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東方風雲観察誌  作者: カップワードル
風は日の下を駆ける
9/55

予感の風

第2章始まります。

ちょっと成長しつつある晄。ほんのちょっとですが。

あれからしばらくが過ぎた。(数年が過ぎた。天狗の感覚なのです)



修行に勤しみ、勉学勤しみ…とやはりあきひととの交流は減った。

がここ最近少しその顔が締まった気がする。

それを見た私はどこか安堵に思った。

少しずつ、あきひとは強くなってきている。


私の日課が増えているのは修行だけでは無く勉学が増えているのは人間について何も知らない事、妖怪に対しても知識の不足を痛感した事、


そして…ある事をする為だ。



□□□


あくる日の朝。


「晄よ、朝食の時間だぞ!」


「へいっへいっへいへいへい!」


ここ最近、目覚ましが「起きんか晄!」では無く、「朝食だぞ」になった。それを聞いた周りの天狗がクスクス笑っているが、聞かない、考えない、気にしないもん。食い意地張ってて何が悪い!食う時が生きてるって感

じられるのよ!


虚しい主張が、お腹に響く。そして空っぽのお腹が、空っぽの頭に『食べ

ろ』と警鐘を鳴らした。とどのつまり、腹の虫がなったわけだ。

お腹減ったから食べてからにしよう。


食卓の椅子には足を組み、まるで瞑想をしているかのように待つ

初老の老人こと、飯綱様が居た。一昔は仲間の天狗達だけが一緒に食事をしていたが脱走事件があって以来「逃げ出すといかんからな」と食卓に参

戦した。しかしこれにより食卓がまた一段と明るくなった気がする。

結果的に良かったのかも?


…すみません調子乗りました。


「どうだい晄?朝食の方は?」


料理係の白狼天狗が私に尋ねに来た。修行や勉学の疲れからか最近やたら

箸がすすむ。その為他の天狗より私が多く食べている。

だからなのか私の感想を聞くようになっていた。


「美味しいわ!このキノコの食感が良いわね!」

「ははっそれはどうも!それは松茸だからね。焼き魚や野菜、

ご飯の方はどうだい?」


しかし一品一品の味を聞いてくる質問魔となり、面倒になってしまった。

黙って食べられない食事なんて……。など、言いたい気持ちもあるが、私

はそれ以上に食べたいので、余計な口は挟まない。

必要な口は食べる口だけだ。


「これ、食事時ぞ。そういったものは終わらせてから聞けい」

「あーしかし、今ここで聞いていかないと修行で聞く時間がですね……」

「食わせないとお前が食われるぞ。随分腹を空かしているようだしな」

「いやいや、そこまでじゃないわ」

「ぐ……それもそうですね。食の道で生きる俺はここで死ぬ訳には」

「無視しない!」


飯綱様の言葉を聞き青ざめる料理係。私をなんだって思っているのよ……。そして、何か物思いにふけるかのように何か、うわごとを言い始めた。


「時に晄、この大地には幾多の者共が住まう。

妖怪や人間、霊、獣、果ては天人、月人、神など実に多種多様にして不思議な者共だ」


ふと昔話を始める飯綱様。声は昔を懐かしむかの様に深い声になった。

こういう旅話は非常に楽しい。興味深々なあまり皆、ふと箸を置く。




私は置かないけど。食べないと悪くなるから。



□□□



「へぇ……そんな事が……」


飯綱様が深ヶと語り始めてからもうしばらく経つ。天狗達はまるで時が止めたかの如く、動かず黙って聞いていた。無理も無い。ここの殆どの天狗


は旅と言える旅をした事が無いのだから。

どこでも社会を形成し、そこに住む天狗にとって旅は貴重なのだ。

私もワクワクが止まらんですよ。


「……んぬ?これ、皆!箸が止まっておるぞ!」

「あっと!」「おっと」

「……あ」「あ!」


「……儂もか!」


皆慌てて皿を見るが時すでに遅し、私は完食、皆は慌てて自分の皿を見る。皆ご飯はカピカピ、味噌汁は味噌が沈殿していた。

食べてあげた方が良かったですか?


「朝食もお話しもご馳走様でした」


箸を置く。さて、美味しくいただきました……。


「くっ晄……はめたな!」

「なんでよ!」


料理係が睨み付ける。言いがかりはよしてくだせぇよ……。私はただ、飯

を食べただけです。……本当にそれ以外に何もいい様がない。


「ぐぐ……堅いぞ……」

「確かに……」「うう……」

「ガリガリガリ……」


自分の食事に嘆く皆。味気ない食事にがんばって奮闘中。なんか一人がんばってガリガリ音を立ているが何故そんな音が……。


「おのれ晄!逃げ出すでないぞ!」

「逃げませんって!」


皆の苦悩の食卓を軽い気持ちで後にした。

(皆は皆が食べ終わるまでは立っちゃダメよ!)



