ。こっちはこっちで何とかするさ。」

「うん、その意気だよ。まあ、雷君は一人ではないから大丈夫だよ。」

「そう言えば、コンとコルはどうなったかな?殺されていなければ良いけど。」

まあ、いざとなったら僕を見捨てでも助かろうと模索するだろうから大丈夫かな。

「で?何故華蓮がここにいるの?ここは僕の夢の中で今目の前にいる華蓮は偽物ってオチなのかな?」

「人様に向かってオチとは失礼な!でも、雷君の考察は半分正解で半分外れ。」

「半分?」

「ここは確かに雷君の夢の中。でも、私は偽物じゃあない。正真正銘の長篠 華蓮だよ。」

「へえー、ふーん、そうなんだー。」

完全な棒読みで返事をした。

シリアスの壊れる音がする。

「ちょっと雷君!絶対に信じてないでしょう。」

信じる?何を言っているんだ。こんな事を信じられる人間がいるとしたら、それは死んだ人間だけだ。

死んだ人間は生きている限り逢えないのだから。

「華蓮は死んだ。その事実は変わらない。こんな所に本物がいる訳無いだろう?」

「ぐぐっ、確かに死んだ人間は基本的には逢えないよね。それは仕方ない事だ。でも、雷君は既にまともな常識なんて通用しない領域にいるんだよ?」

「常識の通用しないって…妖怪、異刀の事か?」

華蓮は笑顔で大きく頷く。

しかし、それについて僕は一つ疑問が出来た。

「華蓮は、妖怪を知っていたのか?」

「うん。ほぼ当事者と言っていいかもね、今は。」

「当事者?それってどういう事だよ。」

「う〜ん。話しても良いんだけど、雷君から気付いてくれた方があの子達も喜ぶはずだからさ。だから、お預け。」

華蓮は少し伏目がちに視線を落としながら優しく笑う。

それは、まるで、自分の姉妹を気にかける様な色を宿していた。

「それじゃあね、雷君。そろそろ夢から醒める時間だよ?」

「えっ?」

「雷君、気付いてなかっただろうけど、外はもう雷君が気を失ってから二日経ってるんだよ?」

まさか、そんなに経っているはずが…

「正確には、雷君がウジウジと暗闇の中を彷徨っている内に二日だけどね。」

…あり得そうだった。

「雷君の傷ももう塞がっているはずだから、目覚めるなら今だよ。」

華蓮の顔が険しさを帯びる。

それは、死地に向かう覚悟を問うている様な、華蓮が生前出す事がなかった真剣さだった。

「死にたくないなら、行かない方が良いよ。雷君、あの時見た遺体はもしかしたら雷君の未来の状態かもしれない。それでも行く?」

華蓮の目には僕を案ずる気配しか伺えない。

僕がしようとしている事も、何の為に生きているのかも、今は度外視して答えねばならない。

「当たり前だ…。僕は僕の為にも生きている。僕の為に力を貸してくれる妖怪も、僕の為に家を貸してくれる人もいる。だったら、僕は帰らないといけない義務がある。……それが、俺の生きる理由になったんだ。」

