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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

創造神ワタナベ、暇を持て余しています。

「なーんか面白い事ないかなー」


 わたくしの前でそう叫んだのは、芸術品の様な繊細な金の髪を無造作に背中に流し、だらしなくベッドに横たわる男。紳士なので当然、全裸です。


 鍛えられた腹筋は六つに割れており、その上の胸筋・僧帽筋・三角筋と全て無駄なく引き締まっているのはなかなか悪くない。乳首もピンク色だ。

 意味も無く全裸でゴロゴロしているこの男こそ、超絶究極絶対無敵世界創造神、略してワタナベ様でいらっしゃいます。

 せめてネクタイだけでも身につけて下されば良いのですが。


 職業:創造神。

 趣味:世界創造。

 嫌いな物:暇


 つい数千年前に片手間に作られた、【魔法:あり】【魔物:あり】【異世界召喚システム:あり】という、神々の言葉で通称アリアリと呼ばれている世界が思いもよらず上手く軌道に乗ってしまった為、暇を持て余していらっしゃるようなのですが、わたくしにはどうする事もできません。

 世界運営に携わる上級神や中間管理神はもちろん、下っ端の神達も、下界の面倒みるのに忙しくて遊びに付き合う暇はありません。というか、あっても関わりたくないようです。これも最強銀河爆裂創造神であるワタナベ様の日頃のおこないと言いますか人徳のなせる技でございましょう。



「ねぇ、何か面白い事無い?」


 隣に立つ、生命創造の他に美と美しさと…クジ引きで負けて暇潰しも司る事になったこのわたくしへの、本日15回目の無茶振りでございます。さすがのわたくしの整った顔も歪みますとも。この3万年ほど毎日のようにこの調子なのです。誰か代わって。


「この……親指が、こう……取れますよ」

「それ、もう100万回位見た」


 なら聞かなきゃいいのに。もしくは死ねばいいのに。


 でも、面倒見の良いわたくしは、元気爆発世界最上級創造神の暇つぶしに延々と付き合っております。生命創造業も、最初に創ってしまった後は軌道に乗っている限りはする事がありませんので、仕事の無い者同士延々と実の無い会話を続けているといいますか……本気でする事が無いのです。いっそ滅べばいいのに。


「新しい世界でも作る?もう物理法則とかも完全新パターンで。」


 あーもう!なんとかこの馬鹿を止めませんと。

 創ったら後は放置の我々創造神と違って、下位に属する管理神は土日も片方は出勤して毎日残業五時間、有給取得など夢のまた夢という現状なのです。また気まぐれに世界など創られたら過労死する神が増えてしまいます。


 まぁ、死んだら作れば良いだけなのですけれど。

 あれ、じゃあいいのかな?創っちゃいましょうか、例えば地上のほとんどが海で海流が変で気候も島ごとに違うような世界でも……


 だいたい、種族のパターンを増やしてもほとんどは「人族とそれ以外」になってしまいますし、特殊能力もいろいろと出尽くした感があるのです。

 異世界からの召喚者もやる事は似たり寄ったりです。変わりダネもいる事はいるのですが、神サイドとしては、科学知識などを過剰に持ち込まれて世界に大きな影響与えられてしまいますと、文明滅ぼす担当の破壊神達が忙しくなりますので。いくら良い暇潰しとは言え、転生者を大勢連れてくるのは考えモノなのです。

 つまり世界の面白さは、初期の地形の創り込みで変わる。つまらなかったら全てワタナベ様の責任と言う事です。うん、完璧。


 決心したわたくしがワタナベ様に声をかけようとしたその時。


 神域に響き渡る、声。


『神様ありがとうーーーー!超ありがとう!』


「あれはなんだ?」

「この世界に来たばかりの転生者の叫びのようですね」

「なんでここまで声が届く?」


 おそらく【神への宣誓】というスキルを持っているのではないでしょうか。日本という国からの転生者は元々持っている事が多いようで。


 内線電話で転生者管理課に問い合わせてみると、内容は猫耳猫尻尾の種族を見ての心の叫びだったとの事。


「わからん…」


 ワタナベ様は気になってその男を観察する事にしたようです。

 これで数年は大人しくしていてくれると思うと、先ほどの転生者に【不老不死】でも贈りたくなります。もちろんポケットマネーで。


 宛先を確認しようと、ワタナベ様の覗きこんでいる40インチの神モニターを確認すると、転生者が奇妙な事をしているのに気が付きました。


 尻尾が長いので長いスカートを穿きにくい猫人族は、大抵短めのスカートを穿くのがこの世界の鉄の掟なのですが、下生えの草で肌を切らない為のゲートルを付けている猫人族レンジャーに、何かを必死に訴えかけているようなのです。


