山から王都へ再び風は吹く
再投稿です。
何やらあったらしく何故か消滅してました。
朝日がゆっくりと外から溢れ私の顔につたる。あぁ眩しい。今日も太陽の光で目が覚める……。
私はゆっくりと体を起こした。 心地好い微睡みがゆっくりと覚めてゆく。何だか惜しい気がする。だが、起きていられる時間が消えていくのはさらに惜しいのでそれもやむを得なし。
さてと… …あれ? 私は昨日何してたんだっけ?
頭を捻るが、記憶がはっきりとしない。まるで霧に包まれたかのように曖昧である。
「おや、お目覚めかしら?」
文が何かの作業をしながら言った。
そうだ、文に聞けば良いじゃん。文は私より酒に強いから多分恐らく昨日の宴会の事も普通に覚えているだろう。
「あのさ、昨日私何してたったっけ?」
「えぇ……? まさか覚えてないの?」
「そのまさかだったりするわけだけど……宴会が披かれたこと事以外抜け落ちてるわ」
私がそう言い終えると、文は小さく震えながら大きくため息を吐いた後、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。
目の下にかかった紫の半月が、青白い顔の中で存在を主張しているのが見えた。
……どうやら相当にお疲れらしいです。
「昨日はなかなか盛大だったわよ。理不尽な位」
「そうなの?」
「中心はあんたなんだけど……」
「うぇえぇっ!?」
衝撃の真実が私に衝突!
わ、私が中心だって? そげなばかなこっつぁあるわけなかばい……。
何故なら私はそこまで酒に強くないし、宴会芸と言ってもたかが知れている。そう、私は宴会では長持ちする要素は一切無いのだ。
喩えるなら牛が逆立ちする位に無理な話……いや流石にそこまで奇想天外ではないけど、とにかく考えにくい事だ。
「おだてられた晄が皆と飲み比べを始めて……」
「な、え? いきなり飲み比べちゃうの?」
「で、完全に泥酔した晄が周りに合わせて歌を歌い始めてね」
「歌を!?」
「で、それに合わせて飯綱様とかが踊り始めて」
「へぇ……凄いことになってたのねぇ」
文がやれやれと言った感じで話す。聞けば中々愉快な様が思い浮かぶ。
しかしさっきからずぅっとこんな感じで話すので少し気になる。文は楽しくなかったのかな? それとも何か別の事情が……?
それにしても宴会のほうは中々面白い事になってたみたいね。
私が中心って言うのが色々考えにくいけど。覚えてないのが残念過ぎるわねぇ。思い出せたら笑いの種になりそうなものを。
とにかくはっちゃけってしまったのだろうか、うーん残念。
などと、考えていると文の目線が露骨に私に刺さっていることに気付く。
……そうか多分、酒に強い文は最後まで理性があったっぽいわね。
顔が、目が、疲れてるわ。そして病んでる感じが……。
「その後は、もう山全体で歌ったり踊ったり呑んだり……
そりゃあ凄かったわよ? 普段呑まない奴まで泥酔して顔が真っ赤なのよ?」
「ほ、本当? それは凄かったのね~」
「えぇ、片付けが全く終わりゃしない位、ね」
え……。
私は、一瞬にしてその口を閉ざした。
「「……」」
く……口を閉ざしざるを得ないって! 私の顔がどんどこ青くなって行くのがよくわかる。 頭の後ろを冷たい何かが通り過ぎていく。
これが、恐怖、と言うやつだろうか。出来れば会いたくなかった。
静寂の中に刃物のように輝く文の瞳が私を刺し続けている。
……ヤバイ、この烏天狗……私を殺す気だ。
周りは空の酒と泥酔した天狗の地獄絵図。……ついでに誰が出したのか知りたくもない嘔吐物も。
こ、これはヤバイわ。全てあなたがやるのよ? 的寒気が。
全てあなたが責任負うのよ? 的殺気が……私に、私に全て来ている!?
「後は全部晄がやるのよね?」
「え……いや……その……」
「宴会の主犯だものね?」
「いや……だから……その……」
「片 付 け る の よ ね …… !?」
「かっ……」
「かっ……過労死は御免よ~!!!」
山から全速力で飛び出した!
後ろをみたら……死ぬ! 消える! 殺られる! 殺される! 葬られる!
