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巫女長リリヤのお仕事は女神様との恋バナです・シリーズ

勇者召喚したら、初恋の人でした 〜 巫女長リリヤのお仕事は女神様との恋バナです② 〜

作者: 雪ねこ柳
掲載日:2026/07/17

「勇者召喚したら、元カレでした」の続編です。

そちらを先に読んでいただくことをお勧めしております。

よろしくお願いいたします。


 出会いは幼稚園。同じクラスの男の子。


 目つきが悪くて、への字口と眉間にシワ。いつもつまらなそうな顔をして、お遊戯をしていた。

 女の子達はちょっと怖そうな彼にはあまり近づかなかったけど、男の子達はいつも彼と遊んでいた。ちょっとアニキ風吹かせた、頼りになる同級生。


 そして、私の初恋の人。

 


*****

 


 巫女仲間と3時のおやつを堪能していたら、私の付き人のルーイが遅れてやってきた。

 

「ルーイ、最近どこにいってるの?おやつの時間は遅刻厳禁だよ」

「気を付けるっすー」

「まあ、遅れたらおやつがなくなるだけ。我々の分け前が増えるだけ」

「先に食べておく手を使うっす」

「フライング厳禁」

 

 にへらといつもの緩い笑みを浮かべると、ルーイは今日のおやつのクッキーを食べ始めた。

 

 3個目のクッキーを食べ終えてお茶を飲んで「はあ、うまし」と堪能したところで、

 

「あ、そーだ。巫女長、大変っす。魔王が復活したっす」

「何まったり休憩した後に、報告しているのよ」

「おなか空いたっすー」

 

 ルーイは4個目のクッキーに手を伸ばした。

 

「仕方ないわね」

「仕方ないっす。このクッキー、最高っす」

「うんうん」

 

 そう言われると返す言葉はない。だって、このクッキーは、私特製だからね。前世の記憶でレシピは覚えているもん。

 

 

 私の名前はリリヤ。この国の神殿で、神に支える巫女。

 私は神と会話出来る唯一の人だから、ここで1番偉いの。

 役職名は『巫女長』。

 役職名つけたの誰よ。ちなみに2番目に偉い人は『巫女次長』。ダサくてかわいそ。

 

 この世界には、前世日本の記憶を持っている人が多くいる。そのおかげでごはん美味しい、インフラ最高。ここ大事。

 

 とはいえ、転生した人が作り方全て知っているわけじゃないからね。完全な日本には程遠いけど、特に困ったことはないから、まあいいかな。

 

 私も前世持ちで多少の記憶はあるけど、役立つ知識なんて元女子高生程度だもん。


 そんな私が唯一覚えていたのは、チョコクッキーの作り方。

 でもね、この世界、チョコがなかったのよ。

 がっくり。落ち込んだわ、泣いたわ。女神様に愚痴ったわ。


 そのせいか、去年やっとチョコが発見されたの!発見者は夢の中で、誰かが『チョコうまし』って言ってたと……まあ、いいか。


 それを製品化するのにまた半年ほどかかったけど、最近やっと私の所にやってきてくれたのよ~。おかえりチョコ、待ってたよ、チョコ。私のマイスイートビター。

 

 ということで、今日のおやつはチョコクッキーよ。

 チョコを混ぜた生地と、未使用の生地を重ねて作るんだけと、渦巻きとか市松模様とか、見た目も可愛いの。

 

 元々こちらの世界でもクッキーはあったけど、現在私は、チョコクッキーのうまさを広める活動をしているわけだ。

 

 チョコ教の神と呼んでくれたまーえ。

 

 ちなみにチョコ教の信者は、国民全員。あと、女神様も喜んでくれてる。女神様に呼ばれる時は、お茶請けに必ず持って行くし。

 

 なので、チョコのお菓子があると、全員の仕事の手が止まるのは仕方のないことなのよ。うまうま。

 

 

「で、魔王が復活するの、早くね?確か80年に1回くらいの、中途半端なペースで出まーすって言ってなかったっけ?前回からまだ3ヶ月よ」

「そうなんすけど、魔王から手紙が届いたんすよ」

「手紙?」

 

 ルーイが懐から手紙を取り出した。普通に持ってくれば?