「違う、惜しいけどそうじゃないんだ!」と叫んでいるように聞こえます。


 しばらく観察を続けると、布の瞬間加工魔法を持つ裁縫士に大金を払って思い通りの衣装を作り、猫人族女性に身につけて貰っているようだ。


『ほっほぁあああああああああああ!!絶対領域に感謝ーーーー!!』


 再び神域に響き渡る転生者の絶叫。


「何なんでしょうね、あの男?」


 せっかくこちらから声を掛けてあげたと言うのに、最強爆裂太陽勇者無双神のワタナベ様はわたくしに答える事も無く、転生者が身につけさせた衣装を纏う猫人に魅入っているようです。


「いや。わかる。うん、理解できる!」


 なにが?

 それを確認する間もなく、転生者と猫人の姿が見えなくなりました。

 カメラの前に立つなと日頃から通達を出していると言うのに、何者かが彼らの周りを取り囲んでしまったようです。


 まぁ、神域まで届く声を発し続けているわけですから、余計な物の興味も惹くでしょう。魔力だだもれなワケですし。歩合で働く魔力回収業の魔族、グレーターデーモンの一族が早速向かったようです。勤勉な事で結構。


『神よ、加護を!なんとかして!』


「おい、加護ってなんだ?」

「守って欲しいという意味のようですよ。神の力を自分が代行して限定的に執行したいという事です。都合の良い事言ってますね、こいつ」


 これだから欲しがるばかりの転生者は。【不老不死】あげるの止めようかな。

 でも近鉄巨人絶品弩級創造神であられるワタナベ様の意見は少しちがったようで。


「生意気だな。だがあいつが死ぬとちょっと勿体ない。力与えよう、おりゃ!」


<転生者No9952:タナカナイトは【ゴッド・ブレス】を授かりました>


 何やってるんですかワタナベ様。カタログに無い新機能をいきなり実装した上にテストもしないで授けるとか……あ、今がテストか。


 脳裏にいきなりシステムメッセージが浮かんだにも関わらず一切動じない転生者は、小躍りしながらスキル名を高らかに叫びました。


「我に祝福を!【ゴッドブレス】」


 そして上空に撒き散らされる1兆℃の炎。グレーターデーモンは灰も残らず消滅しました。


『あーあー、神様?ブレスって加護じゃねぇほうじゃないんですか・・・』


 タイミング良くスキルを授かったことで、自分が注目されている事を認識したのか、疑問をそのまま神域に放送する転生者。下級神達にも聞こえているんだから少し自重して欲しい。


「よくわからん、あれを召喚した神をちょっと連れてこい。いや、会議を招集しよう。『全員集まれ!』」



 そして地上の転生者ほったらかしで開催されるワタナベ会議。ワタナベ様が黒いと言えば全て黒なのが我々の常識ですので、会議で自分の意見なんてものを発言し慣れていない管理神達の報告はかなり要領を得ません。


「今、地上の人間達にはどのような加護を?」

「えーあー、あいつら弱いのでほっとくとモンスターに全滅させられます。ですので、光の神と大地の女神が集中的に目を掛けているようです。」


 ワタナベ様の前に連れ出されて、怯えたように肩を小さく震わせている女神は、青髪ショートという狙った髪型をしつつも背が高いという点が微妙なギャップになっていて面白いと言う理由で昇進した転生者管理課の神。どうでもいい事ですが、女神は全員神布と呼ぶ変なヒラヒラした服を纏っており、男神は宇宙の掟によって白いブリーフとネクタイのみを着用しています。

 あの猫人に奇妙な衣装を身に着けさせた転生者なら、こいつにどんな服を着せるのだろうと思いを馳せながら、問い詰める。


「で?具体的にどんなエコ贔屓しているのか、明確にしなさい」

「光の神が、強度の違う数種類の【灯り】の魔法と【結界】です。後は、「一時的な全能力強化術」を与えています。この強化術を【祝福(ブレス)】と人間達は呼んでいるようです。

また、大地の神が食料供給の方で力を貸しています。【豊作(タモン)】と、あと軽い怪我や病気の治療に使える程度の【回復】です」


 そこまで聞いてようやくワタナベ様の鋭すぎる頭脳が理解したようです。


「わかった。あいつの欲しがってるブレスってのは能力上昇なのな。じゃ、書きかえよう。」

「いきなり効果が変わると戸惑うかもしれませんよ、変更したならその旨を通知しませんと」


 めんどくさい事をいう転生者管理神。それやるのあんただからね?


