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東方風雲観察誌  作者: カップワードル
風は雲を運ぶ
6/55

風は変わりゆく

……


…………あれ?

ふと気が付くと暖かな平穏な朝の日差しが顔に差していた。


… … … …。


昨日までのあの地獄の労働はどうしたのだろう。私は不思議に思いつつねぐらをでる。こんな目覚めはかれこれ3週間ぶりである。

ちょっと幸せだが、それ以上に不気味。

重い体に暖かな光を浴びるのがなんとも現実離れしていた。


「… … …!」

「… … … … ?」


誰かの話声がする……。耳を澄まし、内容を聞く。

密談……な訳無いわね。こんなに近いし。さしずめ相談、といったところか。



「ふむ?妖怪の山近くに妙な妖怪が?」

「えぇ飯綱様。私はまだ直接は見てはいませんが……

神出鬼没、雲散霧消、正体のつかめぬ者が近頃こちらにはびこっています。何か目的があると見え、人間、妖怪に干渉、誘拐していると。

力もかなり強いと聞きます。戦って無事と言う話がありません」


「ふむ……、鬼様はどうだ?何かしら対処の方は?」

「如何せん正体が掴めぬと言う事でして、

鬼様に限らず、河童、天狗、どれも対処はしがたいと……」

「正に雲を掴む様な話か……いかんのぅ……」

「人間との関係の悪化もあり、山の緊張が続いています」


「しかし

儂も長く生きたつもりだが、そんな妖怪がおったとはな……」

「新参の妖怪とするならば強すぎます。

ですからそれなりに月日を積んだ者でしょう。あまり知られていないのが不思議ですが……」

「どうやらただものではなさそうだ」

「えぇ」



二人の会話が終わった。あれ?なんか結構真面目な話?そんな妖怪がいるとは……面白そうで恐ろしい話ね。私は微かに血のたぎりを感じた。

さて、いつまでもここにいる訳にはいかないわ。

早い所朝食でも食べましょう。そう思い日差しがこぼれる扉を開ける。


「っと晄!朝食ができてるよ!」


さも自然に朝食が食卓に並べられている。

この三週間と、明らかに違う。私は、不安を隠せない。


「どうしたい?鳩が豆鉄砲食らった様な顔をしてよ?」

食事係の白狼天狗が私に尋ねる。どんな顔よ。

「私はもう働かなくていいの?」

「ん~?いいんじゃあないか?何かあったら飯綱様がとっくに行動ずみだと思うぜ?」

「む、それもそうね」

「えらく飲み込みが早いな……がっつくのはよくないぜ?」

「考えてもわかりそうにないからよ。それとよく噛んでるから大丈夫。」

「ごもっとも。

ささ!とっとと食べて、真実を確かめて来な」

「はいはい」


私は何気なしに食卓に目線を移した。





も……元に戻ってる……。

ご飯と味噌汁と山菜がちんまりと置いてあった。


労働時代のあの食事はもう……帰っては来ない……のね……。

少し涙ぐみつつ美味しく朝食をいただいた。まぁ美味しいからいいけど。


「ぷふー…」

「どうだったね?」

「足りない、足りねぇ、足りませんわ」

「諦める事だね」


ざっくり切り捨てられる。切り捨て御免。

食器を片付けられるところを見ると本当にこれだけみたい。

世の中の不条理さよ……。


「さてと今日から私は何をするのかしら?」


食事係はああいうが、

生活が一変し過ぎてついていけないので飯綱様に聞く事にした。

さっきの話も気になるし。


「飯綱様!」

「おお、晄!目を覚ましたか!