 

「『やっほー、元気ー?すこーし早いけど、復活なう。世界征服よろ』だそーっす」

「今回の魔王、カルくね?」

「復活早すぎて、大人になりきれなかったんすかね?」

「チャラいわー」

 

 ルーイが便箋の2枚目をめくる。

 

「『前回負けたの、納得いかんのよ。あんなチャラいのに負けたの、チョーくやしい。あれが私の真の力じゃない。本当の自分の実力をみせてやる。左目がうずく』だそーっす」

「やっぱ復活早すぎ。年齢絶対厨二」

 

 全員無言で頷く。口にクッキー入っているからだけど。

 

 

 お茶で喉を潤して、ルーイを見る。クッキー6個目だわ。

 

「んで、どーするの?まさかまた勇者召喚しないといけないの?」

「そーっすね」

「却下」

「無理っす、巫女長」

「前回のあいつなら、返却済み、延長不可」

 

 そう、前回勇者を呼んだら、元カレがやってきた。最悪な奴だった。

 

「神様にあいつ以外お願いしておけばいいんじゃないっすか?」

「そーね。賄賂にクッキー多めで行こか」

 

 クッキーのお皿を持ったら、全員からブーイングが起きた。仕方ない、また焼くか。

 

 

 翌日賄賂用のクッキーを用意して、女神様の像の前に立った。

 

「女神様〜、お茶しませんか〜」

「するするう〜」

 

 風景が一変する。

 広い空間。空には星が瞬き、大地は溝一つない、床。つるっつるな、黒い床。


 そこに1人用のソファが2脚、少し斜めに向き合うように設置されている。前には小さなテーブルがあって、お茶の用意が出来ていた。

 この角度って、テレビのトーク番組っぽくね?どこかにカメラあるんかい。

 

「女神様、こんにちは。今日はチョコクッキーです〜」

「おいしそ〜」

 

 とりあえず普通のお茶会からスタート。

 

「うま、チョコうまっ」

「今度ケーキにしましょうか。いつかチョコパフェも食べたい」

「何それ、おいしそ〜」

 

 もぐもぐもぐ。

 

「で、女神様、勇者召喚なんですけど」

「ダメ、勇者のチョイスは地球の神次第」

「乙女が焼いたクッキーでもダメですか?」

「あいつ、手作りより既製品派だから」

「いるのよねー、そういう乙女心を無碍にするやつ」

「絶対モテない。普通は嫌でもおいしそーくらいは言うっての」

「……もしかして、女神様、なんか作って贈った……」

「違うからねっ!たまたま作ったとき会って、たまたまあいつがいたから、あげただけだからねっ!」

 

 なんか、聞いてはいけない話を聞いた気がする。

 

「と、とにかく勇者はもう送っておいたから、あとは頑張ってね!」

「え、もう?」

「お詫びに召喚魔法陣の魔力チャージ、オマケしておいたから!」

「ええっ、女神様!」

「巫女長、目が覚めたっす?」

 

 気がついたら、目の前にルーイが立っていた。

 

「あれ?女神様は?」

「もう、こっちの世界っすよ」

 

 辺りを見回す。いつもの神殿、いつものメンバー。その後ろには王様やら宰相やら……。

 この景色、見覚えがあるわ。

 

「もしかして、勇者召喚、終わってる?」

「ういっす。勇者なら、そこにいるっす」

 

 よく見たら王様の横に、見慣れない人が立っていた。

 前回の勇者野郎と同様に、黒い髪黒い服。やっぱ学生服……じゃないわ。

 学生服より、長い……膝くらいある?