体中を刃のような風が突き抜ける。息が荒くなる。
後ろから本当の風の刃が飛んでくる。眼下の緑の森に風の刃が吸い込まれていくと、木々は悲鳴を上げて倒れていく。……本気過ぎるってばよ。
私は蛇行しながら風の刃を受けないようにする。
「この、三枚下ろしにしてやるわ!」
「それなら、私じゃなくて魚か何かを……」
「うるさい! 逃げるな! 止まれ!」
「逃げるな、と言われて逃げないものはいない、然り、止まれと言われても……「もらった!」」
「うひぇっ!?」
肩を風の刃が掠めていった。
翼を出していたら明らかおさらばする羽目になっていただろう。
妖力で飛んでてよかった……。うっはー、怖い怖い……。
「ふ、蛇行していても私のほうが先回りすればどうかしら?」
「うわ、ちょっと!」
文が疾風の如く後ろから飛んで先回りする。
捕まんなかっただけマシかしら……。上空じゃ敵いそうもないわね……。
私は、少しずつ高度を落として行く。森すれすれに飛べば、いつか森の中に隠れられるはず……。
「甘いわ! 木の下敷きになって反省することね!」
文が木の枝を振るうと幾つもの風の刃が木を切り倒していく。
丁度皆私に倒れこむ形に幾つも木が倒れてくる。……やばい。
このままだと木に叩き落とされて、潰される。速度が出すぎて自分から突っ込む形になる……。
……むむ、木々の隙間を通り抜けるしかないの? 空中の針穴を通る飛ぶ針となれ、と? しかも速度を緩められても止められないのに……そんな事は無理だ。
……いや、まだ他に出来る事があった。
「ああ、死ぬ! 死んでしまう!」
私は、大げさに叫びながら徐々に高度を下げてゆく。
相手の意識を声に向けて、逃げる準備をしておく。そしてきりもみ回転しながら木の群れ横の隙間へ突っ込んでいく。
何も、木が倒れてくる正面を行く必要はない。そもそも純粋な速さでは文に敵わないのだから無理があったのかもしれない。
きりもみ回転しながら私は横に広がる森の奥へ落下していった。体中を風に打たれながら地面に落下していく。そして、木の倒れる音が辺りに響き渡る。
「撃墜完了、ならびに捕獲完了かしら? 今木を斬って助けてあげるから待ってなさい」
体を地面に打ち付ける羽目になったが、森の中に落ちてしまえば相手の目もごまかせるし、上空から私を捕まえることも難しくなる。つまり逃げる絶好の機会が出来たのだ。
私は打ち付けられて痛む体を引っ張りあげて走り出した。
「なっ、いない!? 逃げたの!?」
文の叫びが辺りに木霊する。
森の向こうの光を目指して私は走る。もうここまで来れば撒いたも同然ね。
安堵の息が自然と漏れる。文には悪いけど逃げさせてもらうわ。本当に悪いけど。
……あれを全て私が片付けるとしたら。時間は食うし、汚いし、色々と恐ろしい事しかない。
って……あら?
「ここ……人里じゃん?」
ふと周りを見回すとそこはあきひとがいた王都の近くの森だった。
■■■
う……ん。
昨日はよく眠れた。新しい友達も出来たし昨日はいい日だった……。
元気良く跳ね起きて、服を僕は着た。
昨日僕の中で渦巻いていた感情が嘘みたいだ。何の憂いも心には映し出さない。
「あきひと様! 朝食の時間でございます。どうぞ広間へ」
「今行くよ!」
さて朝食の時間だ。今日も頑張ろう!
広間に向かい僕は走り出した! 自然と足が動き出している。
「では、いただきます」
「いただきます!」
「おや、今日は元気でございますな」
爺やが笑みを持ちつつ聞いてきた。
やっぱり分かるのかな?
僕は、同じように笑いながら爺やに話かける。
「うん! 昨日良い事があったんだ!」
「ほぉ……それは一体?」
「僕に友達ができたんだ!」
「何と! ……それはそれは……本当によござんしたねぇ……!」
爺やが涙を流して喜んでくれた。……泣くほどのことなのかなぁ?
昨日の事があってなのか、僕は涙を流すことを忘れていた。
爺やはいつも僕の親身になって喜んでくれる。とてもうれしい。
今日も良い日になるといいなぁ……。
「で、その友達と言うのは……?」
「えぇっとね……!」
(第一話をッ! 第一話を見るんだよ!)
「ほう……長い黒髪のおなご……と?」
「うん!」
「むむぅ? 確か昨日はその様なお方は見ていないような…」
あ、怪しまれたかな!? 天狗だってばれないようにしないと……。
僕は少し唾を飲んで口を閉じた。
そして、口の先だけを開けて小さく喋る。
「え、えぇ~っとね……」
「ふむふむ……その者に会ったならば是非是非歓迎してあげたかったのですが」
「……! そうだね!」
僕は、口を大きく開け放って喜んだ。
いつか晄と一緒に城で遊びたい。そのいつかを考えると笑みがこぼれる。
「おっとすっかり箸を置いておった!