□□□



食堂から出てからしばらく経つ。最近は修行もあってか周りの風景と言うものをハッキリと見ていない気がする。ふと空を見るとそこには澄んだ空


があった。その澄みようと来たら自由の象徴とすら思える。

広くて青くて果てのない大空……。

私は、空の向こうに夢を見た。希望を感じた。恐らく、自由を手にするのはそう、遠くは無い。この空を見るといつもそう思わされる。


「晄」

「あら?飯綱様もう食べ終わったんで?」

「うむ」


いつになく真面目な面持ちの飯綱様。こういうときは多分何かある。それも結構やばいものが。具体的には罰とか、罰とか、罰とか。……それ以外に思いつかない貧困な思想をお許しください、飯綱様。怒られたら忘れられなくなるんです。


「何か御用ですか?」

「ふむ、こいつをもっておけ」


鞘に納められた刀を渡す飯綱様。飯綱様の風断ちの太刀とは違うみたいだけど……。いや、愛刀を渡すなんてそんな事がそうそう起こるはずはないが。


ん?って言うか……くれるの?私は刀と飯綱様を二度見する。


「え?もらっていいんですか!?」

「いらんと言ってもおしつける」

「ありがたくいただきますね」


見ると結構立派な刀だ。紫の(さや)がしぶい。装飾はごてごてし過ぎて無くていいし、軽い。どうして飯綱様はこんな高価そうな刀をくれたのかしらね……?


「これは兄上の刀だ。余っていたのでな」

「あまりものですか……?」

「文句を言うな。あまりものには福がある、だ」


いや、豪華すぎるあまり物ですよ。つい、飯綱様と刀を交互にみる。

意識の違いをひしひしと感じる……。

……そして途方にくれる私。正直刀もらってどうすれば……?


「刀の心はいつか儂が教えてやろう。その時恐らくお前の能力も使い物になる」

「私の……能力……?」


いつに無く渋い面持ちになったかと思うと飯綱様は山の本殿の方へ。腰に納められた刀が今は、何故かとても大きく見えた。飯綱様が武人である事を私は改めて知ったのだった。


私の能力……いつかはと思ったけど近いうちに使える日が来るかも……?

私はまたひとつ扉を開けようとしているのだろうか……?



ふと考えていたその時山の下の方で爆音が響く。一体何事!?私は音の方向へ直ぐ様体を向ける。


「下の方だ!早く回れ!」

見回りの白狼天狗が周りに呼びかける。


爆音が木の倒れる音が連なると共に悲鳴がいくらか聞こえる。

っとこれはまずいわ…!急いで現場に飛んで行く。黙ってなんかいられない!



□□□



丸っこい体にいくつも伸びる細い足……雄牛の顔……。

あれは……牛鬼!?なぜここに……


「奴を押さえろ!ここを突破されるな!」


巨大な太刀を持った白狼天狗が次々に牛鬼に襲い掛かる。しかし暴れまわる牛鬼に皆吹き飛ばされてしまった。

あれじゃあ時間の問題……!



「がっ……!!」


一人の白狼天狗が地面に叩きつけられ動けなくなっしまった。

足を折ったのか、苦しい顔が痛々しい。そこにさっそうと牛鬼が近づき襲い掛かろうとする。

「させないったらっ!」


私は牛鬼の口に刀を突き立てた。間一髪で刀で押さえ込めた。

しかし牛鬼の力が強すぎてとても長く持たない。ふと眼をやるとあの白狼天狗は逃げていた様だ。良かった。


ついでに周りも含めて逃げていった様である。良くない。


一対一となってしまった。え?まずくない?ついさっきもらった刀を適当に振るったが幸い相手の攻撃を押さえられた。とは言え、正面から力比べなんて、絶対に無理だ。とにかく私が何をしようが長くはこちらが持たないだろう。


だから……攻撃しまくって先に倒す!具体的に言えば

『斬って斬って斬りまくればきっといつかは大作戦』!


……こらそこ、蛮勇とか言わない。


「グルルルル…」


相手が向かってくる。避けて……斬る!

私は体を横に投げ出した後、刀を振る!相手の角が吹き飛んだ。

「よし……斬れる!」


なまくらじゃない事は証明されたわね……ってそうじゃなくて!