 長ランってやつ?所謂、特攻服……。

 

 背中に文字が書いてある。

 

夜露死苦(よろしく)……」

「背中に挨拶文が書いてあるっすか?」

「それ、本人に言うと、ルーイが死ぬわよ」

 

 前世、初めてそれを着た人を見た時に、友達に同じこと聞いたのよね。

 『背中で挨拶してるってこと?礼儀正しい~』って言ったら、友達にすごい力で襟首つかまれて全力で走って逃げた。お前何言ってる死にたいんかって、道端で正座させられて怒られた。

 

 

「今度の勇者はヤンキーってこと?」

 確かに強そう。

 でも、勇者やってくれるのかな。そんなかったりいこと、やってらんねーとか言うんかな。

 

 そんなこと思いつつ勇者の後ろ姿をじーっと見ていたら、急に勇者がこちらを振り向いた。

 あれ?

 

「なんか、見たことある……もしかして」

 

 あの嫌そうな顔、ポケットに両手突っ込んで、少し顔を上に反って、威圧感マシマシな態度で人を見る姿……。

 というか、あの顔。

 

「あれ、拓人くんだ」

「また元カレっすか?」

「ちちち違うわよっ」

「巫女長様、真っ赤っす」

「そうじゃなくって、そうじゃなくって、んもー、照れるうー」

 

 思わず頭をぐりぐり左右に振って誤魔化す。ついでにルーイの肩をバシバシ殴打する。

 

「普通に痛いっす」

 

 そんな私を見て、

 

「変な女」

 

 って、彼が呟いたのが聞こえた。

 え、おもしれえ女枠?それって、乙女ゲーとかにある、ワイルド系の男子が言うセリフ?

 いやん、照れるう〜。

 

「何を思っているのか知らないけど、多分違うと思うっす」

 

 

 

「……あの、さっき召喚されて来た時、横にいた白目剥いてた子、こっち向いて人殴っているけど、あれ何?」

「気にしなくて大丈夫ですよ、勇者様。あれはいつものことです」


 

*****

 


 その後、勇者はさっさと魔王退治に行った。

 嫌そうな顔してたけど、こっちの事情を説明したら、意外にもすんなり受け入れてくれたらしい。さすが、男気番長。

 

 勇者が頑張っている間、私もなんかいろいろ忙しくて。

 特に自分の気持ちの整理で。

 

 だって、初恋の人よ。

 中学生までは同じ学校だったけど、クラスが違うともう全然会えないし。高校は別だったからな。

 確か、彼はかなりヤンチャな高校へ行ったって聞いてはいたけど。

 

「小学生までは、話もしたんだけどな」

 

 嫌そうな顔が標準装備の彼だけど、意外と面倒見もいいし、友達はたくさんいた。私も便乗して、混ざってみんなで遊んだこともあったな。

 

「懐かしいな」

 

 小学6年生の時に、バレンタインデーで手作りチョコを贈ろうって話になった。

 もちろん女の子同士の友チョコな。男の子になんて、ハードル高杉くんだよ。


 その時にママから教えてもらったのが、チョコクッキー。自分の好物って理由もあるけど。

 たくさん作って、友達と贈りあった。


 その時に、多めに作ったからお裾分けねって感じで、彼にもあげたんだよね。くはー、テレるテレるう。


 あ、残った一個は、パパにもあげたよ。号泣してドン引きした。

 

 ……もっと作ってあげればよかったな。

 

 モチロン拓人くんから、ホワイトデーは何にもこなかったよ。

 中学ではぜんぜん会わなかったし、あれが最初で最後のバレンタインデーかあ。


 ……元カレとは、夏しか付き合っていなかったからね。バレンタインイベントまで生きれなかったし。短い青春だったわ。泣けるー。

 

「そうだ」

 

 拓人くんが帰ってきたら、クッキー贈ってみようかな。

 今の私って、姿が前とは全然違うし。巫女長サマだから、可愛いし、威厳あるし、多分気が付かないとは思うけど、でも、それでも。

 

「……気がついてくれないかな」

 

 私だって気がついて、それで、会いたかったよとか、言ってくれないかな。

 

☆☆

 

「あのー、巫女次長。あれは……」

 

 新人の巫女が、巫女長をそっと指差す。そちらを見て巫女次長が、ああと声を出した。

 

「あれは巫女長様が、妄想しながら、ふにふにしているお姿です」

 

