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迷宮都市 第四話

 


「ふふふ」

「……」


 横で不気味に笑うリタニアにダンゼルは苦笑すらできなかった。

 口元を引きつらせる横でなぜこんなドス黒い笑い方をしているかというと、つい先程から繰り返されるこの会話のせいだった。



『あっ、おじさん。それ頂戴。』

『あいよ。おっ、嬢ちゃん美人だね。おまけしとくよ。』

『本当!! ありがとうね、おじさん。』


 そう自分の容姿で色々とおまけをしてもらっているのだ。


「ふふ、ちょろいわね。」

 自慢げに鼻を高くするリタニアにダンゼルは本日何度目かのため息をついた。


「……リタニアさん。そういういうことはせめて部屋に戻ってから言おうよ。」

 ため息をつけばつくほど幸せが逃げるという話があるが、もしそれが本当ならばダンゼルにはもう幸せは残っていないだろう。それほどまでに気疲れが耐えなかった。


 リタニア然り、ガムル然り。


 そこまで考えてダンゼルはまたため息をついた。

「ガムルさん、大丈夫かな。」

 横で嬉々としているリタニアに聞こえない小さな声で呟きながらダンゼルは上を見上げ、



「あれ?」


 彼の顔に大きな影が一瞬だけ差した。

 比喩ではない。鳥では作れない、そうそれこそ人ほどの大きさがなければできないほどの影が彼の上を通り過ぎたのだ。


 そしてその影を作った本体を見てダンゼルは自分の手からいくつか荷物が溢れるのにも気づかずぽかんと口を開けた。


「ガムル、さん?」

「えっ?」

 この呟きは聞こえたのだろう。

 リタニアは振り返り、ダンゼルの視線の先を追った。


 その時にはもうすでにガムルの姿はない。

 だがその後から何人か、銀色の甲冑に身を包んだ男達が同じように通りに影を落としながら向かいの屋根の上へと飛び移っていった。

 その光景は明らかに異常だった。

 現に、彼らの横で同じように上空を見上げ、固まっている人たちがいるが……その傍らで「またか」と言いたげな表情を浮かべている人もまたいた。

 その異様な空気にリタニアは眉を顰めるが、今はそれよりもダンゼルが見たものの方が優先だった。


「本当にガムルだったの?」

「多分……」

「……ふーん。」


 リタニアはしばし考えこむと、先程買ったばかりの商品、更にはダンゼルが地面に落とした荷物を拾い上げ山のようにつまれたダンゼルの腕の上にさらに積み上げた。


「ちょっと見てて。」

「えっ、ちょっ、リタニアさん!!」


 ふらふらとした足取りのダンゼルに軽く手を振り、リタニアはその集団を追って屋根の上へ……ではなく細い路地へと駆け出した。


 


「まだ捕まらないのか?」


「は、はっ、申し訳ありません!!」

 騎士の駐屯地に足を踏み入れた所長と呼ばれた男は開口一番に尋ねた。

「何人出している?」

「小隊を五つ。別働隊として狙撃兵を東西南北にある見張り台に配置しています。」

 地図を指さしながら説明する騎士に対し男はただ無言でその横を通り抜けるだけだった。

 そのまま進んだ先にあるのは革張りの椅子。

 そこに腰掛け、その肘掛けに肘をつきながら初めてその鋭い視線をその騎士に向けた。


「包囲網は?」

「み、南は防ぎましたが、まだ残り三方向が不十分です。」

「身元は?」

「昨日、この街に入った一団の一人です。」

 そう言いながら騎士は地図を持つ手とは反対の手でその資料を手渡した。


「……ほう。この男か。」

「ご存知で?」

 そう問いかける騎士に男は少し眉を寄せた。

「……いや、知らない。」

「そうですか。この街は基本的に許可証さえあれば身分確認はしませんので、この男の年齢、名前などの素性は全くわかりません。また、これが集団によるものかも全くわかりません。ですが盗人を殺して逃走したわけですから、このビークルに乗っていた全員が共犯、と考えるのが妥当かと思います……所長、大丈夫ですか?」

「ああ。」

 男は曖昧に答えたが、実際騎士の説明はほとんど聞いていなかった。

 そこまで思考に耽る理由はただ一つ。あの巨漢の男の事だ。


 その男に何か既視感を感じるのは確かだ。

(どこで会った?)