「じゃ、変えた事を伝えておこう」


 と、それを伝える間もなく自ら動くワタナベ様。本当に暇潰し作業の時だけは機敏でいらっしゃる。


「お前ら、人間に連絡取る時はどうやってる?」

「直接お告げと言う形で声かけてます」

「よし」


トゥルル


 いえ、お告げと言うのは一部の神託スキル持ちにもったいぶって教えてやるやつで。あれ、【神への宣誓】もスキルツリーで言えば神託のカテゴリーだからいいのかな?もういいや、めんどくさいしワタナベ様のする事ですし。


「もしもし、俺。さっきのブレスは効果変えたから」

『誰!』

「神」

『ありがとう!」


 最近の転生者は理解力ありますね。


『でも、火を吹くやつもあれはあれで使えると思ったんで、できればそのまま欲しいです』

「じゃ、さっきの一兆度の炎はそのままにしようか。体力筋力速度抗魔力体温の一時的上昇をブレスって名前で正式登録するな。息を吐く方のブレスと間違えちゃってさ」

『一兆度ってゼットンかよ…』

「ゼットン?よし、じゃあさっきの口から火を吐くのは【ゼットン】な。周りを巻きこまないように使えよ。あと、今持ってる能力は何?」

『いんちきロリっぽい神様にこっちの世界に連れて来られてから、会話が通じる様にして貰った以外は体力とか全般的に強くして貰いました、ってかマジで神様なんっすか?パネェっす!』

「いんちきロリってなんだ?」

『舌っ足らずな喋り方する神様でした。背が低いので神様らしくないって言ったら10万6歳とか言ってたので偽ロリだなと』

「年齢は管理課の下級神みんな一緒だけどな。背が低い舌っ足らずなら一人いる。名前無いから正式にロリって名前にしとくな。用事があったら呼び出していいぞ。あと、【ゼットン】と【ブレス】は今日の定時までに新しい名前で使えるようにさせとく。書類も後付けで専門部署に回しとくから。ハンコ押すの俺だし」


 数千年かけて整理されてきたルールや書類の流れが目の前で壊されていく。管理神達の顔が泣きそうに歪んでいくのが少しユカイ。わたくしもああいう無茶苦茶ヤリタイ。


「お前さ、さっきの、絶対領域?面白いからそう言うのどんどんやれ。」


 ワタナベ様はそんな様子を気にするそぶりも見せず、神電話のコードを指でくるくるしながら続ける。


「なんか必要な物あるか。モノでもスキルでも。融通するぞ」

『じゃ、俺の想像したモノを実体化させる力とか……あと異性にモテルようになりたいです』

「ははっ!わかった。絵をかいたら実体化させる力を付けよう。モテルのはなんかむかつくから無しだ」

『服は可愛い子に着せなきゃ意味無いじゃないっすか!俺に惚れる様にして下さいよ!』

「そうか。細かい調整はわからんから【フェロモン全開】の消費無しパッシブでいいか?」

『あなたが神か…』

「神だってば」


 10年来のマブダチかって位に馴れ馴れしく話す転生者は少し凄いと思いましたが、神としか伝えておりませんので、まさか宇宙の司法・立法・独裁の全てを一手に束ねる超時空最高特急創造神様その人だとは思ってもいないのでしょう。



 それから数年間の間、つじつま合わせに忙しくなった管理神達が終電が無くなってタクシ―で帰る姿や、倉庫で眠る姿をを眺めると言う暇潰しを得ましたので、しばらくの間は新しい世界を作るのは延期と言う事にしました。


 ワタナベ様はといいますと、ミニスカニーソックスに続き、ビキニアーマーにメイド服、巫女服セーラーブレザー白衣……と様々な衣装を作り出す転生者という暇潰しを得たようですので、わたくしと同じく退屈から解放されておられるようです。めでたしめでたし。




 とあるファンタジーの世界にフェチズムの嵐が吹き荒れた。

 その中心で巨大ハーレム帝国を築き上げた男と、それを上空で見ながら「さすが先生の最新作。見えないと思ったらはいてないのか…」とか「このわざとらしいキャラ付け!」「わかる!わかるぞ!」等と叫ぶ最強絶対の神。彼らの二人三脚での世界魔改造により、世界はダメな方向に一直線に文化を進化させたという。


巻き添えを食う神々やその世界の住人はたまったものではなかったが、それなりに幸せだったらしい。たぶん。

なんかいろいろゴメンナサイ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 凄いノリがいいなぁ。 中間管理神は犠牲となったのだ…。
[一言] 面白かったです!!
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