 そこには、ソファの上でクッションを胸に抱きしめながら、ぶつぶつ妄想を口にしては悶えて転がっている巫女長の姿があった。

 

「……誰かツッコんだほうがいいんですか?」

「いいえ、放置が正解です」

「はあ……。あ、立ち上がってこちらに来ます」

 

 巫女長がクッションをぺいっとソファに投げてから、トテトテこちらに歩いてきた。

 

「巫女長、どうしましたか?」

「巫女次長〜、またクッキー作ってもいい?」

「モチロンです。他のレシピもお待ちしています」

「わーい」

 

 巫女長様が、笑顔で走っていった。

 あ、転んだ。ルーイ様がすかさずキャッチ。

 

「かわいいですねえ」

「国宝です」

 

 横にいた巫女全員が頷いた。

 

☆☆

 

 勇者ヤンキー……じゃなかった。勇者拓人くんは、あっさり魔王に勝利した。

 中2と高3じゃあ、叶わないよね。

 魔王ちゃん、途中『俺の左目があ〜』とか叫んでいたらしいけど。

 あと、『なかなかやるな』とか『お前こそな』とか言ってたらしい。友情エンドだったのか。

 

 今回の勇者は、初めから勇者パーティに女性を選ばなかった。こっちも薦めなかったけどな。

 ちゃんと強い人連れて行った。それが当たり前だよね。しみじみ。

 

 で、あっさり帰ってきて、勇者お疲れさんパーティやって、おもてなしして、お礼の金貨も渡したって。お金としては使えないけど、(きん)は向こうの世界でも買い取ってもらえるだろうし。未成年が(きん)の売却できるんか知らんけど。

 

 

 

 そして、あっという間に勇者が帰る日がきた。

 その間、彼と何にも話せなかった。

 なぜ?

 いつでもチャンスはあったはずなのに、なぜか妨害が入ってた気がする。

 

「ねえ、ルーイ」

「なんすか?」

 

 私の横に立つルーイのほうを向く。奴は私の斜め上に目線を向けたままじゃい。

 

「最近さあ、私の妨害した記憶、ある?」

「ないっすないっす」

「嘘つけえ!おま、ずっと予定入れて、遊ばせてくれなかったじゃん!」

「巫女長、一応偉い人じゃないっすか」

「でもさでもさ、勇者お疲れさんパーティも参加できなかったじゃん!」

「浄化のお仕事入ってたでしょ?」

「そ、そりゃ早くきれいにしてあげないと、みんな困るし、わかるけどお〜」

「巫女長さまは偉いっす」

「そう?」

 

 ルーイがにっこり笑う。

 

「はい、我が国自慢の巫女長様っす」

 

 ん?なんか、嬉しくないな。

 

「どうしたんすか?嬉しくないっすか?」

 

 なんか、眉間がしわしわする。

 

「うーん、ルーイにそう言われると嬉しくない」

「ダメっすか?」

 

 うん、なんでだろ。まいっか。

 

「で、勇者とお話し出来なかった。お話ししたいから、勇者レンタル返却魔法陣の魔力こめるお仕事やってない」

 

 どや。

 

「大丈夫っす。みんなで頑張ったっす」

「ええっ、いつも疲れるからって嫌がるくせにーっ」

「女神様が後援会長っす」

「んもー、彼とちょっとでいいからお話ししたいのー」

「仕方ないっすね。ちょっとだけっすよ?」

「うん!」

 

 ようやくルーイの許可がおりて、勇者の側に進む。

 手には、クッキーが入った箱がある。食べてくれるかな。

 

 勇者は、王様や騎士さん達と最後のお別れをしていた。ちゃんと仕事すれば、友情だって生まれるのよ、わかった?前回勇者よ。

 

 

「あ、あの!」

 

 思い切って声をかける。拓人くんが、たりぃって顔でこっちを向いた。

 

「勇者様、魔王の脅威から国を救ってくださり、ありがとうございました」

「あんた、誰?」

「も、も、申し遅れました。私、この神殿の巫女長のリリヤです」

「巫女長?」

 