だがどれほど必死に想い出そうとしても、この写真の男と重なるものが彼の脳内から出てくることはなかった。



 


『あっちだ!! 急げ!!』

 ドタドタと複数の足音が駆け抜けていく。

 それを壁越しに聞きながらガムルは逆の方向へ走りだした。


「ふぅ、ふぅ」

 路地を走り続けるその呼吸は荒い。


もうどのくらい走っただろうか?


ガムルは全身に漂う疲労感を拭いとるように額の汗を払いのけた。

もう夏に入ったこの時期にこれほどの運動をして平然としていられるわけもなく、ガムルの全身は水浴びをしたかのように汗でグチョグチョに濡れていた。


 ポタポタと地面に落ちては染みこんでいく。

 これが騎士たちの手がかりとならないことを祈りながらガムルは十字路の角に身体を押し付けた。

 しばしそこで呼吸を整えながら、目だけを出して辺りを覗ってからまた走りだした。


 恐らく先ほど逆に騎士を追っていた彼を見た者は、なぜこんな面倒なことをしているのか疑問に思うだろう。


 だがその答えはシンプルだった。


「くっ」

 もう冥力が尽きそうになっているのだ。


 あの眼は周囲にある生命体の冥力を全て『色』として認識する。あまりにも強力な反則技とも言えるが、その反面それを発動するために必要とする冥力もまた膨大だった。



 今のガムルの冥力の量であれば、限度は一日に三回。

 なら後二回もあるのでは、と思うかもしれないがこの三回というのは彼の全冥力を使い切る数字、言葉の通り『限界』なのだ。

 つまり、三回使ってしまえば彼は戦うどころか歩くことすらできなくなるのだ。


 これは二回であっても同じこと。

たしかに一時的に敵の位置を全て把握できるだろう。だが、敵はずっと止まっているわけではない。


 それ故にガムルは眼を使わず、彼が元から有している獣のように鋭敏な危機、気配察知能力を駆使して逃げているのだ。


 地面に落ちていた新聞紙を踏みつけ、日光の遮られた薄暗い路地の壁に駆け込んだガムルは、そのまま薄汚れた壁に背中を押し付け、座り込んだ。


 尋常ではない量の汗を垂れ流すその表情は、焦りや疲れ以上に何か痛みを堪えるように歪んでいた。

歯を食いしばり、片目を閉じたまま、ガムルは視線を自分の右手を当てた脇腹に落とした。


「クソったれ」

 離した手のひらに纏わり付く粘度の高い液体。


 そう、また包帯の下の傷口が開いているのだ。


(どうする……?)

 暑さと痛み、さらに少しずつ減っていく血の気に少しずつ意識が遠のいていくのが分かる。


 だがそんな状況でも気を抜くことはできない。

 ガムルは徐々に削られていく集中力の全てを視力、聴力による周囲の索敵に回した。


 なるべく音を立てないように身体を引きずり角から目だけを出して辺りを窺うが、騎士らしき人影は全く見当たらない。あの耳障りな金属音もまた鳴りを潜めていた。


 そのことに安堵の息をこぼし、ガムルはまた壁に背中を預けた。



 何分ほどそうしていただろう。いつの間にか軽い眠りについていたガムルは辺りを見回した。

 滴り落ちていた汗も乾き、息を整え終えたガムルは身体を起こそうとしたところでピタリとその動きを止めた。


(……静か過ぎる。)