学校で、土花と出会った。

下水道で、セレと出会った。

スーパーの帰りに、黒部さんと出会った。

あの日、火事の現場で、コンとコルに出会った。

「今になってやっと思い出したぜ。俺の家にはコンとコルの大事な物があるからな。まだ死ぬ訳にはいかない。」

いつの間にか、俺は憑依していた。

夢の中でも憑依出来る物なのだなと少し感心している俺を見て、華蓮は目を細めながらこちらを見ていた。

「それが、君の刀。私が導いた、私が語った、異刀。」

華蓮はそう言うと立ち上がり、闇の中へと消えていこうとする。

「華蓮!」

「何かな。」

「お前が偽物か本物かは分からない。でも…また、逢えるよな。」

「うん。夢の中だけだけど、それで構わないなら、また逢おうね。」

華蓮はそう言って闇の中へと消えていった。

「さあ、愉しい影狩りの始まりだ。」

俺は一つの覚悟を持って、意識の海を浮上した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

暗い暗い深層心理、その色は単純な黒、単純で純粋な漆黒の世界。

昔何度か訪れた、土蜘蛛と言う妖怪の内。

「また来たか。」

青年の声。

「また来たのう。」

老人の声。

「また来たの。」

女性の声。

それだけではない、沢山の、人間の、悪霊達の声がそこかしこから聞こえてくる。

「何をしに来た?今更、我々に求める事が有るのか?」

その中でも一番強い悪霊、私がここに来る度に私と会話した唯一の悪霊が話しかけてくる。

「弱き少女よ、お前は何度かここに来た。だが、こうしている事に恐怖を感じん人間はここにいるべきではないと以前言ったと思うのだがな。」

「事情があるのです。その為にあなた達の力を私に預けて頂きたい。」

私の言葉を聞いた悪霊達が嘲笑する。

大丈夫、いつもの事だ、まだ行ける。

「少女よ、我らの力は既に預けてあるではないか。それでは満足出来んと言うのか?今まで何も言ってこなかったと言うのに。」

「言ったはずです、事情があると。」

一切闇の空間に一つの姿が浮かび上がる。

若い青年の姿、赤原さんが着ていたのとは別の和服、その手の中には一本の刀が握られていた。

「少女よ、事情とは言うが一体何の事情だ?我らの意思は変わらんが、せめてその事情とやらを聞かせてはくれぬか?」

「人を助ける。それだけです。」

私の周りに見えない者が集まって来る。

以前来た時は我欲の為だと答えた私が人助けと答えたのだ、珍しく感じた悪霊もいたのだろう。

「人助け?少女よ、お前は以前来た時に有無を言わさず我らに従う様に言った。そんなお前を我らがそう容易く信じると思うか?」

そう言えば、そんな事もあったな、と考えている内に更に見えない者が集まってくる。

私の周りには既に逃げ場が無いほどの悪霊が集まってしまった。ここまでくるともう覚悟しなくてはならない。

「私には従えないと、あなた達の力を使わせる事は出来ないと言う事ですか?」

「そうだ。」

端的な、且つ一切の有無を言わさない言い方に内心少し恐怖する。

「少女よ、今ならまだ肉体に帰してやる。大人しく帰るのだ、そして、二度と来るな。」

最後の譲歩、まさしくそんな感じ。

ここで帰らないと言えば、私の周りにいる悪霊達が一斉に私目掛けて襲いかかって来る。

今までの私なら大人しく帰っていた。

無気力は無気力なりに、ダメならダメ良いなら良いと決めて来たから。

この悪霊達もそれを知っている。

伊達に何年も刀を保有していない、この選択なら私は帰る道を選ぶ事を彼らは知っているのだ。

「さあ、早く選べ。その者達もそう長くは我慢出来ないみたいだからな。」

「ええ、私もそう悩む質では無いですから。」

「そうか、では聞かせてくれるかな?」

「私の…答えは…。」

ふらり、私の体は揺れ動く。

手に一本の刀を握りながら。

目の前の悪霊達を蹴散らし、その後ろで決まりきった答えを待つ和服の青年の懐へと。

一閃

青年の体を胴から二つへと分ける。

「…へぇ。」

青年が納得した様な声を出しながら消えていく。

「消えなさい。時間が惜しくて惜しくて、仕方がありません。」

断るなら、奪う。

奪って、納得させる。

それが、私の新しい解答。

「あまり甘く見られては困ります。私はあの時とは違います、今戻っても死ぬだけ、ならここで強くなって生きる方が賢明に決まっています。」

右手の中にある刀を左手に持ち変えて、暗闇の悪霊達に刃を向ける。

「ここはあなた達の夢の中、幾ら斬られても死にはしない。でも、痛みぐらいは感じるのでしょう?だったら何回でも痛みを味わってもらいます。あなた達の挑戦が終わるまで。」

「ふふっ、挑戦ですか。本来なら少女よ、あなたの方が挑戦者ですが、良いでしょう。その挑戦、我らが受けて立ちます。」

暗闇の中から青年の声がする。

やはり、あの青年も死なないのか。

「しかし少女よ、何故あなたはこの場で刀を出せるのか、それだけを教えてくれないか?」

「簡単な質問ですね。大妖怪ともあろう者がそんな事も分からないのですか?」

暗闇から返答は無い。

その間にも悪霊は襲って来る。

裁きながらの会話は結構辛い物だったのですね。

「分からないなら教えてあげます。…土蜘蛛よ、あなたが私の刀だからです。」

どんな妖怪でも保有者が居ればその影響を受ける。

あくまで力の一部だが、私も保有者の一人に変わりはない。

「ふっ、そうですか。あなたも変わったのですね。昔は我欲の塊だったのに。では、我々も本気でやらなければいけませんね。一度斬られた者はもう復活しない。このぐらいの手心は無ければ平等ではないでしょう。」

「良いのですか?どうなっても知りませんからね。手心なんて考えた時点で私の支配下に置かれるという事を覚悟して下さい。」

ここから私の戦いは始まる。

生きる為に、自分を変える機会を得たのだ。

ここで変われば、私は赤原さんに一歩近づく事が出来るはず。

「私は…あなた達を奪います。今こそ、私は、あなた達を利用する!」

使役する者、その資格があるかを私は問う。

使役される者、覚悟の有無を彼らは問う。

暗闇の中は冷たく苦しい、彼らの夢も不確定であり不明瞭、私はそれを明確化する。


小さな復讐者の短期復活と相成り、こうして私の長い二日間の戦闘は、私の命だけを対象として、開始された。


残り日数…一日

やっほい

どうも片府です。

毎度の事ですが書くって大変だと思います。

最近は時間も無いので書くのも即興で思いついた物を書き留めているにすぎないと思います。

今でも拙い文章がより稚拙になってしまうのは致し方無いと目をつむってくれると幸いです。

さて、狩り編も半分を越えました。ここからの展開を私、片府は…まだ考えていません!

いや、頑張ってはいるんですが、ここからどうやって方針を決めるか決めあぐねている所です。

故に今回は予告が出来ません。

次回の予告も、やはりするわけにはいかないでしょう。

どうせ次回も成り行きに任せるでしょうし…

まあ、自暴自棄はいけませんね。

ぐだぐだなままではアイデアも出ませんし。

では皆さん、ちょっと最近暗めの片府ですが、どうぞ見捨てずに愛読の程宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