 ダセエとか思っていそう。

 

「ダセエな」

 

 あ、言った。

 

「あの、これ、お礼です。今この国で人気の、チョコクッキーです。私が焼きましたー!」

 

 このまま勢いでクッキーが入った箱を差し出す。

 だが、そのまま30秒ほど誰も反応しなかった。

 

「あれ?」

 

 恐る恐る拓人くんを見ると、あからさまに嫌そうな顔をしていた。そっか、彼も既製品しか食べないタイプか。

 

「わりいけど、俺、手作りは食べないんだよ」

「そ、そうですか…」

 

 はい、終わった。

 私、つい顔に出ちゃうんだよね。今私の顔には『がっかり』って書いてあると思う。せっかく勇者としてみんなを助けてくれたのに、こんな顔してごめんね。

 

「あ、あの、失礼しました。お世話になりました。向こうの世界でもお元気で……」

「あ、あのさ」

 

 あれ?拓人くんが声をかけてくれた。恐る恐る顔を向ける。拓人くんが頭をぽりぽり掻いて、視線は斜め下を見ながら、

 

「わりいな……」

 

 って、謝ってくれた。

 

「ううん、たくさん焼いたから、よかったら食べてくれるかなって、そんな感じ。だから、気にしないで」

「昔さ、おんなじこと言って、クッキーくれた子がいたんだ」

 

 え。それ、多分私のこと。

 

「子供の頃にさ、チョコクッキーもらったんだ。バレンタインデーに『余ったからあげる』なんて言って。余るわけないよな」

 

 なんだか、そう、少し嬉しそうな顔をしていた。

 顔を赤く染めて思い出を語る彼を見て、あの頃の自分を思い出した。


 友達がいた。みんなで学校で学んだ、はしゃいだ。帰り道、草を摘んでひっぱりっこした。マラソン嫌いでさぼったら先生に怒られた。教室の黒板、消すのが楽しかった。好きな子がいた。日直忘れて怒られた。修学旅行楽しかったな。


 時々帰り道で彼を見つけた。それだけでも、すっごく嬉しかった。

 あの時間が。自由で楽しかったあの頃の自分が、とても懐かしかった。

  


「余るわけ、ないと思うよ」

「そっか」

「わ、私のは、あ、余った…けど」

 

 ぷっと、彼が吹き出す。

 

「あんた、あいつに似てるわ」

 

 え、鋭い。

 

「あいつ、高校は別のとこ行ってさ。でもまたいつか会えると思ってた。だけど病気で死んだって聞いて」

 

 私のこと、知っていたんだ。

 もしかして、彼も私のこと……。

 

「人間死ぬのって、あっという間っていうか。それ考えたら、もっと若いうちになんでもやってやろうと思ってさ」

「ん?」

「思い切って、ヤンキー始めたわっ!」

「そっちかいー!」

「それで、以前から好きだった人に告白して。この人」

 

 すちゃっとスマホ出して、写真を見せてくれた。

 紫色の特攻服と、金髪ロン毛で口にはフーセンガム。

 うわあ。

 そんで、何、隣に映ってる奴は。

 いつもは眉間にシワシワのくせに、目は垂れ下がって、口元緩みっぱなし。

 ……誰?これ。

 お前だよな。私の目の前にいる、厳つい顔したお前だよな!!!

 

「お、お似合いデスネ……」

 

 これ以外、何が言えるのだろう。

 出会い編・喧嘩編・猫拾っちゃった編・格闘編まで、ありとあらゆる2人のラブラブ話を聞かされて、女神様に呼ばれなくても白目になりそう。

 

「あのー、そろそろいいっすかね」

「ルーイくん、声かけるの遅いよ……」

「めんごめんご」

 

 周りの視線にやっと気がついた拓人くんは、苦笑いを浮かべた。

 

「ごめん、向こうじゃこんな話、誰にも出来なくてつい。お前、なんか話しやすくてさ」

「ソーデスカー」

 

 じゃあなと、爽やかな微笑みを残して、勇者は帰っていった。

 

 お前、誰だよ。最後のキャラは、誰も知らねえよ。

 

「女神さまーっ!お話し聞いてえええ!!」

 

 勇者帰るまで絶叫を我慢していた私を、誰か褒めて!