 先程まであれほど騒がしかったのに、今、全く通行人の足音でさえ聞こえなくなっていたのだ。

 急にこれほど静かになるものか。

 そこまで考えたガムルは素早く立ち上がり、壁に身体を押し付けた。


ザッ

「っ!?」

 無音の世界で響く石畳を踏みつける足音にガムルはとっさに声が出そうになる口元を覆った。

 視覚でその足音の主を確認したいが、すぐ横の通りをこちらに向けてまっすぐに歩いてくる以上、目だけを出すということもできない。


 そして何より、その足音以外、その人物を『認識できない』。

 わずかに聞こえるはずの息遣い、そのモノが生きる上で発せられるはずの気配が全く感じられないのだ。

 焦りが出てくる中、ガムルは昔、騎士であった頃に読んだ文献の一節を思い出していた。


『秦の国には気配を『消す』あるいは『偽る』技術を習得した『忍』と呼ばれる集団がいる。』


 ガムルの身体により一層の緊張が走る。


これがそれなのか。

やっと乾いたその頬にまた一滴、雫がたれていった。


 ここまで気配を消している時点で一般人なわけがない。

 そして先程から聞こえる足音から、その主は人間であれば女性。


 ガムルがそこまで検討をつけたのと足音がすぐ傍で鳴ったのはほぼ同時だった。


 手負いの今、ガムルにそれが敵か味方かなど気にしている余裕はなかった。


 殺られる前に殺る。

 もう一度、砂が擦れる音が鼓膜を揺らし、影が角の向こうから伸びてくる。

それが彼の脳に伝達された瞬間、一瞬の迷いもなく彼は動いていた。


「はっ!!」

 通りに一歩踏み出し、身体を反転させながら構えていた斧を横に薙ぐ。


 ガンッ


 だが響くのは何か金属に打ち付けられる音。


ドガッ


 そして、気づいた時には彼の身体は地面に組み伏せられていた。



「な!?」

 ガムルはあまりの意外な展開に一瞬思考が停止した。


 完璧な不意打ちだったのにも関わらず、その攻撃を交わされたどころかその腕を脇に抱え込まれ、地面に組み伏せられている。その現状に驚愕するしかなかった。


(一体誰が……?)