「グオオオオンッ!」

相手もそうじゃないだろ!とつっこんで来ている……訳ないわね。でも本当にこっちに突っ込んできた。安直なので避けるのは簡単だ。相手の爆発はこちらが近くでは起こせないらしい。地面を蹴って相手に飛び乗る!でもって刀を突き立てる!後は燃やせば適当な料理に……なる訳ないわね。

しかも美味しそうとはとても言えない。牛肉は嫌いじゃないけどねぇ……。


「ウァオオオオオッ!!!」


牛鬼が暴れまわるせいで刀と共に振り落とされてしまう。

さて地味に一撃は与えたけれど、まだまだ相手は倒れる雰囲気は無いのであった。それどころか、怒り心頭にしか見えないどうしよう……。

牛鬼が構える。もっと速く走ってつっこんでくる気ね……。腰を深く据えて臨戦態勢に入る。隙を見て、刀を刺す!



しかしその時私の予想ははずれてしまった。牛鬼は飛び上がって襲いかかって来たのだ。予想がはずれ、うろたえていると相手との距離が徐々に近くなってゆく。地面の影が徐々に大きくなってくる。


避ける?いや……もう間に合わない。

守る?いや……押さえきれない。


なら最初の考えに賭ける……!


一か八か私は刀を上に突き出す。自分から刺さってもらう。角度を間違えればそこで死も同じ……!大博打ね!でもやるしかない……!!

私は眼を瞑り、ただただ時を待った。



□□□




目を開けると牛鬼の右頬に刀が刺さりそこから体が地面に流れていた。


……ん?助かったの……?

周りを見ると白狼天狗が目を丸くしていたり白黒させていたり、とにかく異様な沈黙だった。刀を牛鬼から抜く。牛鬼は白目を向きヒクヒクと体を震わせていた。


お、終わったんだ……。


涼やかな風が体に当たる。そうだ、勝利の風だ。

私は刀を鞘にゆっくりと収めた。さて飯綱様に……





「危ない晄!」



誰かの声が響く。沈黙の中からの声は全てを聞かずしてこの異様さがわかった。しかし振り返るともう体は影に覆われていた。


そ……そんな……


その声は出る間もなかった。




「武士たるものぞ残心有れ」


強い風が牛鬼を思い切り吹き飛ばす。


「まだまだ甘いぞ晄!」

そこには団扇を持った大天狗が私を見下ろしていた。

「飯綱様!!」

思わず大きな声が出る。そこには私達の総大将、飯綱四郎がいたのだ。

「飯綱様!」

「飯綱様だ!」「飯綱様……!」

「あぁ!飯綱様!」「おぉ……飯綱様!」


全員が口を揃えて飯綱様を呼ぶ。飯綱様が全員を確認すると視線を牛鬼に戻す。そして刀に手を付け、牛鬼の前に立ちはだかる。


「よくもやってくれたな。そのお礼しかとつけさせてもらうぞ」

「グオオオオオッ……」


牛鬼が構え攻撃をしかける。すると飯綱様が腰を深く落とし、刀を構える。


『風絶ちの一閃!』


辺りの風が止むと同時に牛鬼に光の線が走る。すぐに牛鬼の体が真っ二つに割れたかと思うと体の中の爆発物が爆発し、黒い煙だけがそこに残った。


「怪我は無いな?」


全員がうなずく。地面に叩きつけられた白狼天狗も幸い足で立てるほどに無事な様だ。いやー……ヒヤリとしたわー……。私は額に流れる汗をすっと拭った。


「晄も……いや晄は、大丈夫か。ファファファ!」

「どうして笑うんですか!?」


飯綱様が大笑いする。そして周りもつられて大きな笑いが起こる。悔しい。


「いや、失礼。では全員!帰るぞ!」

「あのー飯綱様!後で発表したい事があるのですが晄…」

「うむ。では帰った後にな」

「はっ!」


「ところで晄よ」

「はっ、なんでしょう?」

「刀はどうだ?」

「どう……晄とは」

「使えたか?」

「……晄一応?」

「使えてなかったですね」


白狼天狗がそう言い捨てる。そんな言い方は無いと思います。

そういうけどあれよ?私が牛鬼を……


うん、弱らせただけだね。何も出来てないね。


「え、ちょっと」

「だろうな……いや、良い。今はまだ……な」



こうして私達は本殿に向かったのだった。

しかし私はこの後とんでもないことを言うつもりだ。

さて色々と本格的になってきます。

書いている私も世界が広がりワクワクしております!


追記少しリテイクしました。

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