 

 

*****

 

 

(ルーイ視点)

 

 2回目の勇者が帰っていった。

 今回はまともだった。いや、前回のチャラい勇者に比べたら、全員まともに思えるか。

 今回の勇者は、拓人。巫女長の初恋の人か……。

 

「なんで、巫女長の過去の男ばっか召喚されるの?」

 

 多分、本人が1番そう思っている。

 

 


 巫女長は、勇者拓人が召喚されてから、ずっと心ここに在らずだった。あの可愛い頭の中では、前世の記憶の彼がいるのだろう。

 ただでさえ、最近は()()の王子仕事が多くて、巫女長のところに行けなくなっているというのに。

 

「ルーイ様、顔が怖いですよ」

「そんなことないっす」

 

 慌てて振り向き顔を作るが、うまくいかない。

 そこには、巫女次長が立っていた。

 彼女は巫女長の次に偉い人。なので巫女次長。

 もう少し可愛い役職名、考えてやれよ。

 

 巫女次長は、巫女長リリヤより、10歳年上だ。

 そして、以前の巫女長だった。

 

「……私もまだ修行が足りませんね」

「仕方ありません、あんな巫女長の顔を見たら、誰でも心が乱れるというもの」

 

 チラと巫女次長の顔を見た。めっちゃ嬉しそうだった。

 

「ご覧ください。巫女長のゆるんだ顔。いつもは白い顔があんなに赤くなっちゃって。可愛い、可愛い」

「落ち着いてください……」


 そう、巫女次長は、巫女長推しである。

 普通自分の地位を奪ってしまった子供に、良い感情なんて持たないだろう。だが、彼女は巫女長に出会い、ある意味壊れた。そこは私と同類と言えばいいのか。

 

 とにかく、このまま奴を想って百面相する巫女長を放置するつもりは、ない。幸い仕事は沢山ある。

 

 巫女と聖女は同じものと考える人がいるが、我が国は違う。

 どちらも神を信仰し、その力をいただく者だが、我が国の巫女は神と対話する者だ。神の声を皆に届ける。それがとても大切なことなのだ。

 聖女は神の力をいただき、治癒したり戦ったりする者を指す。

 神様とお茶する猛者、それが巫女長なのだ。

 

 でもね、神様と会話する以外にも、仕事はたんとあるのだよ、リリヤ。

 

 

 勇者が魔王討伐に向かっている間、私は巫女長に仕事を斡旋した。

 せっかく魔力がたんまりあるのだ。使うに決まってる。

 

 基本巫女長は、神殿から外出することはない。

 神の側にいることが重要任務だからだが、時には外へ出向き、浄化作業を行うことがある。

 今は魔王が出現していることもあり、汚れてしまった大地は多く存在する。通常は聖女や他の巫女が作業を行うが、今回は巫女長に頑張ってもらった。

 


「巫女長様、ありがとうごぜえます」

 

 田舎の領地の浄化作業。ここまで遠ければ、勇者慰労パーティには間に合わない。

 

「おばあちゃんも、元気になってね」

「おおお、恐れ多いことでごぜえます」

「何よう、照れるじゃなーい」

 

 基本民衆にも優しい巫女長だ。なので、仕事は嫌がらず行う。

 

 それでも、帰り道、馬車の中の空気は重かった。

 

「んもー、わかっているけどー、お仕事優先は、わかっているけどー」

「巫女長、お疲れっす。飴ちゃん食べます?」

「食べる食べるー♪」

 

 相変わらずチョロい。大きな飴を頬張って、ご機嫌そうにふんふん歌っている。

 

「食べながら歌っちゃダメっす」

「はーい」

 

 もぐもぐ。

 

 