 そんな人間離れした技を披露したのは誰なのか。

その顔を確認しようと視線を上げたガムルは……固まっていた。


「私に攻撃するなんてどういう要件よ?」


 斧を受け止める銀色の弓、金髪に高慢なその表情。

見間違う訳がなかった。


それは元宮廷冥術師、リタニアの沸点に達した時の顔だった。





「しょ、所長!? どこへ!?」

 慌てて追いかけてくる騎士に男は軽く振り返り、青い瞳だけを向けた。


「署に戻る。」

「で、では逃走中の殺人犯はどう……」

「お前たちで対処できるだろう?」


 有無を言わさぬ口調で遮られた騎士はどう受け答えすべきか目を右往左往していたが男はそれを気にもかけず、そのまま歩き出した。

 後ろで呼びかけられているが、今、彼にそれに応じるという考えは一切浮かびさえしなかった。


 男はそのまま駐屯地を出ると彼が出てくるのを見計らって建物の前に止めていた黒塗りのビークルに乗り込んだ。


 高級感漂う黒塗りのその車は中もやはり予想に違わず高級なものが揃っていた。

 座敷は本革を使い、扉の取手にいたっては金属ではなく木材が使われている。


「どちらまで?」

「本部まで頼む。」

 黒いスーツに黒いサングラスをかけた禿頭の運転手に行き先を告げてから男は動き出した周りの景色を眺めた。


 彼が今いるのは街の西にある高台だ。

 この街は山を一つ切り崩して造られたため、そのため中心に行けば行くほどその高度を増す構造になっている(とは言っても精々丘程度の高さしかないが)。

騎士団の本部はかつての城跡跡に役所と隣接して建設されているのだが、やはりそれでは有事に間に合わないことが多い。

 そのため、東西南北に駐屯所を作っているのだ。

 とは言え、やはり重大事件の際、指揮を取るのは本部である。

 この街ではあまり高さのない建物が多い(法律で五階建て以上の建物の建設が禁止されているため)ここでは建物の上を移動していれば一発で分かるのだ。


 そんな環境下で一時間以上逃げ続けているあの大男は只者ではないのは確か。そしてこの街の騎士たちはその男に対処できるほど優秀とは言えない。


 中央で規定された訓練時間は消費しているが、それ以上の自主訓練をする者が少ない。

 元々凶悪な犯罪が少ないというこの街の楽観主義が騎士たちの間でも蔓延しているのだ。さらに所長であるこの男の影響力に胡座をかいているのもまた原因だった。


 だが男にとってそれはありがたかった。

 この地において彼の不正を暴こうなどという者はいない。もしそうしようとしたらどうなるか、結果が見えているからだ。


 しかしそんな都合のいい環境に小さなひずみが生まれようとしている。


 男は憎々しげに手元の資料に写された男の顔を見た。

 バケツ一杯に張られた水に投じられた一つの石。そこから生まれる波紋は大きな騒動を巻き起こしかねない。


「早く手を打たないと、な。」


 男は胸元から小型の通信機を手に取るとそこに付けられた12個のボタンの内いくつかを押し、耳に当てた。


「……私だ。手伝って欲しいことがある。」


 傾いた太陽から車内に射しこむ光。

 そこに照らされた彼の口元はゆるく弧を描いていた。




「なんでお前が……?」

 組み伏されていることも忘れ、ガムルは上にのしかかっているリタニアを見つめた……がすぐに視線を外した。


「なんで?」

 抑揚のない反復に抑えこまれたガムルの背中に冷や汗が滲む。

 凍てつきそうなほど冷たい笑顔を浮かべるリタニアに、彼は恐怖以外の感情を抱くことがなかった。

「えっと、あの、その……」

「どこかの誰かさんが追われているからわざわざ心配して追いかけてきたと思ったら何? 本気で殺しにかかってきて……」


 一言紡ぐたびに微妙に口元が直線へと変わってへゆき、ついには無表情でガムルをにらみだした。


 ガムルもそこまで鈍くはない。と言うよりこの理由が分からなければ人間として欠陥品と言うべきかもしれないほどに明確である。

 それ故にガムルにはこれを打開する策が残されていないことに既に気づいていた。


 となると彼が今取るべき行動は被害を最小限に済ませるよう言い訳と思わせない言い訳をすること。


 あまりの難題に、今日一番の命の危険を感じたガムルの体は体中の水分という水分を吐き出していた。


「そんなに私を殺したかったの?」

「いや、違う、単純に騎士だと思って……」

「へえ、仲間をまさか敵と勘違いするなんてね? 私かリューガじゃなかったら死にはしなくても怪我はしてたわよ?」

「それはそうだけどな……お前、今の俺の状況を見てそんな冷静な判断ができると思うか?」


 そう言われてリタニアは初めてガムルの全身を見渡した。

 その衣服は所々薄汚れているだけだが、一箇所だけ明らかに違う『汚れ』がついていた。