実は色々こみいった話があってな……」


飯綱様が真剣な表情で話す。多分さっきの話が主だと思うけど……。

私は、姿勢を正して聞く。


「文の方で最近、人間との関係の悪化、

妙な妖怪がはびこり色々と山の緊張があるそうだ」

「実は先程いくらか聞かせていただきました」

「む、そうか。ではそれはスッ飛ばし本題にうつろう」

「え?」


思わずスッとん狂な声がでる。

え?あれが本題じゃないの?私は呆気にとられ口が思わず落ちる。


「確か晄、この間大百足に負けたそうな?」

「……?」


……あれ?負けたっけ?曲解される事件。


「奴を倒せぬとあらば、まだまだお主は力量不足といえる」

「は、はぁ……」

「と言う訳だ、これからは、軽い訓練をする事にする!」

「うぇっ!?」


三週間の地獄から見て、ろくじゃない。それだけなら私にもわかる。想像するだに体がこわばる。


「案ずるな、体力はこの3週間でついておる」

… … …


号外!号外!!

衝撃の新事実!!!

「あの3週間、『実は私は鍛えられていた』」!!!?

……道理で罰にしたらキツいなぁと思ったわ。

なるほど。そういう訳だったのね。

氷解する真実、だがついていけない私。


「では早速始める!」

「もうですか!?」

「鉄は熱い内に叩け!体力が落ちぬ内に叩きこむのだ!」


叩くのはカツオだけにしていただきたい。開くなら魚で。


「では行くぞ!」

「え……ちょっ……あぁれぇええ~!」


変な声が山にこだましましたとさ。なんとも情けない悲鳴だ。




「さて、このへんでいいだろう」


河原に着いた。いや、連れてこられた。い……いったい何が始まると言うの……?私は頭を落として周りに気を配る。


「小手調べぞ!石100こで山を作れ!時間は5分!」


ん?なんかやること小さいわね……。しかも地味。

大掛かりな仕事をこなしてきたお陰か何にも恐怖を感じない。


「以外と簡単そうだけど……?」

「ふむ、よ~い始め!」



□□□



これが笑わずしてなんとやら。

小さな石ころは私が積むたびぃどんどん転がってぇ

山なんぞはちっともできやしないじゃありませんか!

ははは……笑っちゃうなぁ……。


「… … そこまで!」


哀れみの目で私を見る飯綱様。

空しい半壊の石の山が目の前にちょこんとある。


「… … … …」

「せめてなにか言ってください」


「なんと言うか……少し、いやかなり不器用……だな」

く……こ、この哀れ光線が私の胸に突き刺さる。

やれやれまいったわね……。乾いた笑いが出る。このみずみずしい河原で。


……はぁ、私、何やってんだろう。

好きな事もやらなくちゃ行けない事も出来ないなんて。



■■■


……なんとまぁ不器用な奴よ。

苦笑いする晄を前に(いいづな)は肩を少し落としざるを得なかった。

刀なぞは当分後か?まずこれをこなせねば……うぬぬ!


この所は文の聞くところ中々大変な時世らしく、能力や力の一つこそ無ければ命なぞ紙切れ同然。故にせめて千切れない程度の紙にしようと思ったのだが。まさか、それ以前とはな。


晄は力が足りぬ。それ故に力の修行が為に体力をつけようと、労働……いや訓練をさせていたと言うのに。罰も兼ねていたが。


体力が揃えば力を、と思っておったがもしかすると力なぞより、体力なぞよりまずは集中力が必要やも知れぬ。それももっとも基礎的なものだ。これは思いの他長くなりそうぞ。面倒だのう……。

儂は、腕を組み策を考じる。


さて、集中力……か。う~む。瞑想でもさせるか?これがどう晄に活きて来るか、試してみようか。


「晄!」

「へい、なんでございやしょう」


ふぬけた面をしとる……。石積めないくらいでそんな顔だったらどうする。年も積めんぞ。いや積みたがらんか?


「晄!まずお前は集中力が足りておらん」

「へい」

「そこで瞑想をする事とする。良いな?」

「……はい」



「この川の上で浮いたままずっと無心でおれ」

「どれほど?」

「3時間位か」

「うへぇ……」

「我慢せい、これも修行ぞ。



さて……儂はしばらく釣り糸でもたらしておくか」


釣りはおまけに過ぎぬ。長い時間あるのだ。何か儂もせねばな。

糸と餌を用意していると冷ややかな視線を感じた気がする。


……えらく晄が睨み付けた気がするぞ。

気のせいか。




~一時間経過~



目を瞑り、細部こそ動いているが、呼吸が安定してきた。

うむ、晄も大分集中してきたな。この調子で後二時間ほどだ。

眼で何か物でも言おうか。いや、そんな器用な事は出来ん。


「 ~ 」

しかし釣れぬ……。魚はおるのか?