「勇者お疲れさんパーティには、出れなかったけどさ、んでも、夕日がきれい」

「そうっすね」

「お出かけしたの久しぶりだから、実はすっごく楽しかったんだよね。みんなの顔も見れたし。ねえ、ルーイ、また外のお仕事入れてよね」

「そうっすね」

「怪しいなあ。勇者帰ったら、また神殿に閉じ込めたりしないよね」

「大丈夫っすー」

「うわ、棒読みだ。怪しいー」

 

 行動読まれているけど、気にしないっすー。

 

 それにしても、美しい夕焼けだ。それから無言で2人で空を見た。

 

「きれいね……」

 

 ……仕方ない、たまには外仕事、入れてあげますか。

 


*****

 


 翌日、勇者返却の儀式当日。

 巫女長は、いつにも増して、挙動不審だった。


 前日遅くに帰宅したというのに、厨房に篭って何やら仕込んでいたようだ。そして、今手にしているのは、今朝焼き上げたばかりのクッキーの詰め合わせセットだ。

 リボンまでつけて、いかにも手作り感バリバリの箱がそこにあった。

 

 落ち着かない様子で、キョロキョロあたりを見回しているが、その8割が勇者を見ていたとバレているけど。

 そして、部屋のみんなが生暖かい目で、巫女長と私を見てくるんだが。

 お願いやめて。

 

 巫女長から、勇者と話がしたいと潤んだ瞳で訴えられたら、応えるしかない。

 巫女長を、勇者の元へ送った。

 ……のだが。

 

 

 クッキーは受け取ってもらえないわ、今の恋人の惚気話を聞かされるわ。

 巫女長が半分白目になった所で、巫女次長から、つつかれた。

 

「そろそろ助けてあげなさいよ」

「あ、展開にびっくりして忘れてた」

 

 すーっと音を立てずに巫女長の横に立つ。

 

「あのー、そろそろいいっすかね」

「ルーイくん、声かけるの遅いよ……」

「めんごめんご」

 

 勇者は、爽やかな笑顔を残して去って行った。

 

 あれ誰だよ、今までずっと、めんどくさそうな顔してたくせに。惚気話になった途端、ゆるっゆるの顔になりやがって。

 

 全員呆然としている中で、巫女長の雄叫びが響く。

 うん、まあ、いつものことか。

 

 それを聞いて、みんな、なんか冷静になった。

 

「はい、勇者返却の儀式終了っす。かいさーん」

 

 みんな部屋を片付け始めた。

 巫女長は、女神様の像の前に小走りで進む。

 

「巫女長、慌てると転ぶっすよ」

「大丈夫だもん、大丈夫だもん。……っと!」

 

 言った先からドレスの裾を踏んでそのまま倒れそうになるのを、回り込んで受け止めた。

 だが、今日は勢いよすぎて、私もそのまま座り込んでしまった。座ったまま、巫女長を前から抱きしめる形になってしまう。

 

「……ごめん、ルーイ」

「大丈夫っすよ。痛くないっすか?」

 

 潤んだ瞳のまま、至近距離で私を見つめる。

 これ、拷問っすか?

 

 巫女長はゆっくり立ち上がると、女神像の側に進んだ。

 

「あ、そーだ。さっきのこと」

「うん?なんすか?」

 

 巫女長が振り向き、私を見る。

 

「さっき、ルーイが言ったじゃん。我が国自慢の巫女って。そんな風にルーイに褒められても嬉しくないって」

「ああ、私のナイーブな心がぽっきり折れた話っすか」

「んもー、弱すぎ」

 

 クスクスとリリヤが笑う。

 

「自慢よりもね、みんなが私のこと好きって言ってくれたほうが嬉しいな。ルーイもね」

 

 そうして笑顔を見せて、リリヤは女神様の元へ行ってしまった。

 最近はあちらへ転移まで出来るようになっていた。でも、今はその方がいい。

 今の私の顔を見せたくないから。

 

「さすが、人垂らしですねえ、巫女長様は。ルーイ様、顔真っ赤ですよ」

 

 巫女次長、こそっと言わないでくださいよ。


 あのまま抱きついて、私も好きですよって言うの堪えた、私を誰か褒めて!


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