「あ、また傷口が開いたの!?」

「ああ、お前が俺を組み伏せてるからより一層な。」

 その一言が決定打だった。

 自分にも非があることを認識したリタニアは素直にガムルの背中から降ろし、立ち上がった。

 それに続き、ガムルもゆっくりと少し時間をかけながら身体を起こし、地べたに片膝をついて座った。


「それならそうと言いなさいよ。」

「言う暇もなく気配を殺して近づいてきて、さらには組み伏せたお前が言うなよ。」

「それは……お互い様でしょ。ガムルが攻撃してこなければ組み伏せることは無かったんだから!!」

「分かった。分かったから静かにしろ。気づかれる。」

 これ以上騒ぐのはまずい。そう思い慌てて腕を彼女に向けて伸ばした。

 だが肝心のリタニアはというと口を塞ぎにかかるガムルの手をひらりと交わすと、何か意味ありげにニヤリと彼に笑ってみせた。


「大丈夫よ。この辺りに『幻惑』の術式を張り巡らしてきたから。」

 その明快な答えにガムルは声が出なかった、もちろん単純な驚きのあまりだ。


「『特殊系』か。よく気づかれなかったな。」

「まあね。それにこの街の騎士は基本的にぬるいのが多いのよ。元々この街は犯罪の発生率が低い街として有名だしね。」


 『特殊系』

それは火、水などの系統に分類できない術式の総称である。

 その系統に含まれるもので有名なのは、『幻惑』などを含む『精神操作』、音などの波を使う『波動』、禁忌とされているが生物の命を使った術式など、通常お目にかかれないような曲者揃いとなっている。


 だがガムルはリタニアがその術式を使えることよりも彼女が自慢げに胸を逸らしながら口にした一言に、「ん?」と内心唸った。


「お前、この街に来たことあるのか?」

 そうその言葉にどこか親しみがあるように感じられたのだ。

 そしてその勘はどうやら正しかったようで、リタニアは単純な疑問をぶつけてきたガムルの方を見て少しその形のいい目を大きくした。


「ええ。私、一年だけだけど昔この街に住んでいたのよ。だから知ってるってわけ。」

「へえ。」

 妙な含みもなく言ってのけるリタニアに少し拍子抜けしながらもガムルは周りを見た。


「そろそろ移動したほうがいいよな。さすがの『幻惑』の術式も長時間構築していたら違和感を覚えられるかもしれないからな。」

「そうね。」

「この辺りの道は詳しいのか?」

「まあ、道が全く変わっていなかったら逃げ切れられるわ。」

「それは頼もしい。」


 先ほどの剣呑な雰囲気はどこへやら、二人はニッと笑いあうとリタニアを先頭に走りだした。



 そして時間は今に戻る。


 


「まだ追ってくるな。」

 彼らのすぐ後ろに人影はないが、やはりまだ何人かの足音がかなり後ろから続いていた。

 諦めが悪いな、などと思いながらも騎士がそう簡単に諦めていたら治安など夢のまた夢かなどと無駄な問答を繰り広げていると前から声が掛かった。

「次は右ね。」

「どこに行くんだ?」

「とりあえず、どこかに逃げこむわよ。」

 全く速度を緩めずに曲がっていく背中を追い、ガムルもまた直角に右に折れた。


 恐らくその通路は全く使われていないのだろう。

道を塞ぐように廃材がうず高く積み上げられ、のんびりと寝転がっていた野良猫の親子が慌てたように屋根の上へと駆け上がっていく。


 常人ならば通るのもためらうほどにそこは『行き止まり』というべき場所となっていた。




 だが彼らは『常人』ではない。言うならば『超人』。


 この程度の壁、道路の脇にある柵を跨ぐのに等しかった。



 だが二人が同時に取った行動は『急停止』だった。


「まずいわね。」

 先頭を走っていたリタニアはその壁の上を見上げて口を真一文字にした。

 彼らが立ち止まった理由、それは単純明快。

「おいおい、なんで囲まれているんだよ?」

 そう彼らはいつの間にか囲まれていたのだ。

 いや、気付かないうちに狭められた包囲網の中に自ら飛び込んだ、というべきか。

 どちらにせよ、明らかな敵意を持った気配がいくつかあることは二人にははっきりと分かっていた。

 今はまだその気配の視界には入っていないがそれも時間の問題だった。


「振りきれるなんて自信満々に言ってたのはどこの誰だっけか?」

「うるさいわね。ならまず最初に追いかけられるような状況を作らないでよ!!」

「仕方ないだろ!! 不可抗力だ!!」


 不毛な言い争いに意識が傾いていた二人は気づかなかった。彼らの足元に蜘蛛の巣のように黒い線が走るのを。


「へっ?」

「嘘!?」


 そして自身の身体が傾いていることに気づいた時には、既に二人はポッカリと地面に空いた穴の中に吸い込まれていた。


 

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