~二時間経過~



「鱒でも釣れぬかな……」

「……ジュルッ」

「ぬ?」

「… … …… ~ 」


なんとまぁ食い意地のはった奴よ。

明らかに呼吸が乱れておる。分かりやすい。

儂はなんとも温い湯に浸かったかのように気が抜ける。


しかし、釣れぬな……。


~そろそろ三時間~


おぉ?何か影が近づいて……オォ!来たぞ!

儂は竿を掴み、魚の動きを読む。真剣勝負だ。

剣士との戦いとは違うがこれもまた血の巡りを感じる。

「ぬぉっ!かかった!かかった!」

取った!相手を掴めば、後は気合いと頃合い!

一気に勝負に持ち込む!身体中が魚一匹に集中する。

流れを……読む!

「………………………」


「ファハハ、生憎魚ごとき……逃がす……儂ではないわッ!!!!」

 

「とった!」

「~…~…~………~~!!!」

ジャボン!!

魚は地上に出たと言うに、晄は水の中か……。

水中でもがく姿は地上でうろたえる魚の如し。


「おい!晄よ……大丈夫か!?」


ジャボン!

出てきよったな。やれ、そそっかしい奴よ。

手を伸ばすも何やらまだもがいておる。


「鱒!鱒ッ!食べたいです!」

「鱒……?ファハハ!勿論これはお前の物だ!」

「あ……ありがたき幸せ!」


ここまで食い意地がはった奴だったか?涎を溢しそうな声だな……。

そうしてまさかの二匹目を釣り上げるはめとなった。


「ほれ!鮭!」


晄に獲ったものを見せる。生憎と鱒ではない。それより大物だ。


「あら鱒ではありませんでしたか」

「食わぬのか?」

「いやいや!むしろ骨だけになるまで食べます!」


鮭を持っている儂も食われそうな勢いだな……。儂は石を引き、火の準備をする。


□□□


「ふふふ……実に美味!」


食通の台詞だな……。やれ、舌など肥えさせるものではないな。


「ごちそうさまでした!」

「ふむ、満足したらしいな」

「えぇ!」


一服したか。ならば……先程の汚名返上の機会をくれてやるか。

半壊する石の山を見て儂はそう決めた。


「では!石積み!まずこれを終わらせい!」

「へ……へぇ!」



□□□



人と妖怪……長らく間のあるこの種族の中を奴は行こうとしておる。

それはこの小さな山なぞ出ていかねばなし得ぬ事だ。

ふん、儂がそれを考えぬとでも思うか晄!しっかりと腰を据えてやる!覚悟しておけ!


そう簡単には死なせん。そんな事ではこちらが困る。目覚めが悪いし……な。


……強くなれ晄!世界を駆けられるほどに!


そして、己が道を歩むのだ!ファファ……我ながら随分な過保護よ。

だが、この気だるい時をこの烏に託すのも悪くあるまい。世界を知り、人を知る天狗……そんな天狗が一人居ても悪くは、ない。


「で……できました!」

見ると不出来ではあるが石の山。

確実にその歩みを進めよ。そしてこれからもっともっと……成長し続けるのだ!晄!


「ほぉ!修行の成果か!?」

「そりゃ早すぎますよ!……調子が良いのは認めますけどね!」

「ファファ!では次ぞ!どんどんゆくぞ!」

「ひえぇえぇっ!」






かくして風は変わりゆく……

どこに行くのか?誰もそれは知る由は無し。

全体的な修行です。

実際に戦える術はほとんどこの時は学んでません。

体の基礎ですね。


追記、かなりリテイクしました。

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