ささ! せっかくのお食事、美味しくいただきましょうぞ!」
「うん!」
「さて、「「ごちそうさまでした」」
御飯を食べ終わる。少しお腹が落ち着いた。
「ではあきひと様、政の勉強の時間でございますので
私は先に行って準備をしておりますぞ。
あきひと様もお早めに来てくだされ」
「わかった!」
爺やはゆっくりと席を立ち、戸の向こうへ消えて行った。
さて、じゃあ準備をして、すぐに行こう!
僕もゆっくりと席を立った。
■■■
あきひとのいた城の上。
屋根を私は烏姿で歩きつつあきひとの部屋を探していた。やっぱりここまできた以上、あきひと見ておかなきゃねぇ。
さてと、昨日あきひとが居た部屋は確かこの辺だったかしら?
今日はまだあまり人が外に出てないみたいね。そこらから話声がする。
そういえば、昨日と同じく今日も朝に来ていた事に気が付いた。今日は泣いていないかしら?
……まぁ泣いていたら慰めるとしましょう。そんな事を考えつつ私は部屋に近づいく。
「天皇を降りた者は上皇になります。
さて、ここらで一休みいたしましょうか。続きはまた午後にしましょう」
「うん!」
「ほっほ……では私はしばらく空けますぞ」
どうやら今終わったらしいわね。早速突入しますか!
私は地面に降り、人の姿に変化する。そして勢い良く窓へ跳び入る。
「おはよう! あきひと!」
窓からこんにちは……いやおはよう!
私は、笑みを湛えながら、華麗に着地する。
「うわぁっ!? あ……晄!?」
あきひとが持った筆を投げ出した。幸い、筆は床に落ちた。
……どうやら平静も心から落としてしまったらしい。頭と体が忙しく動き回っている。
「アハハ、そんなに驚くことだったかしら?」
「え、えっと……ちょっと今勉強が終わった所だから気が付かなかったんだ。というか窓から来られても」
「門から堂々と入る訳にもいかなくてねぇ。……ん? これは何?」
あきひとの手元にあった書を持ってそこに書かれた生真面目な文字を眺めてみた。
どうやら、人間の政治体制の勉強らしい。中々おもしろそうだ。私は、文字の上に目を走らせて、人間の政治を想像してみた。
「そう言えば晄はいつ来たの? きっと遠い所に住んでいるんでしょう」
「まさに今、山の向こうから遥々とやってきたところよ」
文から逃げてきたらここに着いてしまっただけなのは秘密にしておこう。
確かに、山とここの距離は結構あるはずだが、逃げていたおかげか早くついたようだ。
「そうなんだ。それにしても前も思ったけど一体どうやってここに来たの?」
「空を飛んでやってきたけど?」
「ええっ!? 晄は空を飛べるの……!?」
書の外に眼をやると、あきひとのあっけらかんとした顔があった。
あぁ、そうか人間は空を飛ぶこと、出来なかったんだっけ。
空、飛んだら一体どんな反応するのかしらね。何だか興味がわいてきた。
「じゃああきひとも飛ぶ?」
「僕も飛べるの!?」
眼を輝かせて飛び跳ねるあきひと。
反応が非常に素直で、見てるだけで私も楽しい気分になってきた。こうなるとやらないわけにはいかないわね。」
「ふふ、私が肩車をすれば、飛べるわよ!」
「ねぇ飛びたい! 飛びたい! 僕も空を飛びたいよ! 晄!」
あきひとの眼がなまらごっつ輝いていた。
何物もとも形容しがたい、強いて言うなら太陽に似た輝きがひたすら私には眩しい。純粋な者の願いはただただ強く輝いているのが美しい。
初めての人間の友達と空を飛ぶ、考えてれば考えるほどに私の心だって燃える。私は、あきひとの目線まで屈んで背を向ける。
「じゃあ飛ぶから肩に乗って!」
「うん!」
小さな足が私の肩に掛かる。意外と軽い。
そして私たちは空に向かって、こう叫んだ。
「「じゃあいざ空の旅へ…出発!!」」
「あきひと様~……おや? どちらへおいでになったのだろう……?
ふむ……しかし賢いあきひと様よ、午後までにはかえってくるだろうて。
…………多分」
続く